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ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険  作者: 守 秀斗
第六章 うら若きなのか二十一歳苦悩する乙女/ゾンビ退治編
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第五十七話:ダリオさんの結婚式

 ラドゥーロ市の警備隊にマリーオ・バーバを引き渡した。

 そこから、電話でフランコ長官に連絡。

 ゾンビの死体は軍隊が処理するそうだ。

 ダリオさんは大学に帰るそうだが、その前になにか用があるみたいで、あたしは念のため連絡先を教えて別れた。

 あたしは墓屋さんに行った。


 今、あたしはラドゥーロ市の東地区の一番安い宿屋に泊まっている。

 共同トイレに共同風呂。

 明日には、首都メスト市に帰る予定だ。

 机に座って漫然としている。

 財布は空っぽだ。

 この前のギャンブル大勝利の大金は全て、チェーザレ、アベーレ、ベニートのお墓代で消えた。

 チェーザレは許してくれるかなあ。


 ん? ダリオさんとはどうなったのって? うーん。

 ダリオさん、名家の息子、医者で教授。

 あたしとは全然釣り合いが取れん。


 抱きしめてくれたじゃないかって? 女が泣いてれば、それくらいするんじゃないの、優しい男性なら。

 ずいぶんしらけてるなって? そうなんよ。


 また、鼻くそをほじくっている男の顔が空中に浮かんだ。

 チェーザレだ。

 チェーザレの言葉を思い出す。

『高望みすんなってことだよ、人生、妥協することも大切だぞ』

 そうなんよ。


 すっかり気弱になってるあたし。

 ダリオさんは素敵な男性だけどさ。


 けど、これは吊り橋効果、と自分を無理矢理納得させる。

 ん? 吊り橋効果って何だって? 勘違いすること。詳しくは自分で検索して調べて。

 まあ、今回はあきらめよう。


 え? お前らしくないって? うーん、十六歳の頃なら突撃してたかもしれない。

 だけど、もう二十一歳なんよ。

 もう大人なんよ。

 成人なんよ。

 万引きして捕まったら、新聞に写真と名前が載っちゃうんよ。

 あたしと全然釣り合わないんよ。

 高望みどころか、エベレストかK2並みよ。

 

 もう、あたしも大人になってもうた。

 え? 全然変わってない、子供っぽい? ふざけんな! と言いたいが、確かに成長しとらん。

 まあ、とにかく可能性ゼロよ。

 今回はパス。


 チェーザレたちの件で落ち込んでもいるんよ。

 謝ろうとしてた人を撃った。

 幼馴染の三人を撃っちゃったんだから。

 たとえ死体でも。

 今、元気がないんよ。


 これでいいんよ……。



 ノックの音がした。

「開いてます……」と力なく答える。

 扉が開くと、

「失礼します」と何とダリオさんが入って来た。

 おまけに、花束を持っている。


 あたしはびっくりして立ち上がる。

「プルムさん」

「は、はい」

 えー、まさかの大逆転か!


「すいません、突然」

「な、なんでしょうか」


「これをあの方に渡してほしいのですが。あと、この手紙も」

「は? どなたですか?」

「以前、あなたと一緒にいた方です」



 あたしはサビーナちゃんに、その手紙と花束を持って行ってやったよ。

 花束はしおれないようにしてしっかりと。

 手紙も花束も捨てればって? そんなことしませんよ。そんな意地悪な女じゃない。

 シーフ技使って、手紙の中身を読んだだろって? 読まないよ。


 そんで、今度はサビーナちゃんに頼まれたんよ。

 ダリオさんに返事を渡して下さいって。

 おまけになんか贈り物を付けて。

 え? 郵送でいいじゃんって? サビーナちゃんがもし、誤配とか、途中で無くなったりとか、中身読まれたら嫌だって言うんよ。

 だから、直接、ミスカトニク市立大学まで持って行って、ダリオさんに渡したんよ。

 ダリオさんは大喜び。

 あたしは伝書バトか。


 え? 贈り物の中身? シラネーヨ!

