表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険  作者: 守 秀斗
第六章 うら若きなのか二十一歳苦悩する乙女/ゾンビ退治編
52/83

第五十話:安全企画室長になった

 あたしの名前はプルム・ピコロッティ。

 ナロード王国安全企画室長(主査級)だ。

 主査級って何じゃ?


「うら若き」は二十歳が限界じゃないかって? シラネーヨ!

 

 異動することになったけど、いまだに警備隊の寮に居座っている。

 ギャンブル依存症で、おまけに大敗の連続。

 そのせいで、貯金ゼロなんで民間のアパートに移る金も無い。


 警備隊から離れるので、職場の皆さんが送別会を開いてくれた。

 場所は、赤ひげのおっさんことアレサンドロ元大隊長が経営する居酒屋、その名もドラゴンキラー。

 居酒屋にそんな名前つけないでよ。

 おっさん、すっかり性格が丸くなっている。

 居酒屋に入ると、巨漢の赤ひげのおっさんがエプロン着て満面の笑みで、

「いらっしゃいませ!」と大声でお出迎え。

 かえってビビる。

 まだ大隊長室で、怖い顔して座っていた時のほうがマシだったぞ。


 アデリーナさんは、仕事やら育児やらで忙しいので欠席。

 あたしは、みんなと別れるのは悲しい。

 お前が異動したがってたんじゃないかって? そうなんよ。

 寮に住んでいるなら、隣は警備隊庁舎じゃないか、すぐに会えるじゃないかって? そうなんよ。

 けど、悲しいんよ。


 あたしは酔っぱらったあげく、思いっきりリーダーに抱きついてしまった。

「悲しいよう、寂しいよう、離れたくないよう、別れたくないよう」

 みんな冗談と思ったのか大笑い。

 リーダーも大笑い。

 あたしは本気なのに。

 おっと、ダメダメ。

 リーダーにセクハラしちゃった。

 やっぱり、まだリーダに未練があるんだな。

 情けないあたし。

 

 初日に二日酔いで出勤。

 連絡文書に、なぜか私服で来いと書いてあるが、一応、それなりの恰好をしていく。

 黒いジャケットに白いシャツ、黒いズボン。

 王宮の入り口で、警備している近衛兵に止められるが、辞令を見せると中へ入れてくれた。


 けど、確か情報省に所属するんじゃなかったっけ?

 王宮にも情報省の分室があるのだろうか。

 辞令を持って、案内通りに王宮の隅っこの部屋に行くと、扉に『安全企画室』と殴り書きされている紙が斜めに貼ってある。

 隣室はトイレ。


 何じゃこりゃと思いつつ、扉を開けて中に入ると、狭苦しい部屋に受付用の長机と折りたたみ椅子だけ置いてあった。

 何となく湿っぽく、薄暗い部屋。

 ちっこい窓が付いてるだけ。

 部屋の空気を入れ替えようと、窓を開けようとするが、カビか何かしらんけど固まっていて開かない。

 いくら力を入れても開かんので、あきらめた。


 嫌がらせかよと思いつつ、椅子に座る。

 待てど暮らせど誰も来ない。

 どうせいっちゅーねん。

 しばらく漫然としていると、清掃のおばさんが入って来た。


「あんた誰?」とあたしの顔を見るなり、不審げな顔で言われる。

「えーと、安全企画室長のプルム・ピコロッティですが」と辞令を見ながら職名を言う。

「はあ、何も聞いてないよ。ここは清掃道具用の倉庫部屋よ」

「は?」

「清掃道具どこへやったのよ、あんた泥棒?」

「違いますよ!」


 まあ、泥棒は開店休業中だけど。

 わけの分からない部署に異動したあたし。

 あたし一人だけってどーゆーこと。


 さすがに、これはたまらんと、情報省のクラウディアさんのところへ相談しに行くことにした。

 王宮の隣の情報省の建物へ行く。

 四階の廊下を歩いていると、おっ、いい香りがしてきたぞ。

 参事官室の扉の隙間から眩い光が差している。

 クラウディアさんが居る証拠だな。


 ノックして扉を開けると、中は豪華な部屋。

 ふかふかの絨毯に立派な机。

 高級そうなソファセット。

 窓がすごく広い。

 全面窓。

 窓から王宮が見える。


「あら、プルムさん、来ましたね」とにこやかに歩み寄るクラウディアさん。

 相変わらず、お美しい。


 今日のファッションは、ベージュ色のスリットネックブラウスに白いスラックス。左手首にゴールドの値段の高そうなブレスレット。これは本物の金だな。お、ブレスレットをよく見ると犬柄模様。犬の種類はブルドッグ。うーむ、誰が買うんじゃというデザインだな。


