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教会からの迎えと思惑

評価、ブクマ、コメントありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ

日々の糧として頂いております!


アシュリー、ちょっと原作介入して大惨事を起こす。

本人的には主要キャラクターと全然関わりたくない所存・・・というよりだれ一人出てきてない


 教会からの迎えと思惑



 ぴちち、とどこかで小鳥が囀っている。

 干し草と羊の毛にくるまり、ストロベリーブロンドをきらめかせた少女は健やかな眠りについていた。

 少女の眠りを守るがごとく、魔羊も静かに干し草にまどろんでいた。

 しかし、唐突に羊が顔を上げた。その愛らしい顔を険しくさせ、厩の入り口を睨んだ。

 それにつられるように、少女も目を覚ました。干し草の中から、そっと腰に携えた鋭利なナイフと鉈のはいったケースに手を伸ばす。

 ざ、ざ、と重い足取りで入ってきたのは、全身を重厚な白い鎧に包んだ屈強そうな兵士――教会直轄の武装集団『聖騎士』と呼ばれる者たちだった。

 眠気が取れないのか、目をこすりながら物々しくやってくる気配にアシュリーはぼんやりと見返すふりをして、抵抗していい相手なのかと目まぐるしく考えていた。


「アシュリー・ゴーランド嬢ですね?」


「あ・・・はい・・・おはようございます。どちら様でしょうか?」


 そのどうにも呂律が怪しい口調が、その眠気をあらわしているようだった。

 だが、その様子に、寧ろ騎士たちは安心したようである。


「貴女が先日捕縛したヴァンパイアが逃げました。教会側でも、捕獲しようとしたのですが逃げられました。こちらの不徳の致すところです・・・

 ゴーランド嬢を逆恨みし、復讐しに行ったのではと慌てて向かった次第であります。

 御無事のようで何よりです」


「はい、良く寝ました。ねえ、メリー?」


「めえ」


 そうだね、というようにその場で跳ねるメリー。

 相棒の今日も元気そうな様子に、アシュリーも笑みを浮かべて極上の毛並みを撫でた。


「うぎゃっ」


 なんか聞こえた。

 アシュリーはきょろきょろすると、干し草に塗れた何かがメリーの蹄の下にいる。

 と、いうより白い何かにメリーの蹄がめり込んでいる。白い何かはうごうごしているし、先日見たことあるけったいな変態モドキに似ている気がする。


「いやーっ! 何踏んでいるの、メリー! ばっちいからポイしなさい! 汚い!」


「め!?」


 靴裏に犬の落とし物でも見つけたように、アシュリーが青ざめた。正しくか弱い乙女の様に青い悲鳴を上げたのだ。あの図太い、オークにもオーガにもひるまないアシュリーが。もしかしなくとも、昨日の変態である。小さなレディはナイーヴだというのに、下品な言葉を投げつけてきたあの顔だけは立派な変態だ。

アシュリーのその狼狽のしかたにメリーが慌てて足元のそれを蹴り飛ばした。

 白いそれは聖騎士たちの前に投げ出される。


「ヴァ! ヴァンパイアだ! いたぞ! 叩け! 聖水を浴びせろ!」


「銀器を持っている奴は前へ! やはりゴーランド嬢を狙っていたんだ! このロリコンめ!」


「まだ蝙蝠のままだ! 弱ってる! そこだ踏め! 叩けええええ!」


 その様子は、家庭内に出たGを退治する姿によく似ていた――後に宿屋のおじさんは語った。

 少しでも飛べば祝福を受けた銀の武器が飛び交うため、かさかさと地面を這って逃げる白い蝙蝠。小賢しいくらい位に素早く、機敏に動いていた。それが一層あれっぽかった。

 演技も取り繕うことも忘れ、アシュリーは嫌悪に顔をゆがめた。

 そのはっきりとした嫌がりようを目にした騎士たちは、ますますもって逃げ回る白い蝙蝠を叩こうとする。しかし殺されてなるものかと蝙蝠も必死だ。騎士たちの足元をきわどく這いずり、銀の刃や軍靴から逃れる。聖騎士たちも一見珍しい色の蝙蝠であろうと、それがヴァンパイアという高位の魔物と知っている以上、双方命がけのタップダンスである。

