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ヤンデレ×ちょろイン=地雷原!?  作者: 木花 赫夜
一章 同級生は病んでいる
31/35

二十八話

2019/11/13

第二十八話を投稿致しました。


「――オセロ?」


なんとも拍子抜けというか、むしろ意外性さえ感じるチョイスに首を傾げてしまった。国民的ゲームではあるが、改めてこれがゲームだと言われてもあまりしっくりこない。


「あ、これなら私もわかります」


一方で恵は知っている遊びに少し嬉しそうだ。子供の頃に遊んだきりではあるが、確かに入門編と言うならば妥当なところだろう。


「オセロは奥が深い」

「なんか、先輩のことだからもっとローカルなのとか持ってくるかと思いました」


「それはあとで」


どうやら本当に愛好会での活動の入口として、今回オセロを選んだらしい。だがしかし当然のようにローカルでマイナーなゲームもこの先に控えているようだ。


「でもなんでまたオセロなんですか? チェスとか将棋とかもありますよね?」

「ルールが簡単。何かを始める時、難しそうだと思ったら続かないから」


「あ、なるほど。面白そうだっていうとこから興味を持たせるってことですか」

「そのとおり」


「確かにこれなら初めてでも安心して楽しめますね」


確かに将棋なんかもルール自体は難しくはないが、駒の動きを覚えるのが苦手な人は苦手だろう。そういう意味ではチェスも同じだ。それにどちらも戦略が必要で、上級者と初心者ならかなりのハンデを与えても勝てないほどだと聞いたことがある。


「鏑木先輩って意外と考えてるんですね」

「む。どういう意味」


「徹くんちょっと意地悪ですよ」

「ああ、いやそういう意味ではなくてさ。後輩とか初心者とかももちろんだけど、勧めるからにはゲームを好きになって欲しいんだなって伝わってくるというか……」


若干ご立腹な様子の先輩だが、意地悪云々については本当に誤解なので正直に説明した。


「当然。 私も遊び相手が欲しい」


それに対する答えはなんだか切なくなるものだったが。どや顔で言っている姿がまたなんとも言えない哀愁を漂わせており、これからもう少し優しく接してあげようと思った。


「ちなみに今までどうしてたんですか?」


けれど、それはそれとして先輩が入部する前にも部員はいたはずだ。俺たちが来る以前はどうしていたのかという意味でそんなことを聞いた。


「……いってつ、減点十五点」


返事は無情にも告げられた減点を伝えるものだった。何の、とかなんでと疑問を抱くが、俯いて視線を合わせてくれない。


「徹くん、ちょっとひどいです。ちい先輩に謝りましょう?」

「えっと、俺たちが入部する前、鏑木先輩が一年の時はどうしてたのかって意味で聞いたんだけど」


言葉が足りなかったようで、二人に伝わっていない部分を補足する。先輩は顔を上げ、身長差から見上げる形になってしまうが、気にせずあとに続けた。


「……その時は他に二人いた。部長たちはカップル。そして私は空気が読める女」


なるほど。これ以上この話を続けても得をする人はいないようだ。敢えて言葉には出さず、心の中で先輩に謝罪する。直接言ってしまうと違うキズを掘り起こしてしまいそうだ。


「そ、そうだったんですか。 わ、私なんだかオセロやりたくなってきました」


あまりの気の毒さに恵が気を使って話をそらそうとしているほどだ。そもそもの原因は俺なので、彼女にだけ頑張ってもらうわけにはいかない。


「お、俺も久しぶりにやりたいな。とりあえず肩慣らしに一戦やってみようか」

「じゃあまずは私とめぐー」


先輩たっての指名により第一戦は恵対鏑木先輩になった。先攻は黒、後攻は白というように色が決められているらしい。今更ながら知って密かに驚いた。


色は恵が好きな方をとり、先輩が残りの方ということにしたようだ。黒を取った恵がはじめに一枚白をひっくり返して、ゲームが始まった。


ぱちり、ぱちりと盤上の石を無言でひっくり返し合う二人。その表情は至って真剣で、顔だけ見ていればこれがオセロだとわかる人は少ないだろう。


着々とゲームは進み、一見恵優勢で進んでいるかのように思えたその時、角を取った先輩が次々と黒い盤上を白に染めあげていく。


「あ、ああ……そんな……」


一手進む事に白が増え、遂には黒を置く場所が無くなってしまう。最初に決めたルールでは置けない場合はパスという扱いになってしまうため、連続して先輩が石を置き続け、気がつけば盤面は八割ほどが白で終わった。


「ちい先輩、ちょっと強すぎます……」


がっくりとうなだれる恵と、満足気な先輩が対称的だ。ゲームが好きになる以前に叩き潰していては先に心が折れてしまうのでは、とは思ったがそこまで考えているのだろうか。


本人は至って真剣にやっていたが、オセロではハンデも付けにくいため、必然的に手加減する必要が出てくる。そこまで考えた上での一方的なゲーム展開だったのかは、先輩のみぞ知るということだ。


「よし、恵の仇は俺が打つ! 」

「徹くん、私の分まで頑張ってください! 」


「いってつには本気出す」


ここで俺は自分の耳を疑った。さっきのは本気ではなかったと言うことになるのか。聞きたいことは山ほどあるが、先に一戦終わらせてからで良いだろう。


「――望むところです」



それから先攻後攻を入れ替えながら三連戦し、結果は一枚の誤差もなく盤面が綺麗に一色に染まっていた。


「お、おかしい……強すぎる」

「徹くん、やっぱりこれちい先輩が強いんですよ」


「ふふん。参ったか」


またしてもどや顔でふんぞり返る先輩にちょっとむっとしてしまい、また余計なことを言ってしまう。


「先輩、これ気をつけないと入部して即退部されますよ」

「――え?」


勝ち誇った表情は一瞬で悲壮感を漂わせ、今にも泣き出しそうだった。


「あ、いや俺たちが辞めるってことじゃなくて、ここまでぼこぼこにされたら流石に凹むなってだけですけどね」


「ごめんなさい、そんなつもりじゃ……」


元より小柄な先輩が更に小さくなっていく。どうやら夢中になっていただけのようで、悪意がないことはわかっていたが予想以上に落ち込んでしまった。


「大丈夫ですよ。俺はまた先輩とゲームしたいです。こう見えても俺、結構負けず嫌いなんですよ?」

「……いってつ……」


「だからそんな顔しないでくださいよ。先輩が楽しそうにしてくれないと困ります」

「そうですよ! ちい先輩が教えてくれないと、私達だけじゃ出来ませんから」


「めぐー……」


二人で協力してなんとか立ち直ってもらい、流石に入口に立ちかけた人間を問答無用でぼこぼこにするのは、これっきりにしておこうということになった。念の為今後の新入部員の歓迎では、もう少し運要素を持ったゲームを選ぼうというのが愛好会の規則として決まった。


「じゃあまあ、気を取り直して恵と一回やってみようか」

「そうですね! まずは新入部員同士での対決です」


そうして二戦、白黒入れ替えながら競ったのだが、何故か盤面は一色に染っていた。


「なんでこうなるんだ」

「あの、もしかするとですね。徹くん、ちょっと向いていないのかもしれないですね」


「いってつは下手っぴ」


確かに先輩とは力量差が離れていたが、どうやら恵とも差が開いているらしい。あまりにもゲームにならないので、その後は二人の対戦を見ながら大人しく勉強することにした。


確かに、オセロは奥が深かった。

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