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ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険  作者: 守 秀斗
第十章 うら若きは心しだいの二十五歳リータンマッチする乙女/スポルガ川の汚染対策編
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第七十話:チャラ男と一緒にフェデリコさんの豪邸を訪問する

 サビーナちゃんが産休に入った。

 安全企画室はあたしとミーナさんの二人だけ。

 なんか静かだ。

 ミーナさんは大人しいからなあ。

 フランコのおっさんからも、新しい指令は来ない。


 警備隊のバルドから、大学からのスポルガ川検査結果を持ってくると連絡が来た。

 部屋で待ってたら、チャラチャラした足音が聞こえてきたぞ。


「こんちわ~っす、おお、これが安全企画室っすか。スゲー豪華な部屋っすねえ」と顔を出したのは、チャラ男ことロベルトだ。

「ご無沙汰っす、ミーナさん」とはしゃぎながら挨拶するチャラ男。


 ふかふかの絨毯の上で、ひょいひょいと跳びあがって、喜んでいる。

「まるで雲の上を歩いている感じ。プルム室長の顔には、似合わない部屋っすねえ」

 部屋と顔は関係ねーだろ!


「ロベルト、何しに来たんよ」

「検査結果っすよ、大学からの」

「え、あの作業、あんたの分隊がやったの」

「いや、あっしの分隊も含めた第五小隊っす。まあ、くじ引きで負けたんっすけど。みんな嫌がってましたっす。それで、アギーレ小隊長は休職しているんで、あっしが主導して行いましたっす」

「おいおい、ちゃんと採取したの?」

「ちゃんとやりましたっすよ」とヘラヘラしているロベルト。

 大丈夫かね。

 

 検査結果を見ると完全に基準をオーバーしてる工場がいくつかある。

 調べると、全部フェデリコさん所有の工場だ。

「やい、チャラ男、本当に真面目に採取したの」

「もちろん、かの有名なドラゴンキラーことプルム室長殿のご命令ならと張り切ってやりましたっすよ」

 本当かよ、テキトーにやったんじゃないか。

 それから、川の汚染検査とドラゴンキラーは関係ねーっちゅうの!

