表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンデレ×ちょろイン=地雷原!?  作者: 木花 赫夜
一章 同級生は病んでいる
26/35

二十三話

2019/11/02

第二十三話を投稿致しました。


予約投稿できていなかったので、改めて設定し直して投稿しております。


錯乱した恵を鏑木先輩の機転で落ち着かせることに成功し、なんとか刃傷沙汰は避けられた。結局彼女が()()()()()理由は分からずじまいだけれど、今はひとまず無事だった事に感謝する。


ふと、気持ちと頭の中が落ち着いた事で忘れかけていたことを思い出した。恵がここへ来る直前まで会っていたはずの人物は何をしているのか。話し合い、という名目で部活の見学は断られてしまったが、恵がここにいるという事はそれが終わったことを意味しているはずだ。


話があると持ちかけた本人、壬生琴葉は彼女の性格であれば終わった後はそのままここへ来るか、連絡のひとつでもくれそうなものだ。


ふいに、先程までの光景がフラッシュバックする。夕日の赤と錆び付いたカッターナイフ。それを持つのはまさについさっきまで錯乱していた恵である。


気が付いてしまえば居てもたってもいられず、恵に問い質そうとして――寸前で踏み留まった。


彼女が一番取り乱したのは、()()()()()だったか。鏑木先輩と一緒にいた所を見られた時、ではなく琴葉はどうしたのか聞いた時だった。


酷くショックを受けたような、絶望に染る表情を浮かべて縋るように、一心不乱に俺の名を呼ぶほど取り乱したのだ。ここでまた、彼女に聞くわけにはいかなかった。


「いってつ、どうした?」

「徹くん?」


帰宅するべく部室を後にして、並んで前を歩く二人が心配そうにこちらを振り向く。あの短時間で恵はすっかり鏑木先輩に懐いたようで、琴葉と一緒にいる時のような明るい彼女に戻っている。


「いや、なんでもないよ」


それに納得したのか、二人は前を向き直して話し始める。聞こえてくるのはこの前のゲームセンターで苦戦した話だ。恵はまだ、あの店のランキングトップが隣にいる少女だとは知らない。


