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ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険  作者: 守 秀斗
第八章 うら若きは苦しい二十三歳混乱する乙女/皇太子御夫妻結婚パレード編
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第六十三話:近衛連隊との調整会議とか警備隊の会議とか乗馬の訓練とか忙しいあたし

2020/11/4 誤字訂正

 翌日。

 近衛連隊の幹部連中と、皇太子殿下の結婚式やパレードの警備について調整するための会議が開催されるので、王宮の三階にある大会議室へ行くことにした。

 会議室に入った途端、ウォ! 何だか空気がすごく重いぞ。


 でっかいテーブルの反対側に近衛連隊の幹部連中がズラリと座っているんだけど、全員、あたしが入った途端、親の仇が来たみたいに、睨みつけてきた。

 幹部連中の真ん中には、例のスーパーモデルみたいなオリヴィア近衛連隊長が無表情で座っている。

 思わず、反転して帰ろうかと思ったが、フランコのおっさんが手招きしているので、仕方が無く隣に座る。


「王室関係の行事は、今まで全て近衛連隊が仕切っていたはずなんですが、なんで今回は王宮警備隊が行うことになったんですか。だいたい、この王宮警備隊って、まだ出来てないとのことですが、そんないい加減な事をしていいんですかね」と近衛連隊副隊長なる人が文句を言い出した。隊長のオリヴィアさんは黙っている。


「まあまあ、みなさん落ち着いてください。皇太子御夫妻が乗っておられる馬車の前を先導するわけですが、オリヴィア近衛連隊長は美しすぎて、目立ちすぎるんですよ。今回は皇太子殿下の結婚式、特にカクヨーム王国からきたお妃様に市民の注目を集めたいんです。その点、プルム隊長なら誰も見向きもしませんから」と横に座っているあたしを指さして笑うフランコのおっさん。

 会議場のみんなが全員、ゲラゲラと笑う。

 おい、ふざけんな! 四角い顔のおっさん!

 そういう事を企んでいたのか!


「プルム隊長も、是非お任せくださいと言っております」

 だから、おっさん! あたしはそんな事、全然言ってねーよ!


 結局、フランコのおっさんの口八丁に押し切られて、王宮から教会までは近衛連隊が先導、教会の結婚式終了後のパレードは王宮警備隊が警護するということで、何とか話が落ち着いた。近衛連隊の連中は、一応承諾したが、不満そうな顔で帰って行った。


 ん? 帰り際にオリヴィア隊長が一瞬、こっちを振り向いたぞ。

 やばい、またアホ毛が立っている。

 って、アホ毛なんかにかまってられん。


「フランコ長官、あのー、私は馬に乗れないんですが」

「だったら練習すればいいじゃないか、お前はドラゴンキラーだから大丈夫だろ」と機嫌よく会議場を出て行く四角い顔のおっさん。

 またドラゴンキラーかよ。

 ドラゴンキラーは万能薬じゃねーよ。

 なんでも簡単なことみたいに言うんだから、このおっさんは。

 あと二週間しかないだろ!


 とりあえず、本部付きの警備騎馬隊改め王宮警備隊へ挨拶に行った。

「えーと、安全企画室長のプルム・ピコロッティです。この度、王宮警備隊長を併任で任命されました。よろしくお願いします。皇太子殿下御夫妻のパレードの警護を任されましたので、みなさんご協力お願いします」

 約四十名の隊員のみなさんが、ちょっと戸惑っている。

 なんせ新しい隊長が馬に乗れないんだから。

 あたしだって嫌なんだけど。


 翌日の早朝から、あたしは馬を乗る猛特訓を始めた。

 警備隊本部の裏に馬舎があって、その前に乗馬の訓練場がある。

 一番大人しい馬を用意してもらったのだが、実際に乗ってみると、想像以上に地面から高くて怖い。

 つい、猫背になってしまう。


「もっと背筋を伸ばしてください」と馬の訓練士に注意された。

 しかし、本番は猛スピードで走ることはなく、わりとゆっくりと走るんで何とか大丈夫かな。

 だいたい、フランコ長官に言わせれば、あたしは目立ってはいけないんだろ。

 猫背でうつ向いてた方がいいんじゃね。


 それにしても、結婚式まであと二週間だってのに、まだパレードする道も決まってない。

 いいのかねとあたしが疑問に思っていたら、今度は首都警備隊の会議に呼ばれた。


 警備隊本部の会議場に行くと、バルドがいた。

「お久しぶり! バルド大隊長殿」

「あ、プルム、何で出席するの?」

「王宮警備隊から出席よ」

「そんなのあったっけ」

「フランコのおっさん、じゃなくて、官房長官の陰謀なんよ。あのおっさんが勝手に作ったんよ」

「なにそれ」

「まあ、それはともかく、まだパレードの道も決まっていないの?」

「実は決まっているけど、発表できないんだよ」

「なんで」

「脅迫状がきたんだ」


 どうも、カクヨーム王国の妃を迎えるのに反対している連中もいるらしい。

「教会で殺してやるって手紙が来たんだ。ほかにも非難する手紙が大量に送られて来てる」

「なんで反対すんの?」

「何度も戦争したカクヨーム王国の女性と結婚するなんて許さんって政治団体が騒いでいるんだよ。おまけに、その団体と対立している連中とケンカになったり騒ぎになっているんだ」