 手作りのチョコか、手作りのケーキか、それとも手作りの漬物かな。

 興味ねーよ。


 そんで、今日はダリオさんがサビーナちゃんの家に初訪問。

 なんで知ってんだって? サビーナちゃんが教えてくれたんよ。

 あの人いろいろと相談してくるのよ。

 仕事中だろうが、昼休みだろうが、ダリオさんのことやたら聞いてくんのよ。


 ちゃんときっちり正確に答えたわよ。

 名家出身。

 大金持ちの息子だって。

 それに次男坊。

 医者だって。

 博士号持ってる学者だって。

 遠くから見ても近くから見てもイケメンだよって。

 真面目だよって。

 誠実だよって。

 優しいよって。

 けど、決断力もあるし、勇気もあるよって。

 ああ、それから、裁縫も得意だよって。


 は? 金目当て? 知らんよ、サビーナちゃんに聞いてよ。

 最近、やたらそわそわしてるけどね、彼女。

 まあ貧乏よりは金持ちのほうがいいんじゃないの。

 邪魔すりゃいいのにって? 

 は? サビーナちゃんは親友なのよ! かわいい妹分なのよ!


 サビーナちゃんの家の近くの教会の天辺にある鐘の下、双眼鏡で見張るあたし。

 覗きとは悪趣味だって? 違うわい! サビーナちゃんが心配なのよ。

 ダリオさんが実は連続殺人鬼かもしれない。

 その時は助けにいかないと。

 あたしの百発百中のナイフ投げの技を見せてやる。


 え? そんなわけないって? そうよ、そんなことあるわけないわよー!

 じゃあ、なんで見てんのかって? もしかしたら、今日、ケンカして別れるかもしれない。

 そしたらあたしにもチャンスがあるじゃん。

 全く無いって? うるさい!

 空しくないかって? うるさい!


 おっと、ダリオさんが来た。

 あら、サビーナちゃんが路上で出迎えてる。

 いきなり抱き合う二人。

 ギューっと抱きしめ合っている。


 おい、ダリオ! 乗合自動車からサビーナちゃんを双眼鏡で見ただけじゃん。

 はっきり言って、遠かったぞ。

 一目惚れとはよく言うし、あたしも散々やったけどさ。

 双眼鏡で見た相手に一目惚れって聞いたことないんだけど。

 今、流行ってんの?


 サビーナちゃんもダリオさんをかなり遠くから見ただけじゃないか。

 見えたのは、豆粒くらいの大きさだろ。

 はっきり言って、顔見るのは今日が初めてじゃん。

 ダリオさんとあたしとは、丸一日、一緒にいてゾンビと戦ったっていうのに。


 いつまで抱き合ってんの! 

 他の通行人の邪魔だろうが! 

 あ、やっと離れた。

 で、サビーナちゃんがダリオの腕を引っ張って、自分の家に連れて行く。

 かわいい顔して積極的ね。


「お茶でもどうぞ」って感じかな。

 そして、紅茶とか飲みながらおしゃべりして、お互い心の中をさぐりあって、帰り際に次のデートの約束か。

 次回は公園とか美術館って感じかな。


 と予想してたら、家に中に入るなり、居間でブチューと熱烈キス。

 おい、いきなりかよ!

 え? そーゆもんなの?


 けど、サビーナちゃん、彼氏いたこともないし、男性と手もつないだことないとか言ってたんだけど。

 いつまでキスしてんだっていう濃厚キス。

 いざとなったら、女ってこーゆーもんなの? そうなの?

 あたしも女だけどさ。


 おい、そこの二人、さっさと紅茶飲めよ!

 やっと、離れた。

 そんで、またサビーナちゃんがダリオさんの腕を引っ張って、隣の部屋へ。

 隣の部屋は確か寝室じゃん。


 おいおい、サビーナ! 積極的すぎるぞ!

 これがフツーなの?

 人それぞれって? そうなのかよ。

 初めて出会って十分くらいしか経ってないぞ。

 おいおい、いーのかよ。


 え? 出会い系ってそんなもんだよって? いや、これは出会い系じゃないでしょ!


