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新スキルは唐突に?

ブクマ、評価ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ


アシュリーのどきどき冒険者生活編。

基本順応力が高い。本人あんまり自覚なし。


 新スキルは唐突に?




 アシュリー・ゴーランドは存在しているが、存在していない。

 アシュリーの中にはアシュリーではない、喪女が住み着いており、あのドラマチックな学園恋愛は存在しないのである。

 前向きで純情可憐なヒロインの代わりに誕生したのは、人間不信をこじらせかけた堅実な守銭奴ゴリラである。

 乙女ゲームのヒロインの皮を被った、物理系少女である。理知的という意味ではない。筋力的な意味で物理系な女子である。



「アシュリー・ゴーランドさん。本日の報酬です。

 水路のスライム退治の報酬と、草原のブラウンボア7匹討伐分です。

 この度Fランク任務を10回完遂しましたので、Eランク昇格いたします。

 これからソロならEランク、チームならDランク任務を受付可能です。もっと高ランクの依頼を希望の場合、そのランクに近い冒険者と組むといいですよ」


「あ、人信じられないので無理です。それだったらずっとメリーとEとFランク受けてた方がましです」


 ナイナイ、と顔の前で手を振る。その顔には微塵も躊躇いがない。

 心底要らない、と云わんばかりだ。


「アシュリーちゃあああん! なんでそんなに頑ななの!? 女の子が一人で冒険者って危ないよ!? アシュリーちゃん可愛いのに! すっごく可愛いのに! こんなに可愛いのにいい!? なんでそんなチームどころかペア組むのすら嫌がるのかな!? 臨時合同の依頼すら拒否するし・・・っ! 伝手作ろう!? おねーさんそういうのも大事だと思うな!?」



「お褒めに預かり光栄です。ララァさんにはお世話になってますけど、人間関係に疲れたんで暫く遠慮しておきます」


 ギルドの受付嬢ことララァは、冒険者の酸い甘いを知っている。

 喜劇悲劇こもごも。ビギナーの中には若くして命を落とすものも少なくない。

 特にソロ活動をしている子は、自分の力量を見誤りがちだ。そして、チームを組んでいないといざという時、応用も利かずに手詰まりになる。

 そうして名を消していく若者を幾度と見送ったララァは、目を掛けているアシュリーという少女をとても気にしていた。

 彼女が自分のドストライクゾーンを狙い打ったような容姿なのも理由の一つだ。


「アシュリーちゃん!」


「嫌です」


「・・・・ニッコリ笑顔でお姉ちゃんっていって?」


「おねーちゃん♡」


 駄目もとでいったら、愛らしく小首をかしげるというオプションとともに、胸の前で指を組んだアシュリーが笑顔でリクエストに応じた。

 すごく可愛い。

 あざといくらいに可愛い。

 あざとい、だがそこがいい。

 先ほどまで、討伐した魔物の買い取り額が低いとごねて暴れていた馬鹿冒険者たちを説得するのに多大な労力を割き、大変疲弊していたララァの五臓六腑に染み渡る可憐さだった。


「ぐはっ・・・・徹夜の疲れも吹き飛ぶわ・・・っ! ありがとうございます・・・っ」


「どういたしまして。明日もいい仕事期待してます」


 すぐにあざとい笑顔を消したアシュリーは、すぐにいつもの何を考えているかいまいち読めない真顔に戻った。

 礼儀正しいし真面目だし、仕事のとり方も堅実なアシュリーはララァの中で評価が高い。

 まだ駆け出しだが、妙なこだわりもなく着実に――淡々とし過ぎるほど仕事をこなすタイプだった。


「ドリンク奢ってくれれば『お姉さま』コース、ランチ奢ってくれれば全力でぶりっ子延長がオプションで付きますが」


「来週給料日だから、ツケとか」


 先日、とても素敵な薄紅のケープを買ってしまいカツカツのお財布事情。

 是非オプションを堪能したい、とデカデカと顔に書いてある状態でララァは身を乗り出して迫った。

 だが、半歩引いたアシュリーは王宮メイド顔負けの淑やかな身のこなしで、深々と一礼してララァから逃げる。


「ニコニコ一括現金払いのみ受け付けております。本日のご利用ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


