十八話
2019/10/25
第十八話を投稿致しました。
本業が忙しく更新に日数がかかってしまいました。
楽しみに待っていてくださった方は申し訳ありません。
お詫びではないですが、最後の方にキャラクターイメージ朝比奈恵 第二形態を載せてあります。
「おはようございます、一くん」
見知らぬ少女、しかし聞き覚えのある声に一つの可能性にたどり着く。一度そうだと思ってしまえば彼女の持つ優しい眼差しも、柔らかく微笑む口元も俺の知っている少女のものだ。
「――もしかして、委員長?」
確信には程遠いため念の為予防線を張る。十中八九合っているとは思うけれど、これで間違えでもしたらことだ。女性の変化に気づけないようでは一人前の男とは言えない、とは父の言葉だ。外では威厳のある厳格な父も、家に帰ると母の顔色を伺っていたから経験談でもあるのだろう。
「やっぱり気付いてくれましたね」
そう言って花開くように笑った少女の様子から、間違っていなかったのだと悟る。
「おいおい、いったいどういう事だ。そもそもなんで徹はこの子が委員長だってわかったんだ?」
にわかには信じ難いといった様子なのは彰だけではない。隣にいる坂本さんや宗次郎達を始めとしたクラスメイトの大半がぽかんとしている。
「え、なんでって声とか目とか雰囲気がそのまんまじゃない?」
「いやいや、全然わかんないよー」
「い、委員長、急にどうしたの?」
「どう、とは?」
「なんでそんなになっちゃったのかな、って」
宗次郎の言葉には他意はないのだろう。純粋な疑問のはずだが、委員長はそうとは受け取らなかったようだ。自信なさげに俺の方を見たあとに、重々しく口を開いた。
「一くん……似合ってませんか?」
「心配しなくても大丈夫。俺は今の委員長、可愛いと思うよ」
言葉選びは慎重にしたつもりだ。それに、今の言葉には嘘偽りはない。前の眼鏡姿も似合っていたと思うが、今の方が好みだ。
「そう、ですか。じゃあ、何も問題はないですね」
頬をほんのりと赤く染めて照れ笑いを浮かべる委員長に、彰や宗次郎がほう、とため息をついた。どうしてという質問に対する答えはなかったが、もはやそれどころではないようだ。元の姿を知っているが故に、彼女の浮かべる表情とのギャップにやられてしまうのも無理はない。
「――恵、貴方もしかして……」
小さなつぶやきに思わずはっとした。自然と委員長を褒める形になってしまったが、壬生さんがいることをすっかり頭から外れていた。目の前で、他の女の子を可愛いと褒める事を咎められるのではないかと内心焦っていたが、彼女は真っ直ぐに委員長の方だけを見つめていた。
「琴葉、どうしたの?」
「――いえ、なんでもないわ」
その後は委員長が何事も無かったように席に着いた事で、騒ぎが大きくなることも無く朝のホームルームを迎える。
「おーし、全員いるな? 面倒だが一応出欠は取るぞ」
がらがらと音を立てて教室へ入ってきた宮崎先生が、教壇についてぐるりと教室を見渡す。例に習って名簿を見ながら生徒の名前を読み上げていこうとして、一人目の名前を口にした後にぴしり、と音がしそうなほど硬直しているのがわかった。
「朝比奈、恵……で合ってる、よな?」
「はい」
委員長はと言うとさして気にした様子もなく、淡々と返事をするだけだ。皆には登校の時点で周知されることになったため、この場で驚いているのは宮崎先生一人だけとなる。
「なんか、あったのか?」
「なにか、とはどういうことでしょう?」
淡々と、話し方としてはこれまで通りの委員長のままだが、見た目がだいぶ変わっているために刺々しいような印象を与えてしまう。触らぬ神になんとやら、そう思ったのか宮崎先生は「いや、気にしないでくれ」とだけ言って、次の生徒へと移った。
一時限目はそのまま歴史の授業を受け、何事もなく終わると休み時間には委員長の周りに人だかりができていた。
「委員長って意外と行動力すごいんだねえ」
そういった坂本さんは彼女がああなった理由を知っている。自然と彰や宗次郎も俺の席に集まり、隣の様子を伺っている。
「正直まだ信じられねえな。徹の言った通り、例の芸能人に似ててかなり可愛くなってるし」
「う、うん。徹の見る目は確かだったね」
「俺もちょっと驚いてるからね。休日の間にイメチェンしてるとは思わなかったよ」
「それでも、見た目が多少変わっただけなのにクラスの子の反応、ちょっと失礼じゃないかしら」
「それ私も思った! なんか男子の見る目が明らかに変わってて、ちょっとどうなのって感じ」
「うわー耳が痛え」
壬生さんと坂本さんの言い分もわかる。元々目立たないようにするためなのか、いかにも大人しそうな印象だった委員長が優しそうな面持ちの少女に変貌しているのだ。壬生さんは高嶺の花で近寄れないとしても、委員長なら手が届きそうだと考えている男もいるだろう。
質問責めにあっている委員長が先程から同じような質問ばかりで、困っているようだ。そろそろ助け舟を出そうか。
「委員長、今日の放課後って空いてるかな」
「一くん、大丈夫ですよ。どうかしましたか?」
話の最中だったようだが、ぱっとこちらを振り向く。話をさえぎられた男はスマートフォンを取り出していたので、連絡先でも聞こうとしていたのだろうか。彼には悪い事をしたかもしれない。
「放課後、壬生さんも一緒に部活見学行こうと思っているんだけど、委員長もどうかな? 確か、委員長もまだ入ってなかったよね?」
「行きます! 」
何処へ、とも聞かずに即答する。そんなに質問責めが辛かったのだろうか。壬生さんの許可は得ていなかったけれど、彼女を助けるためだ、きっと許してくれるだろう。
「二人きりだと思っていたのだけれど」
「あ、ごめん。人数多い方が面白いかと思って。嫌、だった?」
「いいえ、大丈夫よ。せめて事前に相談してほしいと思ったくらいね」
「ごめんね、次からはそうするよ」
言葉ほどは機嫌を損ねているわけではなさそうだ。壬生さんも内心では委員長のことが心配だったのだろう。なんだかんだと言って、彼女は根が優しいということは既にわかっている。
「そういや、学級委員とか委員会に入ってるやつは部活入る必要なかったと思うんだが、入部する気あるのか?」
「あ、そういえばそんな規則もあったっけ」
「うちの部長、行事とかの実行委員会も入ってるから問題は無いと思うよー」
「そういやそうだったか。まあ愛好会ならそんなに厳しくもないだろうし、席だけ置くのもいいかもな」
三年間の部活動経験というのは、進路を決める際にも有利に働くというのはどこに行っても変わらない。委員長もやりつつ部活動も、となると大変ではあるがアピールポイントにはなるはずだ。
そんな打算を考えて提案したわけではなかったけれど、結果としてメリットの方が多いなら誘ったかいもある。
ちょうど話のキリが良くなったタイミングで予鈴がなった。まだまだ委員長と話したりなそうなクラスメイト達も渋々席へと戻っていく。
間もなく教員が教室へ入ってきて二時限目が始まる。放課後は二人を連れてゲーム愛好会へ見学だ。あの『ちい』という人物はいるだろうか。また眠ってしまう前になんとか話をしてみたいところだ。
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