 で、サビーナちゃんが寝室の窓のカーテンを閉めた。

 おいおいおい。

 そして、明かりが消えた。


 夕焼けの中、教会の鐘の下で脱力するあたし。

 いったい、あたしはこんなとこで、何をしているんだろう。

 二歳年下のサビーナちゃんに追い越されてしまった。

 あたしはまだキスすらしたことないのに。


 昔、警備隊員の頃、寮の同じ部屋でお互いベッドにダイブ遊びをしていたサビーナちゃん。

 あの頃は、あたしが十七歳でサビーナちゃんは十五歳。

 懐かしい。


 サビーナちゃんは、今、ダリオさんの胸にダイブしたのね。

 あたしは正真正銘、ベッドにしかダイブした事ないぞ! 

 クソー!


 夕焼けを見ながら黄昏るあたし。

 ダリオさんはサビーナちゃんの家にお泊りね。

 カラスが二羽飛んでいくのをぼんやりと見る。

 あのカラスもカップルかしら。

 楽しそうね。

 カラスですら。


「ウギャ!」

 顔面にカラスの糞をかけられた。

 おまけに教会の鐘が鳴った。

 うるさい、鼓膜が破れるかと思った。

 糞だり鳴ったり、じゃなくて、踏んだり蹴ったり。

 もう、だめだあ。

 


 ダリオさんとサビーナちゃんの結婚式に招待されました。

 超豪華!

 アロジェント家の別荘で挙式。

 庭に噴水とかあるぞ。

 お手伝いさんがズラーリ。


 精一杯のオシャレをしてアホ毛をおさえて、出席です。

 サビーナちゃんのウェディングドレス姿。

 普段のポニーテルじゃなくて、髪の毛をおろして優雅に編んでいる。

 きれいだなあ。

 え? お前も髪の毛を伸ばしたらって

 ロングヘアは似合わないんだよな。

 え? 何やっても同じ? ウルセー!


 ダリオさんに紹介される。

「私とサビーナを結びつけた恋のキューピッド、プルムさんです」

「えー、本日はお日柄も良く……」とテキトーに挨拶。

 別にあたしが結びつけたわけじゃないじゃん。

 あんたらが勝手に結びついて、からみあっただけじゃん。

 あたしは伝書バトみたいな事しかしてないぞ。


 サビーナちゃんが近づいてくる。

「プルムさんにむけて、花束を投げますね」とサビーナちゃんに小声で言われた。

 え、何のこと? ああ、ブーケトスか。

「そんな、別に気にしなくていいよ、アハハ」

 最近空しいんだなあ。


 豪華な結婚式。

 まさに玉の輿。

 あたしは、指をくわえて見てるだけ。


 ボケーっとしてたら、品の良さそうな小柄な中年女性が話しかけてきた。

「プルム様でしょうか。サビーナの母でございます」

「あ、サビーナさんのお母様ですか。あの、失礼ですが、お体の調子はいかがですか」

「はい、おかげさまで体調は回復いたしました。それより、お仕事でサビーナはご迷惑をかけていませんでしょうか」

「ああ、いやあ、そんな事全然ありませんよ。サビーナさんにはこちらもご面倒をかけていますので、アハハ」

 ダリオさん取られちゃったけどさ。


「いえいえ、いつかプルム様には、お礼を言おうと思っていたんです。サビーナのことをいつも可愛がっていただいて、本当にありがとうございます。おまけに、こんな素敵な方を紹介していただいて」とサビーナちゃんのお母様は涙を浮かべている。

 まあ、嬉しいんでしょうけどね。

 けど、紹介なんかしてねーちゅーの。

 お礼なら双眼鏡に言ってよ。


 ダリオさんとサビーナちゃんの方を見てたんだけど、

 げっ! カラスが飛んでるぞ。

 また糞をかけんのか! とカラスに警戒してたら、

「ウギャ!」

 花束が顔面にあたって、あたしは噴水の池に倒れて、全身びしょ濡れ。

 隣に立っていたバルドにひき上げられる。

 せっかくのおしゃれも台無し。


「プルムさん、ごめんなさい」とサビーナちゃんが近寄ってきて謝られる。

「いや、よそ見してたあたしが悪いのよ。これが水も滴るいい女よ」

 みんなが笑う。

 あたしも顔で笑って、心で泣いた。

次回から「第七章 うら若きはちとつらい二十二歳憮然とする乙女/国境警備隊編」に続きます。

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