第六十話:ドラゴン襲来
深夜、ベッドでボケーっと寝てたら、男性数人の足音が聞こえてきた。
誰だろう。
ノックの音がした。
眠いなあと思いながら、ドアを開けると、バルトロ第二副隊長と数人の男性が立っていた。
「こんな夜中になにかあったんですか」と聞いたら、いきなり首を叩かれて、気絶。
気が付くと、あたしはパジャマ姿で、非武装地帯に縄で縛られて、地面に置かれている。
バルトロ第二副隊長が懐中電灯であたしを照らす。
「ちょっと、なんでこんなことすんのよ」
「おい、ドラゴンキラー、俺たちはドラゴン秘儀団のメンバーだ。よくも、ニエンテ村では仲間を大勢殺してくれたな」
ゲッ! こいつらドラゴン秘儀団の残党かよ。
「あれは、レッドドラゴンが攻撃したんじゃないの」
「同じことだ」
同じじゃねーだろ! お前らの自業自得じゃねーか。
だいたい、あたしはドラゴンキラーじゃねーよ。
ちょっと、塔を上ってドラゴンペンダントを外しただけだよ。
「あんたの目的はナロード王国とカクヨーム王国の戦争なの」
「その通り。ドラゴンキラーのお前が、ドラゴンを使ってカクヨーム王国に攻撃したことにする。そうすれば戦争になる。両国とも滅べばよい」
「ふざけんな!」と叫んで、シーフ技で縄を解こうとするが、ドラゴン秘儀団の連中が銃で狙っているので、動けない。
バルトロ第二副隊長の後ろに、暗くてよく見えないが、背が高いダークスーツの男がいる。
ダークスーツの男!
またか。
「では、お願いします」とバルトロが頼むと、そいつが、すこし指を動かした。
あれ、こいつドラゴンペンダントは持ってないぞ。
どうやって、ドラゴンを操っているんだ?
何て、考えていたら、非武装地帯に咆哮が轟き渡る。
ドラゴンが出現した。
通常とは言え、やはりデカい。
鱗は緑色っぽい感じ。
翼をバッサバッサと羽ばたかせて、あたしに近づいて来た。
ひえー、あたしは絶体絶命。
「おい、バルトロ!」
あ、ランベルト第一副隊長と大勢の部下がやって来たぞ。
「話は聞いたぞ、バルトロ! この裏切り者!」
両者は銃撃戦になった。
あれ、ダークスーツの男が居ない。
逃げたのか?
そうこうしているうちに、あたしにドラゴンが迫って来る。
ああ、もう終わりだ。
ドラゴンキラーなどと名乗っていた天罰か。
って名乗ってねーちゅーの。
周りの人たちが勝手に呼んでいただけだぞ。
あれ、上空から、また咆哮が聞こえてきた。
暗くてよく見えないが、どうやら追加で、もう三匹、黄金色のドラゴンが天空から降りてきた。
計四匹。
こりゃ完全に終わった。
ドラゴンに喰われて、これであたしの人生も終わりか。
本当に乙女で人生終わっちゃうのか。
なんて悲惨なんだ。
そもそも、ちゃんとしたデートもしてないぞ。
嘆くあたし。
あれ、ドラゴンが仲間割れしているぞ。
後から来たドラゴン三匹が、ダークスーツの男が呼び出した緑色のドラゴンを攻撃している。
なんでや?
あっさりとやっつけ、ドラゴン秘儀団のドラゴンは悲鳴をあげて墜落。
地上に叩きつけられた。
動かないところ死んだらしい。
なんで助けてくれんの。
思い出した。
もしかして、このドラゴンさんたちはレッドドラゴン事件のとき、ドラゴン秘儀団に操られていたドラゴン三人衆じゃないのか。
この場合は三匹衆か?
そう、あの時、『いつかこの借りは返そう』とか言ってたなあ。
すると、三匹のうちのボスドラゴンさんが、あたしの頭に語りかけてくる。
「プルムよ、お前は忘れっぽい人間だな。せっかく助けに来てやったのに損した気分だ」とボスドラゴンさん、機嫌悪そう。
「ヒエー! 申し訳ありません! 寮の部屋の中にドラゴンの像を立てて、毎日、拝みますのでなにとぞお許しを」
「まあ、とにかくこれで借りは返した。さらばだ、ドラゴンキラーよ」とドラゴンがニヤリと笑ったような気がした。
天高く去っていくドラゴン三匹衆。
ありがとうございまーす。
義理堅いドラゴンさんで良かった。
けど、なんでドラゴンキラーのあだ名知ってんのかな。
バカにしたのかな。
まあ、どうでもいいや、助けてくれたしね。
気が付くと、銃撃戦が終わっている。
多勢に無勢で、バルトロたちドラゴン秘儀団の残党は全員逮捕されたようだ。
ランベルト第一副隊長がバルトロに詰問している。
こいつら、ドラゴン秘儀団の最後のメンバーらしい。
「何でこんなことを起こすんだ」
「両国が戦争している間に、革命を起こして、腐敗した政府の連中を倒し、貧富の差がない理想の国を作るためだ」
ふーん、どうやら、ドラゴン秘儀団なりの理想があったようだが、その結果、ニエンテ村なんて、山が吹っ飛んで観光客が激減、今や廃村。
大迷惑じゃん。
理想は高くても、山を吹っ飛ばしたら意味無いじゃん。
スラム街の環境を改善したフランコのおっさんの方が役に立っているではないか。
政治とは難しいね。
ランベルト副隊長が、バルトロを疑ったのは、あたしから教えてもらった、シアエガ湖でのドラゴンを操る団体について伝えたら、どうも様子がおかしかったらしい。また、もともと、ドラゴンキラーであるあたしを国境に招へいするのは、バルトロの進言があったからだそうだ。
「それにしても、プルム隊長、すごいですね。さすがはドラゴンキラー、一匹は退治し、残り三匹は追い返した」とランベルト副隊長に褒められた。
「アハハ、そんなことないですよ」とパジャマ姿で恥ずかしがるあたし。
どうやら、銃撃戦に夢中だったことと、暗くて、あたしが何やっていたか、よく見えなかったらしい。
それにしても、ドラゴンペンダントがなくてなぜ操れたのか。
魔法使いが操っていたとバルトロが証言した。
バルトロたち、ドラゴン秘儀団の連中に、自分はドラゴンを操れると自ら近づいてきたらしい、魔法使いのくせに、ダークスーツの男。
逃亡しやがった。
オガスト・ダレスもネクロノミカンをダークスーツの男から貰った。
ゾンビ事件の時の犯人マリーオもダークスーツの男から。
やっぱり黒幕がいるんだろうか。
目的がやっぱり分からないけど。




