住職に止められたら櫛井さんたちは車に残った
寺に到着したようなので眠い目を擦りながらバンから降りる。
伸びをしてから後ろに向かった。
ばあちゃんの足が悪いから踏み台をばあちゃんの席の下に置かなきゃいけない。
俺と運転していたじいちゃんは先に降りて、俺が後部トランクの方に向かおうとしたとき、ちょうど櫛井さんもバンから降りようとしていたときに、お寺に併設した家……まぁ、住職の住む家なんだろうけど……そこから住職が慌てたようにだばだば飛び出してきた。
「待てー! 待ったー!」
四角っぽい顔のガタイのいい住職だ。だばだばだば。
「なに?」
「櫛井さんですか……困りますよ……」
困ってんのはむしろ俺だ。
住職はなんとか櫛井さんがバンから降りる前に間に合ったようで、2人が降りないように通せんぼしながら立ってゼェゼェいっている。
運動が不足しているのではなかろうか。
「もうちょっとあんたも運動せにゃねぇ……」
櫛井さんも同じことを考えていた。
住職はバンから降りようとする櫛井さんとばあちゃんを止めて、なにか話している。
「実は今……」
「うえ、本当かね……じゃあ、いつごろ……」
「こればっかりは……」
なにかいい話とは思えない雰囲気にじいちゃんと顔を見合わす。
「じいちゃん、なんだろう」
「うぅむ……思い当たらんなぁ」
なにかその手の秘祭が行われるから櫛井さんとばあちゃんが入れない……とかだったらこの集落に住んでるじいちゃんも含めた3人が知らないわけがないし、そもそもじいちゃんと俺が降りている意味がわからない。
あ、もしかして車から降りたら手遅れだから後回しにされてるとかか?
……そうでないことを願いたい。
そんなことを思っていたら櫛井さんに手招きされた。
「なんです?」
「事情があって私らは車から降りれんようになった。八尺様はこのあとなんとかするから、人形について住職に相談してきなさい。私らは車で待ってるからね」
手遅れのほうじゃなくてよかった。
いや、ばあちゃんと櫛井さんがバンから降りられないのがよかったのかはわからんが。
本当によかった。
……よかったんだよな?
「じゃあお寺さんにお邪魔しようか」
「いこうか」
「ゆこう」
「ゆこう」
そういうことになった。