六話
2019/10/2
第六話の投稿です。
皆様が読んでくださっているおかげで
ブックマークは300件、PVも2万アクセスを超えました
ありがとうございます!
読者様の中には ハーレム要素もヤンデレ要素も全然ないじゃないか。
と思う方もいるかもしれませんが、まだ六話目ですので
メインの要素はこれから徐々に出していく予定です。
「――それ、どういう意味でしょうか?」
そう言って上級生の前に立ち塞がったのは、最も予想外の人物だった。
「い、委員長!?」
温厚そうな彼女の剥き出しの感情に、この場にいる誰もが呆気にとられていた、ただ一人を除いては。
「恵、落ち着きなさい」
ただ一人、彼女の暴走とも言える行動に一切動じず、あたかもこうなる事を予想していたようだった。
「……大丈夫です。私はただ、さっきの発言がどういう意味なのか、先輩に質問しているだけですから」
そう言う彼女だったが、こちらを振り向かずに前だけを見つめる後ろ姿はやはり怒気を孕んでいるに見える。
委員長の心情は分からないけれど、傍から見ても大人しそうな印象の彼女は目の前上級生にもまるで怯む様子はない。
「どうもこうもそのまんまの意味だよ。そこの冴えねえ奴に媚びるなんて、壬生は人を見る目がねえんだなって言ったんだ」
再度繰り返される言葉に我慢の限界が来る。しかし、言い返そうとしたその時、袖口をなにかに引っ張られた。
「……壬生さん?」
彼女は何も言わず、ただ首を横に振るだけだ。静観しろ、という事だろうか。けれどこのままでは委員長が怖い思いをするかもしれないと思うと気が気ではない。
「そうですか。ところで先輩は何度も琴葉に言い寄ってましたよね?」
「ああ? 何を言って」
「そうね。何回断ってもしつこくて迷惑だったわ」
周囲には騒ぎを聞きつけた野次馬がちらほらと集まってきた。騒ぎになる前になんとか収束したいところだ既に手遅れかもしれない。
「下級生の女の子にしつこく言い寄り、同級生と話していることに嫉妬して難癖をつけてくるのは上級生としてどうなんでしょうか」
「男の嫉妬は醜いと言うけれど、容姿だけではなく内面までなんて、救えないわね」
野次馬の存在を知ってか知らずか、結果として大衆の面前で醜態を晒すことになった先輩は顔を真っ赤にして黙り込む。
「――おい、お前ら。何してんだ」
野次馬のうちの誰かが呼びに行ってくれたのか、急いできた様子の宮崎先生が止めに入る。正直に言うと助かったと思った。俺では止められそうになく、彰達も委員長の行動に驚いて事態を呑み込めていないようだった。
「宮崎先生、私たちは」
「ああ、いい。大体わかった。とりあえず犬塚、お前は指導室に来い。お前らは後で呼ぶから大人しくしとけ」
「はい、わかりました」
「おら、見せもんじゃねえぞ! 散れ散れ!」
上級生を連れていく途中に、手慣れた様子で野次馬を散らす。
先生たちを見送り、曲がり角で見えなくなった頃に、ふうっと息を吐く委員長の手が震えているような気がした。
「委員長、さっきみたいなのはもうやめて欲しい」
「さっきみたいな? なんのことですか?」
「誤魔化さないでくれ」
そう言って彼女の手をとり、いまだ微かに震えている手を両手で包む。
「怖かったんだろう? あんな無茶はもうしないでくれ。ああいう時は俺がなんとかするから。今は彰もいたし、君が前に出る必要はなかったはずだ」
俺が動き出すのが遅かったせいでもあるけれど、これだけは釘を指しておかなければならない。何かあってからでは遅いのだ。そう思って彼女の顔を覗き込み、彼女に伝わるよう真剣に言ったつもりだ。
一瞬呆けていた彼女だったが、次の瞬間火をつけたように顔が真っ赤に染る。
「……っ! て、ててて、てをっは、離してください!! あああ、あとち、近い、です」
「え? あっごめん!」
ぱっと手を離すと、もじもじと乱れてもいない三つ編みをいじる。
「い、いえ大丈夫です。ただ、びっくりしただけで」
「そっか、よかったよ。嫌われたんじゃないかと思った」
