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私の従僕   作者: トール
 第一章 従僕と学園へ行く
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アレン1



 仲間内で一番強いのは俺だった。


 国の辺境にある小さな村が俺の故郷だ。公爵領とは名ばかりの田舎村だ。俺になんと似合わないことか。


 子供の頃から自分が周りと違うということは分かっていた。


 力を比べたなら歳が二つ三つ上だろうと俺が勝り、足の速さを競えば大人にすら勝てた。


 そんな俺が冒険者になったのは至極当然のことだろう。村に残って土を弄っていて何を成せるというのか。


 土にまみれて畑を耕す親の、なんと小さく惨めなことか。諫めているんだ等と言っては俺が冒険者になることを止める発言ばかり。うんざりだ。俺の才能を分かっていない。もしかしたら歴史に名を残す過去の英雄も似たような経験をしたのかもしれない。


 国という器すら越える才能を村に没してどうなる? それはこの国にとって大きな損失だ。もはや愚か者の域にある親には構わず、俺は村を出た。


 どこだろうと大きな街ならギルドがあるが、俺は王都で冒険者登録をした。貧乏公爵領で目立ってしまっては、辺境に俺の才能を取り込まれかねない。それは王都でも同じだが、影響力は段違いだろう。俺の最初のステップとして相応しい。


 王都はそこそこ俺を満足させた。


 食べる物、着る物、住む場所、どれをとっても田舎とは比べるべくもない。あの狭苦しい場所でのしみったれた食事を思い出すと、やはり俺の判断に間違いはなかった。


 冒険者としての位階も順調に登っていった。


 同じように田舎村から出てきた若い奴らでパーティーを組んで、ゴブリン退治から始めた。ゴブリンなんぞ、俺は子供の頃に大人に混じってトドメを刺してたぐらいで敵ではないが、他のパーティーメンバーにしたら強敵だ。仕方なく俺が先頭に立つことにした。


 連携だなんだと小細工を弄したがっていたが、ゴブリンにそんなものは不要だ。森をうろついていた一体を後ろから刺し殺して見せてやった。


 こうしてゴブリンを狩りつつ冒険者の位階を上げ、そろそろいいだろうと次のランクの魔物を見定めたのは一週間が経った頃。


 ゴブリンの巣なんて小さな目標ではなく、オークの巣を狩ろうとパーティーに提案した。


 また尻込みだ。


 どうやらこのパーティーは臆病な奴が多いらしい。いや、俺と比べたなら誰しも臆病になってしまうのは仕方のないことだ。俺にとったらゴブリンとオークに大した違いはない。確かにオークの方が上のランクにあるが、雑魚は雑魚。未だに冒険者を続けているロートルでも狩れているじゃないか。


 しかし説得は困難を極めた。


 やはりオークを一度も倒した事がないというのが引っ掛かっているようだ。大丈夫だと言っているんだが……本当に凡人の考えはわからない。そんなに足踏みを続けたいのか? もはやゴブリンなど敵ではないじゃないか。一匹だろうと百匹だろうと同じことだ。


 今度のクエストで昇級に達せたらこのパーティーは捨てよう。俺のランクに見合わない。となると、なんとしてもオークの巣は殲滅しておきたい。


 俺は武器屋で魔術効果はないが質の良い剣を買って、パーティーメンバーに根拠として見せた。本当ならミスリル製の物が良かったのだが、頭金が届かず断念した。まあいい。それでも普段目にする銅や青銅の剣というか金属の塊のような物と違うからか、パーティーメンバーは目を丸くして驚いていた。


「すげー! お前よくそんな金持ってたな?!」


 勿論、持っていない。


 とりあえず頭金だけを払い残りは借金した。今回のオークの巣の殲滅で得たクエスト代金とオークの素材の売却費用で、ギリギリ足りるだろう。俺が大部分を持ってくことになるが、これは当然だろう。この剣に俺の実力を考えれば、誰が一番働くかなんて考えずともわかることだ。


