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私の従僕   作者: トール
 第一章 従僕と学園へ行く
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従僕6



 最近、お嬢様の装いが変わった。


 俺の歳が十三になり、お嬢様が七歳の年明け。


 お嬢様は貴族様の生まれとあって、暦の上で正確に歳を重ねているが、奴隷の俺は違う。


 俺の場合は年が明ける毎に一つ年齢を足している。


 別に平民階級以下には不思議なことじゃなく、収穫の時期や年明けや種もみなどの区切りで歳を足すのはよくあることだ。暦は四季節九十日で分けられているが、村なんかでは季節はともかく日付を気にしたりしないそうで、奴隷の六割は俺と同じで季節の始めに一つ歳を足す数え方をしている。


 まあ俺が拾われたのは秋なのだが、年が明けた時に奴隷頭が、


「よし。今日から一つとしよう」


 と決めたのでそれに従っている。正確な年齢じゃないかもしれないが、他の奴隷の中にも似たような数え方の奴もいるので気にはならなかった。


 それに、誕生日が年明けということを実は割と気にいっている。


 年明けは大地と空が生まれたと言われているため聖誕祭が開かれる。


 この日を前にして、旦那様と奥様は王都で開かれる聖誕祭に参加するため、奉公に来ている貴族や平民には暇乞いを出され屋敷の仕事が楽になる。


 その上、旦那様はこの日の食事に肉と酒を朝晩一回ずつ振る舞ってくれるため、随行を命じられていない奴隷も終始笑顔だ。随行する奴隷は王都で祭りに参加するらしい。


 年明けは奴隷にとっても良い一日だ。


 そんな日に歳を重ねるとあって、気分が良くなっている奴隷から祝いの言葉をよく掛けられる。年明けの祝いなのか俺の歳を重ねた祝いなのかはわからないが。




 まあ気分はいいよな。


 そんな歳を一つ経た俺は馬具の手入れに使った道具を直していつもの場所へ向かう。今日の仕事はこれで終わりだ。旦那様が王都から帰ってこられるまでは、そんなに仕事はない。


 少し早い時間に庭の隅に着いた。お嬢様は昼食の時間のため、来るまでだいぶ時間がある。今日の仕事は緩いので構わないだろう。


 勉強するか。


 読み書き計算ができるようになってきたので、ジュレールからは最近その応用とやらを勉強している。そちらはあまり問題がないのだが……体が出来てきたからと学び出した戦闘方法とやらに手こずっている。


 最も難しいのが、魔術だ。


 魔術というのは才能が全てにおいて左右されるらしく、無ければ扱えないのだそうだ。その才能も百人に一人、一属性もあればいい方だとか。


 そのため市井の魔術師は貴重で、冒険者なんかになればとりあえず食うに困ることはないとのこと。


 しかしこれは平民階級以下の話。


 何事にも例外があるというか、世の縮図が表れているというか。


 貴族様はほぼ確実に魔術が使えるそうだ。


 魔術の才能というのはその血に現れるようで、連綿と続く貴族の血というのはそのまま魔術師の素養を受け継ぐ血脈ということらしく、新しい貴族様の誕生は新しい魔術師の誕生なのだとか。


 市井に産まれる魔術師は百人に一人。貴族様はほぼ確実に魔術師。貴族と平民の階級の厚さを物語っているよな。


 そんな魔術を使えるか調べたところ、魔力はあると判断された。


 すわっ、百に一つかと思いきや、魔力ぐらいは誰でもあるらしい。上げて落とすとか止めてくれ。俺にも魔術がと期待したわ。


 ちなみに奴隷の中に魔術を使える奴隷はいなかった。魔術を使える奴隷は値段の高さや貴重さから、一般の奴隷とは分けられるらしい。奴隷頭はそういう奴隷も知ってるらしいが、稼ぎが違うのか割りと早く解放されるらしい。


 じゃあ魔術の勉強なんてできねぇじゃねぇかと諦めかけたが、魔術に使う魔術言語(コモン)に詳しい奴隷がいたので、教わったそれで魔術ができないかと試している。


「俺も若ぇ頃に夢見てよ、へへへ。まあ覚えといて損はねぇんじゃねぇか? 得もねぇが」


 とは、魔術好きだという奴隷のサンシタの言。


 得しないのかよ。


 まあ一応頑張ってみているが、俺に魔術の才能は無さそうだ。


 ガリガリと地面に枝で魔術言語を書いていると、お嬢様がやってきた。


 今日はやけに早い。


 すっかり穴が空いてしまった茂みからお嬢様が顔を出す。


「ふふー、ごきげんよう、じゅうぼく」


「はいお嬢様」


 お嬢様の装いは青いドレスの上から白い毛皮のコート、そして左右に巻き込んだ髪を垂らしている。


 マナーの勉強を始めたと言うお嬢様は、髪型を変えるようになった。いずれくる社交界入りに向けてと奥様からのお声がかかったそうだ。


 奴隷の俺には関係ないと、巻き巻きにした髪について触れなかった初日。鞭を頂いた。お嬢様の要望もあり三回ほど増えるという計らいは感に堪えないものだった。


 女奴隷のラキが言うには俺が悪いとのこと。その場にいた他の奴隷にも否はなかった。そうか俺が悪いのか。


 それからはなるべく外見の変化を見極めては誉める言葉を並べている。タラし奴隷のサドメが言うには誉め言葉を嫌う女はいないとのこと。


「何かに例えたり、綺麗な物を引き合いに出すのがいいぞ。そんなこと欠片も思ってなくても言葉が出てくるように、何個か言い回しを考えとくのがいい」


 と教えてくれたサドメはククレさんに引っ張っていかれた。


 流石、モテ奴隷なだけある。


 サドメの言い回しを勉強している俺に死角はないだろう。俺もサドメに続くとしよう。


「ふふん」


 木の枝が刺さることは無くなったが、未だに葉っぱをつけて登場するので、それを取り払う。お嬢様は大人しくされるがままになりながらも、どこか得意気だ。


 巻き巻きにした髪についている白いリボンが原因だろうか。


「お嬢様」


「なに?!」


 話しかけると予想以上に食いついてくる。強い笑顔に鼻息も荒い。


 予習も済んでいる奴隷の従僕っぷりをお見せしましょう。


「今日は御髪(おぐし)にリボンを纏われているのですね」


「そ、そうね。わたし、きぞくだからっ!」


 ええ全く。


「大変お綺麗にございます」


「そ、そう?」


「はい。奴隷が目にするには些か過分に思える程でございます」


「えへへへへ」


「恐らく流通されている()()の中で最上の物でございましょう」


「へ………………え?」


「その白さも混ざる色が存在せぬ程に白く、光沢は不思議な色合いを放つところから恐らくは魔獣の織り糸なのでしょう。繊細な造りからも職人の技を感じる逸品です。その存在感はどこにいても目をやらずには居られない程に強うございます。大変に素晴らしいです」


「……………………リボンが?」


「はいお嬢様」


「……」


 完璧だ。








 その日は鞭を五回も頂いたというのだから貴族様にも困ったものだ。しかも珍しく言伝があり「『打ち首もありえたわ』だってよ」と奴隷頭から伝聞された内容にも頭を捻るものだった。


 あんなに笑顔だったというのに。



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