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ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険  作者: 守 秀斗
第七章 うら若きはちとつらい二十二歳憮然とする乙女/国境警備隊編
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第六十一話:初デート

 ドラゴンも退治されて、その件についてもフランコのおっさんがカクヨーム王国に連絡したらしく、国境も平和になりました。


 しかし、退屈。

 このど田舎は賭博場も無い。

 仕方が無く、単なる視察やら見回りのルーチンワーク。


 こうやって年を取っていくのか。

 もう、首都メスト市に帰りたいので、フランコのおっさんに連絡しても、忙しいから、とりあえず念のためそこにいろって。

 どうも、例の皇太子殿下とカクヨーム王国の女性との結婚話の調整で忙しいらしい。

 ただ、時間が過ぎていく。

 

 え? 恋愛はどうしたって? う~ん、最近、疲れてんのよ。

 眠い。


 眠いなあと、うつらうつらしていたら、ランベルト副隊長があたしの執務室に入って来た。


「プルム隊長、明日は休日ですよね」

「えーと、そうですね」

「明日、二人で湖に行きませんか」

「はあ、視察ですか」

「近くに素敵なお茶屋さんがあるんですよ」

「ああ、そうですか。わかりました」

「では、失礼します」

「はい、お疲れ様です」


 あたしも宿舎に帰る。

 さっきの会話を冷静に考える。

 えーと。


「休日に」

「二人で」

「湖の近くの」

「素敵なお茶屋さんに」

「行く」


 こ、これ、デートの誘いじゃない! 

 ヤッター! 神はあたしを見捨ててなかったわ。

 初デート! 初デート!

 純然たる本当のデート! 

 マジにデート!

 二十二歳にして初デート! 

 舞い上がるあたし。

 乙女心がヒートアップ! 


 部屋を飛び跳ね、ベッドヘタイブ! 

 ベッドの上をゴロゴロ転がる。

 ベッドから落っこちて、部屋の隅まで転げていく。


 何、着ていこう? 

 お化粧はどうしよう。

 ちょっと、化粧してみた。

 ピエロになった。

 だめだ、こりゃ。

 

 一旦、顔を洗ったら、すっぴんのほうがいいじゃない。

 悩んだすえ、ナチュラル・メイク。

 普段すっぴんだから、それでいいや。

 くそー、もっと化粧の練習しとけばよかった。


 その代わり、かわいいスカートを履こう。

 って、急に派遣されたから、そんなもん持ってこなかったぞー!

 仕方が無い。


 一番マシな、上は白いシャツ、下は水色パンツ姿にした。

 うむ、一応、清潔感はあるな。

 かわいいポシェットを持って行く。


 翌日。

 待ち合わせ場所の近くの大きな木に上って、双眼鏡で監視するあたし。

 五時間前に来た。

 昨日は緊張で眠れんかった。

 もしかしたら、ふざけていたのか、だましていたのか、からかっていたのか、はたまたドラゴン秘儀団の残党がまだ残っていて復讐に来たのか。


 あ、ランベルトさんが来た。

 ホントに来た! 

 約束の時間の五分前。

 現実よ!

 五分ほど待つ。


 よし、突撃だ!

 ちょっと小走り。

 まるで今着たように、さりげなく近づく。

 ランベルトさんがあたしに気付く。


「ごめんなさい、待った?」

「いいえ、ちょうど今来たところですよ」と微笑むランベルトさん。

 くう~、この会話、このシチュエーション、何度夢見てきたことか。

 三千回は妄想してたぞ。

 ガッツポーズをしたくなるが、我慢する。


 湖でボートに乗る。

 夢にまで見たこのシチュエーション。

 周りは、きれいな湖の風景。

 ボートだ! ボートだ! 

 イケメンと二人っきりでボートだ!

 本当に夢じゃないのか。


 ランベルトさんがお勧めの、湖近くの素敵なお茶屋さんに入る。

 うっ、しまった。!

