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私の従僕   作者: トール
 第一章 従僕と学園へ行く
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アレン3



「だから……なんであんたに一匹分も取り分をやらないとならないんだ」


「いや、一匹分()って……等分じゃないですか」


 俺はイライラしながら盾役の男に道理を言い聞かせていた。


 ギルド併設の食堂のテーブルで、今回の討伐の報酬の配分を行っているところだ。


 トーソ達と別れてから、俺は直ぐに新しいパーティーメンバーを募った。オークの巣の殲滅を考えていることを明記した募集は、そこそこ腕に自信のある奴には躊躇する理由にならないのか、割りと早く新しいメンバーは集まった。


 しかし、オークの巣の殲滅は遅々として進まなかった。


 どいつもこいつも臆病だからだ。


 歩哨を狩りつつ数を減らすという案は、俺からすると消極的なものだったが、オークの運搬のことも考えるとそれなりに納得はしていた。パーティーの配当を等分で割るという事も、最初ならば仕方ないと渋々頷いた。


 だがこいつらはいつまで経ってもオークの巣に強襲を掛けない。


 一度偵察に出てからは、上位種が何体いるとか何とか理由をつけて臆病風に吹かれている。オーク程度の上位種がなんだというのだ。ここ最近では何パーティーかと合同討伐にするべきだなんだと言い出している。


 挙げ句の果てに、未だに配当を等分にしている。


 盾役の男は、今日も一匹もオークを倒してないんだぞ? 一匹倒した俺と同じ報酬というのはどう考えてもおかしい!


 新しいパーティーは、運搬も考えて俺を含めて六人のパーティーでやっている。今日の討伐は六匹。これまでの合計で二十匹ほど討伐しているが、まだトーソ達と組んでいた初日の方が成果が上がっている。


 借金の期日も近い。せめて配当ぐらいは見直すべきだと俺はパーティーメンバーに話し掛けた。


 利息なんてふざけた物を嫌がって、奴隷契約にしたのが間違いだったか。借用期間が短い。このままでは奴隷に身を落としてしまう。


 クエスト達成報酬とオークの素材を当てにしている俺としては、これ以上の人員の増加は認められない。オークの巣は百匹単位らしいので、もしクエスト報酬を等分にするのなら、素材の分け前は上げておかなきゃならない。上位種とやらは普通のオークより買い取りの単価が高いらしい。これを俺が倒すことを考えると、まさか何もしていない盾を持っているだけの臆病者に分け前を取られる訳にはいかない。


「それがおかしいだろ? 役割に応じて報酬の分配を変えるべきだ。な? 皆もそう思うだろ?」


 俺はテーブルを囲う他のパーティーメンバーにも問い掛けた。


 大体、盾役の男は甲冑を着込み大盾を持っているせいか行軍が遅い。それがこオークの巣の殲滅が中々進まないのに一役買っている。なのに配分が俺と同じだと? ふざけている。


 他のパーティーメンバーは、どれも似たり寄ったりの格好で、実力も俺より下だ。俺の装備を考えると大きく溝を空けているだろう。配当の三割は貰わなければおかしい。


 俺に対抗できるとしたら、唯一人。


「そうだな。それは俺も考えていた」


 この男、ズックだろう。


 金髪を短く刈り上げた緑目の男で、巨漢ではないが大剣を片手で振るうほどの膂力を持っている。今日仕留めた六匹中の三匹がこの男によるものだ。


 俺も同じことができるが、今回のパーティーリーダーはこのズックが務めているので一歩引いてやっている。実力は俺の方が勝っているのだが、ランクがズックの方が高いためだ。


 少し調子に乗っているところがあるが、やはり実力がある者同士、俺と同じ事を考えていたらしい。


「だろう? なら……」


「エンバーの取り分を少し多めにしないか?」


「なっ?!」


 なんでそうなる!


