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私の従僕   作者: トール
 第一章 従僕と学園へ行く
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従僕41



 目を覚ますと、瞳を真っ赤にされ涙に鼻水を垂れ流すお嬢様のお顔があった。


 なので、


「酷いお顔ですね」


 と、正直に申し上げてしまった。


 栄誉(むち)を貰った。


 寝こけていたダメな従僕なのに、その働きに応じられて栄誉をくださるというのだからお嬢様は本当に(おに)のような方だ。自伝を書いて配り回りたいくらいだ。


 しかし識字率の高くない奴隷なので冒頭にはこう記そう。


 大体合ってる、と。


 粗方罰を受け終えた従僕に、お嬢様が事情を話してくれた。まあ、神官様が鞭を取り上げられたので、暇になったというのもあるのかもしれない。


 ここは予想通りの教会で、アレンが横たわっていたベッドらしい。


「従僕、半日以上寝てたのよ……」


 ぶぅ、と頬を膨らませてベッドの上をゴロゴロされるお嬢様。従僕の足を敷いていますが? 分かってる? そうですか。


 あの後。


 お嬢様は泣きじゃくって従僕にすがりついていたそうだ。嘘かな。これはヤバいと感じたエヴァが衛兵の詰所まで走り、隊長さんを引き連れて教会まで運んでくれたとか。後でお礼を言っておかなければ。ちなみにお嬢様は半狂乱で鞭で叩けば起きると強行しそうだったとか。おいおい、話に真実味が出てきたぞ。


 気絶から目覚めたアレンと協力して俺を教会へと運びこみ、治療に当たったのだとか。


 待っている間に、伝令に出していた兵士達が騎士様の一団を連れて戻ってきたとか。行きも帰りもロゼルダに会ってはないそうだ。偽者の可能性もあったが、直ぐに姿を眩ませたようで、本人に間違いないだろうとのこと。品行方正な騎士だったらしく、何人かが甚くショックを受けていたそうで。


 アレンの証言の元、直ぐさまその商会は騎士団の強制捜査が行われたらしい。


 すると証拠が出るわ出るわ、夜を徹した捕り物と、密輸された魔物の討伐が行われ、今も忙しく走り回っているそうで、アレンも第一人者として連れ回されていると。


「ちょっとした英雄よね。実際、手無しの予想した通り裏切り者が騎士団にいたし、ギルドにも入りこんでたものね」


 どうも奴隷獲得の手段として抱き込んでいた直営の武器屋なんかもあったらしく、かなり余罪がある商会なんだとか。まだ叩いている最中だそうだ。


「でも、あの女騎士には逃げられちゃった」


 そう。


 あのローブの三人に冒険者ギルドの受付やら騎士であるロゼルダ、魔物の密輸の中核となった人物は、一人として捕まらなかったという。


 そもそも俺の予想としては、王都の周りにて魔物を繁殖させ子供の状態で捕まえて売り捌いているのではと考えていたのだが、明らかになった事情というのは逆らしい。


 魔物を売り捌いている側から提案があったとのこと。


 子供の状態の魔物を買い入れ、好きな時に殺してその素材や魔石を得る商売をしていたとか。魔物が格安な上に、手に負えなくなったら外に逃がせば後は冒険者が勝手に処分してくれるというノウハウも教えてくれたそうで……。しかも情報漏洩がないように、公的な施設にはスパイまで送り込んでくれるという手厚さ。王都は冒険者も多く好条件だから、なんて囁かれたらしい。


 しかも王都の周りに雑魚が増えれば新人は釣られて集まってくる。新人の内は何かと入り用で、借金にまで持ち込めば奴隷に落とすのも容易。そんなサイクルが出来上がっていたとか。


 どっかで聞いたことあるな。


 その取引相手なのだが、これぽっちも情報が出なかったとか。魔物の赤子をどこから連れてきたのかとか、どうやって眠らせたような状態にしているのかとか、その目的も人員も規模も、何一つ分からなかったらしい。


「そんな訳よ。つかれちゃった」


 そうですか。お嬢様、その枕を持っていかれると私のが無くなりますが? そうですよね、分かってますよね。失礼しました。


 従僕の足元で枕を敷いて体を猫のように丸めるお嬢様。


 服が最後に覚えている時と同じ物だ。


 話は隊長さんやアレンやエヴァが来て報告していってくれたのを聞いたのだとか。


 もしや一晩中泣いていたのだろうか。


 まさかな。


 完璧に眠る体勢のお嬢様に、いつもならベッドを空けるのだが、如何せん体が動かない。鉛でも飲み込んだように重い。動くのが億劫だ。


 お嬢様の前だというのにウトウトし始めた従僕を、お嬢様がジッと見つめてくる。


 なんだ?


「…………ねぇ、従僕」


「はいお嬢様」


「……………………おこってる?」


 それは、何を指してのことだろうか。


 怪我人を鞭で叩いたことだろうか。


 こっそりと王都に来たことだろうか。


 近衛に取り立てたことだろうか。


 いつもお話をねだることだろうか。


 それとも。


――――――――俺を従僕としたことだろうか。


 だとしたら俺の答えはこうだろう。


「いいえ、全く」


 大激怒だ。


「…………そう」


 プイッと枕に顔を埋められるお嬢様。拗ねているように見える。


「じゅーぼくは、うそつき」


「その通りでございます」


「いま、二人!」


「そうだね」


「…………なんかお話してー」


「ワガママ令嬢と素敵奴隷とかどうでしょう?」


「それがいい」


 マジかよ。


 ……全く。


 眠気をこらえて、寝ているのか起きているのか分からぬお嬢様相手に、昔を思いだしながらポツポツと語った。


 この後、翌日が学園だということを思い出して深夜にお嬢様を抱えて馬車で戻ることになるのだが、それはこの長い話が終わってから――――



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