 数分攻防と膠着が続いたものの、やはり長らく生きたヴァンパイアというのは狡賢い。騎士たちの隙をついて飛んで脱出した。朝日が照らすというのに、逃げて行ったのだ。

 アシュリーはドン引きだ。

 たしかあのヴァンパイア、二十代前半位の美青年だった。

 なのに、まだ十代でもかなり前半、御胸もつるぺったんなアシュリーに夜這いに来たのだろうか。とんだペドフィリアである。いくらルックスがよくても、いくら高貴でも、いくら強くても、いくら財力があってもロリコンという性癖の前では台無しだった。


「なにあのヴァンパイア・・・・怖い」


 思わず口を突いて出た驚愕と恐怖の言葉。

 それに敏感に反応し、聖騎士たちがやってきた。

 小さなアシュリーの前に膝をつき、安心させるように視線を合わせた。

 兜を外した下から現れたのは精悍な顔立ちだった。十代後半ほどだろうか。なかなかにハンサムな好青年である。実に痛まし気に顔をゆがめ、アシュリーの手を取って見つめる。


「アシュリー・ゴーランド嬢。我々は貴女を保護しにまいりました。

 ヴァンパイアの中には、標的に異常執着する個体もいるのです。特に性癖や嗜好にこだわりのある個体はその傾向が強いと聞きます」


 やはりロリコンか! ロリコンなのかあの白男は!

 アシュリーは戦慄した。だいたいのことは美少女に生まれてよかったと結構思ったが、ついに変態まで釣れてしまったかと愕然とした。

 アシュリーはわずかながらの荷物とメリーを同伴する許可を得て、教会へ向かうこととなった。

 移動は馬車であった。金の真鍮で蔓草の装飾をあしらった真っ白で優美な車が取り付けられ、二頭立てで引っ張る立派なものである。鹿毛は二匹とも健康そうで、真っ黒な円らな瞳が生き生きとしている。

 騎士はアシュリーを要人のようにエスコートしながら馬車の中へと連れていく。


「我々は貴女に感謝しなければならない。

 貴女が見つけたあの金の器は、恐ろしい魔物を召喚する触媒だったのです。貴女がたまたま聖水を掛けたおかげで、だいぶ力は弱っていましたが、あれは強い悪魔を召喚できるほど強力でした。

 もしあれが万全で使用されたら、それこそ空前絶後の災厄となったのは免れないでしょう」


「はあ・・・」


 よくわかっていないという振りをする。

 アシュリーが曖昧に笑うと、若い騎士は熱いまなざしを向けてくる。

 アシュリーは「これ、普通の初心なお嬢ちゃんならコロッとおちるぜ?」と黄昏た。だが、中身アラサーのアシュリーには年齢的な意味で心の琴線は動かない。

 心に後ろ暗さの多いアシュリーは、先日取得したばかりの称号とスキルに大喝采を上げたい気分だった。

 

「あのヴァンパイアと云い、ゴーランド嬢は一切心を乱されずにおられました。

 そのことを受け、エイザム司祭はもしや貴女に『聖女』の資質があるのではないかとお考えなのです」


「わたしはロブソン村という田舎出身の村娘ですよ? 家系どころか村でもそのような謂れはきいたことはありませんが・・・特に聖女らしい魔法も使えるわけではありませんし」


 努めて困惑しているように、淑やかにアシュリーは答えた。

 嘘は云ってない。嘘は。

 というか、もしかして素行調査されるのかな――それには少しひやりとした。

 いや、不正悪行には一切手を染めていない。ちょっと派手な兄弟げんかはしたけど、アシュリーは悪くないはずだ。最初に手を出したのはどっちもベルンが先だ。強烈にやり返したのはアシュリーだが。

 面倒に巻き込まれたな、とアシュリーは馬車外をちらりと眺めれば颯爽と並走するメリーが見えた。元気そうである。なんか安心した。







「いやーっ! 嫌です! 嫌ったら嫌! それならわたしも追い出して!

 メリーを傍に置いていただけないのなら、わたしも一緒に出ていきます!」


「ですが、いくら大人しいと云えど魔羊を置いておくなど。

 ペットとして汎用性のあるものではないでしょう。家畜としてなら多少聞きますが」


「メリーはわたしの家族よ! あの白蝙蝠の夜這いを防いだのもメリーよ!

