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ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険  作者: 守 秀斗
第五章 うら若き二十歳の勝負どころの乙女/アトノベル騎士団の呪い編
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第四十四話:教皇庁から派遣されてきたフランチェスコさん

 翌日。

 昨日、飲み過ぎたせいか、遅刻しちゃった。

 

 警備隊庁舎の玄関で、クラウディアさんがオロオロしながら待っていた。

 バルドも憮然とした表情で立っている。


「大隊長のプルムが鍵を管理しているから、押収物倉庫の金庫を開けられないんだよ。仕方が無いので、教皇庁の方は大隊長室で待ってもらっているんだ」と怒られちゃった。

 すんまへん。

 けど、その鍵は、それ以外は何も入っていない机の引き出しにあるのに、応用の利かない人たちですな。

 そんな事じゃ、泥棒にはなれないぞ。

 ってなるわけないか。


 だいたい、庁舎の隣の寮に居るんだから連絡してくれればいいのに。

 と自分のテキトーな仕事ぶりを棚にあげる、相変わらずいい加減なあたし。


 大隊長室にあたしが入ると、ありゃ、ソファから若い男性が立ち上がったぞ。

「こちらが教皇庁から派遣された、フランチェスコ・ベルモンドさんです」とクラウディアさんから紹介される。

「初めまして、フランチェスコと申します」

 

 ウォ! イケメンだ!

 色白の美男子!

 教皇庁の人だから、てっきり大袈裟なローブでも着てくるのかと思っていたんだけど、一般市民のような恰好だ。背の高さは中くらい。


「大隊長のプルムです」と自己紹介しつつ、フランチェスコさんをよく見ると、ロケット付きのネックレスを着けてる。

 まあ、男性でも付ける人はいるけどね。

 とは言うものの、まさか吸血鬼事件の時のアナスタシアさんみたいに、実は女じゃないよねと、しげしげ見てたら、

「どうかされましたか?」とフランチェスコさんに言われてしまった。

「い、いやなんでもありません」


 ドキドキするぞ。

 何歳くらいなんだろう。

 二十代っぽいけど。


「あの、お待たせして申し訳ありません。ちょっと事情がありまして」と言い訳する。

 昨夜、飲み過ぎて、寝坊したとは言えん。

 ドギマギしながらソファに座ろうとして、

「あわわ」と机の上に置いてあった、お茶をこぼしてしまった。


 フランチェスコさんの膝にかかってしまう。

「す、すいません」と慌てるあたし。

「いえ、気にすることないですよ」とフランチェスコさん、穏やかな表情で、ちっとも怒らない。

 やばい熱が出てきた。

 完全にあたしのタイプ。

 乙女心がヒートアップ!


 フワフワしているあたしに、

「プルム、大丈夫?」とバルドに心配される。

 いかん、いかん。

 もう十六歳の小娘ではない。

 もう大人なんよ。

 大隊長だしね。

 まだ乙女だけどさ。


 とりあえず、フランチェスコさんを二階の押収物倉庫までご案内する。

 金庫を開けて、例の古書を取り出して、机に置いた。


「ここの机を使って、調査してよろしいでしょうか」

「かまいませんが、良ければ貸し出しますよ。教皇庁に持っていってもいいんですが」

「いえ、貴重品と思われますので、この部屋でかまいません」


 そういうわけで、フランチェスコさんは毎日警備隊庁舎に来るようになった。

 いろいろと資料も持ってきて、押収物倉庫に置いていったりもする。


 朝、フランチェスコさんは大隊長室に来て、金庫の鍵をあたしが開けに行く。

 夕方、帰るときも、当然、フランチェスコさんが大隊長室に顔を出し、あたしが閉めに行く。

 あたしとしては、毎日会えるので嬉しいぞー!


 仕事も手につかん。

 そもそも仕事してないだろって? そうなんだけど。

 すんません。


 しかし、もう二十歳で焦っている。

 はっきり言って、ろくに恋愛経験していない。

 片思いばっかり。

 何度も言うが、好きな人と手もつないだこともない。

 後は、夢の中の妄想デート。

 実際は、デートなんて一回もしてないぞ。


 どうしよう。

 けど、教皇庁の人だからなあ。

 お堅い感じがする。


 よし、今回は、かなり慎重に行くぞ。

 大隊長室に紅茶とお菓子を用意する。

 帰るときに、顔を出したフランチェスコさんを、お茶に誘うことにしよう。


 お前なあ、仕事しろよって? 警備隊は結婚相談所じゃねーよって? まあ、そうなんですけど。

 いいじゃん、許してくれー! もう二十歳だし。

 なんか勝負どころって感じがするんよ!


