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ヤンデレ×ちょろイン=地雷原!?  作者: 木花 赫夜
一章 同級生は病んでいる
24/35

二十一話

2019/10/29

第二十一話を投稿致しました。


ギリギリ間に合いませんでした.......


「髪がぼさぼさ……どうしてくれる」


歯止めが効かずつい撫で回してしまった。()()先輩ではあるので流石に失礼だったな、と心の中で反省する。


「鏑木先輩すいません、ついやってしまいました。悪気はなかったんです」

「む。悪気がないなら仕方ない。先輩だから許す」


この子は本当に、なんというか騙されやすそうだ。いくら先輩とはいえ、つい心配になってしまうほどに。とはいえ、急に頭を撫でた俺も悪いが丁度いい位置に頭があるのも原因の一つだと思う。


「先輩の頭はなんで丁度撫でやすい高さにあるんですか?」

「……馬鹿にしてるでしょ」


これは流石にわかってしまったようだ。彼女の人柄というか、年下を相手にしているように錯覚してしまうせいで、柄にもなくからかってしまった。


「いえいえ、そんなことないですよ」

「怪しい……」


じとっとした目でこちらを睨んでくるが、全く威圧感がない。小動物のような外見では何をしても愛らしい雰囲気になってしまう。やはり鏑木先輩は恐ろしい。


「ところで話は変わるんですけど」

「急展開」


「ええ、まあ。それで鏑木先輩って駅前のゲーセンってよく行くんですか?」

「ゲーセン……あそこは最近は週三くらい。新しいのが無いから減ってる」


減ったとはいえ、週三ペースでゲームセンターに入り浸ってるというのは結構な頻度ではないだろうか。ああいったところのゲーム機は一プレイ百円だが、この前の感じからするとかなりやりこんでいそうだ。


「そんなに行っててお金とかどうしてるんですか?」

「自分で稼ぐ。これでも労働者」


「え、働いてるんですか? うちの高校ってバイト大丈夫でしたっけ?」


鏑木先輩はその問いには答えず、おもむろに太腿の当たりをぽんぽんと叩き始めた。何かを探しているようだが、スカートにポケットなんてあるのだろうか、目的のものは全然見つけられていない。


「ちなみにですけど、何を探してます?」

「……スマホ。なくした」


「あー、それなら多分、テーブルの上にあるのがそうかと」

「流石いってつ。よくやった」


天然なのか少し残念な感じだが、本人は満足気なので口は閉ざしておく。その代わり、何かを見せてくれるようなので彼女に近寄っていく。


「これ」


そう言って彼女が見せてくれたのは老若男女が使用する無料の動画投稿アプリだった。


「これ、がどうしたんですか?」

「私のアカウント」


よく見るとアカウントのページが開かれており、『ちいのゲームべや』というチャンネルだった。何を言いたいのかとページに目を通すと、ある数字に目が止まった。


「――え……チャンネル登録者数二十万人?」


万人、の部分は漢字で表記されているため、桁を読み間違えるはずがない。高校生でこの数字はかなりすごいのではないだろうか。記憶が曖昧だけれど確か一万円稼ぐのに十万回再生が必要だ、というような記事を読んだ覚えがある。


見れば投稿されている動画についている再生回数はどれも数十万再生で、これだけでも結構な収入があることがわかる。


「鏑木先輩、これかなりすごいと思うんですけど、一体なんの配信してるんですか?」

「ゲーム実況、とか」


「……ゲーム実況?」


俺がこのアプリを使う時というのは、大体バスケ関連のものだったりペットの動画くらいなので、ゲーム実況というジャンルは初めて耳にした。


「それで視聴者増えるんですか?」

「美少女ゲーマーの実況だから」


「それで視聴者増えるんですか?」

「……え、あれ? なにかおかしい」


「わかりました。仮に美少女ゲーマーの実況だとしましょう。具体的にはどんな内容のものを?」

「む。事実なのに」


眉間に皺を寄せ、唇の先を尖らせて拗ねた表情を浮かべる。そこを否定されるのはどうやら不服だったらしい。


「普通にゲームをやっているところを配信する。新作もレトロも色んなジャンルで」

「人がやってる所見てて面白いものなんです?」


「なかなか面白い。試しにいってつも見てみるといい」

「そうですね、わかりました。早速帰ったら見てみます」


そう言ってこの話は終わりかと思ったが、鏑木先輩はぐいっと自分のスマホを押し付けてくる。


「今見て」

「い、今ですか?」


「そう、今」


急に押しが強くなった先輩に促されるまま、俺も知っているアニメキャラの出ているらしきゲームの動画をタッチする。鏑木先輩の声がスマホの画面から聞こえることに妙な違和感を感じつつも、動画はどんどん流れていく。


――結果から言ってしまうと、見事にハマってしまった。その場で自分のアプリを操作して『ちいのゲームべや』をチャンネル登録してしまうくらいには面白いと思った。


「いや、これすごく面白いですね」

「当然」


ふんす、と自慢げに胸を張り褒めてくれと言わんばかりの先輩につい笑みがこぼれる。


「他におすすめってありますか?」

「他だと、この人たちがおすすめ」


「え、この人チャンネル登録数二百万超えてますけど、何者なんですか?」

「三人組で二人は兄弟。ゲーム実況だと超有名」


先輩が紹介してくれた人の動画は再生回数がどれも桁が一つ違う。今まで全く知らなかったけれど、なかなか奥が深いようだ。


「ゲーム愛好会なら見るべき」

「そうですね、早速チェックしておきます」


「うむ。いってつは素直」


彼女は満足気に頷く。第一印象はもっと冷たい、というか静かなイメージだったけれど、話してみると結構変わっていて面白い人だ。この部を選んでよかったかもしれない。


気がつけば部室の窓からは夕日が差し込み始め、時間を忘れて動画を見ていたようだ。


「うわ、もうこんな時間だ。今日何もしてないですけど、愛好会ってこんな感じでいいんですか?」

「大丈夫。愛好会だから」


「鏑木先輩って意外と大雑把なんですね」

「む。心外。おおらかと言って欲しい」


あんまり変わらないような気もするが、本人がそれでいいならそういうことにしておこう。


「あ、そういえばここって何曜日が活動日なんですか?」

「決まってない。私だけだったから、気が向いた時」


「それだと困るじゃないですか」

「じゃあ、ここに来る日は連絡する」


それだけ言ってスマホのチャットアプリを開き、QRコードを表示させて俺の目の前に突きつける。相変わらず言葉は足りないが、要するに連絡先の交換ということだろう。


「はい、じゃあこれで登録できましたね」

「苦しゅうない」


上機嫌、なのだろうか。基本的に表情があまり変化しないのでわかりづらいところはあるけれど、鏑木先輩の場合は何となくで察することが出来ている。


「じゃあ、俺はそろそろ帰ろうと思うんですけど、先輩はどうします?」

「私も帰る」


「わかりました。ついでなんで途中までご一緒していいですか?」

「問題ない」


特に物を出していないので片付けるものもないが、念の為室内を見渡して忘れ物がないか確認する。


「じゃあ、行きましょうか」


がちゃり、と扉を開けて外へ出るとあとから続いた先輩が施錠する。さて、帰って教えて貰った動画でも見ようかな。――そう思った時だった。



「――ふたりっきりでなにしてたんですか? 徹くん」


見たことの無い表情と、聞いたことの無い声音。彼女は()()()()と言っていたので別れの挨拶を済ませたはずだった。


「――その子、誰ですか?」


部室の目の前、気配も無く待ち構えていたのは委員長こと、朝比奈恵だった。

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