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私の従僕   作者: トール
 第一章 従僕と学園へ行く
19/99

従僕15



 馬車の旅は一月掛かった。


 よく考えなくとも俺も公爵邸の敷地を出るのは始めてで、外での出来事というのは驚きの連続だった。


 なにせお嬢様の方が常識があるという事実に馬車に乗っている間は意識が飛んでしまったものだ。


 奇妙だね、外の世界。


 まず公爵領にはあまり魔物が出ないという事実で、ちょっと期待していた騎士様の活躍もなく、旅の始めには肩透かしをくらったものだ。魔物の討伐の推奨や街道の整備、騎士団の森狩りなどで生活圏に近いところには魔物は滅多に出ないのだとか。


 公爵邸のある公都は直ぐに抜けるし、途中で泊まる街も多くなく、野営の方が多いという事で目新しい物もなかった。


 馬車が止まる度にお嬢様が飛び出すのだが、それが普通よ、等と言われたのなら常識の無い従僕はこれに頷くしかない。そうか、狩猟は貴族の嗜みなのか。


 街道の途中にはキャンプ地になっている場所が多々あり、街までの距離がある場合はここを目指して野営するのだとか。そういう場所は自給ができるように獲物がいる森に近く、水を得るために川などにも近いそうで。


 同じ平民の従僕に、飯が足りないと感じたのなら森に入って狩りでもすればいいと笑顔で言われた。あまり良く思われていないように感じてたのだが、意外と親切に教えてくれた。騎士の方々が森から獲物を担いで戻ってきていたのを見るに嘘でもないだろう。ただそんな事も知らないのかといった感じでクスクス笑われたが、これは仕方がない。本当に見ると聞くとは違うものなのだな。


 食べていいなら肉を食べたい。騎士様が狩ってきた獲物は、当然ながら多くなく、平民の従僕までは回ってこなかったのだ。


 そんな訳で、初の狩猟となった。


 ナイフ一本で森に入ろうとしたその時にお嬢様がベレッタさんを撒いて合流。貴族の嗜みだからなどと言われては従僕は何も言えない。そういえば騎士団の方々は貴族様じゃないか。従僕はまた一つ賢くなりました。


 日が沈む前にテントを張るなどをしたので、まだ明るい森の中。鼻歌などを歌って枝を振り回すお嬢様は、相変わらず頭に葉っぱなんかがついている。いつの間に。


 お嬢様についた葉っぱを適度に取り除き、適当な獲物を狩ることにした。


 手頃な小石を拾い、左手の手の平に乗せて右手の指で弾いて鳥を落とす。お嬢様が大はしゃぎだ。血抜きをして羽をむしり解体するという一連の流れも興味深く眺められていた。


 周りに幾らでもある薪に火をつける。薪に指を擦らせて火をつけたのでお嬢様が従僕も魔術が使えるのかと大興奮だ。しかしこれは魔術ではない。ただ摩擦で火をつけただけだ。魔術という特別な力のない平民以下はこういうせせこましい技術を身につけて生きているのだとご説明だ。


「つまり魔術よね?」


「そうですね、魔術です」


 しかしお嬢様のご理解が今一だったのでそう嘯いておいた。鳥肉が気になったというのもある。


 適当な枝に鳥肉を刺して火で焙る。黒スグリの実があったので擦り潰して振りかける。赤トンガラの実も粉末にしておいた。辛いのだが、少量なら味を引き立ててくれる。焦げ目がついた焼き鳥を適度に裏返しつつじっくりと焼く。黒スグリの焼ける匂いが腹をくすぐる。


 グーゴゴゴォー。


「……」


「……」


 魔物の鳴き声かな。


「すいませんお嬢様。どうも空腹が過ぎたのか失礼を致しました」


「そうね。でもお腹が減っている時にその匂いを嗅いだのなら仕方のないことだと思うわ。許してあげる」


「ありがとうございます。しかしどうしましょう……お嬢様より先に獲物を頂く訳にも参りません。お嬢様のお口に合うとは思えませんが、よろしかったら……」


「おいしー!」


 せめて最後まで聞こう。


 そんな狩猟を繰り返して王都へついた。ちなみにお嬢様の言い訳は、馬車の中で一時だけ眠るから構わないでといった物だったとか。しかしベレッタさんとショートカットのメイドがお世話をしたいからと中々しつこい時があったから撒くのが大変だったと、得意気に白い粉薬を掲げていた時もあった。


 盛ったんかい。


 そんな物語の悪役貴族らしい貴族のお嬢様は、王都についてからというもの忙しく過ごしている。


 貴族様の挨拶を受けたり王城へ出掛けたりだ。王都にあるマリスティアン公爵邸の中もこれに比例してバタバタと誰も彼もが慌ただしい。


 お嬢様の入学式が三日後に迫っていた。



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