「いやあああああ! アシュリーちゃああん! 癒しがあああ! 筋肉ダルマ塗れの職場の、数少ない癒しがあああ!」


 狂乱に近い悲鳴に、周囲の冒険者が「なんだなんだ」と顔を向けるが、必死の形相のララァとすたこらと去ろうとするアシュリーに「いつものことか」とすぐに姿勢を戻す。

 アシュリーがララァのお気に入りなことは周知の事実であり、時折アシュリーもララァの茶番に乗ずるのだ。

 それなりに仲の良い間柄といえる。





 最近、この町――ザルツにも慣れてきた。

 王都や隣国へ向かう直通の馬車も出ている為か、ロブソン村より全然発展している。

 ゼクセンブルク皇国は、現状穏やかな老皇帝を王として、安定した統治をしている。隣国との小競り合いもここ十数年ないほどだ。先帝はなかなか荒っぽい治世をしていたようだが、アシュリーの時代にはほぼ消えていた。生き字引と呼ばれる類の老人であれば当時を知っている者もいる。

 ちなみに、ゲーム知識ではあと数年内に老皇帝は崩御し、そのあとにフィリップ皇帝が王座に就くはずだ。そして、攻略対象である王子だの王太子だの貴族嫡男だのが、その新たな治世の中で頭角をあらわしたりしてくる――はずである。

 アシュリーは関わらないと決めている。

 だが、面倒なことは潰すに限ると考えているので、ヤバい問題になりそうなことはこそこそフラグを折りたたんでポイっとする予定だ。

 魔王降臨によるスタンピード連発など本当に勘弁してほしい。

 アシュリーはまだスタンピード――魔物の異常発生・大量発生等は遭遇したことはない。

 スタンピードは自然的に偶発的に起きることがほとんどだ。自然界の動物が、天候などの好条件が重なり大量発生するとか、周期的な問題とか。ただ、魔物の場合は魔素溜まりという、特定の場所に魔力が大きく溜まりこむことにより発生することもある。

