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ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険  作者: 守 秀斗
第十一章 うら若きは疲れた二十六歳悄然とする乙女/魔法禁止令編
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第七十一話:魔法禁止令

 あたしの名前はプルム・ピコロッティ。

 ひらきなおるのも疲れてきた二十六歳まだまだ乙女。


 新しい必殺技が進化した。

 両手を使って、一度に十六本の小型ナイフを投げる。

 的に円周上に刺さる。

 凄いでしょ!


 え? 敵が大砲もっていたらって? うーん、それにはかなわないなあ。

 じゃあ、何の役に立つんだって? そうだなあ、宴会芸の役にたつと思う……。


 リーダーとミーナさんが正式に結婚した。

 しかし、式は行わないそうだ。

 そのため内輪で、ちょっとお祝いをすることにした。


 場所は赤ひげのおっさん経営の居酒屋ドラゴンキラー。

 店に行くと、あれ、知っている顔の店員さんがいるぞ。

 セルジオ元大佐だ。

 無職はやめて、居酒屋を手伝っているのか。


 リーダーとミーナさんには結婚祝いとして、ペアグラスを差し上げた。

 あと、赤ひげのおっさんにドラゴンがデザインされたダーツゲームをお土産に持って行った。


 店の隅にダーツを設置。

 即席のダーツ大会になる。


 あたしは五回投げて、百発百中。

 赤ひげのおっさん、ますます丸くなったというか、客商売だからかね。あたしがダーツを真ん中に当てるとセルジオ元大佐と一緒に、「プルムちゃん、凄いぞ!」と大拍手で褒められた。拍手されるのも、「ちゃん」付けでよばれるのも初めて。ビビるあたし。はっきり言って怖いぞ。

 サビーナちゃんは育休で欠席。

 アデリーナさんは来るわけないか。

 ミーナさん、おしとやかに投げるので、的に当たっても刺さらずに落ちてしまう。最後の一本の時、酒に酔ったあたしは、的のドラゴンをアデリーナさんと思ったらどうですかと冗談を言ったら、バシッと、ど真ん中に刺さる。その後、振り返り、あたしを見てニヤリと笑うミーナさん。震えるあたし。もしかして、実はけっこう恐ろしい人かもしれん。

 バルド、まあまあ。

 ロベルト、ど真ん中だったり、思いっきり外したり、最後はなぜか真後ろに投げやがった。後ろに立っていたあたしの顔面に刺さりそうになったところを、危うくよける。

「びっくりさせんな、チャラ男!」とビビっているあたしに、

「ヘッヘッヘッ! すんませんっす、プルムさん」とニヤニヤしながらあやまるけど、こいつわざとじゃないか。警備隊時代に、鼻紙を丸めて顔面にぶつけたり、蛸の足で殴ったり、決裁サインハンコを無理矢理代わりに押させたりと虐めたから、いつか本格的に復讐されるんではないかとビクビクして心配になるあたし。

 リーダー、全部外す。性格が優しすぎるんよ。ダーツでもドラゴンさんには当てたくないんよ。

 その擁護は無理がある、単にヘタなだけじゃないかって? ううむ、そうなのか。けど、何度も言うけど、優しい事には変わらないぞ。



 最近、ジーンズなるものが流行っている。

 洗濯したあと、アイロンをかけんでもいいのが、ズボラなあたしには楽でよい。

 あたし唯一の自慢のすっきりとした脚にもぴったりだ。



 そのジーンズを履いて、出勤途中、大通りでデモ行進が行われているのを見かけた。

 魔法使いの恰好をしている人たちだ。

 あれ、先頭の人、どっかで見た事あるぞ。

 うーん、顔ははっきりと覚えている。

 どっかで会ったんだが。

 どこだっけ?

 会ったことは確かなんだけど。

 名前は全く思い出せんが。


「魔法禁止令反対!」とシュプレヒコールをあげている。

 魔法禁止令なんて、いつのまに出来たんじゃ。

 この首都メスト市は、攻撃魔法は禁止だったけど。

 国中で魔法が禁止になったら、冒険者たちはどうすんだろう。

 

 あれ、アデリーナさんが庁舎から出てきた。

 すっかりショートヘアにしている。

「イヴァーノ・アルベリーニ、見苦しいからやめなさい」と怒鳴っている。


 イヴァーノ・アルベリーニ。

 おお、思い出したぞ。

 レッドドラゴン事件の時に、盗賊討伐隊に参加するため、あたしらのパーティが泊っている宿屋の隣の部屋に泊って、その後、ドラゴンが出現したら、さっさと撤退した人じゃないか。

 十年前かあ。

 なんだか、懐かしいなあ。

 人生あっという間。


 当時はカッコよかった魔法使いの服。

 うーん、昔はカッコよく見えたのに、今見るとださいな。

 今はジーンズの方がカッコいい。

 流行とは不思議なもんですな。


「アデリーナ、お前も昔は魔法使いだっただろ」

「もう時代は変わったのよ」

 ふざけんな、この裏切り者! とデモしている人たちが卵をアデリーナさんに投げつけている。

 それにもめげず説得を試みているアデリーナさん。

 昔の仲間だからかね。

 偉いなあ。

 しかし、アデリーナさん、さっさと公務員に転職して正解だったな。

 あたしが勧めたんだけど。

 しかし、デモ隊の方もだんだんひどくなって、小石とか投げつける奴も出てきた。

 こりゃ、いかんとアデリーナさんを助けに行く。

「アデリーナさん、逃げないと」と官舎の中に連れて行く。


「大丈夫ですか」と卵をハンカチで拭いてやると、

「ありがとう、もういいから」と行ってしまった。

 あれ、何か泣いていたような。

 気のせいかな。


 結局、警備隊がやって来て、デモ隊を抑えている。

 冒険者の時代も本格的に終わりか。

 世の中、変わっていきますね。

 まあ、あたしは泥棒だから。

 泥棒はいつの時代もいるからね。

 開店休業中だけど。

 


 数日後、いつも通りミーナさんと官報整理をやっていたら、安全企画室にずいぶん太った若いご婦人とその旦那さんと思われる人たちが入ってきた。

 はて、誰だろうとよく見ると、サビーナちゃんではないか。

 すると、隣の若ハゲの男性は、まさかダリオさん!


