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私の従僕   作者: トール
 第二章 従僕とお店を立て直す
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従僕72



 トライデントで、ある噂話が持ち上がっていた。


 それは、突如として天を衝いた紫の光の柱に起因している。


 巨大な、森一つを飲み込んでしまった光の柱は、なんらかの魔術かもしくは天災か、などと噂が噂を呼んでいる状態で、その真偽の程は解明に至っていない。


 だからなのか。


 知的好奇心なのか探求心なのか、あるいはただ興味深かったからという理由なのか、真相を究明せんとする生徒が一定数いた。そんな生徒が集めた証言にはなんと、柱の中、つまり状況当時の森にいた生徒の発言もあった。


 今最も学園で噂を集めていたクラスだ。


 初回の学園外学習ということで、引率に上級生のクラスも混じっていたため、一年生だけの証言に留まらずその信頼性は増した。


 それは、しかしより混迷の度合いを深める結果となってしまった。


 こんな会話が幾つも生まれたために。


「だから! 手に持ってた枝が消えたんだよ! 何度も言わせんな!」


「つまり、消滅か転移? ……いやお前、そりゃいくらなんでも……」


「伝説級あるいは神話級の魔術だな。つか、消滅系統なら攻性魔術じゃん。なんでこいつ生きてんの?」


「森に影響なかったしなぁ……。目が眩んだとか? 見間違いじゃないのか」


「ホントだって! 疑うんならトトロア先輩も一緒だったから訊いてこいよ!」


「いや、うーん……。でもなあ。……なあ?」


「まあな。枝はともかく、服に付いてた返り血や泥なんか汚れまで落ちたって言うのは、あれだ。盛り過ぎ」


「ホントなんだ!」


 そんな信憑性のない、しかし嘘じゃないという謎が謎を呼ぶ事態になっていた。


 攻性魔術の中には、当人に影響を及ぼさないものも、確かにある。しかしそれは高等な魔術に含まれている安全装置のような役割で、複数の対象を広範囲に指定できるものではない。しかも別の物体を介した場合の影響について無効だったりする。完璧ではないのだ。


 光の柱を外から見た生徒には、その威容は禍々しく映り、森に呪いを掛けているようにしか見えなかった。中にいた生徒には、光の柱と認識出来ず、突然辺りが紫に包まれたという印象であった。


 雨が迫ってくるように紫の光を浴びたため、逃げることも出来なかった。


 しかしいざ包まれてみれば、おかしなことに目が眩むこともなく周りをハッキリと認識出来たという。だから服についた汚れや舞い上がる砂埃が消えていくこともハッキリとわかった。


 これに敏い生徒が「幻、もしくはそういう風に錯覚させる魔術なのでは?」という意見を出したことで、より状況がわからなくなった。


 確かにあった。しかしそれが本当に現実だったのか?


 その現象の規模も、冗談のような範囲も、疑いに拍車を掛けた。


 しかし噂されているのはそこではない。


 この現象が起こった当初、それを見ていた生徒がいた。


 その生徒は天より落ちる雷と天を衝く紫の光が衝突した瞬間を見ていて、中心地がどこであるのかわかった。


 光が収まるとその生徒は、むくむくと膨れ上がる好奇心のままに足を進め、森に出来た草原へと辿り着いた。


 誰かが魔術を使用して闘ったであろう焼け野原に。


 運び込まれた怪我人は三人。


 一人は学園でも十指が噂される四年生の帝国貴族。


 その無限とも言える魔力量から繰り出される魔術の数々は戦争に向いており、各国のパワーバランスを表している派閥にして相手どってはいけないと言われていた。帝国の第二王子派で、卒業後の動向が注目されるであろう人物。


 それがボロボロになって見つかった。


 そしてもう一人。


 知名度という点では今、学園で最も知られる平民。


 『壁砕き』アレン。


 マリスティアン公爵家が独自に掴んだ情報を元に、王都の商会へ奴隷として送り込んだ腕利き。その信頼は厚く、アレンのために作られた魔術の付加された剣を、公爵家の次期当主であるご令嬢より直々に承った程だとか。


 そのアレンも、何者かと闘った激戦の傷跡を体に残していた。


 重傷者が二名。両名が二つ名持ち。激戦の跡が残る焼け野原。謎を残した紫の光の柱。互いに杖と剣を握った状態で運ばれてきた。


 歳若い貴族には妄想を激しくさせる持ってこいのシチュエーション。


 曰く、互いがぶつかったのだ、と。


 その激戦の跡からも英雄譚に出てくるような闘いが繰り広げられたんじゃないか? 紫の光はサンデドロ伯爵の切り札、いや『壁砕き』の由来になった力、互いの魔力が飽和した現象、などなど様々な憶測が飛び交った。


 その一部始終を見ていたであろう生徒に、当然ながら注目があつまったが、これに訊くことは躊躇われた。


 片や当マリスティアン公爵家のご令嬢であるシェリー・アドロア・ド・マリスティアン。彼女はよく分からなかったとはぐらかす発言しかしない。やはりなんらかの秘密があるのだと、興味を強く掻き立てられるばかり。


 そして片や帝国王家が一子。


 カーマイン・フォン・ドマネスク。


 こちらも「約定により話せない」との一点ばり。


 しかしその言い方は何かがあったということを確信させるものであった。


 当事者であるサンデドロ伯爵は否定。そしてアレンの方は公爵家の管理にあり、元々噂話が先行し過ぎて実態が上手く掴めない人物だ。


 となると、鍵を握るのは運びこまれた最後の一人。


 力強く優しく美しく才能に溢れ面倒見が良く、実力は二つ名持ちに劣らず、しかし謙虚で礼儀を弁えたその男らしさから隠れたファンも多いと言われる。


 才媛。


 そう、ミルフィリア・ドーマ・ド・グステン。


 今や学園一との呼び声も高い無垢な美貌の持ち主であるマリスティアン公爵家ご令嬢も、一目出会って信頼を寄せる人格者だ。


 彼女は気を失っていたものの、いやだからこそ! 何かに巻き込まれた、もしくは物語(ストーリー)の鍵を握るんじゃないかと言われ、連日にお見舞いと称して押し掛けられ迷惑を被っていた。


 本当にすまないなあ、と思う。



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