十五話
2019/10/17
第十五話を投稿しました。
最後の方に委員長こと朝比奈 恵のイメージを載せております。とりあえずは、よくいる委員長っていう雰囲気です。
2019/10/17
誤字修正致しました。
誤字報告していただいた方、ありがとうございます。
学校から徒歩で十五分ほど行くと、そこそこ賑わっている駅前に出る。飲食店や百貨店なども多く、ここに来たら必要なものはほとんど揃うため地元の人間は重用するらしい。
その一角にはゲームセンターやバッティングセンターなどの運動ができる施設もあり、幅広い層に親しまれている。
「こんなところにあったんだ」
「この辺じゃここが一番大きくて有名だな」
「本当に私までよかったんですか?」
「も、もちろんだよ。委員長はこういうところって来たことあるの?」
「いえ、私はゲームセンターもですけど、放課後にクラスメイトとこういう場所に来るのも、その、初めてです」
申し訳なさと恥ずかしさが入り交じり、けれどもわかりやすく嬉しそうな委員長に生暖かく微笑ましい視線が向けられる。
「え? 皆どうしてそんな顔をするんですか?」
「よしよーし。これからいっぱい楽しいことが待ってるよー」
坂本さんが委員長の頭を、わしゃわしゃと犬を撫でるような手つきで雑に撫でたせいで、整えられた髪が乱れてしまっている。
「優菜、あんまりからかうなよ」
「わかってるってば〜」
「あ、あの」
「なんでもないわ。楽しみましょうね、恵」
「う、うん」
手櫛で軽く髪を整えつつ、誤魔化されて納得しきれていないような委員長だったが、ゲームセンターへの興味が勝ったのかそわそわと中を伺う。
「何からやるかなー」
「せっかくだし何人かで出来そうなやつにしようよー」
「じゃ、じゃああっちのほうだね」
この三人は何度か来たことがあるようなので、基本的に任せて後ろをついて行くことにした。
きょろきょろと辺りを見回し、知らない世界に迷い込んでしまったような二人がなんともおかしく、後ろから写真を撮ってみた。
「い、今写真撮りました?」
「徹、盗撮するくらいなら言ってくれればいいのに」
「違う、いや違わないけど! そうじゃなくて、ほら」
あらぬ疑いをかけられる前に、お互いの服の端を摘みながら寄り添って歩く後ろ姿を見せる。
「二人とも本当に仲が良いなって思って」
「当然ね」
「あ、あはは。一緒にいる時間も長いしね」
言い切る壬生さんと照れ笑いを浮かべる委員長、やはり彼女たちは対照的だが仲が良いようだ。
「おーい徹、これやろうぜ」
「なに? シューティングゲーム?」
「ちょうど六人いるからな。二人一組でスコアを競おうぜ」
「く、組み分けどうしようか」
「はいはーい! 男女で組むのがいいと思いまーす!」
「まあ、それが妥当だな」
組み分けの結果だが、宗次郎と坂本さん、彰と委員長、そして案の定俺と壬生さんのペアになった。
じゃんけんの要領での組み分けは運要素が強かったはずだが、もはや執念とも言うべきだろう。
ゲーム自体は昔見た事があるような大きな画面に銃が二つ。向かってくるゾンビを倒してスコアを稼ぐものだ。
坂本さんがきゃあきゃあと叫びながら銃を振り回し、宗次郎は黙々と敵を倒していく。二人のスコアは四千点ほどの点数だったが、これがどのくらい凄いのかはわからない。
一つ分かるのは店舗ランキング一位の『ちい』と言うプレイヤーのスコアが三万を超えていることだけだ。
続いて彰と委員長の番、真剣な表情で向かって行った委員長だったが弾の補充の仕方がわからないらしく、序盤で弾切れになっていた。
ちなみに合計スコアは三千ちょっとで、ほとんど彰一人で稼いでいた。
最後は俺たちの番だ。久しぶりにやるゲームに少し胸が昂ってしまう。壬生さんは真剣に他の人の操作を見ていたらしく、操作はほぼ完璧だった。
「心配しなくても大丈夫よ。徹は私が守るわ」
本当であれば男の俺が言うべきセリフを先に取られてしまった。