 勢いを得たパーティーを引っ張ってオークの巣の殲滅に出掛けた。


 オークの巣ができているという森の浅い場所で、歩哨なのか四匹のオークが歩いているのに出くわした。


 丁度いい。オークがゴブリンと大差ないということを見せてやろう。オークを見てやや勢いに陰りが出てきているパーティーメンバーにはいい薬だ。


 斬り込む合図をパーティーメンバーに出し、まだこちらに気付いていないオークに後ろから襲い掛かり、心臓を一突きにした。


 あっさりと絶命したオークは、俺の考えが正しい事をを示している。残りも手早く片付けてパーティーの士気を上げるとしよう。


 こちらを見て興奮している他のオークも倒そうと、オークの背中から剣を抜こうとしたが――――抜けなかった。


 ゴブリンと違いオークは肉厚なので、勢いがないとその肉を抜けないらしい。


 他のオークが俺に襲い掛かってきた。


 間にパーティーメンバーが入り、剣や盾でオークの棍棒を防いだ。


「早く剣を抜け!」


「わかってる!」


 サポートの癖に、俺に命令するな!


 オークの死体に足を掛け、少しずつ剣を抜いていく。


 無事に剣を抜いて再び戦闘に参加する。五人パーティーなので残り三匹のオークを四人で相手どっている。


 まだ一匹も倒せてないのか。なんと不甲斐ない連中だ。


 仕方ないので隙をついてもう一匹、今度は側面から突き込んで倒した。脇の下から反対側の肩へと抜いた。また剣を抜くのに時間が掛かるが、これで一匹につき二人で相手ができる。戦況は安定するだろう。


 それにしても、こいつらの脆弱さは信じられない。


 オークにチマチマと斬りかかっては傷を与えるだけで、一向に倒せそうではない。やはりこのクエストが終わり次第、もっと腕の立つパーティーを探そう。


 オークから剣を抜きながらそう決意していると、追加のオークが現れた。


 今度は八匹。前から四匹、横から四匹だ。


 後から現れたオークは横に広がり俺達を包囲し、最初に見つけた残り二匹はこちらを逃がさないように立ち回り始めた。


 俺以外のメンバーに動揺が広がる。情けない。こんな雑魚が何匹いようが、俺の相手ではないと、今さっき証明したばかりだというのに。


「く、くそ! こんなところで!」


 発奮したのは赤毛のトーソ。目の前のオークの口蓋に剣を突き入れて捻り一匹を倒した。残った一匹も俺が背後から心臓を一突きして倒し、後は包囲するオークだけになった。


「バカやろう! なんでわざわざ突き込むんだよ?!」


「ちっ」


 トーソの叫びに舌打ちを返す。


 これだから何もわかってないバカは困る。一撃で倒した方が効率がいいのがわからないのか? 手負いにしようと生きている限り襲ってくるなら、結局はこうした方がいいとわかるだろう。バカが。


 オークに足を掛けて剣を引き抜く俺を中心に壁を作るよう指示するトーソ。


「早く抜け!」


「わかってると言ってるだろう!」


 一々うるさい奴だ! だいたいお前らが弱いからその尻拭いに俺が三匹も倒したというのに、その言い草はなんだ? 四人で一匹しか倒せずどうしてそんな態度をとれるのか。俺の親といいこいつらといい、凡人というのは愚かが過ぎる。


 どうしようもなく愚かなこいつらに、今一度この俺の実力をわからせる為、包囲するオークは全て俺一人で倒してやろう。


 ジリジリと包囲を狭めてくるオーク。接近する手間が省けるというものだ。剣も抜けた。さてどいつから倒すとするかな。


 悲壮な表情のパーティーメンバーの後ろで、四匹目に倒すオークを見定めていると、近寄ってきたオークの頭がポロリととれた。


「なっ?!」


「ん?」


 他のオークも、頭に矢が刺さる、胸から槍が生える、顔を潰されるなどして絶命していく。


 なんてことだ。


「やった!」


「助かった!」


 (くだん)のオーク狩りをしていたロートルのパーティーが、瞬く間に俺達を包囲していたオークを殲滅してしまった。それを喜ぶ俺のパーティーメンバー。


 バカばかりか。


「大丈夫か? ここらにゃオークが出るって知らなかったのか?」


 どうやらパーティーリーダーらしいロートルが剣を鞘に納めて近付いてくる。トーソが代表のように前に出て頭を下げる。


「すいません! 助かりました、ありがとうございます!」


 本当にバカか。喜色を浮かべるトーソを見て顔をしかめる。


 わからないのか? これはあれだ。


「横殴りってやつか」


「あん?」


 俺以外のパーティーメンバーが揃って顔を青くした。



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