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女子力より攻撃力

評価、ブクマ、御観想ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ

楽しく見させていただいております!

進みが遅くて申し訳ないですが、まったりとお付き合いできれば幸いです。


 女子力より攻撃力



「ツェルニオ、お前をアシュリーの指導係を任せる」


「え、俺? ・・・面白そうだからいいけど、寧ろアレク兄様はよくアシュリーを俺に預けようなんて思いましたね」


「問題児を別々にするより、まとめた方が早い。それに、あれはお前との戦闘スタイルとも相性がいいだろう。

 それに水や聖魔法も使えるから、叩きこめ――とにかく詰め込め。あれは学習意欲が高い。貪欲だ。徹底的に根を上げるまで詰めろ」


 アレクシスは蜜色の目を冷ややかに細めた。端正な顔立ちは理知的に整っており、少しの表情の差でずっと酷薄そうに見える。

 それは指揮官の目をしていた。アシュリーというまだあどけなさの残る少女に、戦力価値を見出している。アレクシスがアシュリーに目を掛けていることは知っていたが、ここまではっきり告げるとは思わなかったツェルニオは、同じ色の目を小さく見張る。

 確かに粗削りだが剣術の筋は良い。騎獣は羊だが、その騎乗の腕前はなかなかのものだった。そして何より、あの怯まぬ気概が何よりの強みだろう。

 というより、この前アシュリーとフリューゲルのデート(という名の魔物討伐)についていったら、恐ろしい勢いで蹴散らしていた。あのメリーとかいう魔羊もとんでもない強さだった。蹴りを喰らったレッドボアが空中を舞うのを見た。


「アシュリーは聖下より武器を賜ることとなった。

 ただの魔道具ならいいが、聖遺物や祝福を受けた道具だった場合、アシュリーは間違いなく今後聖騎士としての将来を嘱望される」


「だが、そう云ったものは使い手を選ぶのが常套だろう。こういっちゃなんだが、ちょっとお転婆な田舎娘が選ばれると思うのですか?」


「あれは聖や光といった魔法の適性がすでにある・・・しかも、祝福をすでに持っている。

 おまけにあれは妙に引きが強いというか、本人は事なかれ主義の傾向があるのに、妙にトラブルに巻き込まれる節があるからな」


「あれはあいつの負けん気の強さも原因じゃないのか?

 本人気づいているかわかりませんけど、相当の負けず嫌いですよ。滅茶苦茶気が強いですよ? 冒険者ギルドや酒場で絡まれたりしたら、自分の三倍くらいの大きさの相手でも怒鳴り散らしてやり返す根性は買いますが、あの性格は・・・」


「・・・メリグ相手にはそれほど噛みついていなかったがな」


「一応相手は選んでいるってこと・・・でしょうか」


 アレクシスとツェルニオは「うーん」と互いに腕を組んで悩んだ。

 根性があるのは認めるし、それなりに分別がある。メリグ相手に相当イライラしていても、儀式中は暴れださなかった程度の自重はできている。

 だが、ツェルニオはその自重を魔物狩りの最中はどっかに放り投げて絶好調に攻撃性を前面に押し出している姿を知っている。

 妖精の皮を被った首狩り族である。かなりガワが分厚く丁寧に作られているから、街中ではそんな狂暴な人間だとは気づかない素敵なガワである。


「あれを冒険者から引き抜く際、色々教えると約束したからな。

 教会でどの程度の教養ができているか見たが、王都に行かせて問題なさそうだ」


「・・・・まさかアシュリーを爺様に扱かせるつもりですか? アシュリーはまだ10歳ですよ? いくらしっかりしているとはいえ、庶民の少女にはいささか・・・」


「だからお前を付かせる。折れない程度に支えてやれ。そもそもお爺様がアシュリーを気に留めるかも分からないからな。

 目を掛けてもらえないようだったら、上級貴族や王族に仕えて差し支えない教養をつけさせるために適当な講師を雇えばいい」


 そのあたりは賭けなのだろう。

 アレクシスとツェルニオの祖父に当たるアルビニオン前侯爵は、譜代家臣の鏡といえる忠臣だ。そして勇猛果敢であり、幾度となく他国や魔物の侵略からゼクセンブルクを守り通してきた武人でもある。現在でもその信頼は厚く、陛下から彼の覚えが目出度い。民からの人気も高い英傑の一人であった。

