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私の従僕   作者: トール
 第一章 従僕と学園へ行く
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従僕2



 俺は元から奴隷というわけではなかった。


 なんの珍しくもない捨て子ってだけで。


 自由時間が認められている公爵家の奴隷は、偶に公爵邸を出て小遣い稼ぎをする時がある。


 もちろん旦那様の許可を得てだ。


 街をうろつく用事を終わらせた後に、街の外に出て薬草を摘み、ギルドで換金したりするとのことだ。街への用事を任される時点である程度の信頼を得ているのだが、奴隷はそれと関係なく奴隷紋があるので主人から逃げたりはできない、筈なのだが、それでも偶に逃げ出す奴がいるらしい。今のところは見たことがないが。


 だから街に出されるのは解放間近の成人奴隷だ。


 あと少しの我慢で解放されるのに、わざわざ無用なリスクは冒さないだろうといった理由だ。


 そんな制限がある中で、別格の信頼と奴隷からの解放も許されているのに奴隷階級に残っている奴隷頭が、俺を拾ってくれたらしい。


 その日も、ちょっと薬草でも取って稼いでいくかと奴隷頭は街の外に出た。


 街への入退には金が掛かるのが常だが、旦那様の街で旦那様の奴隷から金を取ったりはしないとのことで奴隷は無料なんだとか。しかし検査はきちんとされるのだが、金を取られないのならなんだっていいというのが奴隷の意見だ。


 街の外には当然だが魔物がいる、らしい。


 らしいというのは、物心ついた時から屋敷の下働きをしている奴隷の俺としては、街の外どころか公爵邸の外にも出たことがないわけで。まあ珍しいことじゃない。見たことないって奴隷は他にもいる。


 そんな魔物が出ると言われる街の外は危険だ。旦那様の騎士団の方々が偶に街道を回って魔物を間引くらしいのだが、それでも際限なく湧いてくるらしく、街道を渡るのに護衛は必須だとか。


 強くないと街に戻ってこれないらしい。本当かよ。街の外こあい。


 しかし奴隷頭はそんな街の外に武器も持たずに行って帰ってこれるらしく、その日もそそくさと近場の森に入っていったらしい。


 森。魔物との遭遇が高くなる場所。


 奴隷頭は薬草を得るために森の浅い部分を探り、そこそこの数の薬草を集めた。


 時間もあまりないので、次の一本が見つかるか、もう少し探して無ければ引き上げようとした時に、再び薬草を見つけたが、しかし…………。


 薬草の近くに、小さく動く影もあったらしい。


 奴隷頭は姿勢を低くして相手を見定めようと目を凝らした。魔物なら気づかれない内に逃げるか不意打ちするか、小動物なら捕まえて今日の飯に肉を混ぜてやろうと考えていたそうだ。


 静かに小さく動く影を目で追っていると、不意に強く日が照って森に光が差し込み、あっさりとその正体は割れた。


 もしゃもしゃと薬草を噛む赤ん坊がそこにはいたらしい。


 流石にからかわれている、と信じたい。


 その赤ん坊を街へ連れ帰り、街の孤児院へ預けるか奴隷達で面倒を見るか好きにしろと旦那様に言われた奴隷頭は、


「俺が拾ったしな。貰っとくか」


 と拾い物感覚で俺の面倒を見ることにしたんだとか。


 貴族の子は貴族、平民の子は平民、そして奴隷の子は奴隷なので、俺は奴隷頭の子として奴隷になった。


 奴隷頭の子と言っても、実際は奴隷全員で育ててくれたので、奴隷頭が親という認識はない。


 奴隷としての身分を理解してからは孤児院に入れられていた方が良かったのではないかと思ったが、飯も寝る場所も貰える公爵家の奴隷の待遇は孤児院よりマシらしい。下手すると口減らしに売られるのだとか。


 その分、貴族はよっぽどのことがない限り奴隷を売ったりはしない。金銭に関する体面や、その必要がないということもあるそうだが、貴族は奴隷を気にしたりはしないというのが一番の理由だそうだ。殺した方が早いという理由も聞く。


 奴隷の立場は従僕。生き物の世話に体力を使う下働きと陰仕事。わざわざ目をやったりしないそうだ。


 五歳ぐらいから働き始めたので、その辺は重々承知している。


 ちなみに森なんかの街の外に赤ん坊を捨てるのも珍しくないそうで。魔物がきれいにしてくれるのが理由だとか。


「まあ、もしその街に住んでる奴が捨てたんなら怪しまれるがな。門番だって馬鹿じゃねえ。行って帰ってきた時に赤子がいなきゃ怪しいだろ?」


 とは冒険者をやっていたというタタルクの言だ。


 そうすると俺の両親って奴は、この街の住民じゃなかったというわけか。ならどっかの村人ってとこかな。


「んー、違うんじゃないかな? ぶっちゃけ赤ちゃんじゃなかったら奴隷商に売った方が食い繋げられるし、赤ちゃんに乳も上げれないほどだったら、わざわざ街の近くの森の中にまで行って捨てたりしないよ。村では。あたしがそうだった」


 こちらは村から売られてきた女奴隷のラキの言。


 結局、俺の親については分からないという結果になった。よく捨てられているとはなんだったのか。村の近くではということかな?


 まあそこまで強く知りたいわけでもなかったのだが。


 今の生活以外の生活を知らないので、鞭打ち以外の不満はない。それもここ最近からだから、奴隷の生活も悪くない。


 それに、ここの奴隷は俺に色んなことを教えてくれる。


 読み書き計算を教えてくれるジュレール。


「いいですか? どのような仕事にも数字はついてまわります。計算ができるということは、仕事ができるということに他なりません」


 ジュレールは俺より体力がないので直ぐにへばるが頭がいい。仕事で役には立たないが。


 女郎屋で女に入れ込んだあげく借金まで背負い込み支払いができなくなり奴隷落ちしたジュレール。


 言葉遣いを教えてくれるサドメ。


「いいか? 言葉ってのは誰もが使う魔法だ。誰でも使えるってんなら、より上手く使えるようになるべきだ。そしたら人生がより楽しくなる」


 サドメは俺よりやる気がないので直ぐにサボるが口が上手い。仕事の役には立たないが。


 口八丁で貴族の娘に手を出してしまったが裁判で減刑を取り付けなんとか奴隷落ちで許されたサドメ。


 歌の上手いアーレに、昔は村長だったというミド。料理ができるククレさん、狩りが得意だというティム、旦那様から直々に言葉を頂ける奴隷頭と、公爵家の奴隷に色々と学ぶ毎日に文句はない。


 そもそも平民も奴隷もあんまり変わりがないように感じる。ここに来るのは元平民の奴隷ばかりというのもある。奴隷から抜け出すのは大変だが、平民と貴族との壁よりは遥かに薄い事も関係しているのだろう。やってやれないことはないそうだ。


 しかし平民が貴族になるのは歌に歌われる騎士のような活躍が必要だ。名だたる武勲に冒険譚。命が百万あっても足りはしないとか。


 当然ながら貴族を夢見るぐらいの事は平民でもあるらしいが、奴隷が一足飛びに貴族なんてまさに夢だ。


 命が惜しければ身の丈に合った暮らしというものが大事なのだろう。


 日々の生活を旦那様に感謝して今日も仕事に励む。奴隷で当たり前ってね。


「あぇ? じーぼくー。……じーぼくぅううっ!」


 うん。奴隷に文句はない。



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