ある女奴隷の話 1
とうとう奴隷商人に売られてしまった。ガーン。
村の運営に不備はなく、冬は厳しいけど家族総出で頑張ればなんとか暮らせないこともないという経済状況だったあたしン家。兄弟もたくさんいたが、その分食べる量もたくさん。蓄えをする余裕はなかった。
そこに双子の出産と、産後の肥立ちが悪かった母を加えて借金が出来てしまったウチ。
なんかいやーな予感はしたんだけど、それでも母の分まで頑張ろうと働き、隣の奥さんに双子の乳を分けて貰いと頑張った。なんせ女ではあたしが一番上だったし。乳は出ないわよ。無理言わないでよ。
しかし申し訳なさそうな表情の父と兄を見て、来るべき時が来てしまったのだと嘆いた。腕の中の双子はあどけなく笑っていた。あー、あんたたちはいーわよねー。べろべろべろべろ。かわいいなぁ。くそー……。
借金を綺麗に返して少し蓄えができるぐらいの値段であたしは売れた。凄い大金だ。ふふん、やっぱりねー。あたしって可愛いもんね。……あーあ。きっと色々と無茶されちゃうんだろうなー。最初ぐらいはロマンチックなのが良かったなぁ。収穫のお祭りで暗がりに消えていく男女がいるのは知ってる。ていうか父と母がそうだった。星がよく見える丘の方へと行くのだ。流れ星が流れちゃったりしてさ。そこで誓っちゃったりなんかキャアアアー! それ最高!!
「お前は労役奴隷だ」
どういうこと。
瞳をウルウルさせながらあたしのご主人様になる人の事を訊いたら、公爵様だというじゃないか。これはワンチャン見初められちゃうとか思っていたら、奴隷商の男があたしの一部分を見ながら鼻で笑ってそう言った。胸か? ああ? そこがそんなに大事か?
それがあたしの奴隷紋が初めて光る事になった原因だった。
「解放されたら覚えてろよ」
馬に鞭を打って逃げるように帰っていく奴隷商の男を、中指を立てて見送った。奴隷の纏め役だという体のガッシリした男の人が呆れたように見ていたなあ。
労役奴隷なんてほぼ死んだようなものだ。そもそも奴隷の生還率って高くない。だってご主人様の気分次第の命なのだ。どぉおおおおしろってのよ!
まだ性奴隷の方が生きて帰れる可能性があったわよ。労役って、鉱山で一日中あな掘りとかでしょ? それを十年とかやれば解放っていうあれでしょ?
ふざけんじゃないわよ……一年で死んじゃうわよ。
……あー、それで父も兄も出ていく時に目を合わせてくれなかったのね。弟妹を押さえるのが大変なんだと思ってたんだけど。じゃあ、あたしがきっと帰ってくるっていった時も信じてなかったの? はは。絶対に帰ってぶん殴ってやるわ。
……はあ。
早速きた。鉱石の山を運べとさ。箱詰めして馬車に積むだけ? 無理言わないでよ! 空の木箱でも結構重いのに鉱石を詰めて運べ? つぶれちゃうわよ!
虚ろになった視線がひょこひょこと動く木箱を捉えた。…………ん? なんか木箱が勝手に動いてるんですけど?! すげえ!
流石公爵家。魔法だろうか? なんだ早く言ってよぉ。人力で運ぶのかと思ったじゃない。
「ククレさん、これは?」
「あっちの馬車に三、残りはそっちの馬車ね」
「はーい」
ちがう。なんかちっこいのがいる。
鉱石をぎっしりと詰めた木箱を二段にして二つずつ片手に持ち上げて運んでいる。その動きはまるで重さを感じさせないものだ。もしかしてドワーフというやつだろうか。やば、初めて見るんだけど?!
木箱を降ろして振り向いたそいつは、顔を煤で黒く汚した子供に見えた。
黒髪で黒い目で、黒い子供に見える。
…………。
いや、子供だよ?!
トトトトと小走りで素早く近付いてくる子供が、こちらを見た。なんか面倒そうな視線だ。
な、な、な、なによ?
「…………あの、働いてくれませんか?」
…………。
ていっ。
「いったああああああい?!」
ガツンと小突いたら、手が真っ赤になってしまった。ビリビリと痺れる手を逆の手で押さえる。
かっっっっったっ?! なんでできてんのよこの子!
「また、おかしな奴が……」
涙目で痛みに耐えるあたしを、その黒い子供は呆れた目で見ていた。
くっそー。絶対泣かしちゃるからな!
それがチビとの出会いだった。




