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ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険  作者: 守 秀斗
第六章 うら若きなのか二十一歳苦悩する乙女/ゾンビ退治編
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第五十三話:不気味な連中に襲撃される

 深夜、雷鳴が轟き渡った。

 稲妻の光が部屋の中を照らしだす。

 雨がザーザーと降り出した。


 宿屋の二階の部屋のベッドで、あたしは寝ている。

 雷は別に苦手ではない。

 しかし、どうもいつもと違う雰囲気。

 何だか不気味な気配が漂っている。


 今、この宿屋には、あたし一人だけのはず。

 だが、あたしは気づいた。

 廊下に置いた夕食の皿が、かすかに音を立てた。

 階段をゆっくりと上ってくる足音がする。

 

 廊下をそっと歩いてくる。

 あたしは目を瞑ったまま、耳をすます。

 足音からすると、うーん、これは男性だな。

 年齢は四十代といったところか。


 部屋の扉の前に立った。

 扉の外から、部屋の中をうかがっている様子。

 そっと扉を開けようとして、鍵がかかっているのに気づいたようだ。

 そのまま、一階に戻っていった。


 こいつは泥棒かな。

 あたしも泥棒だけど。

 昼間、取り逃がした奴だろうか。


 逮捕するかな。

 けど、面倒だ。

 今は眠いから、放っておこう。

 いい加減なあたし。


 と思っていたんだけど、どうも外に人が集まってきているような音がする。

 窓からそっと外の様子を見てみた。

 雨の中、路上に大勢集まってきている。

 みんな歩き方や動きがおかしい。


 さっき、扉を開けようとした奴の歩き方はしっかりしていたんだけど。

 ベッドから出て、素早くパジャマから普段着に着替える。

 廊下の気配をうかがう。

 あたしはベッドをなるべく音をたてないように動かして、扉の前に置いてふさいだ。


 宿屋の一階に続々と集まっているようだ。

 しかし、どうも歩き方がおかしい。

 ズルズルとした感じで歩いてくる。

 皆で一階のロビーで会話でもしているのだろうか。

 いや、会話というよりおぞましい奇声やうめき声が聞こえてくる。

 だんだんそれが大きくなってくる。

 どうなってんの?


 しばらくして、いっせいに階段を上ってきた。

 変な奇声や唸り声をあげながら、のろのろとした感じで階段を上ってくる。

 あたしは旅行鞄を斜め掛けで持つ。

 危険を感じたあたしは隣の二〇二号室へ、中扉から移動しようとするが、鍵がかかっている。

 もともとシーフのあたし、こんなの簡単に開けられる。

 あれ、開かないぞ。

 なんで!

 鍵穴がふさがってる。


 奇声や唸り声がだんだんと高くなっていく。

 近づいてくるのがわかる。

 部屋の前まで来た。

 嫌な匂いがしてきた。

 なにか腐ったような匂いだ。

 廊下側から部屋の扉のノブをガチャガチャまわしている。

 扉をドンドンと叩く音が響く。

 無理矢理開けるつもりのようだ。

 あたしは隣の二〇二号室との中扉を蹴り破ろうとするが、なかなかうまくいかない。


 唸り声や奇声が騒がしい。

 扉を叩く音がますます大きくなる。

 廊下の連中は、ベッドで扉がふさがっているので、なかなか開けられないようだ。

 あたしはなんとか蹴り破って隣の二〇二号室に飛び込む。

 それと同時にドアをぶち破りベッドを押しのけ、あたしが寝ていた二〇一号室に大勢なだれ込んできた。


 あたしは焦って、二〇一号室と二〇二号室の中扉を閉めて、またベッド引きずってふさぐ。

 しかし、二〇二号室の廊下側からの入り口からも扉を叩いてる。

 こっちの扉からも、ぶち破って入ろうとする気らしい。

 もう隣の二〇三号室への中扉もぶち破って、逃げる。

 二〇二号室の扉が破られた。

 大勢追いかけてくる。


 一番端っこの二〇四号室への中扉もぶち破って、逃げる。

 追いつかれそうだ。

 二〇四号室で追いすがる化け物たちを振り切って、隣の家屋に面する窓からあたしは外に飛び降りた。

 宿屋から脱出成功。


 ふう、けど以前読んだホラー小説にこんなシチュエーションがあったような気がするな。

 まっ、いいか!

 って言ってる場合じゃないや。

 逃げないと。


 街の端っこまで逃げて、昨日、散策していた時に見つけた倉庫に入る。

 倉庫の周りを囲まれた。

 ロッカールームに逃げて、そのひとつの中に入る。

 近づいて来た。

 やばい。

 無理矢理開けようとしやがるので、必死に扉をおさえる。


 突然、向こうが倒れた。

 どうしたのかな。

 しばし、じっとする。


 何も動く気配がしない。

 そっと開けると、うわ、死体が大勢倒れている。

 朝陽が照らす中、死体だらけだ。

 懐中時計を見ると、午前五時。


 どうなってんの?