 そろそろ勤務時間が終了しようって時、フランチェスコさんが大隊長室に顔を出した。

「あ、あの、フランチェスコさん、紅茶でもどうですか」とソファに座るよう誘ってみると、

「ありがとうございます、大隊長殿」

 やった! 一緒にお茶飲むだけでも嬉しいぞ!


「プルムでかまいません。ところで、仕事の状況はどうですか」

「うーん、ちょっと難しいです」

「それにしても若いのに偉いんですねえ」

「そんなことないですよ、プルムさんも女性で大隊長ってすごいですね」

「いえ、そんな」

 やばい、顔が赤くなる。


「失礼ですが、プルムさんって、何歳なんですか」

「えーと、二十歳です」

「その年齢で大隊長とは、本当にすごいですね」

「いやあ、それほどでも」

 フランチェスコさんは何歳なんだろうか。


「あのー、フランチェスコさんはおいくつですか?」

「僕も二十歳です」

「え、すごいですね」

「すごくないですよ、僕は何の役職にもついてないので」

 思わず、二人で笑う。 


 やったー! 同い年だ。

 何喜んでんだよって? いいでしょ! 嬉しいもんは嬉しいの。


「毎日、教皇庁で勉強とかで大変でしょう」

「いや、そんなことないですよ。たまに友人とトランプとかやってます」

 トランプ!


「ポーカーとかですか」

「そうですね」

「教皇庁とかだと、そういうゲームも禁止かなあと思ってたんですけど」

「そんなに厳しくないですよ、まあ、息抜きですけど」

「私も、トランプとか好きですね」

「気が合いますね」と笑うフランチェスコさん。

 笑った顔が素敵。


 ウヒョー! 趣味も同じだあ!

 はあ? お前のポーカーはギャンブルだろって? いいの!

 しかし、なんだか、ホントお見合いみたいになってきたなあ。


 その後も誘うと、必ず寄ってくれるようになった。

 毎日、お帰りの際に、紅茶を飲みながらおしゃべり。

 話が弾む。

 なんか、どんどん大隊長室に居る時間が長くなっていくんよ。

 それにフランチェスコさん、楽しそうにしている。

 これはかなりいい線いってるんじゃないか!

 まあ、まだ出会ってから、五日しか経ってないけど。


 え? フランチェスコさんは紅茶が好きなだけじゃないのかって? ううむ、そうかもしれん。

 いや、そうじゃないぞ、なんか感じるんよ、はっきり言って気が合っているのは事実だぞ。

 少なくとも、お友達にはなれそうな雰囲気なんよ。

 ケミストリーよ、ケミストリー!


 リーダーとかデルフィーノさん、ジェラルドさんは完全な片思いで、はっきり言って、向こうはあたしの事なんてなんとも思ってなかったじゃん。

 けど、フランチェスコさんは違う感じがするんよ。

 もう少し、押せば恋人になれるんじゃないのかなあ。

 そう、これは、運命の恋だ! 

 あたしにもやっと春が来たんだ! 

 絶対そうだ!


 は? また勘違いだろって? うーん、そうかもしれん。


 明日は休日。

 って部下たちは、非番や休日の隊員以外は出勤してるけど。

 大隊長は十日に一回、休日。

 夜勤も非番も無し。

 大隊長のあたしがいないので、金庫も開けられないので、フランチェスコさんも警備隊庁舎には来ない。


 仕事が終わった後、なんとかならんかなあと、寮のベッドでいろいろと考える。

 教皇庁に電話して、フランチェスコさんをデートに誘うとかどうだろう。

 って、それはいくらなんでもまずいか。

 

 うつらうつらと考えてたら、朝になった。

 起きても悩んでいる。

 何か、フランチェスコさんにお近づきになる、いい方法はないだろうか?


 よし、とりあえず賭博場で考えるかと、外出。

 歩いていたら、あれ、素敵な男性が歩道を歩いていらっしゃる。

 フランチェスコさんだ!

 路上で偶然、出会う。

 なんという幸運だ!

 やっぱり運命の人じゃないか!


 あたしが思わずドキドキしていたら、フランチェスコさんから話かけられる。

「こんにちは、プルムさん。どこかに用事があるんですか」

「あ、いや、単に散歩です。天気がいいなあと思って」

 もう、ギャンブルのことなんて、どっかへ吹っ飛んだぞ!