 そもそも聖騎士とやらはわたしの寝室まで護衛できないモノでしょ!? だったらメリーを置いても何らおかしくないわ! あの白い変態は夜行性の可能性が大でしょう!? 一応ヴァンパイアだそうですし!? そもそも、あの聖騎士たちってメリーの突進どころか頭突きすら防げない神・・・じゃなくて紙装甲じゃない! メリーに蹴散らされなくなってから仰って!」


 メリーを捨ててきなさい、と云われた。

 アシュリー・ゴーランドの身柄は保護するが、その使役する魔物は論外だと。小型ならともかく、魔羊はそこそこ大きい。だから捨ててこいと云ってきたのだ、教会は。

 アシュリーはすさまじい反発を見せた。

 大人しく馬車で護送され、教会まで来て保護される旨を当惑しながらも受け入れた。だが、メリーは別だといった瞬間から猛烈に反発した。

 しかも、魔羊を捨てるくらいなら自分も追い出せと全力で拒否した。

 その激しい拒絶に、司祭エイザムや聖騎士たちも困惑した。

 10歳の少女が家族だと縋るピンクの魔羊は、こっそりと騎士たちが捨てようとした――流石に殺すのは忍びないと判断されたのだ――が、豪快に蹴り飛ばされた。

 アシュリーの後には大人しくトコトコとついていくのに、他の人間が手綱を引くと無視した。力づくで引っ張ってもびくともしない。やがて無理やり人数に物を言わせて移動させようとすれば、蹄が唸った。そこで、アシュリーにばれた。

 アシュリーはすぐさま事態を把握すると、メリー号にひしっと抱き着いた。

 そして大声で泣き叫びながら、厳しい正論を全力で投げつけてきた。

 人の良い騎士たちの中でも、アシュリーと同じくらいの年齢の娘や妹のいる騎士たちは特にたじろいだ。

 アシュリーが可憐な顔立ちを悲しみに歪ませ、蜂蜜色の瞳を涙で濡らして激しく哀願する姿は心を抉る姿だった。

 わんわんと小さな少女らしかならぬ、教会中に響き渡りそうな大声で泣き叫ぶものだから、他の人たちも足を止めるし目に留まる。

 エイザムとしては、大人しい魔羊ならいいと思っている。だが、ここの管轄の枢機卿は非常に魔物嫌いなのだ。汚らしい、とメリーを少女の前で切り捨てかねない苛烈な人物であるため、メリーを内緒で逃がそうとしたのだ。

 しかも、アシュリーの激しく嫌がるその理由の一つが変態の夜這いが怖いというのだから、余計にアシュリーの意見に賛同したくなる。

 いやいや、と駄々こねるようにアシュリーは全力で拒絶した。

 うるさいと追い出されても、メリーとならばアシュリーは喜んで出ていくつもりだった。


「どうかなさいましたか? お嬢さん」


 メリーを離すものか、と頑なまでに抱きしめていたアシュリー。メリーはそんなアシュリーの気も知らずに、ごろりと寝そべったまま草を食んでいる。

 そんな中、若い男――少年位の声が降ってきた。

 そっと顔を上げれば、アシュリーと目を合わせるように膝を折り、かがんでいる。

 まばゆい白銀の髪に、朝の騒動を思い出しかけたが、その下にあるのは鮮やかな翡翠の瞳だった。優しいというより慈悲深いという言葉が似合いそうな、英知を宿す目は静かにアシュリーを見ていた。

 誰ぞこいつ、と思いながらも見つめ返す。

 膝をつけば地に着くほど長い銀色の髪は陽に輝いて煌めいている。形の良い卵型の輪郭の中には綺麗にパーツが収まっている。ほんのりたれ目気味の目元と、涼し気に通った鼻梁。やや薄い唇は穏やかな弧を描いている。非常に繊細な容貌だが、あのヴァンパイアのような妖しく怖気のするものではない。色白ではあるが血の通ったものだ。

 纏っているのは真っ白な法衣だ。金糸と銀糸を細かく刺繍し、襟や裾に幾何学模様を描いている。胸元に輝くネックレス。首には大きなオパールのような宝石をぶら下げている。


 いや、だれこいつ?


 頭にクエスチョンマークを乱舞させたアシュリーが「どこのどいつ様だろうか」と真剣に悩み始めた。

 そういえば、アシュリーにどうかしたか聞いていた気がする。


「メリーはわたしの家族なの。離れたくない。この子と居られないなら、わたし教会に保護されなくてもいいし、この町をでていったっていい。

 なのに、諦めろって。教会の人たちがメリーを捨てるっていうの」


「なるほど・・・その羊は少し珍しい色をしていますね」


「魔羊です。この色だから、群れから仔羊の時から追い出されてしまっていて、わたしが育てたの」


「確認ですが、人は襲わないのですよね?」


「もちろん。わたしやメリー自身に危害を加えなければ、大人しい子よ」


「わかりました。こちらの大司祭や枢機卿には私から話を通しておきましょう」


「・・・ほんとう? メリーは連れていかれない? わたし一人ぼっちじゃない?」


「ええ、お約束します。この虹の宝珠に誓って」


 お高そうなのは解るが、その乳白色の『虹の宝珠』とやらにどういう意味があるか分からない。だが、エイザムが真っ青な顔して狼狽しているので、この美少年はあの中年エイザム氏より高位の役職だろうということは理解できた。