 とにかく逃げるしかないな。

 乗合自動車が来るのを待ってられん。

 徒歩で逃げることにした。

 

 あの化け物は何だったんだろうか?

 外見は人間だが。

 しかも、朝になったら死体になって動かない。

 途中で、ダゴンダ市中央区へ向かう荷馬車に乗せてもらった。


 夕方、到着。

 中央区の市役所から電話でフランコ官房長官に報告。

 すると、

「軍隊からも連絡があった。あれは、ゾンビらしい」

「へ? ゾンビですと」

 噛まれなくて良かった。

 今頃、あたしはゾンビに変身していたかもしれん。


「クティラ街には軍隊が派遣されて、処理する」

「あのー、ちょっと伺ってよろしいですか」

「何だ、手短にしろ!」

 相変わらず偉そうなおっさんだな。


「何で情報省がやらないんですか。こういう仕事は情報省がやるべきじゃないんですか?」

「魔法高等官のアイーダ様は情報省を信用していない。ネクロノミカンの件でな」

「なぜですか」

「どこの誰か知らんが、危険な魔導書『ネクロノミカン』を『根暗な蜜柑』と報告した、とんでもない大馬鹿者がいるらしい。その時は、アイーダ様がおられる王宮の地下室に呼ばれて、かなりのお叱りを受けてしまったんだよ。私なら、そいつを即刻クビしてるところだな。おまけに、魔法監査で情報省がそれを見逃してしまったんだ」

 そのとんでもない大馬鹿者はあたしですよー! けど、クビにされるのは嫌なんで黙っておこう。

 あと、アイーダ魔法高等官って、王宮の地下に居るのか。

 知らんかった。


 けど、フランコ官房長官が、あたしが大馬鹿者って事実を知らないのか。

 たしか、この件で赤ひげのおっさんことアレサンドロ元大隊長は、本部に呼び出されて、かなりの叱責をくらったみたいだったなあ。ということは、赤ひげのおっさん、あたしが『根暗な蜜柑』と書いた報告書は上の人たちには見せずに、あたしをかばってくれたのか。

 散々、喧嘩したけど、実はいい人だったのかな。

 こんど、赤ひげのおっさん経営の居酒屋「ドラゴンキラー」へ行って、ドラゴンがデザインされたダーツゲームでも、お土産に持って行くか。


 あと、魔法監査ってクラウディアさんが担当しているやつだな。

 あたしとクラウディアさんという、二大いい加減コンビが絡んでたら、そりゃうまくいかないわね。


「しかし、あの部署、あたしとサビーナちゃん二人だけって、どういうことなんですか」

「本来は、お前一人だけだったんだけどな。お前はドラゴンキラーだから大丈夫だろ」

 おいおい、またドラゴンキラーかよ。


「ラドゥーロ市の西地区モローゾ街に行ってくれ。軍隊からの報告だと、そこにゾンビを操ってる奴が逃げ込んだらしい」

「そうなんですか。そこまで分かっているのなら、いっそのこと、軍隊に退治に行かせればいいじゃないですか」

「ダゴンダ市と違って、ラドゥーロ市周辺は人口が多い。軍隊が行くと目立ちすぎるし、ゾンビが発生したなんてわかると、市民がパニック状態になる。クティラ街の件は火災が起きて、死傷者がでたということで処理する予定だ。こちらに入っている情報ではゾンビは夜しか行動できないみたいだ。つまり、日中に犯人を逮捕すればいいだけのことだ」

 いいだけのことだって、フランコのおっさんは、なんか簡単な風に言ってるけど、捕まえる前に夜になったらどうすんじゃ。

 ゾンビに喰われたくないよ、あたしは。

 やれやれ。

 もう逃げちゃおうかなあ。


「で、また、私一人にやらせるんですか」

「いや、専門家も同行する。ダリオ・アロジェント教授だ。危険な任務と思われるので、サビーナにライフル二丁をそちらに届けさせる」

「その教授とは、どこで待ち合わせですか」

「ダゴンダ市中央区市役所前の乗合自動車の停留所だ。明日の午後一時だ。サビーナもこちらから向かう」

「あのー、別件でよろしいでしょうか」

「またか、手短にしろ!」

 ホントに偉そうなおっさんだなあ。


「ラドゥーロ市の西地区の住民から聞いたんですが、餓死者が出たそうですよ」

「え、そんなこと初めて聞いたぞ」とフランコのおっさんが驚いている。


「孤児院もつぶされて、住民のお墓も壊されたり、ひどい環境みたいです」

「わかった。その件はこちらから、他省庁に連絡して対処する。報告してくれてありがとう」

 フランコ官房長官に、スラム街のボス、アドリアーノ・ロベロから聞いた話を伝えると、意外にも真面目な対応だった。

 おまけに、お礼まで言われるとは思わなかったぞ。


 てっきり、「スラム街の貧乏人が何人死のうが、わしの知ったことか! グヒヒ!」とか言うかと思ってた。

 だって、いかにも悪い顔してるんだもん。

 いつも人を顔で判断するのか! この最低女めって? ううむ、反論できん。

 申し訳ありません。

 反省します。

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