表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

後日談 その後の二人1

ムーンライトノベルズに投稿したものを改稿しています。

よろしくお願いします。

「カイル様、おかしくありませんか?」

「いや、綺麗だよ」


 二人目を産んで静養していた私は、社交シーズンに入ったこともあり、久しぶりの夜会に出席することになった。お腹周りに肉がついてしまった気がして、こうして夜の寝室でベッドに腰掛けたカイル様に、ドレス姿をチェックしてもらっている。


 因みに子どもたちはマーサが面倒を見てくれている。生後半年になる二人目の男の子はアレクシスと名付けられ、シェリア同様すくすくと育っている。


 それにしてもカイル様は当てにならない。私は腰に手を当てて彼の顔を覗き込んだ。


「カイル様。お世辞は結構ですから、本当のことを言ってください」

「お世辞ではないよ。君は子どもを産んでも変わらず綺麗だ」


 喜んでいいのか、悲しんでいいのかわからない。私自身が気づいているからだ。恥ずかしさを堪えて仕方なしに申告する。


「……ドレスが……きついんです……」


 カイル様は微妙に目を逸らした。恐らく気づいていたけど言えなかったのだろう。


「……言いにくいことを言わせてすまない。また社交シーズンも始まったんだし、ドレスを新調すればいいよ」

「そういう問題ではないんです。痩せないと恥ずかしくて貴方の隣に立てません……」


 彼は綺麗な人を見慣れている上に、彼自身も美形だ。元々の造りが違うのに、これ以上差をつけられるといたたまれない。


「ちょっとふっくらしただけだろう? 運動すればすぐに戻るよ」

「運動……ですか。庭の散歩くらいで痩せますか?」

「そうだな……」


 彼は考える素振りを見せて、意味深に笑った。


「それだけでは痩せないかもしれないね。ちょっとこっちにおいで」


 私は不思議に思いながらも、彼に近づいた。すると、そのまま手を引っ張られ、カイル様の上に倒れ込む。彼を押し倒している状態だ。

 そのまま彼は私を抱き締めて耳元で囁く。


「……それなら二人でできる運動をこれからしようか」


 彼は私が嫌がれば無理強いはしない。いつでも私に気を遣ってくれるのだ。

 だから私は赤くなりながら恥ずかしさを堪えて小さく頷いた。


 そうして二人でシーツの海に溺れていった。

 それでも順調とはいかなかった。


 彼は不安そうに私の反応を確かめながらことを進めていき、自嘲気味に言う。


「……私はやっぱり不安なんだ。また君の嫌がることをしてるんじゃないかって」


 本当に優しくて臆病な人だ。

 私は彼の頰を両手で挟むと視線を合わせた。


「だから言ってるじゃないですか。嫌だったら嫌だと言うと。今なら抵抗だってできるんです。それにどうしてアレクシスが生まれたと思ってるんですか?」

「そう、だね。わかってはいるんだが、どうしても最初の君が頭から離れないんだ」


 あの出来事はお互いの心に深い傷を刻んだ。それでもこうして心が通じ合うことができたのだ。それは彼自身の悔いる心を私は信じたから。だからといって、彼の心的外傷(トラウマ)にまでしたかったわけじゃない。


 彼の心の傷が癒えるまでにも時間がかかるのだろう。それなら私も彼を見守ろうと思う。

 私は笑って彼に告げる。


「時間はかかるでしょう。ですが、これからも一緒にいることになるんです。一緒に乗り越えていきましょう」

「ヴィー。君は被害者なのに、どうして……」

「……私もずるいからですよ。貴方をこうして私に縛りつけているから」


 これなら貴方は私を忘れないから、とは言えなかった。

 彼を歪めてしまったのは私かもしれない。そんな後ろめたさがあったからだ。

 でも今はそんなことはどうでもいい。私は彼を促すように腕を回した。

 その後は彼に翻弄されっぱなしだった──。


 ◇


 ことが終わると彼はシーツを掛けてくれた。


「寒くない?」


 後ろから抱き締められ、耳元で囁かれる。くすぐったさに身じろぎしながら私は頷いた。


「君は太ってるとか気にしているかもしれないけど、私は君がこんなに健康的になってくれて嬉しいんだ。アレクシスを出産する時だって君が危ないんじゃないかって気が気でなかったから」

「カイル様……」

「痩せたいって思う気持ちはわかるけど、無理はしないでくれ。君の体の方が大事なんだ」


 彼の気持ちが伝わって私の胸が苦しくなる。こんなに思ってくれているのだ。私は体の向きを変えて、彼と向かい合った。


「ありがとうございます。無理はしません」


 私は笑って彼に口付けた。彼も笑って返してくれる。何度か繰り返していると、私の腰のあたりに何かが当たった。

 驚いて彼を見ると、バツが悪そうに頭をかく。


「ヴィー、すまない。もう一回いいかな……?」


 叱られた子どものような彼が可愛かった。私が頷くと再び彼の口付けが降ってくる。


 まだまだ夜は終わりそうになかった。

読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