手首を見て軽く絶望した
気がつくと朝だった。
いつの間にか眠っていたのだろう。
気絶かもしれないが。
俺はばあちゃんに抱きしめられたまま朝を迎えていた。
カーテンの向こうから朝の光が見える。
俺は生き延びた! あの恐怖の夜を生き延びることができた!
身動ぎするとばあちゃんはすでに起きていたようで、ようやく俺を離してくれた。
じいちゃんも起きていて俺を心配そうに見ている。
俺は2人を安心させるために、笑いながら頷いて……
それから絶望した。
なにか、左の手首に痛みを感じて、視線を落とすと刺青のような奇妙な痣が……昨日まではなかったはずのものがそこにあったからだ。
これはきっと印だ。
八尺様が俺を逃さないためにつけた印なのだ。
おそらくこれがあることで俺はどこにいても八尺様にみつかってしまうのだろう。
ついに、原典とは違う事象が起きてしまった。
俺の手首を見てじいちゃんも顔色を変える。
「そ、それは……」
きっとこの印をつけられたことで俺は八尺様と繋がってしまったのだ。
……ん? 繋がってしまった?
繋がったのならこちらから八尺様の場所を探り当てることも可能ではないだろうか。
もし今の八尺様の動きが正確にわかるのなら、もしかしたら生き延びるチャンスだって出てくるかもしれない。
しかも俺は転生者。きっとなんか、そういう、いい感じの能力だってあってもおかしくはない。
「ふんっ!」
眉間に人差し指と中指を当てて気合を入れてみる。
なにも起こらなかった。
これじゃなかったみたいだ。
盛り塩は真っ黒になってしまっていた。
表情に苦悩を浮かべるじいちゃんに、ばあちゃんはやんわりと微笑みかける。
「まぁまぁ、じいさん。まずは朝ご飯にしましょうよ。食べないと元気が出ませんよ。まずは元気を出さないと。すぐに準備をしますからね」
どっこいしょなどと言いながら立ち上がるばあちゃん。
「いや、そんなにのんびりしている場合じゃ……!」
「大丈夫ですよ」
ばあちゃんは微笑んで自分の左腕を見せた。
「あっ!」
「ば、ばあさん!」
「この子は、私が絶対に守りますから」
その左の手首には、俺と同じ、痣があった。