とあコン!〜とあるコンビニの一日。
ピコンピコン。
独特の入店音と共に、私はコンビニに入る。否、侵入するといったほうが適当か。
頬に刺さるような風が柔らかくなり、撫でるような温風が出迎える。
あからさまな空気の違い。心臓がとくん、と鼓動を早める。
怪しまれないように、自然な動作で周りをきょろきょろ。店員は……いない。他の客も……いない。監視カメラは……赤いランプがついてないから、回っていない。トイレは……閉まっている。
先輩が言っていた通りだった。まぁ、こんなことを繰り返しているんだから、知り尽くしていても別に不思議ではない。それでも、これはあからさまに盗んでくれと言ってるような警備のゆるさ。いくら田舎のコンビニで、人が滅多に来ないからとはいえ、これは不用心すぎるだろう。
まぁ、そんなことはどうでもいいんだけど。
先輩が指定した品物は、大胆にも『わさチキン』。最近新しく発売されたポテトチップスだ。まったく。『チワワチョコ』ならバレないだろうに。なんて面倒なものをお使いに頼むのだろう。しかも無銭だし。
でも人もいないし。
さっさと収穫して帰ろう。
そうやって私は、二列目のポテトチップスの棚から、『わさチキン』を取り出す。そしてそれを手に持ってゆっくりと出口へ。鼓動は早まる。でも足まで早める必要はない。
ざらりとした足裏の感触。泥除け、水よけのマット。はい、完了っと。ほんじゃ、鞄の中に入れてダッシュをしy「はいストーップ」はぁ?
後ろを振り返る。
うわっ。
なんでこのタイミングで。
店員が、いた。
緑と青の、なんかセンスの悪そうなコンビニ制服。ネームプレートには、『てんちょー』と記されている。何こいつ。ひらがなとか超ダサいんですけど。ていうか、どこから現れたの。
「あのさー。一応ここコンビニだから商品買うなら金払ってから行ってくんなーい?」そんなフランクな感じで止めるな雰囲気おかしい。
「え、すみません、人が居なかったもんでここ無銭コンビニかなぁと」そして私もなんて言い訳してんの?アホなの?しぬの?
「なわけないでしょー。とりあえず万引き発見ねー。ちょっと来てもらおうか?」「あーれー」
今私は、すごいダサい捕まり方をした気がする。そのままずざざざーっと、首根っこ掴まれて引っ張られていく。抵抗?無理でした。なんか身体、動かないし。ゴメン先輩。あとでこの分の弁償は……したくねぇや。
***
「おそいぞイオリー」
遅れてきた下僕ええと……何番だったかな、40番ぐらい?の下級生、イオリに、リナは声をかけてみるの。
全く、どこで油売ってたのかしら。もう1時間半も経ってるし。
暇すぎてリナ、21番の子のクソダサカラオケ動画を流して犯人当てゲームしてたよ。いやぁ、潰し合いを上から眺めるのは楽しいねぇ。15番と17番に罪をなすりつけたらお互いに潰し合い始めてたし。いやぁ、友情ってのはカルイナァ。
「ゴメンナサイ先輩。運悪く店長に捕まってしまって」「あん?」どこまでドジなのこの子。おかげでリナ、素が出ちゃったじゃない。てへっ☆
「いや、で、でもちゃんと戦利品手に入れましたから!」
たしかに鞄からその子は『わさチキン』を取り出した。ふむふむ。って何で?
「なんで捕まったのに手に入れてるの?」
「まさかカラダ売ってたとか?」
マキナが割り込んでくる。2番だからってこの子も大概だなぁ。発想が貧困すぎるってか、水商売かよ。流石にエロ写メで脅して中年リーマンから金を巻き上げるど畜生は思考も畜生だねぇ。
「いや……流石にそれはないですってせんぱぁい。セクハラかましてきたんで音声取って逆に脅しただけですよ〜」
うわぁ。40番も2番と同類だった。リナ軽くドン引き。鈍臭いから弄りがいあるかなーって引き込んだけど、なかなかやるじゃない。見習いたくはないけど。まぁいいや。
「はいクエストクリアねー。というわけでその『わさチキン』は没収ねぇ…………というわけで寄越せ下僕」
40番の女の子は驚きもせずに素直にこちらに渡しに来る。珍しいのね。クエストでは、『万引きする』だけなのに、それを寄越せと言われたら普通「え?」とか反応あってもいいと思うんだけどなー。聞き分け良すぎ。
そんなに弱みを握られてるのが怖い?
「えっとその前に」「なにー?リナにもう一つぷれぜんつしちゃう系?」焦らすな。さっさと寄越せよ。
「実は」「これ」「あそこで」「────ガァファッ!ゲフォッ!ゲブォ!グヘェッ!イタァイ!アアアア──ッ!!!!」
胸に何か嫌なものが入ってきて、かき回された。熱い。アツイ。熱い。イタイ。思わず胸を見る。切れ目は……ない。そのかわり、リナは地面に手をついて、口から血を吐き散らす。何なの、これ。40番のし、わ、ざ、か……でも、なんで?なにが起きてるの?
