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ヤンデレ×ちょろイン=地雷原!?  作者: 木花 赫夜
一章 同級生は病んでいる
34/35

三十一話

2019/11/20

第三十一話を投稿致しました。


――翌日。


「こんなの持ってきてよかったんですか?」

「ばれなきゃ平気」


「やっぱり校則違反なんですね……だから顧問はいらないなんて言ってたんですか」

「その通り」


先輩が持ってきたのは四人対戦のできるバトルアクションゲームだった。ほかのゲームでも見た事のある有名なキャラクターが沢山選べて、敵味方入り乱れての乱戦がコンセプトらしい。


そういえば小学生くらいの頃友達の家でやった覚えがある。あの時は初めて触るタイプのゲーム機にわけもわからぬままやっていた気がする。


俺の実家にはゲームの類はほとんど無い。そんなものをやるくらいなら庭に作られたコートで兄とバスケをしていたくらいだ。あの時の俺にとってはゲームをすると言うのは一部の友達と遊ぶ時だけの、限定的な遊びにすぎなかった。


いそいそと準備を始めた先輩は、部室に備え付けてあるテレビを繋ぎ、ちゃっかりたこ足配線でゲーム機の電力も確保している。


「大丈夫?」

「二人のことですか? ……なんとも言えないですね」


部室に置かれたソファーの端と、そこから少し離れた位置にある回る椅子に琴葉と恵がそれぞれ座っている。


会話は一切なく、室内には重苦しい空気が漂っている。未だギクシャクしている二人を横目で見た後、鏑木先輩と視線を交わして肩を竦めた。


()()()()()になってしまったのは誤算だった。この二人の溝はもしかするともう塞がらないかもしれない。



――放課後。


「恵、部活行くよね?」

「もちろんです。今日は何をするんでしょうね?」


「さあ、昨日の話だともう既にやることは決まっているみたいだったけど」

「そうなんですか? あんまり難しくないものだといいんですけど」


「――徹、おまたせ」


席が離れているので、少し遅れて琴葉が合流する。廊下に出て部室の方へ歩いていると、途中で恵が立ち止まった。ここまで来る間で昨日のやり取りを知らない恵は、困惑気味に目が泳いでいる。


「え……どうして」

「あら、貴女もいたのね」


教室を出た時点で既に二人だったが、琴葉の視界には入っていなかったようだ。弓道部はさっきの分かれ道を逆方向に行くはずだが、今なお彼女は俺たちと一緒に歩いていた。


「琴葉も昨日から入部することになったんだよ。弓道部と兼部だけどね」

「そんな.......」


「私がいたら都合が悪いのかしら?」

「そんなこと、ないけど」


「言いたいことがあるならはっきり言えばいいじゃない」

「なんでもないってば!」


びっくりした。恵自身も自分の口から大きな声が出た事に驚いている様子だった。廊下を歩いている生徒も、どうしたのかと心配そうにこちらの様子を伺っている。


「恵、大丈夫?」

「放っておきなさい。子供のわがままよ」


「――嫌がらせのつもり?」

「何のことかしら」


二人が顔を合わせて向き合っているのを見たのは、随分と久しぶりな気がする。しかしながらその雰囲気はまさに一触即発。身長差もあって睨みつける恵と、見下す琴葉という状況になってしまっている。


「そうやって、いつもいつも人のことを見下して。あなたと比べられる事がどれほど辛かったか知らないでしょ?」

「そう……今までそんな風に思っていたのね」


「白々しい。琴葉だって私の事を鬱陶しいと思っていたでしょ!?」

「そんなことないわよ。――()()()()()を言い出す前は、ね」


あんなこと、という言葉がやけに引っかかるが、とても口を挟める雰囲気ではない。言葉だけで言い合っているうちはまだ見守っているべきだろうか。


「それは……しょうがないじゃない。それにそもそも琴葉のものじゃないでしょ!?」

「確かにその通りね」


「それなら――」

「貴女の言う通りまだそういう関係ではないけれど、仮にも親友の相手を奪おうだなんて頭がおかしいんじゃないの?」


「だから、ちゃんと謝ったでしょ」

「謝ったからなんだっていうの。それで何か変わるの?それとも許してもらえるとでも思っていたのかしら。もしそうならおめでたいわね」


容赦なく畳み掛けるように非難の言葉を浴びせる。恵は歯を食いしばり、目を瞑ってそれを受け止めていた。


「二人とも、そろそろ落ち着いて」


「ちょうどいいわ。徹も知りたがっていたでしょう? 教えてあげるわ。この女が何を言い出したか」

「……やめて」


()()()、私が話があると言って呼び出したでしょう?」

「やめてってば!」


琴葉の言うあの日、とはきっと恵が錯乱していた日の出来事の事だろう。二人が仲違いをする原因になった何かが、その日に起こったのだ。


「もう……わかったから」

「何がわかったというの? いい加減目の前のことから逃げるのは辞めたら? 貴女の悪い癖よ」


「琴葉に私の何がわかるのよっ!」

「わかるわよ。親友だったんだもの」


その言葉は確かな本心だった。横から聞いててもそれだけはわかった。恵にもその言葉は届いたようで、逃げるように逸らしていた視線が、琴葉のそれと交差した。


「……俺、席外した方がいい?」


自分から聞きたいと言っておきながら、いざその瞬間が来ると怖気づいてしまっている。その先の()()を聞いてしまうと、せっかく築き上げた関係性が全て壊れてしまうようで、どうしようもなく逃げ出したくなったからだ。


「駄目よ」


ゆっくりと俺の方を振り向き、真っ直ぐに見つめてくる瞳に吸い込まれそうになる。


「これは徹も関係があることだもの」


視線の片隅には、俯きながらスカートの裾を両手で握り締める恵が映っている。辛そうな表情を浮かべる彼女とは対照的に、なんの感情も読み取れない琴葉が口を開く。


「この女はね。あろうことか、私が徹の事を好きだと知っていながら」


そこで一度息がつまり、ちらりと恵を見たあとに一つ深呼吸をした。


「あなたに惚れてしまったと言ったのよ」


続く言葉の重さに、思考が一瞬真っ白になる。


薄々そうかもしれないというのは感じていた。きっかけはなんだっただろうか、今思えばゲームセンターでの出来事がそうかもしれない。


琴葉からは出逢った初日に好意を抱いていると、公衆の面前で告白されていた。しかしながら恵からは直接そう言った言葉は聞いていない。


今、琴葉の口から間接的とはいえその事実を暴露されてしまったが、恵が否定する様子はない。


「な……なんで」


絞り出した言葉はなんとも情けない声だっただろう。そんなことを聞いたところで俺が答えを出せる訳でもないのに。


「――その先は私も知りたいところね」


首だけで振り向き、恵を見据える瞳は薄く細められ、一切隠すことなく威圧感を滲ませていた。



「あの日はそれだけ言って、逃げて行ったのだもの」




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