 この前、ラーメン屋の前の大通りで騒いでいた連中かな。

 どっちも迷惑な連中やね。


「一般人への発表は三日前くらいを予定しているみたいだ」

「ふーん」

 しかし、これはうつむいて馬に乗ってる場合ではないな。

 皇太子殿下とお妃様を守らないと。


 会議で皇太子御夫妻の結婚式とその後に行われるパレードの説明が行われた。

 まず、東地区警備隊が管轄している、王宮から出発。

 オリヴィア近衛連隊長が先導して、屋根付き馬車で近衛連隊が周りを守りながら、式場の教皇庁にある教会を目指す。

 まだ式をあげてないので、屋根付き馬車であまり周りに見えるようにはしないそうだ。

 実際は、皇太子御夫妻は一緒に乗ってるけど。

 

 教皇庁の大きい広場に面したナロード大教会に到着。

 ここで、皇太子御夫妻が馬車から降りて、教会に入場し、式をあげる。

 例の脅迫状は、「教会で殺してやる」ってあったから、ここではかなり厳重な警備になるみたい。


 さて、式が終了すると、いよいよ、あたしの出番となる。

 近衛連隊から引き継いで、皇太子御夫妻を先導するのだが、この際、雨が降らない限り、御夫妻は屋根なしの馬車に乗り換える。

 市民に顔をよく見せるためだそうだ。


 うーん、屋根付きの方が警護はやりやすいんだが、これは仕方が無い。

 その馬車で、あたしが馬で先導して首都をパレード。

 周りをあたしの部下の王宮警備隊員が一緒に馬で走る。

 パレード中は各警備隊がほぼ全員動員されるようだ。

 南地区、西地区、北地区を回って、最後に東地区の王宮に戻る。

 ざっとこんな感じ。


 昼頃、会議が終わると、バルドに声をかけられた。

「王宮警備隊長って、プルムなの」

「そうなんよ。併任だけど」

「プルムがパレード先導するのか。たしか、馬に乗れないんじゃなかったか?」

「だから、今、猛特訓してんのよ」

「いくら名誉だからって、馬に乗れないのに立候補するなんて無茶じゃないの」

 立候補なんかしてねーちゅうの!

 どうやら、いつの間にか、そういう話になっているらしい。

 これもフランコ長官の陰謀か。

 やれやれ。


 警備隊本部を出ると、大通りで例の政治団体が騒いでいる。

「皇太子殿下結婚反対! 汚らわしいカクヨーム人の血をナロード王室に入れるな!」と眼鏡をかけた小太りのおっさんがメガホンでわめいている。

 随分、差別的な発言をするおっさんやねと眺めていたら、

「戦争反対! 差別反対! 暴力反対! この豚みたいに太ったヘイト野郎、死ね!」と叫びながら、これまた眼鏡をかけたやせっぽちの女が瓶を投げた。

 ありゃ、火が点いているぞ。

 火炎瓶じゃん。

 爆発して、大混乱。

 二つの政治団体が殴り合いになって、暴動状態。

 全然、暴力に反対してないじゃん。

 警備隊員が大勢やってきて、静めようと大騒ぎになっている。


 まさか結婚式当日もこんな騒ぎを起こす気じゃないだろうな。

 あたしが心配していると、あれ、いい香りがしてきたぞ。

 後ろから眩い光が。


 振り向くと、情報省参事官のクラウディアさんが立っておられた。

 今日のファッションは白黒水玉模様のロング丈ワンピース。かわいい。

 リボンベルトが犬柄だ。


「プルムさん、お久しぶりですね。ボルド地域のドラゴン退治お疲れ様でした」

「いや、あれはニエンテ村のドラゴンさんたちが助けに来てくれただけなんですけど。って、クラウディア様のとこにはその情報行ってないんですか」

「え、そうだったんですか。こっちにはプルムさんがドラゴン四匹を退治したって情報がきてますけど」

 おいおい、どんどん話が膨らんでいるじゃないか。

 どうなってんの。

 もう、なんかどうでもよくなってきたな。


 おっと、あたしのことより、皇太子御夫妻の結婚式の方が心配だ。

「クラウディア様、結婚式当日も、あの連中は暴れたりするんですか」

「それはないと思いますよ。今のところ、あの方々や他の政治団体からも、皇太子御夫妻に危害を加えようとする計画などの情報は一切入ってないですから」

「あ、そうなんですか。それにしては激しく暴れてますけど」

「まあ、実際は目立ちたいだけのようですね。休日には一緒に飲み会とかやってるようですよ」

 何じゃ、そりゃ。

 プロレスかよ。


「けど、殺してやるって脅迫状が来たみたいですけど」

「あ、それは聞いています。それは政治団体ではないようなんです。情報省も犯人を捜しております」

 そうなのか、個人的なテロリストかもしれないな。

 うーむ、当日は真面目にやらんといかんなあ。


「ところで、なぜこんなところにおられるんですか?」

「昼食でラーメンを食べた帰りです」

「へ、ラーメン」

「美味しいですよね、あの大通りのラーメン屋さん」とニコニコしているクラウディアさん。

 うーん、完璧美人のクラウディアさんがラーメン食べるのって似合わないなあ。

 まあ、ラーメンって美味しいけど。

 

 さて、猛特訓のおかげか、何とか、背筋を伸ばして馬に乗れるようになった。

 ちょっと、予行演習でもするか。

 部下数名を連れて、予定コースを馬で通ってみる。

 今日は、人通りは少ないが、当日は大勢いるだろうな。

 不安でしょうがない。

 スポルガ川の橋を渡る。

 

 あれ、橋の下で数人の男性が何やら作業をしている。

 怪しいぞ。

 馬を降りて職務質問すると、内務省の人たちだった。


「スポルガ川の汚染検査です」とのことだった。

 内務省とは、そんなこともやっているのか。

 そういや、スポルガ川が少し汚れてきたような気がする。


 さて、予行演習は特に問題なし。

 けど、もし、当日緊急事態が起きたら、どうしよう。

 不安で眠れない毎日。

 と言いつつ、寝た。

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