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ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険  作者: 守 秀斗
第一章 うら若き十六歳の夢見る乙女/レッドドラゴン編
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第六話:クラウディア情報省参事官

 あたしは夕闇迫る頃に宿屋に戻った。

 部屋に入って、「ふう、疲れた」と言うなり、あたしはベッドにダイブ! 

 空中でくるっと横半回転。

 あお向けで大の字に寝る。


 ドラゴンなんて相手にしてたら命がいくつあっても足りん。

 バックレるか。

 え? さっき『ドラゴン許せん! 絶対ぶっ殺す!』とか言ってただろって?

 もう仲間のケガは治ったからドラゴンはもういいや、許してやる。

 ありがたく思え、ドラゴン。


 つーかねー! ドラゴンに勝てるわけないでしょ! あんたらがやってよ!


 とは言うものの、トンズラする前に冒険者ギルドの組合費分だけはパーティの仲間に返さないといけないなあ。

 だけど、いまオケラ状態、スッカラカン。

「それに、うーん、何かひっかかる。何だろう? 何か大切なことを」

 本当に忘れっぽいあたし。


 お腹が減った。

 昨日、果物屋からくすねたリンゴを思い出す。

 リンゴをかじっていると、あれ、何かいい香りがしてきた。

 廊下を歩く音がする。

 扉の隙間からなぜか眩い光が指してきたぞ。


 ノックの音がした。

「開いてるよ~」あたしはベッドの上であぐらをかいて、リンゴをかじり、口をモグモグしながら返事をする。

 扉が開くと、そこには美しすぎる美人クレリックの完璧美人さんが立っていた。

「あわわ、何でしょう」

 あたしは思わずベッドの上で正座。そうさせる威厳がある完璧美人さんです。

 おまけに、完璧美人さんの背後には、屈強で目つきの鋭い情報省員らしき男が二人立っている。

 ちと怖い。


「お食事中、突然、失礼します。お邪魔だったかしら」

「いえいえ、私に何かご用でございますでしょうか」とあたしはへいこらする。

「まだ自己紹介が済んでいませんでしたね。私は王国情報省参事官のクラウディア・デ・ラウレンティスと申します」

 クラウディアさんニッコリ笑いつつも、何やら厳しい雰囲気を醸し出す。

 あたしはちょっとビビる。

 あと、参事官って何ぞや? さっぱりわからん。よくわからんが偉いんだろうな。


「えー、私は冒険者で、えーと剣士をやってる、プルム・ピコロッティです」

 泥棒で、万引き常習犯とはとても言えん。


「あなた、何か隠していませんか」とクラウディアさんにいきなり質問される。

 え! まさか、博打で仲間の金をスッカラカンして、盗賊に罪をなすりつけた件がばれたのか?

 やばい! 逮捕されるの? 強制収容所とかに送られんの?

 怖いよー!


「ひえー、クラウディア様、申し訳ありません。私、ギャンブル依存症なんです。これは病気なんです。私が悪いんじゃないんです! 病気が悪いんです! 何とぞお許し願いますう」とあたしはベッドの上で手をついて、頭を下げる。

 あんた、何言ってんのって顔をするクラウディアさん。


「えーと、ポケットに入れている物を見せてほしいんですが」

「へ?」あ、盗賊が落としたペンダントのことか? 

 何で分かるの?

 透視術とか? そういう魔法があんの?

 男のクレリックがそんな術持ってたら嫌だな。


 ペンダントを差し出すと、クラウディアさん凄い厳しい表情を浮かべる。

 ますますビビるあたし。

「あ、あの、これ、例の盗賊が逃げるとき、街道に落としていったものを私が拾ったんです」

 あたしが事情を説明すると、また優しげな顔に戻るクラウディアさん。

「これ、私が預かってよろしいでしょうか」

 何だろう? クラウディアさん、ペンダントコレクターなのか?

 まあどうでもいいや。

 長い物には巻かれろで行くぞ。


「あ、はい、よろしいです。じゃなくて、かまいませんです。いっそ差し上げますでございます、クラウディア様」ペコペコしまくるあたし。

「ありがとうございます」

 美しい顔でニコニコするクラウディアさん。

 笑顔もとっても素敵。

「どうぞ、どうぞ」とあたしはますますへいこらする。


「あと、不用心ですわ。盗賊も出たことですし、部屋の鍵をかけたほうが良いですわよ」

「はい、仰せの通りにいたします」

「では、あなたもお気を付けて。おやすみなさい」

 ベッドの上で、平伏するあたしに優しく声をかけつつ、情報省員を引き連れて、クラウディアさんは優雅に去っていった。


「ふう、疲れた」情報省だから、何か怖いんよ、あの人。政府の役人という先入観があるからかな。

 あたしは一介の泥棒だしね。

 さて、あたしもうら若き十六歳の夢見る乙女だし、部屋に鍵かけよっと。

 引っかかっていたのは、あのペンダントのことか。

 あれ、まだ忘れているような。

 いいや、もう寝る。


 真夜中、宿屋の二階の廊下を歩く音がかすかに聞こえる。

 あたしが寝ている部屋の前で止まった。

 どうやら不審者が来たようだ。

 鍵を開けて、月明りの薄暗い部屋の中に入ってきた。


 そっとベッドに近づくと、膨らんでるベッドカバーにいきなり剣を突き立てる。

「あたしに何か用?」

 部屋の隅に立って、腕を組んでニヤリと笑う。

 よくある展開だけど、ちょっとかっこいいあたし。


 シュッ!

 いきなり剣をあたしに向けてくる、全身黒装束で顔も覆面で隠した不審者。

 殺す気満々じゃん。

「おっと!」

 ギリギリでよけて、あたしは不審者の右腕にナイフでぐっさりと傷をつけた。

「ウグ!」不審者がうめく。

 かなりの深手ね。

 フフン、狭い部屋ならシーフが有利よ。


 と思ったんだけど。

 矢継ぎ早に剣を繰り出してくる不審者。

 あたしは防戦一方。

「クッ!」

 手ごわいぞ、こいつ。

 ちょっとなめたか。

 とにかく逃げる!


 あたしは、部屋の窓をぶち破って、下の街道に飛び降りた。

 月明りの中、集会場に向かって、真夜中の街道を走る。

 多分、追っては来ないだろうけど、念のため、今夜は宿屋には戻らないで集会場で寝ることにした。

 あと、クレリックで情報省の参事なんとかのクラウディアさんに報告しとくかな。

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