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私の従僕   作者: トール
 閑話 2
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隠れていいのなら 2



「ほうらったんれすれぇ~。へも、はらひかつれたらのはふえひへのは?」


 なんて?


 日用品の買い出しに学生街へやってきた。


 やらかした主従をベレッタさんが警戒して、買い出しを任されることになったのだが……。


「これ、おいしーですよー?」


 リアディスさんがついてきた。


 女性用の買い物を俺がするわけにはいかないとの理由だが、しかし本当のところは監視役だろう。


 されているようには見えないが。


 いつも通り紺色のメイド服を身につけたリアディスさんが、クレープという食べ掛けの菓子を俺へと突き出している。さすがに荷物を持たせるわけにはいかないからと、従僕の両手は塞がっているのに。


 そのまま噛みつけとでも?


「私には過ぎた物です。リアディス様がお召し上がりください」


「えー? でもこれ買い出しのお金から買ってるんですよねー。死なばもろともしませんかー?」


 嫌です。ふざけんな。


 ジリジリと後退った分だけ詰めてくるリアディスさん。この人のどういうところにお嬢様が共感を得ているのか、今なら少しはわかる。


 くそ餓鬼成分だ。



 買い出しに出て、粗方の品物は買えたのだが雨に降られてしまい、荷物が濡れないようにと雨宿りすることになった。丁度よく喫茶店の軒下を借りれたのだが、「せっかくの喫茶店ですからー、お礼の意味も込めて何か買ってきますねー?」なんてリアディスさんが言い出した。


 ならちゃんと席を借りればいいのに何故か、私は従僕なのでここで待ってますと言えば、じゃあわたしもそうしますー、と返された。


 こうして雨を眺めながらリアディスさんと待つ構図が完成した。


 ……のは、別に構わないのだが。


「暇ですー」


 なんて菓子を食べながら貴族様が呟かれるものだから、早く雨が止んでくれと祈らずにはいられなかった。


 その上。


「……そういえば、従僕さんはお嬢様相手にー、いつも不思議な話をされているのだとかー?」


 と、遠回しな催促をされては従僕に否はなかった。


 しかしこれにお嬢様と同じような苦労を負わされては堪らないと、話の方向性を変えてみた。実際にあったこと、しかも自分が絡んでいたことなら既に知っている事実もあるだろうから、直ぐに飽きるだろうと思ってだ。


 何が面白かったのか……。


 予想に反してリアディスさんは話を最後まで興味深そうに聞かれていた。お嬢様が何を考えていたのかはわからなかったので、従僕の視点での話だ。


 話に参加する形で、その時に思ったことや考えていたことを言っては楽しそうにされていた。


 ドーナツやらアイスクリームやら手に持っている種類が話の進行につれて変わっていったが。



 やけにお金を持ってきてるなあ、とは思っていたが。


 まるで(つるぎ)のようにクレープを差し出すリアディスさん。笑顔だ。きっと善意なんだろう。後退るのも限界で、屋根がもうない。荷物を濡らすわけにもいかない。


「いやー、あの時は怖かったですー」


 いや私怨だ。


「ふふふふふ。わたしの至福の時間を邪魔したんですからー? それ相応の報いを受けて頂きませんと?」


「あの後、私だけ鞭を頂いたのですが?」


「またまたー」


 いや本当に。


 食べたら弱みを握られることになる。主犯じゃないのに。食べたのが貴族と平民で、それが罪であるというのなら、受けるべき罰は平民が請け負うことになる。


 絶対にわかっててやっている。


 それならば。


「それは失礼をしました。怖かった時の話など聞きたいものではありません。代わりと言ってはなんなのですが……お嬢様と共にした面白い話なんかどうでしょう?」


「おやー?」


 延命を試みる。


 これにリアディスさんはクレープをクルクルと迷うように回していたが、やがて結論が出たのかパクリ。クレープを口にしているので、視線で『話せ』と促される。


「それでは――」


 ポツポツと、なるべく長くなるように語りながら雨が止まないかと、何者かがおわすと伝えられる空を見上げた。


 勘弁していただけませんかね?



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