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瓦礫の山。爆撃によって爆散した家屋の材木が一人の男の腹に刺さる。


大腿骨の損傷、大腿動脈の破損……これは、死んだかな。


国の為、民の為、現世に毒牙を掛け貪り食う者を死人として来た人生は、皮肉にも国の者達の裏切りによって終わりを迎えようとしていた。


体温が低下していくのをまじまじと感じる。意識も朦朧として来た。



薄れゆく記憶の中で


セミの死体、羽をもがれた蝶、潰れたカエル、干乾びた魚、死に絶える(ゴキブリ)、ネズミの頭───僕が死の瞬間脳裏を過ったのはたったこれ仕切りのことだった。



─ 1 ─


───やぁ、おはよう、悪いね先程眠りについたばかりなのに。


暗く閉ざされた空間。深淵よりももっと暗く、冷たい。

そんな無限の闇の様な中一つの声が聞こえる。声と言うのも耳を介して聞こえるわけではない。頭に直接語り掛けてくるような、そんな声。


「君は……誰だ?」。


「そうだね、まずは自己紹介からだ」。


男か女か老齢者はたまた年少者か……分からない、何も、何一つとして…。


「まぁ自己紹介と云うのも僕に名前なんていう固有名詞は無い」。


「じゃあ、聞き方を変える、君は何だ?」。


「僕は『存在』だよ。なんら君達と変わらない只の存在、でも君達人間よりも圧倒的に高次元の『存在』である事は確かだ、それだけは言える」。


「はは、まさか神とでも言うつもりか?冗談やめてくれよ」。


「ははっ、そんな俗物の創り出した虚像等では無いさ、僕は確かに存在する、間違い無いよ」。


「それでその『存在』様が僕に何の様だい?地獄にでも連行されるのか?」


男の小馬鹿にした態度になどは気にも停めない。


「✕✕君、君は『天国』や『地獄』が存在すると思うかい?」。


「無い、それは弱い人間が創り出した只の空想さ」。



「うん、正解だよ、死の先に待つものは只ひたすらの『無』だ」。


「ならばここは一体何処なんだ」。


「そうだね、質問を変えようか、この世に『天国』や『地獄』があると思うかい?」


さっきの質問と何が違うんだ?


「いや、だから──


「僕はね、生きる事こそが本当の『地獄』だと思うんだ。」


真っ暗な空間の中でもその声が強張るのを感じた。


「…………悪徳宗教みたいな事を言うんだな」。


「息を吸って吐くだけの肉がそこらを闊歩し、無価値な紙の束で尺度を測り無為な争いを広げる。数だけが増え一向に止むことはない、まさに地獄だ……君もそう思わないか?」



確かに、僕はそう思った事がある。


世に寄生するウジ虫を幾ら屠った所で国が変わる片鱗を見せた事は一度も無かった。減るどころか寧ろ増える一方で遂には僕の事を『死神』と崇拝し大量虐殺を行った教団もいた。


僕は一体何をやっているのか、何が楽しくてこんな事をしているのか分からなくなった。


確かに生きる事に比べれば只ひたすらの『無』の方が幾分かマシなのかもしれない。


「さて、本題に入ろう、僕はこれから君に罰を与えなければならない」。


「……罰?神みたいなこと言うんだな」。


「あぁ、残念ながらね、立場上しょうがないんだ。僕は『存在』である前に『送り人』であるから」。


話の魂胆が見えない。


「死の後はひたすらの『無』だと君は言った、それに『送り人』とは何だ?一体何を何処へ送るんだ」。



「『何』は君、『何処』は、う~ん、そうだな……元とは異なる世界にしよう」。



「………なんの話だ、ふざけるな」。



「ふざけてなんて無いさ大マジメさ、ははっ、これは罰だ多くの人間を殺した罰」。



「お前の理論なら、僕は大勢を救った事になるじゃないか」。



「そうだね、これはあくまでもマニュアル通りの事務仕事さ。僕は大変心苦しいよ」。



「それは嘘だ、お前は明らかに楽しんでいる」。



───あはっバレた?敵わないなぁ



「この───ペテン師が!!」










───僕は次の瞬間、見知らぬゴミ捨て場で目を冷ました。





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