 年齢はアシュリーより年上だが、十代半ばほどに見える。

 しかも平然と枢機卿とか出てきた。え? 超お偉いさん? アシュリーはぽろぽろといつの間にか自然と流れ出ていた涙をぬぐいながら、内心動揺していた。


「ありがとうございます」


「いえ、どうか良き日をお過ごしください」


 馴れた仕草で胸に手をやり、目を伏せて踵を返す法衣の少年。

 現実にいるのに別次元の存在のような、不思議な透明感と儚さを持ち合わせていた。

 それに付き従っていたらしいアシュリーと同じくらいの年頃のこれまた銀髪の少年が一瞬こちらに鋭い目を向けたものの、すぐに先を行く法衣の彼の背を追った。

 なんだ、今日は銀髪フィーバーの日なのだろうか。誰得なのだろうか。

 あとで聞いたら、あの超絶美少年は教皇なんだそうだ。


(やっべー流石乙女ゲームの時間軸。メインキャストじゃなくても流石の顔面偏差値。本編始まる前でも布石たっぷりや)


 アシュリーは内心冷や汗が止まらなかった。だが、何事もなく過ぎたので結果オーライにした。するしかなかった。

 なんでも、あの美少年教皇はアシュリーの拾った聖杯を調べに、他の枢機卿ともども超特急でやってきていたらしいと知り頭を抱える。アシュリーは思ったより大ごとになったと今更理解した。

 アシュリーはあれを浄化できそうであれば、純金製っぽい聖杯を叩き潰して売り飛ばす気満々だった。この世界でも黄金の価値は高い。

 翌日、教皇の御付きの少年がやってきた。戦々恐々としたなか、お願いされたのはメリーとの面会。少年がメリーの毛並みに顔面をうずめているのを見て「ああ、睨まれてたんじゃなくてメリーに興味があったのか」と納得したのであった。








「アシュリー・ゴーランド嬢――いえ、アシュリー様。

 貴女は聖女としての適性があります。あのヴァンパイアの魅了に打ち勝ったのも、その素養の一つでしょう。とはいえ、貴女は聖女としての力は持ち得ていないため、聖女として認定することはできません」


 おっしゃあおらー!!!


 言葉を選ぶように伝えた騎士に、アシュリーは「そうですか」と頷いた。

 現在アシュリー・ゴーランドはおっとりモード。

 内心では、力強いガッツポーズと勝訴のファンファーレが鳴り響いていたが、それは隠すアシュリー。

 YES冒険者、NO聖女。アシュリーは自由に生きたいお年頃なのだ。

 拳を振り上げて喜びを表現したいが、アシュリーは努めて本家『まほ恋』風の、純情・可憐・清楚を装う。『元祖ヒロイン』や『聖女アシュリー』のイメージをして、なるべく淑やかに、幼気にと。


「では、教会からでてもいいのですか? メリーと冒険者に戻れますか?」


「いえ、それはすぐには難しいかと。アシュリー様は強い光魔法や聖魔法の適性がありますので、そういった方は一通り教育をするのが慣例です。

 それにあのヴァンパイアが諦めたとは限りませんし、せめて自衛用に神官から手ほどきを受けてからでもよろしいのではないでしょうか?」


「そういうものは、その、ただで教えていただけるものなのですか?」


「ええ、アシュリー様はあのゴブレットの発見の第一功労者ですから。それに貴重な属性なのでぜひ研鑽してください」


「わあ、ありがとうございます! わたし魔法なんて使ったことないので、楽しみです!」


 聖騎士たちは、庶民といえど、客人として招かれているアシュリーに優しかった。

 呼び方が『ゴーランド嬢』から『アシュリー様』と変わっているのも、聖女の素質があったこともあるのだろう。

 聖者や聖女と認定される者たちは、その能力や実績をもとに司祭や大司祭から推薦され、枢機卿たちから審議にかけられ、最終的には教皇の認可が必要だ。

 ものすごく強引にやれば、教皇特権で一発通過も可能だ。

 本家アシュリーは、王侯貴族のご子息の特権大盤振る舞いのごり押しにより史上最短の聖女様誕生だったはずだ。

 にこにことアシュリーは愛想よく振舞うことにした。聖女候補という村娘にしては強い、否、強すぎる肩書を手に入れたにもかかわらず、よくわかっていない様にしていた。騎士や世話係についた女官たちにも少女らしい世間知らずさを装い質問を投げかけ、教会独自の生活スタイルにも合わせた。