「そ、そんな事ないです。分かりましたから、次からはお願いしますね」
「うん。あ、遅くなったけどありがとう。委員長のおかげでこっちに被害はなかったよ」
「――私は、何もしてないですよ」
「いやいや、委員長。そんな事言ったら俺らなんてぼけっと見てただけだ。感謝くらいは素直に受け取ってくれよ」
「そーだよ委員長! びっくりしたけどかっこよかったよー」
彰と坂本さんからも感謝の気持ちが伝えられ、一件落着ということでいいだろう。
さて、食堂に行こうかと思ったところでくいっと控えめに袖を引かれる。
振り返ると上目遣いでこちらを睨む壬生さんが立っていた。
「壬生さん? どうかした?」
彼女は何も言わず、すっと両手を前に出す。どうしたんだろうと様子を見ていると、やや不満げな声で呟いた。
「……私も、頑張ったのだけれど」
確かに委員長の援護をするように毒づいていたが、なるほど。要するに委員長と同じことをして欲しいということだろうか。
そういう風に解釈した俺は、先程委員長にしたのと同じように壬生さんの両手を包みこむ。
「壬生さんも、ありがとう。でも無茶しちゃだめだよ?」
「ええ、わかったわ」
無表情を装っているつもりだろうけれど、頬は緩み、耳は真っ赤になっていてどう見ても喜んでくれているようにしか見えない。
「さっきから俺たちは何を見せつけられてるんだろうな」
「あたしたちもあれやっとく?」
「馬鹿言うな。俺たちは何もしてねえだろうが」
「ですよねー」
後ろの方でそんなやり取りが聞こえるが、今は目の前の少女の機嫌が良くなったことに安堵する。
「よし、じゃあ気を取り直してご飯だー」
微妙な空気を明るく払拭してくれた坂本さんがとてもありがたいと思った。
時間が経って冷静に考えてみると、人目も憚らず随分と恥ずかしいことをしてしまったと反省する。現に委員長は先程から目を合わせてくれない。
この学校は食券式のようで、各々好きな物を買ってからひとつのテーブルに集まることにした。
「それにしても、委員長って結構向かっていくタイプなんだねー」
「ああ、それは俺も思った。あれは凄かったよな」
「は、恥ずかしいので、忘れてください」
下を向きながら真っ赤になってご飯を食べる委員長を面白半分に二人がからかう。
「恵は昔から友達を馬鹿にされたりすると怒る子だったけれど、昔はもっとやんちゃだったのよ?」
「ちょっと、琴葉!」
それは意外だった。真面目そうで責任感の強そうな彼女は昔からそうなのかと思っていた。
「さすがに手を出すことは滅多になかったみたいだけれど。中学に上がってから今みたいな大人しい雰囲気になったのよね」
「壬生さんと委員長ってそんなに昔からの付き合いなの?」
俺も同じことを思っていたけれど、あっという間にオムライスを食べ終えてしまった坂本さんに先を越されてしまった。
「ええ、私たちは小学校に上がる前からずっと一緒よ」
「道理で仲がいいなと思ったよ。委員長が呼び捨てにするのも壬生さんくらいだったしね」
委員長の方を見てそう言ったが、一瞬目が合ったあと逃げるように逸らされてしまう。
「あはは、委員長ごめんね。やっぱり嫌われちゃったかな」
「い、いえ! そうではなくて、ですね。琴葉もそうですけど、私たち中学までは男の人のいない環境で育ってきたので、耐性がない、と言いますか」
「ありゃ、壬生さんそうなの?」
「ええ、そうね。小中学校は女子だけだったから、私も知らない男の人に話しかけられるのは結構怖いのよ」
その話を聞いて少しだけ納得した。壬生さんが男子の誘いに乗らないのも冷たくあしらうのも、身を守るための行動だったのだろう。
その後もしばらく食堂で雑談をして、午後の準備のため教室へ戻った。
一悶着はあったけれど、委員長の意外な一面を知ることも出来て、それなりに充実した時間を過ごせたと思う。
余談ではあるが、限定品のオムライスは予想以上に美味しくて満足だった。
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