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ヤンデレ×ちょろイン=地雷原!?  作者: 木花 赫夜
一章 同級生は病んでいる
20/35

十七話

2019/10/21

第十七話を投稿致しました。


日付が変わる前に更新出来て良かったです。


休日を迎えて、一つ後悔したことがある。


それは転入以来慌ただしかったということもあって、みんなの連絡先を聞きそびれたことだ。


誰かを遊びに誘うことも考えたけれど、連絡のしようがないので諦めた。


そうなると、荷解きくらいしかやることがなく、土曜日丸一日無心でやっていたらそれも終わってしまった。


元々荷物は多いわけではなかったのもあるけれど、二日かけてゆっくりやってもよかったと思う。


今日は小雨程度ではあるが残念ながら天気は悪い。近くの公園にボールを持って行く気にはなれなかった。


どうしたものかと思案して、最終手段を取ることに決めた。


特にオシャレという訳では無い普段着に着替え、傘をさして向かった先は一昨日来たばかりのゲームセンターだ。


家を出てすぐは駅周辺を散策することも考えたけれど、いざ外に出てみると億劫になってしまったのだ。


パーティーゲームはこの前一通り楽しんだので、一人で遊べるものを探してぶらぶらしているとアーケードゲームのエリアに人だかりができているのを見つけた。


興味本位で近づいてみると、幅広い年齢層の男性たちが二つの筐体を囲んでいた。


「――だぁっ! くそっなんで当たんねえんだ!!」

「うわっ……またパーフェクトだぞ」


「誰か、誰か止めてくれ」

「ちくしょう……やってやる。やってやるぞお!」


どうやら格ゲーの対戦をしているようで、その中に滅茶苦茶に強いプレイヤーがいるらしく外野が度々歓声を上げている。


どんな相手なのか見ようにも、角度的に確かめることは出来ない。


「うわあぁっ! 空中コンボがえげつない! 」

「もう下ろしてやってくれぇ」


素人目で見ても本当に強いようで、誰も彼もが為す術もなく敗れていった。


「……ふぅ」


人垣の向こうから小さく息を吐く声が聞こえ、野次馬は皆静まり返る。手首をストレッチしながら席を立って出てきたのは、どこか()()()()()()少女だった。


「今日来てよかったぜ。()()有名人を一目見れるなんて」


近くにいた同年代くらいの男性が呟いたのを耳にし、どうしても気になって聞いてみることにした。


「すいません。彼女って有名なんですか?」

「……はぁ? ここらであの子を知らねえやつはいねえよ」


「お前、新参者か?」

「はい、最近引っ越してきたもので」


「それならその辺のゲーム見てみろ。ほとんど全部のランキングの上位に名前がある」

「もしかして、彼女が『ちい』ですか?」


「なんだ、知ってるじゃねえか」

「彼女は壬生第一高校の生徒ってことはわかってるんだが、その腕が圧倒的すぎて気安く声をかけられるやつがいないんで、誰も名前すら知らねえんだよな」


――彼女がそうだったのか。


()()()は暗がりで、はっきりと見えたわけではなかった。


根拠はたった一つだけど、それでも俺の中では確信に変わっている。


くりくりとした髪質を持ち、小動物を連想させる少女は、小学生と言っても通じてしまいそうなほどに小柄だった。


――そう、あの『ゲーム愛好会』の部室ですやすやと眠っていた彼女があの『ちい』というプレイヤーだったのだ。


話しかけようかとも思ったけれど、まだお互い面識はない赤の他人でしかない。


明日の放課後、もう一度見学をしてみよう。



――月曜日の朝。


日曜日に出会った、というよりも正確には見つけたと言うべきなのだが、多分ゲーム愛好会の部室で眠っていた『ちい』という生徒の事が気にかかる。


今日の放課後に壬生さんの用事がなければ誘ってみることにしよう。


学校へ行く用意をして家を出ると、予想通り壬生さんが待っていた。


「壬生さん、おはよう」

「おはよう、徹。早速で悪いんだけれど、お願いを聞いてもらえるかしら」


「お願い? どういうこと?」

「……連絡先を交換してくれないかしら」


気丈に振舞っているが、断られることを恐れているようにも見える。そんなに心配しなくても、むしろこっちから聞こうと思っていたのに。


「勿論だよ。正直、土日は暇すぎて誰かと連絡しようにも、誰の連絡先も知らないことに気がついて寂しかったくらいなんだ」

「誰も知らなかったの?」


「一週間も経つのにね。うっかりしていたよ」

「じゃあ、私が一番乗りね」


ふふ、と控えめに耳だけでなく頬まで赤く染めて微笑む。


チャットアプリでQRコードを読み取ると、長毛種らしき猫のアイコンの壬生 琴葉という名前が友達に登録される。


ピコン、という通知音がなったかと思うと、可愛らしい猫のスタンプで『よろしくにゃ!』というメッセージが届いた。


「壬生さん、可愛いスタンプ使うね」

「い、いけないの? 猫、好きなのよ」


「ううん、悪くないよ。似合ってると思う」

「そ、そう。それならいいじゃない」


別に悪いとは一言も言っていないけれど、余計なことは言わないに限る。


「あ、そうだ。今日の放課後って予定あったりする?」

「別に、何も無いわよ」


「先週一回行ったゲーム愛好会の見学、今日行ってみようと思うんだけど、一緒にどうかな?」


「そういう事ね。いいわ、行きましょう」

「うん、じゃあ放課後にね」


予定通り放課後の約束を取り付けることが出来た。それと、転入後の友達第一号も無事に連絡先をゲットした。


なんだかんだとバタバタしていて今更感はあるけれど、後で彰達の連絡先も教えてもらおう。


壬生さんと一緒に登校して教室に向かうと、既に到着していた彰と坂本さんが話をしていた。


「おはよう、二人とも。金曜日はありがとうね」

「おお、おはよう。また行こうぜ」


「おはよー! 楽しかったよね!」

「ええ、そうね」


「それでなんだけど、二人の連絡先とか聞いてもいいかな?」

「それな! 俺も土日宗次郎と遊びに行ってたんだけど、徹も誘おうとして連絡先知らないことに気がついたんだよな」


「交換したつもりでいたけど、うっかりしていたよね」

「じゃあ、せっかくだから琴葉も交換しよー」


「ええ、いいわよ」


その後、少しして登校してきた宗次郎とたっくんとも連絡先を交換して一通り仲良くなったメンバーの連絡先は手に入れた。


「そういえば、恵はまだ来ていないのかしら?」

「あー、うん。そうみたい。やっぱり今日おやすみかなあ」


あんなことがあったとはいえ、最終的に俺の不用意な発言で泣かせてしまったことに心が痛む。


「やっぱり謝らないと――」


そう言いかけた時、ふいに教室の入口がざわつき始めた。


「なんだ?」


彰が入口の方に目を向ける。それに釣られるように視線を追うと、見覚えのない少女がそこにいた。


左右に分けた前髪と、ショートカットに優しげな眼差しをした見知らぬ少女は、他には目もくれずに教室の中へ入ってくる。


その間誰も彼女に声をかけることは無い。


やがて俺の席の近くまで来た少女は、俺の目を真っ直ぐ見つめて口を開いた。


「おはようございます、一くん」


「――もしかして、委員長?」


あの時の何気ない提案を、こんなにも早く実行するなんて。


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