 だが、アレクシスやツェルニオにとっては鬼岩のような巨漢の祖父は、それはそれは恐ろしい人物でもあった。

 彼の息子・孫であれば一度は手合わせをしたことある。だが、その圧倒的な存在感と武力の前に完膚なきまでに叩きのめされ、時には一生無くならない傷を負ったものもいる。主に心とか精神的な面で。身体的には無傷でも、心はズッタボロにされ恐怖で委縮しまくり、先端恐怖症や男性恐怖症になったものもいる。

 それだけ恐ろしいのだ。

 しかし、才能を見出された者の中には王宮騎士や、王族側近の近衛を担っている者も多い。それ以外だと、国境や主要な要塞などで重役を賜っている者も少なくない。それは貴族だけでなく、庶民から成りあがった者もいるのだ。

 だが、力を振るうには覚悟が必要だ。

 剣を向けるなら、剣を向けられる覚悟を。

 今後、アシュリーが戦場に立ち続けるのならば、けして避けられない道だ。

 それは誰もが通る道であり、時に一生の葛藤となり付き纏う。少女といっていいアシュリーにそんな現実を叩きつけるのは酷ではあるが、必要な事でもある。










 アシュリーは金色の瞳に霜を降らせたような冷ややかさで、目の前で存在を主張する『ソレ』を視界に入れた。

 全力で無視をしたいのだが『ソレ』は部屋に入るなりすぐにアシュリーの前に現れた。

 どごん、と重量を主張するように音を立てて落ちてきた。足元に。アシュリーの足元に「さあ、拾え! 拾うんだ!!」といわんばかりに。

 アシュリーがそれを無視して、寧ろ避けて触れないように遠回りして別のものを物色しようとしたら、またゴトリと音を立てて近くに落ちてきた。

 一応、アシュリーはユーウェルツェーリ聖下に、先日の儀式の功労者として武器を下賜されることとなったのだ。

 だが、先ほどから『ソレ』は全力で存在主張してくる。

 アシュリーがガン無視して冷たい態度をとっても「ねえねえねえ!」といわんばかりにあっちへゴトゴトこっちへドコドコと。

 しかし、禍々しいどころかそのブツは神々しい程の白銀に輝いている。なんてことだ、とアレクシスは頭痛が止まらないような苦り切った表情である。アシュリーは胡乱な眼差しがとまらず、心底うざそうな顔をしている。


「・・・・・・恐れながら聖下、お聞きしてよろしいでしょうか」


「ええ、どうぞ」


「もしや、わたしは『コレ』を引き取らせるために呼ばれたのでしょうか?」


 聖下がいた時点でちょっと首をかしげたのだ。

 一応、名目は好きなものを頂いていいはずだった。この部屋の道具であれば、という話で。

 念のためアレクシスもついてきたが、彼もユーウェルツェーリがいた時点で、かなり驚いていた。アシュリーが欲しがったものが教会でも貴重品とされる聖物だったら最高指導者であり教皇である彼の許可が必要である。

 先ほどからアシュリーの近くで「とれー、とらんかいワレー」とバイブレーションの自己主張の激しいブツ。これは明らかに普通の武器ではない。勝手に移動するし、ガタガタ現在進行形で震えている。普通にうるさい。挙句、チッカンチッカンと煩わしい点滅まで初めて、視界にもうるさくなってきた。


「そうともいいますね」


 困ったように笑う聖下は今日も絶好調に麗しい。

 悪戯っ子のように笑う姿は、アシュリーが真っ当な少女だったらときめきを覚えたかもしれないが、アシュリーから漏れたのは嬌声ではなく「チィッ」という、ゴロツキも真っ青な舌打ちだった。


「アシュリー・ゴーランド。聖下の御前でその態度は止めなさい」


「前提条件が違います。好きな武器を選んでいいと云われたのに、先ほどからこの目にも耳にも煩いこと極まりないこのデカブツ!! これを引き取らせることが目的だったなんて!」