 来客用ソファに案内される。

「どうですか、情報調査室」とクラウディアさん。

「あのー、狭い部屋にあたし一人なんですけど。あと、辞令を見ると安全企画室ってなっているんですけど」

「え?」

 事情を話すと、クラウディアさん、例の頬に両手を添えてオロオロし始める。

 オロオロ姫状態。

「ちょっと人事部に行ってきます。すぐに戻ってきますので、こちらで待っていて下さい」とクラウディアさんは慌てて、部屋を出て行った。


 すぐに戻ってくると言いながら、なかなか帰って来ない。

 ヒマだ。

 ヒマなんで金目の物を物色。

 泥棒? いや、これは訓練ですよ、訓練。


 クラウディアさんの机をチェック。書類がメチャクチャ。決裁済箱の上に未決裁箱が斜めに置いてあって、またその上に決裁済箱があって、さらに、その上に、また未決済箱が置いてある。わけがわからん。机の上は高々といろんな書類が山のように積んである。下の方はいつ見るんだろう。作業スペースがほとんどないぞ。どうやって仕事してんだろうか、クラウディアさん。右下の引き出しが開けっ放し。そこにも書類が積んである。引き出しが閉められないじゃん。机の下まで書類がグチャグチャに置いてある。ゴミ箱の上まで置かれているけど、下手したら掃除のおばさんに捨てられちゃうぞ。大事な書類だったらどうすんじゃ。そんなに忙しいのか。あたしは、大隊長時代の机はきれいにしていたぞ。まあ、内容見ないで決裁回してたからね。机の中も空っぽ。重要だろうがなかろうが、赤ひげのおっさん作成のお仕事マニュアル以外は、書類なんてゴミ箱にホイホイ捨ててたもんね。お、本があるぞ。「ヨガ美容法 上級編」って題名。やっぱりヨガやってるんだ。だからスタイルいいのかな。けど、去年の教皇庁事件のように熟睡しないでほしいな。


 右側の一番上の引き出しを物色。ここに小銭を置いている人が多いのだが、残念、無い。中はメチャクチャ。何本ものマジックペンの蓋が開けっ放し。このペン乾いてもう使えないぞ。削ってない新品の鉛筆がいっぱい他のと混ざってる。ちゃんと削れよ。おいおい、クリップを数珠繋ぎにするなって。いざという時使えんだろうが。痛! 画鋲が散らばっている。ちゃんと箱に入れなさい。その他、かわいい犬柄の鉛筆削り。かわいい犬柄の消しゴム。かわいい犬柄の付箋紙。かわいい犬柄の巻尺。かわいい犬柄のハサミ。かわいい犬柄の定規。かわいい犬柄のペーパーナイフ。かわいい犬柄の下敷き。かわいい犬柄のウチワ。犬柄ばっかり。


 左に鍵のかかった引き出しがある。フフン、あたしなら簡単に開けられる。シーフ技でさっと開けたら、いつ買ったんだか、貰ったんだか分からないお菓子が一個入っているだけ。しかも食べかけ。汚いなあ。だいたい、なんで鍵かけんの。その下の鍵なしの引き出しを開けたら、うわ! ぐしゃぐしゃになった一万エン札が大量に無造作に置いてある。あんまり無造作なんで、怖いので触らないでおこうっと。一番下の大きい引き出しにはかわいい犬のヌイグルミが入ってた。もうハチャメチャですな。おっと、椅子の座面と背もたれのつなぎ目にコインが挟まっているのを発見。何だ、十エン硬貨か。けど、もらっておく。