「僕は、ちょっと気になる点があって、国立図書館に行くんです」

「例のアトノベル騎士団の古書の件ですか?」

「そうです。その件は、明日、プルムさんにも報告しようと思っていたんですが、ちょうど会ったことだし、それで、えーと、もしお時間があるなら大変申し訳ありませんが、プルムさんも一緒に図書館へ来てくれませんか」

「はい!」全然、全く、少しも、ちっとも申し訳なくないですよー!

 

 図書館まで、ドキドキしながら歩く。

 さて、なにを話そうかと思っていると、

「プルムさんて、出身はどこですか」とフランチェスコさんに聞かれた。

 スラム街の孤児院出身とか答えられない。

 ウソつくか。


 あれ、突然、鼻くそをほじくっている男の顔が、空中に浮かんだ。

 今は亡きチェーザレだ。

『ここぞという時は相手に正直に話したほうがいいぞ』

 いつだろう、たしか、そんな事言ってたなあ。

 よし。


「……あの、実は私は孤児院育ちなんです。捨て子で、ラドゥーロ市西地区トランクイロ街育ちです。いわゆるスラム街ですね」

 うわー、スラム街出身って言ってしまった。


 しかし、フランチェスコさん、全く、嫌な顔をしない。

「プルムさん、正直な方ですね」

 へ?

「実は僕も捨て子だったんですよ」

 何ですと?


「教皇庁舎の扉の前に、籠に入れられて置いてあったそうなんです」

「……そうだったんですか」

「けど、僕は教皇庁で引き取ってもらって、楽に暮らしたんですが、プルムさんは大変だったんじゃないですか」

「あ、いや、そんなことないです」

「けど、今は大隊長ってすごいじゃないですか」

 褒められて、また少し頬が赤くなる。

 大隊長なんて嫌だったんだけど、人事部アリガトー!

 なんかフランチェスコさんとの距離がまた縮まったような感じがする。

 だって、捨て子だなんて、自分のプライベートの事を喋ってくれたんよ! あたしに気を許してくれてるって証拠じゃないの!


 え? 油断するな、勘違いじゃないのかって? お前が孤児って言ったから、つい喋ったんじゃないのか。

 うーん、そうかもしれん。

 いや、これは恋の女神が二人をくっつけようとしているのよ! と勝手に思い込むあたし。


 違うって? 違うかもしれん。

 もう少し冷静に行くか。


「そのまま、ずっと教皇庁で育ったんですか」

「そうですね。教皇庁が支援している孤児院で育ちました。施設は教皇庁内にあるんですよ。普通は、養子で引き取られたりするんですが、そのまま、教皇庁の職員になりました」

「あれ、もしかして、フランチェスコさんが優秀だから、教皇様に気に入られたんじゃないんですか」

「いや、そんなことありませんよ」と謙遜するフランチェスコさん。

 謙遜している顔も素敵。


 おい、お前は、イケメンだったら何をやっても素敵に見えるんじゃないのかって? そんなこたーないわい。前から言ってるでしょ、あたしは強引な男は嫌いなんよ。ああ、うまく言葉に出来ないけど、優しく包み込んでくれるような人が好きなんよ。フランチェスコさんってそんな感じがする。


 だからと言って、お前の事を好きになるってわけじゃないだろって? うーん、そうだよなあ。けど、何と言うか、気が合うような感じがやっぱりするんよ。

 せめて、手をつなぎたいなあ。

 一回くらいは。


 そんなこんなで、国立図書館に到着。

 国立なんで、三階建てのでっかい建物だ。

 あたしは初めて入る。

 本なんて、ホラー小説か漫画くらいしか読まないからね。

 建物の中は本ばっかり。

 当たり前か。


 三階まで上って、フランチェスコさんが、やたら難しそうな本がいっぱいある棚を真剣にみている。

 あたしは、フランチェスコさんの横顔しか見ていない。

 ずっと見ていたい。


 うーん、やっぱりイケメンは正義よ。

 異論は認めないぞ!

 たとえ誰も相手にしてくれなくても、考えを変えるつもりはないぞ!