「ご無沙汰です、プルムさん、ミーナさん」

 サビーナちゃん、太りすぎじゃないのか。

 まるで、別人だぞ。


「プルムさん、変わらないですね、いつまで経っても若いなあ」

「アハハ、そう」

 あんた変わり過ぎだよ!


「プルムさん、お久しぶりです」

 すっかり髪の毛が後退して、お腹も出ているダリオさん。

 ゾンビ退治の時から、五年しか経ってないけど、えらい変わりようだなあ。

 まあ、お二人仲良さそうなんで、なによりです。


「今日はどうしたの」

「育休の手続きです。ついでにプルムさんたちにも挨拶しようと思ってきたんです」

 ソファで昔話に花を咲かせていると、パオロさんが入ってきた。

「お手伝いしましょうか」といつものようにブランドチョコを持って部屋に入ってきた。

「ありがとうございます」とあたしは受け取る。


 パオロさんが会議用机に座って、官報整理を手伝っていると、すぐその後に、フランコ長官とクラウディアさんが入ってきた。

 今日のクラウディアさんのファッションは、白いブラウスにオーガンジーフラワースカート。犬はどこだと探すと、耳飾りに犬が居た。


 フランコ長官にゾンビ退治で活躍したダリオさんを紹介すると、

「いやあ、ゾンビ事件の時は大変お世話になりましたな、ハッハッハ」と相手が偉い大学の教授と分かるやいなや急に愛想が良くなるおっさん。

 外面はいい人だからな、この四角い顔のおっさんは。

 あたしには怒鳴ってばかりなのに。


「ところで、何用でしょうか? 長官」

「百年前の官報を見たいのだが」


 部屋のファイルキャビネットを見せると、

「きれいに整理されてますね」とクラウディアさんが感心している。

 少しは、見習ってほしいね、情報省参事官殿。

 あんたの部屋、書類がメチャクチャじゃないか。

 そのうち、大地震が起きて、書類に埋もれて窒息死しても知らんぞ。


「こういうこともあろうかと、私が整理させているんですよ」と偉そうなフランコ長官。 

 本当かよ、あたしが着任した時、何もやらせることが無いから適当に仕事を作って、あたしに押し付けたんじゃないのか、四角い顔のおっさん!


 しかし、百年前の官報なんて、何で見るのかねとあたしが思っていると、ドカン! と部屋の扉が開いた。

 アデリーナさんだ。

 ドスドスと歩いてくる。


 一同、唖然としていると、クラウディアさんが真っ青な顔で怯えて、フランコ長官の陰に小さくなって、震えて隠れている。

 クラウディアさん、またポカでもやったのかなあと思っていたら、

「フランコ長官!」とアデリーナさんが怒鳴りつける。


「魔法禁止令は拙速すぎるんではないんですか」

「いや、これは政府全体で決めたものですから」と珍しくフランコ長官がビビっている。

「冒険者の人たちの生活については、どうお考えなんですか」

「いや、失業対策は、一応考えているんですよ、アデリーナ参事官殿」


 あれ、いつの間にかアデリーナさん、参事官に出世しとる。

 って、参事官ってどれくらい偉いのかいまだによくわからんのだけど。


 そこに、ミーナさんがすっと立って、

「アデリーナ参事官、今、仕事中なので、怒鳴るのは止めていただけますでしょうか。はっきり言って、あなたの声は騒音です。そんなんだから、わたしの主人が病気になったんです」なんて言うもんだから、

「何ですってー!」と両者掴み合いの大喧嘩。

 ついには首を絞め合っている。


 しかし、この部屋にこんなに人が居るのって初めてじゃないか。

 いつもは閑散としているのに。

 八人も居るぞ。

 以前に居た、トイレの隣の元清掃用具倉庫部屋だったら、窒息死してるな。

 なんて、考えている場合ではない。


「ちょ、ちょっと、仕事中ですよ、やめてください」と二人の喧嘩を何とか止める。

 結局、アデリーナさんはブツクサ言いながら出て行った。

 何だろう。

 あの人、ストレス溜まっているのかなあ。


 サビーナちゃんとダリオさんもびっくりしつつ、帰っていった。

 ところで、なんで魔法が禁止になったのだろう。

 フランコ長官に聞いてみるか。


「なんで、魔法が禁止になったんですか」

「モンスターが居なくなったからだ」

「何で居なくなったんですか」

「理由はわからんが、とにかく居なくなってしまったんだよ」

「つまり、モンスター退治の仕事をおもにしていた冒険者は、もう必要ないってことですか」

「まあ、そういうことだな。一応、回復系の魔法は許可証を発行することにして、合法にしたんだけどな」

 食べるのに困った冒険者の犯罪が増えているようだ。

 盗賊集団になったりしているらしい。

 そういうわけで、魔法が禁止になった。

 いずれ、剣や斧、弓矢などの武器も携帯禁止になるかも知れないようだ。


 フランコ長官が百年前の官報を取り出し、

「お前も一緒に官房長官室に来てくれ」と言われた。

「わかりました。すいません、その前にちょっとトイレに行っていいですか」

 安全企画室の近くの豪華なトイレで用を足しながら、あの人の態度、おかしいんだよなあと思うあたし。

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