 クラウディアさん、全然戻ってくる気配が無い。

 何だか疲れた。

 三人掛けソファに横になって、十エン硬貨を親指ではじいて、天井近くに上げて、落ちてくるところをキャッチ。繰り返していると、二日酔いなんで眠くなった。

 頼む、少しだけ眠らせてくれ。

 十分ほど寝るつもりが、ぐっすりと寝た。


 気がつくと、目の前のソファにクラウディアさんが座って寝ている。

「クラウディア様」と呼びかけると、びっくりして起きるクラウディアさん。

「す、すいません。ちょっとうたた寝して」

 また、うたた寝かよ。

 人の事言えんけど。


「どうでしたか?」と聞くと、

「えーと、あの、その、えーとですねえ」となかなか話さない。

 クラウディアさん、おどおどしてる。

 こりゃ、またポカをやったな。

 あたしは辛抱強く待った。

 時が過ぎていく。


 やっと、クラウディアさんが口を開いた。

「あのー、その、人事部に確認したんですけど、『情報省安全調査室』のはずが、なぜか『王国安全企画室』になっていたんです」

「はあ」

「こんなこと初めてですと言われました。よく確かめなかった私が悪いんですけど」

「そうですか」


 また長い沈黙。

 両膝の間に両手を入れて、もじもじしているクラウディアさん。

 トイレにでも行きたいのか?

 あたしは沈黙に耐えきれなくなった。

 別の方向から話をするか。


「あのー、クラウディア様、居眠りされてましたけど、何で私を起こしてくれなかったんですか」

「えーとですね、戻って来たら、プルムさん、眠っておられて、その、起こそうと思ったんですが、起こすと事情を説明しなきゃならないので、そうすると、プルムさんがお怒りになると思って、そのー、怖くて、怖くて、起こせなかったんです。どうしよう、どうしようと。で、プルムさんが自然と起きるのを待とうと思って」

「あのー、それで、クラウディア様、どれくらい待ってたんですか?」

「三時間くらいです。でも、プルムさん、起きられなくて。そしたら、私もつい、うたた寝をしてしまいました」


 は? 三時間もあたしの間抜けな寝顔を見続けたあげく、そのままうたた寝したんすか。

 この人、マジに天然じゃね。

 もう天然女王から天然女神に昇進!


「えーと、その人事、訂正出来ないんですかね」

「それが、その、人事的に難しくて」

「はあ」

「あのー、言い訳になるかもしれませんが、プルムさんの警備大隊にも、この人事の件について、事前に確認の書類が行っていたみたいなんです」

 やばい、書類なんて全然見てねーや。


「とにかく、本当に申し訳ありません」と立ち上がって、深々と頭を下げる天然女神のクラウディアさん。

 綺麗だから許す。

 アホらしくて怒る気にもならん。

 それに、書類を全く見なかったあたしにも原因の一端があるし。


「うーん、では、この安全企画室って何をするとこなんですか」

「それが、私も初めて聞く部署なんです」

「は?」

「こんな部署があるなんて知りませんでした。他の情報省員に聞いても知らないって言われました」

 何じゃ、そりゃ! 情報省が知らない部署って。

 

 仕方が無く、元清掃道具用の倉庫部屋の安全企画室に戻ると、折りたたみ椅子に四角い顔したおっさんが座っていた。

「初日から、大遅刻とは何事だ!」といきなり怒鳴られる。

 むかついた。

 あたしは怒鳴られるのが嫌いなんだよ。


「申し訳ありません。いろいろと事情がありまして。ところで、あなたはどちら様ですか」とあたしは憮然とした顔で聞く。

「国王官房長官のフランコ・ネーロだ」と偉そうに答えるおっさん。

 

 このおっさん、見た事あるぞ。

 思い出した。

 表彰される時に、王様の後ろに立って、ニヤニヤしているおっさんだ。


「お前には重要な仕事がある。とりあえず座ってろ」

「こんな、何もない部屋で何しろって言うんですかね」とあたしは皮肉っぽく質問する。

「部屋は新しいのを改装中だ。しばらくこの部屋に居ろ」と言って、フランコのおっさんは立ち上がった。


 そして、

「ドラゴンキラーだからと言って、警備隊ではちやほやされていたようだが、ここではそうはいかんぞ」とあたしをにらみつけながら、部屋を出て行った。


 何だとー! 全然ちやほやなんかされてないぞ。

 むしろ、このアホな肩書のせいでひどい目に会ってる。

 恋人も出来ないし。

 だいたい、あのおっさん、あたしがドラゴンキラーなんてもんじゃないって事を知ってるんだろ。

 ったく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