十六話
2019/10/18
第十六話を投稿致しました。
お話は着々と準備が整っております。
今月中に一章を書き終える予定出おりますのでお楽しみください。
「それにしても大きいわね」
「ねー。抱き心地良さそう……委員長、ちょっと貸して?」
「だ、駄目です!」
初めて見る委員長の明確な拒絶に、一同は驚きで声を失う。両腕で抱き抱えたそれを反射的に後ろに隠す。
「あ、ちが……ごめんなさい。そんなつもりじゃ」
慌てて謝る委員長だが、この場に腹を立てるような人間はいない。ただ驚いているだけなのだが、彼女には呆れて絶句しているように見えているのだろうか。
「むふふ。ごめんねー委員長。宝物、なんだもんね? いやあ悪いことしちゃったなー」
にまにまと笑みを隠さずに坂本さんがからかい始める。
「や、あの、貸します! 貸しますから許してください!」
「あら、大事なものなのでしょう? 手放さないように気をつけないと取られてしまうわよ?」
「そうだぞ委員長。徹に貰った宝物を簡単に手放すなんて、徹が悲しむぞ」
「あ、あー。徹、可哀想だなー」
「えっと、大事にして、ね?」
つい悪ノリに乗っかってしまったが、坂本さんと壬生さんの態度に勘違いで蒼白だった顔は赤く染まっていった。
彰は当然乗るだろうと思ったが、棒読みとはいえ宗次郎も乗っかってきたのには意外な誤算だった。
「もういいです! この子は私が面倒育てます!」
そう言って、ぷいと顔を背ける委員長はどこか嬉しそうだ。彼女もまた、意外とノリがいいらしい。
一通り笑って疲れた後に、持ち運ぶのがさすがに大変ということで店員に袋をもらってぬいぐるみを入れる事にした。
「あー、笑いすぎて疲れたわ。飲み物買ってくるけどなんかいるか?」
「私レモンティー!」
「緑茶をお願いできるかしら」
「あ、じゃあ私も緑茶でお願いします」
「はいよー。徹と宗次郎はこっちなー」
「はいはい。それじゃあ行ってくるからちょっとまっててね」
三人を置いて自動販売機へ向かう。何を飲もうか迷ったが、結局安定のみかんの味がする水を選んだ。
「しっかし委員長の趣味意外だったなー」
「そうだね。普段学校にいる姿じゃ想像できなかった」
「そうかな? 俺は結構イメージ通りだったけど」
「徹は出会ってから一番日が浅いはずだろうに。俺が一ヶ月でわかったのはくそ真面目で世話焼きってところだけど、実際今日遊んでみてあんな一面あるの初めて知ったぜ」
「そ、そうだね。学校では愛想笑いだったのかな」
「確かに普段は無理してる感じがしたかな。多分今の委員長が素に近いんだと思う」
「ああ、俺もそう思う。普段からああしてりゃ人気でそうなもんだけどな」
目当ての飲み物を買った後、そんな感じで軽く話をして三人の元へ戻ると、遠目からでもわかるくらいに絡まれているようだった。
「うわ、この子マジで可愛いじゃん! 当たりだ当たり!」
「俺はこっちの子の方が好みだな」
「るせー。お前はそっちの地味なの相手にしとけや」
「はっ! ぜってー嫌だ」
「おい見ろよ。でっけえぬいぐるみ持ってるし」
「くはっまじだ似合わねー。つかどうせ荷物持ちだろ?」
「――躾がなっていないわね。私たち連れがいるの。邪魔だから消えてちょうだい」
「うわー手厳しい。 お嬢ちゃんちょっと可愛いからって生意気言ってると痛い目見るよ?」
彼女たちへの失礼極まりない態度に無性に腹が立ち、気がつけば持っていたペットボトルを投げつけていた。
「――がっ!? 痛ぇな! 何してくれてんだてめえ!!」
「ああ、ごめんなさい。手が滑ってしまって」
「その子たち、俺らの連れなんだけど。なんか用か?」
「怖がってるよね? 迷惑なんだけど」
彰たちも苛立っているようで、敵意を隠そうともしていない。
「ちっ、ほんとに男連れかよ。くっだらねえ」
吐き捨てるようにそう言ったチンピラ風の男は、興醒めだというように立ち去っていった。
喧嘩になったら勝てる自信はなかったけれど、部活で鍛えた体格のいい身体を持つ男三人と言うのは、結構威圧感があったのだろう。
客観的に見て一番強そうなのは意外にも宗次郎で、中身を知っていると気が弱いと言うのはわかるが、先程のように黙っていれば、彼の高身長がより凄みを増してくれる。