 エンバーというのは盾役の男の名だ。報酬の配分を下げるのならわかるが、何故上げるという話になるのか。


 立ち上がる俺をズックが手で制す。


「俺達は固定のパーティーじゃなく、寄り合わせパーティーだ」


 いきなりなんだ? そんなの言われるまでもなく知ってるぞ。


 他のメンバーも首を傾げたり頷いたりしながらも、聞く態勢をとる。一応はリーダーの話だからな。俺も腰を降ろした。


 全員が聞く雰囲気になったのを確認したズックが話を続ける。


「固定のパーティーなんかは、配当の半分をプールしてパーティーの装備の整備や道具(アイテム)の充実なんかに当てる。だが寄り合わせのパーティーは、大体は配当を人数で割って分ける。これはずっとパーティーを組むわけじゃないからだ。短期の目標……俺達はオークの巣の殲滅だな。これが終わればパーティーを解散するから、個人の取り分を公平にするためのものだ」


「それがどうした?」


 何を当たり前のことを。こいつのこういう少し大物ぶっているところが嫌いだ。自分の実力を過信している。俺のイライラがどんどん増していく。


「だから自分の武器の損耗は自分で補うよな? 弓を使うミアルドなんかも矢代の催促なんてしねーし、戦闘で武器が壊れりゃ自分で補う」


「まあ俺は矢を回収してるからな」


 ミアルドと呼ばれた弓士の男が冗談めかして応える。


「だがエンバーの防具の消耗が少し激しい気がすんだよな。んで、戦闘がめちゃくちゃ楽だ。正直、盾役としてここらの冒険者じゃ頭一つ抜けてる。不意打ちも防ぐし、囮も一人でこなすし、引き付けも大したもんだ。甲冑や盾なんかの装備代一式は無理としても、補修費用を引いた後の額で等分にしたらどうだろうか?」


「話にならない」


 吐き捨てて席を立った。イライラが収まらなかった。こいつらもダメだ。なんでこうどいつも頭が悪いのか。俺と同じレベルで話せる奴と会話をしたかった。


 ギルドを出て街をさ迷い歩く。計画を練り直す必要があり、考えを纏めたかったからだ。


 新しいパーティーを抜けるのは確定事項だろう。もう一人でオークの巣に出かけた方がいいかもしれない。その方が英雄の所業にも思える。しかし、剣を抜く時間がネックだ。魔物に卑怯という考えがあるのかないのか知らないが、剣が抜ける前に攻撃を仕掛けてくるのはわかっている。そうなると、流石に少し危ないだろう。それさえなければ百匹だろうと上位種だろうと、俺にとっては問題にならないんだが……。


 いっそ標的を変えるか? ランクが上の獲物を狙う……ダメだ。時間がない。くそ! 実力も装備もあるのに! 足手纏いどもに足を引っ張られたばかりに!


 いくら俺の実力が確かでも、まだ最低ランクの新人冒険者を高ランクパーティーが迎え入れはしないだろうと新人でパーティーを組んだのがそもそもの間違いだった。やはり英雄には英雄に相応しいメンバーが必要なのだ。一度高ランクパーティーに入れて貰い、それからオークの巣の殲滅を行うか? そこで実力を見せれば、俺の正しいレベルもわかるというものだ。


「そうだな……それがいいだろう」


 考えが纏まり、怒りに任せて進ませていた足も止まると、ようやく周囲の景色も目に入ってきた。


 どこか暗い印象のある裏道だ。考えを纏めるために周囲の喧騒から離れようと足を進ませていたので、よく知らない場所に来てしまったようだ。王都は広い。いつも活動している場所以外は碌に知らない。


 踵を返そうとしたその時、頭に衝撃が走った。


「がっ」


 思わず漏れ出た声と脳を焼く痛みを最後に、俺の意識は飛んでいった。

















「ぐっ……」


 目覚めると同時に、後頭部に鈍痛が響く。焦点の合わない視界と、断続的に襲い来る痛みに、今一自分の置かれている状況が理解できなかった。


「くっ、……あっつ!」


 頭に手をやれば腫れているのがわかった。咄嗟に手を離し顔をしかめ目を瞑る。


「…………な、なにが……?」


 目を差す光に夜が明けたのだと理解したが、なんで自分はこんな路上に寝転がっているのかがわからない。


 何が起こったのか。


 非常事態であるのならばと腰元の剣を掴もうとした手が、そのまま腰に触れる。


「…………あ?」


 まるでそれが嘘であるとばかりに何度も腰元に触れ、痛みも忘れて目を開きその場を素早く見渡した。


 …………。


 剣がなくなっていた。



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