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私の従僕   作者: トール
 第一章 従僕と学園へ行く
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アレン2



 指で頬を掻きながら苦笑いを浮かべるロートルを睨む。どうやら図星のようだ。こちらを気にすることなく解体を始めたロートルパーティーがいい証拠だ。持つ物を持ってさっさと逃げたいんだろう。


「ば、バカ! なに言ってんだお前は! す、すいません! こいつちょっと……」


 慌てながら頭を押さえつけてくるトーソの手を払う。バカはお前だ。利用されたのだと何故気付かない。


「お、お前いい加減にしろよ? 今のはどっからどう見ても助太刀じゃねえか! あのオークの数を見ただろ? 俺達にどうにかできたかよ! あ?!」


 余程頭にきたのかトーソの声が震える。


「俺ならできた」


「ばっ!」


「まあまあ! 確かに俺らも声掛けしなかったからな。横殴りって言われてもしかたねえやな。しかも対処できたってんなら尚更だ」


「ああ」


「アレン!」


 間に入ってきたロートルがトーソを制す。トーソは既に剣に手を掛けていた。


「落ち着け落ち着け。ここでそんなことしても、なんの得もねえや。なあ、兄さん。二体で勘弁してくれねえか?」


 どうやら仕留めたオークを二匹やるから、今回の横殴りは目を瞑れと言っているんだろう。


 ふざけたことを。


「四匹だ」


 こちらがオークを四匹を倒しているのは、そこに転がっているオークを見れば自明の理だ。つまりオーク四匹は倒せる実力があると証明されているのだから、その分は貰わねば。本当なら八匹全部こちらの物だったのだ。上手いことやったロートルに腹が立つ。こういうのを老害というんだろうな。


 俺の宣言を受けて、いやらしい笑いを浮かべていたロートルの表情がピクリと動く。ふん。やはりな。横殴りがバレたからと被害を軽くしようとしたのだろう。


「うーん、悪いが俺の取り分で出せるのが、どう見積っても三体が限界なんだ」


「四匹だ」


 卑しい奴め。まさか値下げ交渉のようなことをやってくるとは。これだから油断ならない。


「アレン! マジでいい加減にしとけよ!」


「いいよ、カイ。四体譲ろう」


 トーソが怒鳴り声を上げた後ろから、ロートルのパーティーメンバーの女性が声を掛けてきた。ロートルパーティーには相応しくない若く美しい女性。


 エルフだ。


 その尖った耳先と人とは思えない程の美しさは、まさに噂に聞くエルフで間違いないだろう。エルフは長寿種族で、死ぬまで若い外見だというから、もしかしたらロートル達と同じ年齢なのかもしれない。


 少しは話がわかる奴が出てきたな。


 エルフの女性はロートルの事をカイと呼び、近付いてきた。どうやらこちらの騒ぎが聞こえたらしい。それをロートルは苦い顔で出迎える。


「いやしかし……俺のわがままでそこまで……」


「いつものことじゃない。あたし達四人パーティーだからカイとあたしの分で四体。譲ろう」


「……すまんネッサ」


「いーよ。その代わり、今日のディナーはカイの奢りね」


「うっ、いやわかった。飯な。飯だけ」


 どうやらエルフは利口そうだ。何故ロートルのパーティーに同行しているのか。何か弱味でも握られているんじゃないか?


「話がついた。四体やるよ」


「……ああ」


 言い方がまだ気に入らないが、あのエルフの顔に免じて許しといてやろう。


 途端に慌て出したのが、またトーソだ。こいつは……。


「そんな! 受け取れませんよ! むしろ俺達が狩った分を差し出す立場で……」


「トーソ! さっきからなんだお前は! パーティーのリーダーは俺だぞ? お前にそんな決定権はないだろう!」


「うるせえんだよクソが! てめえのパーティーなんかもう抜けるに決まってんだろ、欲ボケが! そんなに貰っても持って帰れやしねーんだよ! ゴブリンと違って魔石だけ取って終わりじゃねえんだぞ? 肉とか皮とかどうするつもりだってんだ、マヌケ!」


 なに?