ともかく、壬生さんたちが無事で何よりだ。
「三人とも大丈夫? 戻るのが遅くなってごめん」
「悪いな。一人でも男を残すべきだった」
「大丈夫よ。あんな奴らどうってことないわ」
「み、壬生さんは大丈夫でも、優菜と委員長はわからないよね?」
「……そうね。ごめんなさい。余計に怖がらせてしまったわね」
「いやー確かに怖かったけど、なんかされたわけじゃないし、私は平気だよー」
「――委員長?」
普段通りに声をかけたつもりだが、怯えるようにびくりと肩を震わせる。
「ご、ごめんなさい。大丈夫です」
彼女はとても怖かったのだろう。悪意があったかはともかくとして、見知らぬ男に声をかけられた挙句ひどい言葉を投げかけられたのだ。それに恐怖を覚えない女性は少ないと思う。
「や、やっぱり、私なんかがこんなの持ってたらお、おかしいですよね」
「大丈夫だよー! あんな奴らの言うこと気にしちゃ駄目だって!」
「そうよ。聞くだけ時間の無駄よ?」
「で、でも……私、こんなだし」
無神経な男の発言に傷ついた彼女を皆が気遣っている中、俺は一人恐らく全く別なことを考えていた。コンプレックスは誰にでもあるものだが、彼女の言うこんなにはいまいち共感できない。
「委員長さ、イメチェンしてみない?」
「……え?」
俺の唐突な提案に、委員長だけでなく他の面々も何を言っているんだこいつは、という表情を浮かべている。
「俺さ、委員長ってこの子に似てると思うんだよね」
そう言って指を差したのは、ゲームのキャンペーンでコスプレをした最近テレビで話題になっている元モデルの女優だった。
「お前、急に何言ってんだ?」
「委員長ってさ、私なんかがって言葉よく使うでしょ? それって自分に自信が無いからだと思うんだよ」
「話が見えないけれど、一理あるわね。続けて」
「うん。それで、いっそ今の見た目を思いっきり変えてしまえばどうかと」
「それがこの子ってこと?」
「確かに最近話題の美少女だけど、全然委員長っぽくねえぞ?」
「そこなんだよね。委員長っぽいって言うのは褒め言葉じゃないと思うんだ」
「ど、どういうこと?」
「なんて言うのかな……イメージの押しつけ? 委員長だからこうあるべきだっていうのはどうなんだろうって。 これ伝わってるかな?」
「ああ、まあだいたい言いたいことはわかった」
「確かに委員長っていうフィルターで見てたかもしれないね」
「だから、委員長じゃなくて『朝比奈 恵』には似合うんじゃないかなってこと。どうせならあいつら見返せるくらいに変わってみてはどうかなと、個人的には絶対似合うと思うんだ」
「……試してみる価値は有りそうね」
「どうかな、委員長」
ぱちぱち瞬きをしてはいるが、思考が停止しているような感じで彼女からの反応はない。
聞こえていなかったのかと思い、もう一度声をかけようとした時、眼からぽろぽろと大粒の涙が零れた。
「えっあれ? ごめん嫌だった?」
「……あ、れ? なん、で」
どうやら彼女も理解が追いついていないらしく、急に溢れたら涙に戸惑っているようだった。
「委員長、大丈夫? 一旦御手洗行こうか」
「そうね、ちょっと失礼するわね」
二人のフォローにより委員長はそのまま連れていかれる。
「やっちまったな」
「これはやっちゃったね」
「まじか。そんなつもりじゃなかったんだけどな」
「「いや、多分そういう事じゃない」」
二人の声がシンクロする。彼らと俺では認識が違うようだ。ただ、それが何かはわからない。どうやら答え合わせをする気は無いらしく、曰くこれは自分で考えなきゃ意味が無いということだ。
しばらくして落ち着いたのか目元を真っ赤に腫らした委員長たちが戻ってきたが、今日はここでお開きとなってしまった。
委員長は壬生さんの父親の車で送っていく事になった。同じ方向の人はいないので一人で帰路につく。
結局、委員長の涙の理由は解らず終いだった。
誤字報告をしていただいた方、ありがとうございます。
筆者自身も添削はしているのですが、どうしても見落としが出てしまうのでとてもありがたいです。
今後とも遠慮せずご指摘ください。