「聖戦斧シャルウルです。アシュリー、どうやらこの前の儀式で貴女をすっかり気に入ってしまったようで・・・・」


「あの錘か!!! 聖下! こんな重そうなデカブツをか弱い少女に持てというのですか! あんまりですわ! とても邪魔です!」


「最後が本音だろう、アシュリー・ゴーランド」


 憤慨するアシュリーの頭を押さえながら、アレクシスはお怒りモードである。

 いくら陛下が穏やかな方であれ、教会の最高位であるお方に、アシュリーの態度はよろしくない。だが、困ったことにそのやんごとなきお方は、アシュリーの反応を面白がっているのだ。

 アシュリーは渋々と怒り顔をむいむいと手で無理やりもみほぐし、聖下に向き直る。

 彼女なりに不満を無理やり納得させたらしい。


「夜な夜なうろついて、貴女の部屋の前に鎮座するので、いい加減教会側としても隠しようがなくなってきてしまい・・・

 封印を施したのですが、何度も強行突破されてしまいまして」


 眉を下げて繊細な美貌を申し訳なさそうにするユーウェルツェーリ。

 なにそれ、完全にストーカーじゃないか、この武器。というより戦斧。

 どうやら、儀式の際に聖杯回収のためにとアシュリーがうっかり重り代わりに使ったことから、アシュリーに目を付けたらしいこの武器。

 一応、聖下としても少女にこんな厳つい武器を押し付けるのは気が引けたようだが、戻そうが隠そうが、封印しようが不屈の精神のごときガッツを見せてくるらしい。

 アシュリーの知らないところでそんな攻防があったとは。


「そのうち、アシュリーの夢枕に立ちそうでしたので」


「普通に怖いです」


「レディの寝室を強行突破しないだけの慎みは持ち合わせていましたが、いい加減この聖戦斧はここ数百年使い手がおらず、焦れていたのでしょう。

 できれば貴女の意思で選んでくれればよかったのですが・・・」


「この斧、わたしに選ばせる気がないですよね」


「説得は試みましたが、見ての通りですね」


「拒否権は?」


「ありません。恐らく、放置すれば貴女の寝台にまで侵入し、メリーの背中に勝手に乗るようになるかと思います」


 質が悪い。

 完全に押し売りである。

 アシュリーが半眼で白銀の輝きを放つ『ソレ』をみる。

 柄には繊細なレリーフが施され、長さがアシュリーの身長の三分の二はある。上部には同じくらいの長さの刃が入っているだろうなだらかな弧を描いた鞘がある。銀杏の葉を二つ付けたような形の巨大な刃。鞘から外すと、うっすらと濡れたような輝きを放つ白銀があった。左右の刃を止める場所には大きな虹色の玉があり、その周りには緻密な彫刻が施されている。明らかに武器の形をしているのに、芸術作品のような優美さがある。


「どうせなら、杖かナイフがよかったのに。あとダメ元で大容量マジックバッグ・・・こんなに大きいのをどうやって手入れするの? 重そうだし」


「その斧――シャルウルは魔を帯びたもので研がれると云われます。

 魔物も悪魔でも切り刻み、それを糧に強靭さと破壊力を増す。時に神すら切り伏せると云われる伝説的武具ですよ」


 一歩間違えば呪いの武器みたいな手入れ法である。

 ようは魔物をぶった切れば手入れ不要という便利仕様だが、物騒極まりない手入れ法だ。とても魅力的な手入れ方法だとは思うが。


「それをおいそれと渡していいのですか? 小娘に」


「聖戦斧シャルウルが選んだというのであれば、それが運命なのでしょう。

 神が魔を祓うものを御導きになられたということです。ならば、その者に譲り渡すのも、我らが役目。天命の前に、貴賤も老いも若きも関係ないのです――力あるものが選んだ結果を受け入れる。それだけです」


 それだけ、を今までどれだけの聖職者たちが実行できたのだろうか。

 静かに目を伏せ、首から下げた虹色の玉石に触れる聖下。いくら世俗を捨てたと口にしても、欲望に負けて堕落する聖職者はいつの時代もいるものだ。もちろん高潔な人もいるが、すべてがそうとは云えないのが巨大な組織というものだ。

