二話
2019/09/28
二話目の投稿です。
書き溜めている訳では無いので週二回くらいのペースで更新していければいいかと思っています。
職員室に到着したあと、壬生さんが入口に近い席に座る眼鏡をかけた女性の教員を呼んで簡単に事情を説明した。
「事情はわかりました。私は数学を担当する柊 静香です。一君ですね、これからよろしくお願いします。」
「一 徹です。よろしくお願いします。」
「あとは私が宮崎先生のところへ連れていきます。貴方は自分の教室に戻ってください」
「わかりました。よろしくお願いします。じゃあ、またね徹」
「うん、ほんとにありがとう。すごく助かったよ」
自分の教室へ向かった彼女を手を振って見送り、柊先生の案内に従って職員室の中へ入っていく。
「一君、この人があなたの担任の宮崎先生です。宮崎先生、一 徹君を連れてきました。道に迷って遅れたそうです。」
そうして紹介されたのは筋骨隆々の男性教員だった。後ろ姿からでもわかるくらいに鍛えられた身体は体育教師なのだろうと容易に推測できた。
「――おう。登校初日からサボりやがったのかとちょっと感心してたんだが、勘違いだったみてえだな。」
「宮崎先生、冗談でもそういうことは言わないように」
「おっといけねえ。まあともかく、俺が担任の宮崎 大地だ。これからよろしくな、一」
案内してくれたと柊先生と別れたあと、担任の宮崎先生からクラスの雰囲気について少し話を聞かせてもらうことになった。
「――しっかしあの壬生がよくお前さんを連れてきたな」
「どういうことです? 」
「あーまあ、その辺はおいおいわかるだろ。なんせ同じクラスなんだからな」
「本当ですか!? 知ってる顔があると心強いです」
宮崎先生の発言が妙に引っかかったけれど、言葉通り知人がいると安心する。
「それでだ。お前のクラスについてだが、何か困ったことがあったら委員長を頼れ、以上だ」
「……それだけですか?」
「わかりやすくていいだろう」
「それはそうですけど」
「まあ、幸いあいつは世話焼きで面倒見がいい。俺なんかよりよっぽど頼りがいがあるだろうし、存分に甘えてやってくれ」
「はい、わかりました」
簡単な自己紹介を終えたタイミングでちょうど鐘が鳴る。
「お、ちょうど鐘も鳴ったことだ。早速教室に行くとするか! 都合よくお前のクラスの一限目は俺の授業だからな」
宮崎先生に連れられて、これから自分が通うことになる教室へと向かうことになった。その途中、世間話のついでにささやかな疑問を宮崎先生にぶつけてみることにした。
「ちなみに宮崎先生の担当科目ってなんですか?」
「俺がさっきの柊みてえなインテリ眼鏡がやるような数学とか化学が出来ると思うか? 俺が教えてんのは歴史だよ」
正直に言って歴史ですら意外だった。宮崎先生は昔やんちゃしてたんだろうなという印象で、体育教師だとばかり思っていたのだが。
「……お前、絶対俺のこと体育教師だと思ってただろ」
「いえ、そんなことは。……少しだけです」
バレていたと内心どきりとしたが、なんとなくそのくらいではこの人が怒ったりはしないだろうと感じたので素直に白状した。
「まあ実際は体育も担当だったんだがな。俺の授業が厳しかったらしくて、クビになったんだよ」
がははと豪快に笑ってはいるが、このご時世によく教師が出来ているものだと感心する。
「ここがお前の教室、1-Bだ。ここで待ってろ、俺が呼んだら入ってこいよ」
「はい、わかりました」
がらがらと音を立てて扉を開けて入っていくと、教室内からは起立、礼と号令が聞こえてくる。
「おし、全員いるな。 今年のGWは短かったが元気そうでなによりだ」
「せんせーも相変わらず元気そうだなー」
「進藤、俺が元気なかった時なんてあるか?」
「まあ少なくともこの一ヶ月は春なのに随分暑苦しかったですね」
「よし。お前には宿題を倍だそう。今決めた」
「ちょ、嘘だろ! GW明け初日ですよ!?」
扉越しでも賑やかなクラスだなという印象で、宮崎先生が生徒に好かれるタイプの大人だということもなんとなく想像通りだ。
「さて、進藤の宿題はひとまず、置いておいてだ。……いくらなんでもお前らそわそわしすぎだぞ」
「宮崎せんせー、転入生はイケメンですか?」
よく通る女生徒の声が宮崎先生に質問する。
「男だってのまでバレてんのかよ。どっから聞き付けたんだか」
「内緒っすねー。そんで、どうなんです?」
なんだか期待されているようで胃がきりきりと痛み始めた。多分もうそろそろ呼ばれるタイミングだろう。
「なかなかいい男だったな! まあ俺ほどじゃあないが」
がははと豪快に笑う声は廊下まで響いた。
「そういうのいいからせんせー早く呼んでよ! どうせ外で待ってるんでしょ?」
「……はいはい、最近の若者は冷てえなあ。おい、一入ってこい」
緊張で手汗が滲むが、過去にはもっと緊張する場面がいくらでもあっただろうと自分自身を鼓舞し、教室の扉を引いた。
好奇の視線を遠慮なくぶつけられて、ひそひそと言うよりはざわざわと形容した方が適切なほど、教室内のあちこちから声が聞こえる。
特に躓くことも無くー教壇にあがり、黒板に自分の名前を書く。振り向いたあと一瞬怯んだが、窓際で優しく微笑む見知った顔を見つけて安心感が込み上げる。
一度深呼吸をして彼女に微笑みかけたあと、教室内を見回した。
落ち着いてみると数人見覚えのある顔があることに気がついた。彼らも同じ学年だったのか。
「はじめまして、俺の名前は一 徹です。何人か見覚えのある顔ぶれがいるようで安心しています。前の学校にはスポーツ推薦で入学したんだけど、色々あってここに転入することになりました。これからよろしくお願いします」
「実はバスケで結構有名になったりもしてたんで、知ってる人はいるかもしれないですね」
「……あ、俺知ってます。中学一年からレギュラー取って、三年連続全国のMVPになってましたよね」
「周りのおかげでありがたいことにね。進藤くんは二年前の関東大会で当たったことあるよね?」
「え、覚えててくれたんすか! うわ、めっちゃ嬉しいっす!」
「あ、そうだ。細かい事情はそのうち話す予定けど、これから同級生になるんだし普通に接して欲しいかな」
「あ、そっか。おっけー! よろしくな! 」
彼は部活の繋がりで俺が一つ上の学年だったことを知っているはずだ。
今朝の壬生さんとのやり取りで反省した俺は、ある程度打ち解けてから話したいと思っていたので、彼がすんなり頷いてくれたことに安心した。
「――よし。そんじゃあお前の席は、窓際の一番後ろだ。隣の席にいるのがこのクラスの委員長だ。さっきも言ったけどなんか困ったらそいつに聞け。委員長、頼んだぞ」
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2019/09/29 誤字脱字を修正しました。