教えてあげることも出来るが、それよりも今気がかりなのは琴葉の安否だ。二人の会話に適当に相槌を打ちながら、スマホを操作してチャットアプリを開く。


『部活見学終わったよ。琴葉は今どこにいるの?』


宛先はもちろん琴葉だ。心配で逸る気持ちを抑える様に、出来るだけ平凡なメッセージを送信する。すると思いの外早く、実際は十秒も経たないうちに既読と表示された。


とりあえずは無事なのか。それがわかっただけで胸のつかえが取れたように感じた。


『迎えが来たので帰宅中よ。もうすぐ家に着くわ』


ああ、よかった。時間的には話が終わったあとすぐに帰ったのだろうか。彼女の家がどこにあるかは知らないけれど、車で来るほどだからそれなりに遠いのだろう。


『何かあったの?』


随分と察しが良い。この様子だと恵がどうなったかも想像出来ているかもしれない。


『恵がちょっとね』


『ゲーム愛好会の部室まで来てて、結構混乱してたみたいで宥めるのが大変だったから、もしかしたら琴葉に何かあったんじゃないかなって』


掻い摘んで、事の顛末だけを簡単に説明する。カッターナイフを手にしていた事は伏せた上で、だ。


『そう。今は、どこにいるの』


『俺と愛好会の部長と一緒にいるよ。もういつもの恵に戻ってる。こっちも今帰っているところだよ』


『そう。わかったわ』


それっきり琴葉からの返事はない。スマホをポケットに戻し、二人の会話に耳を傾ける。


「――そう。だから今度教える」

「ありがとうございます。私も部員として頑張らないとですね」


「ごめん、聞いてなかった。何の話?」

「あ、徹くん。歩きスマホは駄目なんですよ?」


「ごめんごめん。今日は大目に見てよ」

「もう。仕方ないですね」


ぷりぷりと、全く怖さを感じない怒り方をする恵に、()()()()もこんな感じなら良かったのにと思った。


「それで?」

「あ、そうです。徹くんは知ってましたか? この前のゲームセンターのランキング一位のちいさんって、鏑木先輩の事だったんですよ」


目を煌めかせてやや興奮気味に語る恵に、知っていたとは言いづらくなってしまった。しかし、ここで嘘をつく必要も無いので素直に言ってしまおう。


「ああ、知ってるよ。いや、正確には昨日知った、だけどね」

「……どういうことです?」


すっと細められた瞳に見つめられ、背筋が凍る。光を飲み込んでしまいそうな真っ黒な眼差しを前に、僅かに言葉に詰まった。


「き、昨日ね。暇すぎてゲームセンター行った時に遠目に見たんだよ。結構人だかりができていてなんだろうなって思ったら、鏑木先輩が大人の男の人をボコボコにしてたんだ」


「その人が鏑木先輩だってわかったのは、今日見学に来てからなんだけどね」

「大人の男の人をボコボコに……」


ゲームで、という言葉はなくても通じるかと思ったけれど、少し脅えた様に鏑木先輩を横目で見つめている。これはもしかしたら喧嘩かなにかと勘違いしているかもしれない。


「いってつもいたんだ。声かければよかったのに」

「いや、その時はまだ初対面ですし」


「ち、ちい先輩は大丈夫だったんですか?」

「よゆー。雑魚ばっかり」


得意げな顔でピースサインを掲げる先輩と、本当に勘違いしている恵のすれ違いっぷりが少し面白い。


「恵、先輩はゲームでボコボコにしてたんだよ」

「え……あっ。そういう事でしたか」


指摘されてようやく気がついたのか、真っ赤になって俯く。鏑木先輩が動じていない様子から、分かっていて敢えて放置していたようだ。この先輩はなかなか意地が悪い所がある。


「というか、ちい先輩?」

「あ、はい。そう呼んでいいと言って頂いたので、お言葉に甘えてます」


「めぐーは弟子だから」

「いつの間にか弟子入りしてる」


本当に相性が良かったのか、先輩後輩関係なく、お互いをあだ名で呼び合う中になっていた。この二人は人付き合いが苦手そうな印象だったけれど、意外とそうでも無いのかもしれない。


「あ、俺こっちなんだけど」


気がつけば家までもう少しの所まで歩いていたようで、前を歩く二人に声をかける。


「私はこっち側ですね」

「めぐーと一緒」


「じゃあ二人とも、また明日。気をつけて帰ってね」

「はい。また明日ですね」


「ばいばい」


鏑木先輩と恵は家の方向が一緒らしく、この交差点で別れることになった。


マンションに到着し、自室へと向かう。ソファーに腰掛けると同時に、スマホのバイブレーションが鳴った。


『遅くなってごめんなさい。それで、徹は入部するの?』


メッセージの着信を知らせるものだったらしく、その送り主は琴葉だった。


『うん。というより、部員が一人だけで廃部寸前だって言ってたからその場で入部したよ』


『そう。一言相談してくれても良かったのに』


メッセージだけでは淡白な印象でも、続けて送られてきたいじけた猫のスタンプのお陰で和んでしまった。


『ごめんごめん。それと、部長の鏑木先輩って人が咄嗟にフォローしてくれたおかげで恵を宥められたんだけど、その代わりに恵も愛好会に入部することになったよ』


『退部して』


「え? ……退部って、そんなことしたら廃部になっちゃうけど」


恵が入部したと告げた途端、退部を進める琴葉に思わず独り言が零れる。突然の出来事に困惑しながらも今呟いたのとほとんど同じ内容を返信する。


『それなら私も入部するわ』


『兼部って出来ないんじゃなかったっけ?』


『愛好会となら大丈夫だったはずよ。もし駄目なら弓道部は辞めるわ』


『何もそこまでしなくてもいいんじゃないかな?』


『必要なことよ。――あの女を野放しにはできないわ』


文面からでも怒りが伝わってくる。琴葉がそうまでこだわる理由とは一体何なのだろう。


『あの女って、恵のことだよね。本当に何があったの?』


『――裏切られたのよ。恵には心底失望したわ』


怒りを通り越して、軽蔑さえ感じられる物言いに直接会話している訳でもないのに気圧される。


『それと……その鏑木先輩は男性? それとも、女性?』


ああ、これはもう結果が見えている。嫉妬深い彼女のことだ。先輩が女性だと知ったら尚のこと退部を進めるのだろう。


『女性です』


だから俺は、(へりくだ)ってつい敬語でそう返信した。


『そう』


またしてもぱたりと返信が止まってしまった。時刻は夜の七時を回った頃だ。もしかすると、夕飯かお風呂にでも入ったのだろうか。冷蔵庫を開けてお茶を取り出し、コップに注いでからソファに再び腰掛けたその時、


――ピンポーン


来客を知らせるチャイムが鳴った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