 魔素は魔力の一種だが、無加工・野ざらし・ただそこにある魔力と云ったものだ。

 だが、それがなにかの拍子に動植物と結合して変質すれば厄介なことになる。それがわんさかあらわれればスタンピードのいっちょ上がり。

 しかもその手の魔物は、巨大・狂暴・突然変異が多いらしい。悪夢だ。

 魔素溜まりのできる要因の一つに、偶発的な要因以外に、土地の性質、討伐した魔物を大量放置だの、魔道具や呪具などの投棄や放置などがあげられる。

 そして、そう云った魔素――魔力の多い地域では稀少な薬草も多くとれる。

 当然魔物も強い。

 アシュリーがいくら強いとはいえ、ようやく最近Dランクになった少女だ。

 相棒メリーに無茶をさせてまで、危険を冒したいわけではない。

 だが。



「メリー・・・・どぉおおおーーーーーーーーーーーっしてもそっちがいいの?」


「め!」


「あのね、メリー。そっちは魔物が強い地域よ?」


「めえ!」


 いくの! とメリーが鬱蒼とした森に入ろうとしたがる。

 いつもの散歩コースであるボアを蹴散らしながらFランクの採取依頼は、ここ最近ずっと続けて飽きてしまったのだろうか。

 たまには狼も出るのだ――大抵、ボアを解体しているときに血の匂いにつられてやってくる。だが、メリーが好戦的に地を蹄で蹴りながらうろうろしていると、寄ってこない。

 アシュリー的にはグレイウルフの毛皮も少し興味がある。

 お値段的な意味で。


「・・・・メリー・・・ちょっとだけよ?」


「めえええ!」


 嬉しそうにするメリーに、ため息をつきながらついていくアシュリーだった。

 森に入っていき、暫くすると灌木がこんもりと開けた場所にたくさんあった。

 それを見つけると駆け寄るメリー。そして、そのオレンジの果実をバクバクと食べ始めた。食べながら「んめえめえ♪」と上機嫌に跳ねている。

 これが目的だったらしい。


「・・・美味しいのかしら。人間も食べれるもの?」


 試しに鑑定してみると『オレンジベリー。果肉は食用。甘くて美味だが、自然にしか生えない』と出てきた。毒性はないらしい。

 恐る恐る口に小さな一粒を入れると、口の中で潰れた果肉が濃い甘みと酸味を含んだ果汁をはじけさせた。爽やかな甘みがすっと鼻に抜け、美味しい。


「美味しい!」


 思わず顔をほころばせる。くしゃりと破顔したアシュリーは、また一粒と手を伸ばす。

 折角だから、いくつか持って帰ろう。柔らかい果実だから、袋より籠や瓶のような、ある程度固い容器がいい。

 そういえば、以前オレンジベリー採取の依頼をギルドで見たことある。確かに依頼したくなる美味しさだ。

 昔から貧しい生活で、甘いものが滅多に食べられなかったアシュリーにとってオレンジベリーは思いがけないご馳走だった。

 たくさんベリーの木はあるので、摘み歩きながら食べる。

 ご機嫌のアシュリーの耳に、小さな鳴き声が聞こえた。

 振りむくと、手のひらサイズよりちょっと大きいくらいの白い猿。スローロリスくらいの子猿がいた。成体か幼体かはしらないけれど、こちらをうかがっている。ベリーの生い茂る灌木から少し離れた木の上からこちらを眺めている。

 アシュリーはちらりと可愛らしい猿を見て――すぐに無視してベリー狩りを再開した。

 また鳴き声が――今度は少し近くから聞こえた。

 振りむくと少し降りて、アシュリーの目線くらいにいた。二匹に増えていた。

 だが、アシュリーは無視した。

 こちらに襲い掛かってきたら容赦はしないが、おそらく魔物であろう猿はいくら可愛かろうが愛玩しようなどと思わない。

 そして、その猿とアシュリーのだるまさんが転んだの様なやり取りは数度にわたる。

 アシュリーが振り向くたびに、猿は近づいている。静かに食べればいいものの、なぜか猿はキイキイ小さく伺うように声を上げるのだ。害はない。

 だが、鬱陶しいなとアシュリーが思い始めた。

 その時、アシュリーの上に影がかかり、劈くような咆哮があがった。


「キャシャアアグアアアアアア!!!」


「うるせええええええ!!!」


 楽しいベリータイムを邪魔されたアシュリーは、足元にあった小石とはいいがたい――人の頭ほどの大きさのある石を投げた。

 ちまちまと溜まったうっぷんが爆発した。

 鍛え上げられた投石スキルとアシュリーの脳筋という怪力補正スキルによって、加速度プラスは絶好調。豪速球であった。

 そしてアシュリーの頭上で大きく羽を広げ、今まさに襲い掛からんとしていた大型猛禽類の魔物ハイホーク――時には家畜の牛や羊すら攫う――は、あっけなく胴体を潰されて落下した。


 灌木の上に。



「めええ!」


 食事の邪魔!! と云わんばかりにメリーが蹴りあげ、追撃となった。

 胴体だけでなく、頭まで蹴り飛ばされておかしな方向へ曲がって陥没している。ついでに古木に叩きつけられて、ずるりと地面に落下した。


 ――スキル『憤怒』を手に入れた。


 ちゃらーん、とおおよそ聖女になるはずのヒロインらしからぬスキルに、アシュリーは微妙な気分になった。

 聖女になるつもりはないが、なんかこう、どうもやるせない感が漂う。

 アシュリーの手に入れたスキルは、どうしてこう――なんというか前衛的で攻撃的で、珍妙で――普通、これって女の子の持つべきスキルなの? と首をかしげるものが多いのだ。

 『憤怒』は怒りに応じて、攻撃力が上がるというヒーロー補正臭がぷんぷん漂う感じがする。

 ちなみに同じスキルをメリーも入手していた。

 お揃いだね、ハニー――遠い目で、アシュリーはから笑いをした。




 アシュリーは気づかない。堅実に行こうと石橋をたたき割る勢いで安全確認をし、やっぱり怖いから浮遊魔法でも使えばいいよね、とばかりに橋を頼らずわたるようなことばかりしているアシュリー。

 絶対自分にとって危険な魔物には近づかず、ザルツ周辺の魔物などすでにアシュリーのレベルでは物足りないものばかり。

 だが雑魚モンスターを狩って狩って狩りまくって、血祭の大感謝祭状態。挙句、称号に〇〇キラーと、頂くような殲滅っぷりだ。

 塵も積もればなんとやら。

 現に、今も大型猛禽類の魔物――このあたりでは珍しく、脅威ともいえるハイホークをほぼ投石のみで撃破したにもかかわらず、新しいスキルのおかげ程度にしか考えていない。

 というより、楽しい時間を邪魔されてむかっ腹の勢いで、ハイホークの襲撃などどうでもよくなった。しかも相手の強さが体感的になかったに等しいので、その魔物が世間一般の脅威としてどの程度かも確認しなかったのだ。