「あぁ──いい切れ味だねぇ」「ベブァッ!」
踏みつけられた。
踏みつけられた。
踏みつけられた。
格下だと思っていた40番に。あのクソ陰気な女に。このリナが。しかもニタニタ笑っちゃってさ。顔が見えないのになんでわかるかって?経験則。こういうのはだいたいまぁキチキチなやつしかいないわ。
あー選定ミス。
やべーの引っこ抜いてきたわ。
ていうか顔面いたい。ていうかボーッとボーッと生きてんじゃねえよ。突っ立ってる暇あんなら助けろマキナ。それだから2番呼ばわりされ
「ひぇっ……」
マキナは、立ったまま絶命していた。瞳孔が、開きっぱなし。ホラーすぎる。こちらも、傷なし。はたから見たら、棒立ちしてるだけ。
初めて、コイツが怖くなった。
背筋をゾゾゾ……と駆け抜ける寒気。ガタガタと歯が震えだす。顔から血の気が引いていくのを感じる。リアル生命の危機。
十分くらい前までは、ただの従順な下僕だったのに。
三分くらい前までなら、ただ歯向かってきた小癪なやつで済んだのに。
なんなの。
こわい。こわい。こわい。
なんなのこの子。
ヤバいとかキチキチとかそんな次元じゃない……っ!だれか!だれか!
「だれか!リナを助けて!助けてっ!やだよぉ!しにたくない!しにたくない!い、いやっ!ごめんって!悪かったって!だからやめて、やめて!やめて……や、め、て、やめて……こわい!こわい!ぐすっ……ぐすっ……リナしにたくない!だれかぁ……!」
リナがね、最後にみたのはね、、、悪魔の顔だったよ。
***
あっさり死んだ。
なんか死んだ。
あっけなく死んだ。
「つまんねぇの」
1番と2番。
朝名莉奈と栗栖眞姫那。
その二人を文字通り死体に変えた。でも全然、達成感とか、やったぞオレ!感は全くない。あっさりと、予定通りに死にやがったせいだな。全く。
わさびも混じってないチキンはただのチキンの味しかしないっつーの。つまらない。もっとスパイスィなものを堪能したいのに。
こう、もうちょっと弄りがいあると助かるんだけどなぁ。
たかが内臓弄られただけであんなに叫ぶとか思わなかったし。みっともね。マキナに至っては秒で死んだし。出力強すぎたのが逆効果だったかな。
ふぅ。それにしても意外にバレないもんだな。イオリ、だっけ?このボクがカラダ借りてるJK。ま、カースト上位の人間が下々なんていちいち気にするわけないかー。
そんなんだからこういう時にあっさりやられるんだよ。全く、会話で意識を引いて不意打ちって戦闘のセオリー通りだぞ?学校で習わなかったのかな?いや、今は鉄拳の時代じゃないか。体罰で即逮捕されるし。学校は監視カメラの巣だし。習うわけないか。
それにしても。
ボクはポケットから、一本の棒を取り出す。それはシャープペンシルにも見えるし、万年筆にも見える。
でもこれは文字を書く道具じゃない。
『マイクロウェーブカッター』
略してM.W.C。マッドな兄様が開発した、医療器具。本来なら、外科手術とかで、皮膚に傷をつけることなく、腫瘍とかいらないもんスパーンって切り落とす、そんな道具。
まぁ基本的にボクもイカれポンチなので、教科書どおりの使い方とかしないしない。
ボクの使い方は単純。
きらーいなヤツの懐をいじくりまわして、ぬっころす。グロダメなんだよねー。でもホラーは大好物。ついでに復讐ものも大好き。
M.W.Cなら、ボクの望みを全て、叶えてくれる。
いやー、コンビニ店長に就任して、わざと万引きさせやすい環境作って正解だったわー。いやぁ釣れる釣れる。
これで五匹目かぁ。
一回目は即死だったし。二回目はタコ殴りにされて相打ちだし。三、四回目はインフル移されて死にかけたし。ようやく軌道に乗ってきたって感じかな。
さーて、帰るとしますか。
この二人、どうしょっかなー。
リナは結構汚い死に方したからとりあえずミキサーにかけてツバメの餌にでもしてやろう。
マキナは、うん。いい死体。綺麗だし、ツヤあるし。これは帰って防腐剤かけて自動機構組み込んで通わせよう。マッドな兄様に頼んで解決解決ぅ〜!
えーと、あとイオリはどうしよう。
あ、そうだ。
どーせこんな陰気JKだったら他の陰気JKも釣れるはずだから、チャットでもして他の陰気JKも釣って人体実験につーかおっと。今日まで人体用品として使ってたライトくんはかっこいい系男子だったけど、アレもそろそろガタがきてるしなー。よしよし処分処分。
そんでもってボクは笑顔で改装工事中の校舎からマキナ入りメインバッグを肩にかけて帰りましたとさ。
今日も世界は平和でぇす!
わさチキンうめぇ!さいっこう!ヒャフウィ!!!!




