後日談 その後の二人3
「その後の二人」はここで完結です。
よろしくお願いします。
「ヴィー、探したよ」
フェリクス様と入れ違いにカイル様がやってきた。カイル様は振り返ってフェリクス様を見る。
「彼とどんな話をしたんだい?」
「いえ、特に変わったことは話していませんよ。ただ、私に謝りたいとだけ」
「本当に?」
私を探るようにカイル様は目を細める。何故こんなに聞かれるのかと私は首を傾げてしまった。
「ええ、本当ですよ。今頃どうしたんだろうと不思議でしたが」
「そうなのか……で、君はどうしてこんなところで彼と二人きりで話していたんだい?」
「どうしてと言われても、私が夜風に当たろうとバルコニーに出たら、フェリクス様が来ただけで……それよりも、さっきから何でこんなに追及してるんですか?」
彼はバツが悪そうに目を逸らす。
「……彼は君の元婚約者だ。ひょっとして未練があるのかと思って」
「それは私がフェリクス様にということですか?」
「いや、反対だよ。彼は君と婚約破棄してから婚約者が決まらないし、君が立派に侯爵夫人として立ち直ったから惜しくなったのかと思ったんだ」
「それはないですよ」
カイル様は私を買い被り過ぎだ。私は声を上げて笑ってしまった。
「本当だよ。私はこうして君を知るたびにすごいと思うんだ。記憶を無くす前も家や子どものためだと黙って耐えていたし、記憶がなくても馴染もうと懸命に努力していたし、記憶が戻ってからも心の傷と向き合い続けている。それでも私に甘えようとしないところは、尊敬するけど寂しくもあるね」
「充分甘えさせてもらってますよ。それに貴方はあの時、責任を取って結婚してくださいました。ただ正直に言うと、私は修道院に入って静かに暮らしたかったんですけどね」
本当に人生なんてどうなるかわからないものだ。あの頃の私はこんなに幸せになれるとは思ってもみなかった。
苦笑する私に彼は悲しそうな顔で謝る。
「……すまない。修道院の方が良かったと言われても、もう離せない。わがままだと詰られても無理なんだ」
「あの頃は、ですよ。今は二人の子どもと、一人の大きな子どもを抱えてますから。今の生活が大事です」
「大きな子どもって、私のことか。否定できないのが悲しいな。彼に嫉妬してこっそり様子をうかがっていたんだから」
彼の言葉に私は驚いた。
私が嫉妬することはあっても彼に限ってないだろうと思っていたのだ。
「どうしてそんなこと……」
「……確かに私も彼も君に酷いことをした。だけど、彼よりも酷いことをした私を君は許してくれて、更に温かい家庭まで与えてくれた。それならきっと君は彼も許すだろうと思ったんだ。それで元の婚約者である彼に心が動いても仕方ないかもしれないと不安になった。勿論君が浮気をするとは思わない。しないからこそ私がまた苦しめるのかと……いや、考え過ぎだな、すまない」
「本当ですよ。飛躍し過ぎです」
私は呆れてしまった。
あれだけ言葉でも行動でもカイル様を愛していると伝えてきたつもりなのに、まだ信用されてなかったということか。
私は思い切り溜息を吐くと、カイル様に言い聞かせるように話し始めた。
「いいですか? 私は何度も貴方を愛していると言ってきたつもりです。貴方とフェリクス様には大きな違いがあります。貴方は言葉だけでなく、行動でも私に償おうとしてくださいました。フェリクス様は謝罪どころか何も行動を起こしませんでした。そんな方にどうして私が惹かれると思うのですか? 私はちゃんと人を見て選んでいます。その私が言うんです。貴方でないと駄目なのだと」
「ヴィー!」
カイル様は私を抱き締めた。本当に手間がかかる人だ。失いたくないから臆病になるのはわかる。だけど、臆病になるあまりに失ってしまったら本末転倒だ。
「どうしてそんなに不安になるのかはわかりませんが、伝えていただかないと私にはわからないんです。貴方の気持ちが見えるわけではないのですから。私もできるだけ伝えるようにします。ただ、自分では気づかないこともあるので、わからない時は聞いてください。嘘偽りなくお答えしますから」
「ありがとう。私はこれまで色々間違えたから、自分の選択に自信がないんだ。仕事のことならわかる。でも、人間関係、特に家族に関することは本当にわからない」
彼がルイーザ様を見誤ってあのことは起きてしまった。自分を含めて多くの人の人生を狂わせてしまったのだ。そのことに責任を感じるのはわかる。私も罪の意識を感じて欲しいとは思っていたが、彼をここまで思い詰めさせたかったわけじゃないのに。
私も間違えてしまったのだろうか。そんな思いが心を過ぎる。
彼に安心して欲しくて、私も彼の背に腕を回した。あやすように背中を叩くと、彼が笑って振動が伝わった。
「やっぱり子ども扱いなんだな。シェリアやアレクシスと兄妹にでもなったみたいだ」
「ならお母様と言ってみますか?」
「……それは嫌だ」
心底嫌そうな声音に私は吹き出した。するとカイル様は体を離して屈み、私と目線を合わせる。
「……親子だとこんなこともできないだろう?」
彼の顔が近づいてきて唇が触れ合う。夜会の最中だというのに、こんなことをしていていいのだろうか。でも、口付けが深くなるにつれ、そんな思いはどこかへ行ってしまった。
しばらくして唇が離れた後、私はぼうっと彼を見つめていた。彼は苦笑する。
「お願いだからそんな顔をしないでくれ。ここではこれ以上はできないんだ。続きは帰ってからだな。とりあえず会場に戻らないか?」
「……ええ、そうですね」
と答えて、私ははたと気づいた。
これだと、今夜を楽しみにしているみたいだ。顔が熱くなってしまった。
だけど、まだ私を信じてくれない彼のために、今夜は積極的に愛を伝えようと思う。恥ずかしがっていてはいつまで経っても彼は私を信じてくれないようだから。
彼の驚き喜ぶ顔を想像して、私はこっそりと笑うのだった──。
読んでいただき、ありがとうございました。