 お前、今まで自分の顔を鏡で見た記憶を全部忘れたのかよって? うるさい! 女は顔じゃない、度胸よ、度胸。


 フランチェスコさんが、本棚から何やら分厚い辞典のような本を取り出して、閲覧室の机に持って行く。

 ポケットから折りたたんでいる紙を取り出した。

「これは、例の本の一部です。無断で持ってきて申し訳ありません」

「あ、いや、こちらとしては別にかまいませんが。ただ、一応、あの本って貴重品じゃないんですか? 折っちゃっていいんですか?」

「いや、あの本はニセモノですね、精巧に作られていましたけど」

「へ? ニセモノ?」


 フランチェスコさんが、机の上の分厚い辞典のアトノベル騎士団のシンボルマークがある箇所を見せてくれた。

 この騎士団のシンボルマークはいくつかあるようだ。

 そして、さっきの紙を開いて、照らし合わせる

「この本に記載されているアトノベル騎士団のマークと、このページの端っこに書いてあるマークが違うんです」

 よく見ると、確かに違うなあ。


「けど、手書きの本だから、間違えちゃったんじゃないですか」

「いや、他のページも間違えているんですよ。騎士団にとって神聖なシンボルマークを間違えている箇所が、こんなにたくさんあるのはおかしいです」

 おお、さすが専門家。


「それにしても、なんで、こんなニセモノを作成したんでしょうか」

「うーん」と悩んでいるようなフランチェスコさん。

 悩んでいる顔も素敵だぞ。


 え? お前いい加減にしろって? だからー、これくらい許してよ。


 フランチェスコさんが、あたりを見回している。

 図書館の三階の窓から見える遊園地を、なぜか見ているぞ。

 大きい観覧車が見える。


 突然、フランチェスコさんが、あたしに言った。

「プルムさん、遊園地に行きませんか」


 なにー、これデートじゃん!

 ついに、齢二十歳でデートに誘われたぞ!!!

 しかも、こんな超イケメンに。

 ああ、こんなチェックの長袖シャツに黒いズボンじゃなくて、もっとおしゃれな恰好してればよかった。


 もう、あたしはフワフワ状態で遊園地にフランチェスコさんと向かう。

 この遊園地は結構大きい。

 正式名称は、ナロード王国メスト市遊園地。

 ジェットコースターやコーヒーカップ、メリーゴーランドとか、いろんな乗り物の他、でっかいホールもある。そこで、いろんな催し物をやっていたりする。


「観覧車に乗りませんか」とフランチェスコさんに誘われた。

「はい」この際、なんでもいいぞ。


 遊園地の観覧車に乗る。

 一周回るのに十五分間くらいかかるみたい。

 十五分間、イケメンと二人っきりだ!

 嬉しくて仕方が無い。


 観覧車に乗る時、ドアに引っかかって、フランチェスコさんが首にかけていたロケットのチェーンが切れて落ちた。

 危うく、乗り場と観覧車の隙間に落ちそうになったところを、あたしが空中でキャッチする。

 日頃、百エン硬貨を空中に投げて訓練していた賜物だ。

 え? あれはヒマつぶしで遊んでいただけだろって? すいません。


「あ、申し訳ありません」

「いえいえ、どういたしまして」とフランチェスコさんに渡す。


 観覧車の中で向かい合わせに座る。

 男性と二人っきりで、観覧車に乗るなんて、あたしの人生で初めてだ。


 切れたチェーンを確かめつつ、フランチェスコさんが言った。

「このロケットは、僕が捨てられていた籠の中に入っていたものなんです」

「え、そうなんですか」


 フランチェスコさんがロケットを開けると、鏡が付いている。その鏡を取り外すと、下に女性の写真が貼ってあった。多分、二十年前くらいの写真だからぼやけている。当時は技術もあまり進んでいなかったようだし。撮影するのに一時間くらいかかったようだ。


「この女性はもしかして……」

「多分、僕の母親でしょうね、僕を捨てたのにロケットを残しておくというのは、どういうことでしょうね。まあ、教皇庁にとっては身勝手な行動ですけど」

「いや、なにか事情があったんじゃないですか。それでも、自分の事を覚えていてほしいとか、ロケットでもいいから、フランチェスコさんを見守ってやりたいと思って、置いて行ったんじゃないでしょうか」


 しばらく、フランチェスコさんは黙った後、

「プルムさんは優しい人ですね」と言われた。

 え、あたし優しいかな。


 おまけに、

「この写真を見せたのはプルムさんが初めてです」

 なにー、あたしだけに母親の写真を見せてくれた。

 秘密を打ち明けてくれた。

 これはあたしに好意を持ってる証拠じゃないの。

 嫌いな人にそんなもの見せないでしょ。

 これは、本当に春が来たんじゃないか。

 大いに盛り上がるあたし!


 は? 単にお前が拾ってくれたからじゃないか? または、男でロケット着けているのを変に思われるのが嫌なので説明しただけじゃないのって? ちょっと、水差さないでよ。

 

 あとネックレスのチェーンが切れるなんて縁起が悪いぞって? うるさーい!

 

 観覧車がどんどん上に登っていく。

 ドキドキしてくる。

 メスト市の全景が見える。

 今日は快晴だ。

 景色はきれい。

 目の前にはイケメン。

 幸せ!

