住職に家に通されたら幼女が笑いかけた
「大変だったようだな」
住職が声をかけてくるのを、適当に頭を下げて答える。
じいちゃんと俺はお寺の本堂の方じゃなくて住職の家の方に通されていた。
まぁ、本堂は物部天獄氏が修行した場所だと思われるのであまり近付きたいとは思わない。
一般的な日本家屋の居間である。
室内は雑然としていて住職は一人暮らしなのかと思われた。
「……住職、奥さんはどうした?」
じいちゃんが住職に尋ねる。
奥さんいたのか。
「……親類の家に預けている。こっちにも事情があってな」
難しそうな顔の住職。
まぁ、俺としては秘祭とかじゃなきゃあまり問題は感じないわけだ。
でも住職が奥さんを親類に預ける事情ってなんだろう。
「ふぅむむ……なるほど。それは一種の呪具だろうな」
住職は俺の渦人形の話を聞くなり顎を撫でながら呟いた。
いいぞ、この住職。わかってくれてるぅ。
「霊的なもんじゃなく、呪具だとすれば対応はあると思う……平時だったらな」
なんだ、今は戦時中かよ。平時だよ!
俺の視線に気づいたか、住職は部屋の外を見た。
「ご祈祷で呪具を押さえ込むことは可能だろうな」
祈祷か……
櫛井さんとばあちゃんがバンで待機してくれてるのにそんな悠長なことも言っていられない。
できればここは住職にズビャーっと解決してほしいところだ。
「ただ、繰り返すが事情があってな。今、ご祈祷を行うことはできん」
できんのかい。
「どんな事情があるのかわからんが、頼む! 孫とうちのばあさんを助けてくれ!」
じいちゃんが叫ぶように言って、住職は困った顔を浮かべた。
俺もなんとかしてほしいと思ったのだが、その時、部屋のふすまが少し開いているのに気がついた。
そこから可愛らしい幼女がこっちの方を覗き込んでいる。
今風の髪型の可愛らしい子である。住職の孫娘くらいの年頃のように思われた。
なんだ、住職は一人暮らしではなかったのか。
俺がそっちを見ていることに気がついた幼女がにっこりと笑う。うん、可愛い。
「テン……ソウ……メツ……」
あぁー、そっちの事情かぁー……