 神の名のもとに、といって腐心する聖職者は後を絶たない。神の名を口にし続けるうちに、己も神に近づいたと錯覚する愚者もいる。

 アシュリーはぴかぴか煩く輝く斧を一瞥する。

 選べる武器は任意という話だったが、実質決定済みだった。とても悲しい。

 非常にがっかりしているアシュリーが、本当に、本当に嫌々といわんばかりにシャルウルに手を伸ばす。その様子を見て苦笑するユーウェルツェーリとアレクシス。聖なる武器を与えられたというのに、全く嬉しくなさそうなアシュリーのその顔。

 最初は部屋に到着する前の大人しくついてきながらも楽しみで仕方ないとウズウズしていた期待が、その表情に満ちていた。その落差を知るだけに、可哀想だった。


「アシュリー、がっかりさせて申し訳ありません。なんでしたら、もう一つ選んでいいですよ」


「聖下、一生ついていきます!!!」


 アシュリーは選びに選んで、うっかり紛れていたミミックを7つほど破壊した後に、部屋の隅っこからお目当てのマジックバッグを見つけ出した。

 ほかにもミミック未満やら、曰く付きそうな物があったがアシュリーの『悪意を感じるブツは絶対殺すor壊すガール』っぷりに怯えて途中からは気配を殺していた。一部、気配を隠し切れずにブルブルカタカタ恐怖におびえていたのは、そっとアレクシスが浄化をしていた。ユーウェルツェーリは聖騎士に守られるように、一歩下がったところでニコニコとしながらお宝探しに夢中になるアシュリーを眺めていた。

 ちなみに、アシュリーが見つけ出したマジックバックも半分魔物化していたのだが、アシュリーが思い切り床に三度ほど叩きつけて大人しくさせ、アレクシスに浄化してもらって普通に利用できるようになった。

 魔物を殺すほどの剛腕投石を放つアシュリーの腕から繰り出される叩きつけにより、若干床が損傷したが不問になった。

 聖下の警備にあたっていた聖騎士は、アシュリーのワイルドなバッグ矯正術にちょっと引いていた。一人混じっていた見習い聖騎士は、憧れの美少女の大変アレな生態に、初恋が盛大にブロークンしたらしく泣いていた。






「やったー! 大容量のマジックバッグですよ! 嬉しいですー!」


「よく魔物化していたものを持つ気になるな」


「使えりゃいいんです! 使えれば!」


 潔い。そして真理だ。

 周りの騎士たちが軽く引いているし、青ざめているがアシュリーは全く気にせずマジックバッグを嬉しそうに掲げてくるくる回っている。

 それに合わせてストロベリーブロンドの豊かな髪が揺れている。アシュリーは基本ひとまとめにするくらいだが、時折女官がわざわざアシュリーの髪を巻いている。今日もたまたまその日であり、ピンクドリルがふわふわはねている。

 珍しいくらいの艶やかで鮮やかな薄桃色の髪は、女官自慢の美髪である。女官は4人も息子がいるが、娘はいなかった。そして、その隠れた欲望を滅茶苦茶アシュリーにぶつけている。平和的な発散方法だ。

 アシュリーは聖女見習いから外れつつあるが、聖下の覚え目出度い。行儀や作法を習わせるためにも、最低限は女官をつけているのだ。

 女官選定には裏で熾烈な争いがあったそうだが、それは別の話である。


「これでやっと西の麓のロックゴーレムを皆殺・・こほん! 討伐できるわ!」


「・・・・・ほどほどにな」



 やっぱりこのゴリラ娘ならお爺様相手でも大丈夫だろう。

 この斧の性能も試したいわー、なんて鼻歌を歌いながらすでに片手でブンブン振り回している。普通に風圧が怖い。しかも書類が余波で飛ぶ。邪魔だと執務室からたたきだした。

 翌日、ツェルニオが真っ青な顔で「アシュリーがやべえ武器を手に入れてきた!!」と駆けこんでくることとなるのだが、アレクシスはそれもたたき出すのであった。




読んでいただきありがとうございます。

ブクマ、評価、ご感想、誤字指摘その他ございましたら下からよろしくおねがいします。

できるだけ早めに対応いたしますが、機能に人間が追い付かない現実(;^ω^)


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