 言われてみるとそうだ。勢いがある内にパーティーを引っ張ってきたので、運搬を考えていなかった。


 チラリとロートルのパーティーを見ると、使い込まれた背負子にオークの肉を積んでいる。


「何故気付いた時に言わなかった? 目的はオークの巣の殲滅だぞ?」


 こんな数じゃ利かない程のオークを運ぶ必要があるというのに……。俺が言わなきゃ何もできないのか、こいつらは。


「最初からオークの巣の殲滅なんか考えてねえんだよ、誰も! その剣の試し斬りに手頃な魔物を狩って帰るつもりだったに決まってんじゃねーか!」


「ちょっ、落ち着こうぜ。まだ森ん中いるんだぜ、俺ら」


「トーソもアレンも静かに。一回帰ろう」


 他のパーティーメンバーも俺とトーソの間に入ってくる。


 確かに一度戻る必要ができてしまった。


「そうだな……運搬についても考えないとな。おい、あんた」


「へ? 俺か?」


 ロートルを呼ぶと、驚いて自分を指差した。あんた以外にいないだろう、トロい奴だ。


「あんたのところの背負子、余ってるやつを貸してくれ。オークを運ぶのにいるんだ。礼はしよう」


「お前……本当に!」


「ちょっ、押さえろ!」


「待ったトーソ! わかった、わかったから!」


 剣を抜いたトーソを他のパーティーメンバーが押さえる。三人掛かりだ。全く、何を考えているんだトーソは。ハイエナ連中に貸せと言っても貸してはくれないだろうから、ちゃんと礼はすると言ったのがそんなに意外か? 分け前が減るとでも思ったのか? 程度の低い……。


「お、おお! 貸す貸す! 貸してやる! だから落ち着け! バッツ! おめえのも空いてんだろ? ちょっと貸してくれ」


「はあー……カイ、てめえちょっと人が良すぎるんじゃねえか?」


「いいから貸してやろうぜ。ほらよ、こいつでいいか?」


「……ああ」


 やはり礼という言葉に釣られたか。


 オークの解体ができないので、オークをそのまま積んでその場は後にした。ロートルのパーティーメンバーはそれを呆れたように見ていたので、もしかするとロートルの行いに嫌気が差しているのかもしれない。もしパーティーを解散するのならあのエルフには声を掛けてもいいだろう。正確な射撃で瞬く間に三匹のオークの頭を射ぬいていたからな。正面から三匹倒した俺ほどの実力じゃないだろうが、そこそこの物を持っていそうだ。


 ギルドでオークを預け、職員に解体を任せて分け前について話した。ゴブリン討伐と違いパーティーメンバーが役に立たなかったので、等分はおかしいと主張した。俺が倒した三匹は当然貰うとして、その後に得た四匹も交渉したのは俺だ。配分は少し多めだが一匹は貰わねば。


 金にセコいパーティーメンバーはしかし、これを了承した。まあ当然の道理だがな。ただ、全員がパーティーを抜けると言い出した。


「構わん」


 願ってもない。こちらとしてもそのつもりだった。


 元々大して役に立ってもいないのに、今回の横殴りにおける愚鈍さには呆れ果てていた。こいつらは食い物にされて直ぐに死ぬようなルーキーどもだ。道連れにされては叶わん。


 現に、オークの解体と査定が終わると直ぐに換金した金をロートルパーティーに差し出して頭を下げていた。


 どうしようもないバカどもだ。救えない。まああれを背負子を借りた礼と考えればいいだろう。俺が払う必要がなくなったと思えばいい。


 オークを四匹討伐した金では、当然ながらまだ剣の代金には遠く及ばない。だが俺の実力は証明されている。


 オークは雑魚だ。


 あの程度で倒せる魔物が十匹いようと百匹いようと変わるまい。百回剣を突き立てれば終わる。作業だ。


 しかし盾は必要だ。剣を抜く時間で卑怯にも襲い掛かってくるのが魔物だからな。万一を考えて新しく実力のあるパーティーメンバーを募っておこう。運搬の事もある。


 オークの巣の殲滅を終えたらファントム・ビーストかグリフォン辺りを狙うとしよう。まずは冒険者としての地位を確立しつつ、俺を確保しようとする貴族を見定める必要がある。遠くない将来には戦争にも参加するだろう。当然ながら俺がいる方を勝たせる。英雄と呼ばれるには、周辺諸国の勢力図にも詳しくなっておかなくては。


「忙しくなってきたな」


 換金した金を確認して立ち上がる。きちんと四匹分あった。流石にそこを誤魔化すほどゲスじゃなかったようだ。


 ロートルパーティーと盛り上がる元パーティーメンバーを流し見て憐れむ。ああはなるまい、と。


 俺はパーティーの募集を掛ける為に再び受付に足を向けた。



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