 アシュリーのいる棟は、聖女候補が何人かいるようだった。

 ザルツにこんな大きな教会直轄の神殿があったのも知らなかったが、その中でも『聖女候補』になると貴族の子息にも似た生活ができているとアシュリーはすぐにわかった。

 騎士たちの護衛が付き、女官が身の回りの世話をしてくれる。

 出される服や食事も、かなり上等なものであったし、隣から聞こえる声を聴く限り、かなり我儘も通るようだった。

 アパートのように狭い部屋ではないものの、防音に優れているわけでもないこの建物。

 隣の聖女候補が若い女性で、毎日女官たちに「こんな髪型可愛くない!」だの「もっと可愛い服はないの!? ドレスは!?」だの「これは嫌いっていってるでしょ!?」とキィキィ怒鳴りつけているのを聞いている。

 どうやら、お隣の聖女候補さんは緊急でこちらにやってきている教皇に粉を掛けようと必死のようだ。

 まあ、ノーブル系かつ文句なしの美少年だったし憧れるのはただだろう。

 その罵声や怒声がびりびり響くたびに、対比でアシュリーの株が上がっている。ある意味とてもありがたい存在だ。

 アシュリーのいった我儘といえば、メリー同伴と毎日のメリーの毛刈りで出た羊毛を、グスタフさんに届けて欲しいというお願い。メリーの毛刈りそのものはアシュリー自らやっている。それに、外出許可が下りるまでだ。行けたら自分でやるつもりである。

 最近、アシュリー付きの女官や騎士は隣のヒステリックボイスがあんまりに酷い時、そっとアシュリーを図書館や庭に案内して避難させようとする程度に隣人の付け上がり方はすごい。


「もとはアシュリー様と大して変わらない辺境の村育ちの少女だそうですが、最近すっかり贅沢を覚えてあの通りに・・・・」


 大変ご愁傷さまでございます。

 アシュリーは言葉には出さないが「まあ」と呟き、おっとりと口元に手をやった。

 ちょっぴりアシュリー自身も貶された気がするが、目を瞑る。

 最近の隣人は教皇に全く相手にされないどころか、面会すら通らないらしい。最初、御目通りが叶ったときは有頂天だったが、今は焦燥感で毎日当たり散らしている。

 隣人は知っているか知らないかは分からないが、多分この生活態度も査定対象だと思っている。

 アシュリーは目立たず、奢らず、気配を消している。

 しばらく教会で過ごしているが、ヴァンパイアの襲撃もないし、周囲にもヴァンパイアによる被害の報告はないという。あのヴァンパイアも弱っていたので、恐らく拠点を移したのではないか、とエイザム司祭から報告を受けた。

 大人しく魔法の授業を受けて、神殿のお手伝いをしていた。

 アシュリーの年齢もあり、保護者へ連絡すべきかと考えたがアシュリーは拒否した。

 あのゲイルにその話がいったら、アシュリーを聖女にしたがるだろう。なにせ、聖女には補助金が家にも出る。実家がない場合、後見となる家に出るし、正式に聖女認定されればその付加価値は跳ねあがる。

 庶民には夢のような生活が約束されているようなものだ。だから、アシュリーは聖女になる気はない旨を伝え、でも素養があるのならば魔法の手ほどきを受けたいと願い出た形となったのだ。

 聖女を擁立すると、教会の派閥にも影響がある。聖女候補でも、将来性が見込まれれば争いに巻き込まれる可能性は少なくないだろう。

 力あるところに権謀術数とはどこでも出来上がるのだ。

 聖女候補であるが本人にやる気がなく、後見人もいない。そんなアシュリーは割と目こぼしされている。いい意味での放任だった。

 ただ、ヴァンパイアに目をつけられたということは教会として看過できないのだろう。定期的に報告を上げるように義務付けられた。また、あちらから接触してくる可能性もあるのだ。これって、なんてストーカー? アシュリーはげんなりした。人間にもいるように、ヴァンパイアにも偏食はいるとのこと。

YESロリショタNOタッチができないロリコンは滅べ。




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