 けど、あのフェデリコさんの態度を思い出した。

 うーむ、だから、あの封筒持ち出したのか。


 検査結果と、ついでに内務省が二年前に行った報告書を持って、フランコ長官の部屋に行った。

 またまた悩む長官。


「もしかしたら、二年前の内務省の調査の時も賄賂で誤魔化した可能性もありますね。二年の間隔が空いているとはいえ、検査結果が全然違いますもんね」

「いや、そこまでだ! それ以上考えるな!」とおっさんが焦っている。

 大人の世界は大変やね。

 あたしも、もう大人だけど。

 大人だけど乙女だけどさ。


「ちょっと考える」と、どうもはっきりしないフランコのおっさん。

 仕方が無いので、部屋に戻ると、まだロベルトがいた。


 ロベルトが窓のカーテンを触って、

「やっぱ高級品はいいっすねえ。あっしの家のペラペラのカーテンとは全然手触りが違うっす」とかベラベラ喋っているが、ミーナさんは適当に対応している。

 チャラ男はいつまで経ってもチャラ男。

 こっちは深刻な問題を抱えているっていうのに。


「どうしたんすか、プルム室長。元気がないっすねえ」

「うるせーよ、こっちは悩んでいるんだよ」と協力してくれたロベルトにひどい態度を取る相変わらず最低なあたし。


「なに悩んでいるんすか」

「自警団長の工場が基準を超えてんだよ!」と怒鳴る。

 なぜかロベルトにはひどい態度のあたし。

 怒鳴り癖がついてしまったのか、チャラ男だけには。

 ロベルトは全然気にしてないようだけど。


「検査結果と工場の排水を持って行って、見せればいいんじゃないすか。自警団長本人は知らないんじゃないすか」とロベルトがヘラヘラしながら言った。

 そんなわけねーだろ。

 ったく、チャラ男は気楽でいいなあ。


 しかし、この前のフェデリコさんの脅しみたいな態度には、ちょっとカチンときたのも事実ではある。

 一言文句いってやるか。

「ちょっと、チャラ男、自警団長の家まで一緒に来てくれる」

「へ、何の用すか」


 デシーカさんの工場に寄って、排水をバケツに入れてロベルトに持たせる。

「プルム室長、重いっす、おまけに臭いっす」

「我慢せい、チャラ男。だいたいお前のアイデアだろ」とロベルトを下僕扱いするひどいあたし。


 フェデリコさんの豪邸を、再訪問。

「ああ、これはプルム室長、何用ですか」

「工場排水の件です」


 応接室に通されて、検査報告書を見せる。

「基準を守って下さいよ、この水はフェデリコさんの工場から取ってきたものですよ」

「いや、守ってますよ」

「この報告書では完全に超えてますが」

「検査が間違っているんじゃないですか」

「すごく臭いですけど」

「無害ですよ」


 のらりくらりと話をそらすフェデリコさん。

 どうも、話がうまくまとまらない。


 終いには、

「最近、私も年のせいか、体のほうも調子が悪くなってきたと言うか、つらいんですよねえ。自警団長の仕事がそうさせているんですかねえ」と何気にとぼけた感じでフェデリコさんが言った。

 やはり、そうきたか。

 やめられると困るんだよな。

 長年、自警団長をやっていたので、ひょっとしたらいろいろとやばい話も知っているかもしれない。


 仕方が無い。

 一旦、帰ることにした。

「プルム室長、この水はどうしますか、重いっすよ」とチャラ男が文句を言っている。

「どっかに捨てればいいんじゃね」といい加減なあたし。

 玄関まで行くと、あれ、ロベルトがいない。


 戻ると、ロベルトがバケツの水をフェデリコさんの庭の池に流している。

「おい! チャラ男、何やってんの!」

「だって、捨てればって言ったじゃないすか」

「ここで捨てろって言ってねーよ」

 何考えてんだ、このチャラ男は。


 あれ、池の鯉がプカーと浮かんできた。

 鯉が全滅しちゃった。


「おい、どーすんだよ、チャラ男! この魚、錦鯉って言って、多分、一匹百万エンはするぞ」

「だって、フェデリコさんが無害だって言ったじゃないすか」と言いつつも珍しくうろたえているロベルト。


 気が付くと、後ろに、フェデリコさんが憮然とした顔で立っていた。

 焦るあたし。

 やばい、どうしよう。

 逃げるか。


 しかし、フェデリコさん、浮かんだ魚を見ながら憮然としながらも、

「分かりました、改善します」と言った。



 戻って、フランコのおっさんに報告。

「とにかく、フェデリコさんは改善すると約束してくれたわけだ」と喜んでいる。

「えーと、封筒の件はどうしましょうか」

「シッ、喋るな! 私は聞いてないし、お前は見ていないし、フェデリコさんは賄賂なんぞ誰にも渡していないぞ!」

 うーん、確かに封筒は見たけど、お金は見てないんだよな。

 まあ、この件は、見ざる聞かざる言わざるなのか。

 いいのかね。

 これが大人の世界かね。


 その後、フランコのおっさんが張り切って、各省庁まで巻き込んで、スポルガ川の汚染対策を進めた。

 工場排水の規制強化。

 排煙まで規制を始めた。

 ミーナさんの意見も取り入れて、スポルガ川の上流に用水路を設置、他からきれいな川の水を導入。メスト市の下水道に浄化槽もつける計画だ。

 環境保護キャンペーンまで始めた。

 だいぶ、お金と時間がかかりそうだけど。

 国家予算のほうは大丈夫か。

 アデリーナさんが、またヒステリーを起こしかねないな。

 しかし、何だか今回は釈然としないお話でしたね。


 さて、スポルガ川の件は終わったし、あたしの方は釈然とするぞ。



 今日は休日。

 昼前にリーダーのご自宅に行って、お見舞いついで、外のレストランか喫茶店に連れて行く。

 そこで、告白だ!

 リターンマッチだ!