「足を引っ張らないようにするよ」
――結果から言うと、壬生さんは滅茶苦茶うまかった。
一騎当千という言葉は彼女のためにあるのかもしれない。後半敵が増えて強くなってくるが、人海戦術をものともせずになぎ倒していった。
スコアは二万四千と圧倒的な差をつけての優勝。ちなみに俺は終始壬生さんに守られた挙句、壬生さんがやられた二秒後にゲームオーバーになっていた。
「壬生さん凄いねえ!!」
「いやほんとに上手かったわ」
「じ、実はやったことあるとか?」
「いいえ、今日が初めてよ。ごめんなさい、徹を守り抜けなかったわ」
「いや、十分だよ。むしろ俺が下手すぎて情けなくなってくる」
「に、一くんも上手だったよ!」
「ありがとう、委員長は優しいね」
委員長に慰められつつも、一対一の格闘ゲームや、レーシングゲーム、リズムに合わせて太鼓を叩くゲームなどを楽しんだ。
それにしても数あるゲームのほぼ全てで、店舗ランキングのトップに君臨している『ちい』というプレイヤーは何者なんだろうか。
今も通り過ぎたゲームにはランキング一位に『ちい』の名前が載っている。
「委員長、どうしたの?」
少し遅れて歩いていると、委員長がガラスケースを見つめて立ち止まっていた。
「あ、いえ。なんでもないですよ」
何を見ていたのかと目を向けると、UFOキャッチャーの中に一メートルはありそうな黒猫のぬいぐるみが寝そべっていた。
眠たげな顔をした猫は見るからに柔らかそうで、たしかに気になってしまう。
「もしかしてこれ、欲しいの?」
「いえ、そんな、私には似合わないですよ」
「あれ、好きじゃないの?」
「――恵は可愛いもの大好きよ」
少し先を歩いていた壬生さんがいつの間にか戻ってきていたようだ。
「……こ、琴葉、なんで言っちゃうの!?」
「ふふ、この間の仕返しよ」
やっぱり根に持っていたのか。仕返しのチャンスを伺っていたようで、当の本人はしてやったりという顔で満足気だ。
「へ、変ですよね? 私みたいなのが可愛いもの好きなんて」
「どうして? 好きなものは好きでいいと思うけど。それに、委員長には可愛いもの似合うと思うよ?」
ぽかんと口を開けたまま何も言い返してこないので、とりあえず納得してくれたんだろう。
「じゃあ、やってみようか」
「……えっ、だ、大丈夫ですよ!」
委員長の静止は聞かずに百円を投入すると、レバーを操作してクレーンを動かす。大体の位置に合わせるとピロピロという軽快な音楽とともに、アームがぬいぐるみ目掛けて下がっていく。
アームの先は猫の脇に刺さり、持ち上げ始めるがするりと抜けてしまう。やっぱり駄目か、と思った瞬間だった。
アームの片側が猫の首輪の部分に引っかかり、ぬいぐるみの重みで傾きながらも出口へと引きずっていく。
そして――ごとん。という音を立ててぬいぐるみが落ちた。
「すっごいすごい!一発だよ!?」
「お前よくこんなでかいの取れたな」
またもやいつの間にか彰達も近くに来ていたようで、一部始終を目撃してテンションが上がっている。
「いやあ、まさか一発で取れるとは思わなかったよ」
「流石、徹ね」
「じゃあ、はい。委員長どうぞ」
「え?」
本当にいいのか、そう言いたそうな顔で壬生さんの方を見る。
「羨ましいけれど、徹があなたのために取ったものよ」
「……本当に、良いんですか?」
「うん。結果的に百円で取れちゃったけど、もしよかったら貰って欲しいな」
そう言って抱えるのも一苦労な黒猫を委員長に押し付けると、幸せを噛み締めるように、大切そうに抱きしめて微笑んだ。
「ありがとうございます。宝物にしますね」
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Picrew 「遊び屋さんちゃん」
作成者 遊屋 ゆと
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