 妙なところで楽天的なのだ。








 アシュリーはお邪魔な鳥の襲撃を払いのけ、再びベリータイムを堪能している。

 先ほどまでだるまさんが転んだを繰り返していた白い小さな猿――ソニックモンキーという小型で俊敏の魔猿はすっかり安心してベリーを貪っている。

 ソニックモンキーは、おそらくずっとハイホークの襲撃を恐れていた。いつ上空から襲われるかと思えば、なかなかオレンジベリーに近づけなかったのだろう。

 だが、アシュリーとメリーによりあっさり撃破され、少なくともアシュリーは周囲をうろつく程度ではソニックモンキーを加害するつもりはないと判断できた。

 漸く安心してご馳走にありつけると分かり、ソニックモンキーはアシュリーとメリーの気に障らぬように距離を取りつつ、ベリーに手を伸ばしている。

 

「んーっ! 美味しかった! 籠一杯に収穫できたし、宿屋のおじさんに差し入れしたらデザートになるわよね! ジャムになるかな!? いや、ソースも捨てがたいなー! 鶏肉なんかとあいそう!」


 鶏肉、と云って思い出したのはハイホーク。

 アシュリーはこいつもギルドや素材屋で売り払えるんじゃね? と今更思い出した。

 何故かオレンジベリーの収穫にソニックモンキーたちが協力的だったのは、真相を知らぬアシュリーには謎だったが、邪魔をしないのであれば黙認した。

 周囲をちょこまかとするのは少し気に障ったが、妙ないたずらをするわけでもない。

 なんかぶん投げたくなるサイズしてるな、とアシュリーは小さな猿たちを眺める。

 愛らしさに目を細めるのではなく、うぜーなコイツラという目である。

 アシュリーの心は今日も干からびていた。愛情は相棒のメリーに極振りしているため、それ以外に回す余剰分など基本無い。

 だが、うぜーなコイツラよりも、ベリーやハイホークの今後のほうが重要であり、そうそうに危機を脱するソニックモンキーたちだった。





 どんと台に出された、明らかに息絶えた巨鳥。

 猛禽類独特の白と茶のコントラストと、鋭い眼光――は既に死んでいる為、かなり虚ろだ。

 首などありえない方向へねじ曲がり、胸の付近が大きく陥没している。

 だが、ギルドの受付嬢としてキャリアの長いララァは、その魔物を見間違えたりしない。


「ハイホーク!? 大型鳥獣・・・この魔物は基本、上空を旋回して獲物をとるとき以外あまり降りてこないんです。

 このあたりではかなり珍しい魔物ですが・・・アシュリーちゃん、どうやって倒したの?」


「石投げました」


「いし」


「食事中襲ってきたんで、ボディめがけてめしゃって」


「めしゃ」


 何かを投げるような動作をして、アシュリーはあっけらかんと答える。

 事実、大きな鳥の胸元は抉れている。明らかに外的要因で。


「そのあとメリーに蹴られて首が折れて、木に叩きつけられたんで、結構ボロッちい感じですが、引き取り大丈夫ですか?」


「ハイホークはその翼や羽根、嘴と爪が素材ですからね。買い取り額が高い部分はそれほど激しい損傷はないので、これならおおよそ銀貨20枚ですよ」


「まあ、素敵。もっと見つけたら絶対狩ってきますね」


 そういったアシュリーは笑顔で、頬は薔薇色に紅潮して可憐だ。

 だが、お金の匂いに関してはことさら敏感なアシュリー。最近、魔物狩りにはまっている。採取依頼より割が良いのが多いため、積極的だ。

 ララァはその愛らしさと、がめつさのギャップに「ん"ん”っ!」と悶えた。

 最初は、この可愛らしい少女がビギナー狩りの餌食にならないかと不安だったが、最近どちらかと云えば危険人物として認知されつつあるアシュリー・ゴーランド。

 だが、トラブルを起こしている話でもなく、寧ろ真面目な働きぶりだ。

 ギルドの常連たちも「アシュリーちゃんは悪い子じゃねーんだが、なんつーか敵に回したらヤベー気配がビンビンするんだよ」と口をそろえている。

 レベルとかランクではない。だが、直感を侮ってはいけないと彼らは知っている。







もしよろしければ評価、御感想いただければ幸いです。

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