 ドキドキしながら、リーダーのご自宅の扉をノックする。

 扉が開いて、リーダーが出てきた。

「お、プルムじゃないか。どうしたの」とにこやかな表情。

「あ、あのお見舞いにまいりまして」

 リーダー、この前見たのとちがって、無精髭もないし、髪もきちんとしている。

 服装もちゃんとして、顔色も良い。

 病気治ったのかな。


 あれ、台所で誰か料理を作っている。

 女性が振り向く。

「あ、プルムさん、こんにちは」

 エプロン姿のミーナさんがいた。

 ま、まさか、まさか。

「ああ、俺、今ミーナと一緒に暮らしているんだ」



 今、あたしは寮に帰って、自室の入り口でへばっている。

 部屋に入って力尽きて、ベッドまで行けなかった。

 飲み屋をはしご。

 やけ酒よ、やけ酒。

 ミーナさんは、スポルガ川を調査するため蒸気船で川を下ってた際に、体調が悪そうなリーダーを見て心配になり、その日のうちにリーダーの家に行ったそうだ。

 で、なるようになったと。


 あの時、ミーナさんじゃなくてサビーナちゃんを連れて行ったら、どうなっていただろうか。

 考えても仕方が無いか。

 ミーナさんは全く悪くないもんな。


 もう、どうでもいい。

 そのまま入り口で寝る。

 高熱を出した。

 インフルエンザに罹って、寝込む

 二週間休んだ。

 死ぬかと思ったぞ。

 


 やっと治って、出勤した。

 ミーナさんが病み上がりのあたしにいろいろと気遣ってくれる。

 優しい人だなあ。

 リーダーとアデリーナさんが結婚したときは嫉妬の嵐だったけど。

 今、そんなに感じないなあ。

 

 まあ、この二週間、ベッドの上で寝込みながらも、あたしはいろいろと考えたんよ。

 リーダーには、アデリーナさんのようなキツイ人や、あたしみたいないい加減女より、ミーナさんのような優しくて、穏やかな人が合ってるのかなと。

 まあ、あたしは潔く身を引くことにする。

 リーダーの幸せのためよ。

 そんな風に思うあたしも大人になったのかな。


 なんて、考えていたら、突然、部屋の扉がドカン! ともの凄い勢いで開いた。

 アデリーナさんだ。

 ドスドスと鬼の形相で、ミーナさんの方に歩いてくる。

 

 唖然としているミーナさんの顔面を、いきなり平手打ちする。

「いやらしい女ね、この泥棒猫!」

 

 あたしはびっくりして固まる。

 なんなの?


 しかし、ミーナさんは静かに立ち上がって、毅然とした態度でアデリーナさんに言い放った。

「あなたにアギーレさんは合いません。彼が体調不良になった原因は全てあなたにあります」

「なんですってー!」

 二人で掴み合いの大喧嘩。


「ちょ、ちょっと、二人とも落ち着いて!」

 あたしは慌てて、止めに入る。


「あ、あの、アデリーナさん、リーダーと離婚したはずじゃなかったんですか」

「そうだけど、だからと言って他の女に取られるのは嫌なの!」

 ひえー、アデリーナさん独占欲強すぎ!


「プルムには関係ないでしょ」とアデリーナさんに怒られる。

「プルムさんには関係ないです」とミーナさんからも文句を言われる。


「ウギャ!」

 結局、止めに入ったあたしがいちばんひどいケガをしてしまった。

 アデリーナさんはミーナさんを散々罵倒して、部屋から出て行った。


「大変申し訳ありません」とミーナさんに手当されながら、謝られる。

「アハハ、いいですよ。たいしたケガじゃないし」


 しかし、こんな恋愛の修羅場は初めて見るぞ。

 うーん、あたしのイメージする純愛とは程遠い。

 メロドラマ小説みたいなドロドロ展開。

 

 実際は、こういうもんなのですかねえ。

 え? 恋愛とはそういうもんだって? そうなんか、あたしはやっぱりまだ子供なんか。

 


 寮に帰る。

 やれやれとベッドに横になる。

 しかし、今頃になって、なんだかムカついてきたぞ。

 まあ、身は引くけどさ。

 アデリーナさんとミーナさんに、あんたには関係無いって言われたけど、この三人のなかでリーダーを一番最初に好きになったのは、このあたしじゃん。

 何なのよ、二人とも偉そうに。

 ああ、疲れた。


 寝る。

次回から「第十一章 うら若きは疲れた二十六歳悄然とする乙女/魔法禁止令編」に続きます。

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