幼女に微笑まれたらお札をもらった
妖怪山幼女。
違う。
ヤマノケ。
まさかこんなところにいるとは思わなかった。
ウルトラマンのジャミラのような、と原典で表現されている怪異である。
「テン、ソウ、メツ」と話し、両手をめちゃくちゃに振り回して、体全体をぶれさせながら近づいてくる怪異である。
その特徴は女性の体を乗っ取ること。
乗っ取られた女性は「はいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれた」と呟き始めた後に、「テン、ソウ、メツ」と喋るようになる。
そのあとどうなるのかは原典には描かれていない。
幼女はニコニコと可愛らしく笑っている。
部屋の中に入ってきて俺のそばにペタンと座ってニコニコと笑った。
「テン、ソウ、メツ」
いや、可愛いけどさ。
山において、これに出会ってしまった女性はヤマノケに乗っ取られるとされている。
原典で、女に憑くとされている怪異である。
ばあちゃんと櫛井さんがバンに留められたわけだ。
ばあちゃんが「はいれたはいれた」って言い始めたら俺は泣く。
櫛井さんが「はいれたはいれた」って言い始めたら俺は詰む。
ヤマノケは49日間この状況が続くようなら一生このままであるとされていた。
さて……
俺は考える。
もしこのまま、俺が生き残りことだけを考えるのならこのままでいいだろう。
八尺様は女性に近づくことができない怪異である。
ヤマノケは女性にのみ影響を及ぼす怪異である以上、もし、俺がこのまま住職の元に留まっていれば、俺は八尺様の影響から逃れることができる。
しかし、それはばあちゃんが八尺様に取り殺されることを意味する。
それではまったく意味がない。
なんとかこのまま八尺様の影響から逃れる方法はないものだろうか。
ヤマノケ幼女は俺に向かって微笑み「テン、ソウ、メツ」と囁きかける。
住職はしばらく考えた後に俺に話しかけた。
「恒久に封じるのは無理だろう」
住職に顔をあげる俺に向かって、住職は言葉を重ねる。
「ずっとは無理かもしれないが……一時的に封印することは可能だ」
住職は懐を探り、一枚の札を差し出してきた。
なにか得体のしれない文字で書かれているお札である。
「よくわからんと思うが、これがお前さんを救ってくれると思う」
住職はキッパリと断言した。
幼女は自分自身はおそらく状況がわかっていないながら……それでも俺に向かって「テン、ソウ、メツ」と微笑みかけた。