 待ち合わせ場所に五時間前に来たので、トイレに行きたくなった。

 う~ん、我慢できない。

 けど、恥ずかしい。

 言いだせん。

 ああ、けど我慢出来ない。

 漏らすよりはましだ。


 トイレ以外で、もっといい単語があったはずだ。

 頭が悪くて、緊張しているあたしは度忘れ。 

 便所だっけ。

 違う。

 化粧直しかな。

 けど、ほぼすっぴんだもんなあ。

 そうだ、お手洗いだ。


「ごめんなさい、ちょっとお手洗いに行ってきます」と言って席を立つ。

 今のセリフ、自然よね!


 トイレで用を足す。

 ああ、すっきりした。

 鏡を見ると、ゲッ! またアホ毛が立っている。

 クソー! いつの間に。

 

 トイレでアホ毛を直していると、なんだか店で騒ぎが起きている。

「なんなのよ、あのちんちくりんの女は」

 ちんちくりん?

 もしかして、あたしのことか。

 何のこっちゃ。


 トイレから出ると、ランベルトさんと女が言い争いをしている。

「あのー、どちらさまですか」とあたしが聞くと、

「ランベルトの妻だけど」

 へ?

 結婚してたの、ランベルトさん。

 じゃあ、浮気じゃないの。


 あたしがびっくりしていると、もう一人の女が、またランベルトに近づいて来た。

「あんた、独身じゃなかったの」ってランベルトさんに怒っている。

 きょどっているランベルトさん。

  

 憮然とするあたし。

「私は、降りますので」と言って、怒って、さっさと帰る。

 残りで言い争いをしているけど、もう知らん。


 せっかくの初デートが悲惨な思い出になってしまった。

 三股かけられた。

 いやなん股かわからない。

 イケメンだから仕方がないのかね、まあ、女として見てくれてありがとう。

 じゃねーよ!


 その後、ランベルト副隊長とは事務的な関係になった。


 今回はあたしが振ったってことになるんかな? 

 どうでもいいけど。

 どっちにしろ、恋愛不成立。

 恋愛活動連敗記録を更新してしまった。

 人生ちとつらくなってきた。


 え? もうあきらめろって? うるさい!

 クソー! 純愛よ、純愛!

 純愛、純愛、純愛、純愛、純愛!

 とにかく純愛を貫き通すの!

 とは言うものの……。


 突然、鼻くそ男の顔が浮かんでくる。

 チェーザレだ。

『妙にこだわると処女をこじらせて、ずっとそのまんまだぞ』

 ウルセー! と叫びたくなったが、最近、弱気なあたし。


 イケメンばっか追い回しているからそうなるんだって? 

 外見だけじゃないぞって?

 だいたい、自分の顔覚えているのかって? 


 うるさいぞー!

 

 とにかく、イケメンは心もイケメンじゃないと。

 え? そんなイケメンはいないって?

 女の方から近寄ってくるって?

 だいたい、お前もイケメンに近寄っているじゃないかって?

 仕方がないぞって?


 うーん、そうなのかなあ……。

 

 いや、リーダー。

 リーダーは誠実な人よ。

 やはりリーダーこそ、あたしの理想よ!

 

 純愛原理主義者とか言って、リーダーに懸想しながら他のイケメンを漁るとは、どこが純愛なんだって? うぬぬ、そうかもしれん。

 だいたい、リーダーはアデリーナと結婚してんじゃんって? そうだよなあ。

 ううむ。

 なんだか暗くなるあたし。

 これから、あたしの恋愛活動どうすればいいんじゃ!

 


 ある日、王国官房室から電報が届いた。

『ナロード王国王宮警備隊長(併任)に任命する。至急戻られよ』


 また異動か。

 まあ、ここは飽きた。

 もう清々したわ。

 賭博場も無いし。


 あれ、王宮警備隊なんてあったっけ?

 あと、また併任かよ。

次回から「第八章 うら若きは苦しい二十三歳混乱する乙女/皇太子御夫妻結婚パレード編」に続きます。

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