 もう、ずうっとこのままでいいぞ!


 一番上まで観覧車が到達。

「プルムさん」

「は、はい」

 え、いきなり告白かー!


「実は、例の本の件で、極秘の話があるんです」

 何だ仕事の話か。

 がっくり。


 去年のジェラルドさんのときも、寮の隣の運動場のベンチで二人っきりで座ったなあ。

 同じパターンだな。

 もしかして、また勘違いすか?

 まあ、いいか。 

 あたしとしては、十五分でも、イケメンと二人きりで一緒にいられるだけでもいいや。


「お恥ずかしい話なんですが、教皇庁内部で権力闘争があって、誰にも聞かれない場所がいいと思って、ここにお誘いしたんです」

 やっぱりデートに誘われたわけじゃないのね、当たり前か。


 あたしがデートに誘われることって、今後あるのだろうか?

 やれやれ。


 教皇は任期制で、亡くなった教皇は、本来なら今年の末までだったらしい。

 今は、枢機卿のトップが臨時で代行業務をしている。


「去年、教皇が亡くなったんですが、次の教皇がなかなか決まらないんです」

「どうやって、教皇って決まるんですか」

「評議会の話し合いですね」


 教皇は亡くなる寸前に、あの古書を見ていたそうだ。

 数日前に、教皇様宛に送られてきたとのこと。


「教皇はアトノベル騎士団の呪いによって殺されたとか、またはその残党に殺されたとか噂がたっているんです。評議会の中には信じ込んでいる人もいます」

「呪いとか残党とか、怖い話ですね」

「しかし、呪いなんてありえないし、あったとしても、あの本は、そもそも偽物です。それに、千年前に滅んだアトノベル騎士団がいまだに活動しているなんてことも、全くありえません」


「えーと、つまりどういうことなんですか」

「僕の親しい人の考えでは、誰かが教皇を殺して、本の呪いのせいにしたってことじゃないかと。ただ、ニセモノとバレるとまずいので、すぐに回収して廃棄するつもりだったと思われます」

「けど、普通、そういう場合、あの古書を焼却するとか、バラバラに裁断とかしませんか?」

「それが教皇が亡くなったあと、あの古書は厳重に保管されていたんですが、数週間後、盗まれてしまったんです。その時、不審な人物が、東地区の方へ逃げたのを目撃されています。早朝の出来事だったそうです」


 教皇庁の衛士が追ったそうだが、東地区で見失ってしまった。

 多分、捕まって取り返されたらまずいと思って、焦ってゴミ箱に捨てたか、もしくは、一旦隠したのではとフランチェスコさんは考えているようだ。

 それを、偶然、出勤途中のバルドがゴミ箱から拾ってしまった。


「実は汚職の噂があって、亡くなった教皇は、その件を知っていたようなんです」

「え、どんな、汚職ですか」

「教皇庁の事務棟を新しく建設することになったんですが、工事業者を選定する際に賄賂を貰った人がいるようなんです」

「そうなんですか。けど、そういう事件って、何かよくあるって言ってはおかしいですけど、あまり珍しい事件ではないですね」


「それが、その人物は次期教皇の有力候補なんです。亡くなった教皇は、その件を告発しようとしていたらしいんです。そうすると、告発された人物は教皇になれなくなってしまう。それで、殺されてしまった。他にも悪い噂のある人で、その人が教皇になるのを反対する評議員も多いんです」

 おいおい、次期教皇になろうとする神に仕える人が人殺しかよ。


「ひえ、早く、教皇庁がある南地区の大隊に知らせた方がいいんじゃないですか」

「それが、南地区の大隊長もからんでいるようなんです」

「ええ! けど、警備隊の大隊長に何の得があるんでしょうか」

「多分、お金ですかね。あと、教皇は、けっこう政府の人事に顔が聞くらしいんです」


 まさか、警備隊の大隊長が関わっているのか?

 全く、去年の近衛連隊長といい、そんなに権力とか金がほしいのか。

 あたしは、そんなもの欲しくないぞ。

 金もギャンブルができる程度にあればいいんよ。


 いや、もしフランチェスコさんのような恋人がいれば、お金もいらん。

 愛は金で買えないんよ。


 愛は金で買えないって、偉そうだな、お前、ギャンブル依存症のくせに。本当にそう思っているのかって? 思っているわい!


「そこで、プルムさんから何とかならないかと思ったんですが」

「うーん、こういう場合は、警備総監に言うしかないですね。とりあえず、警備隊本部に一緒に行きませんか。総監がいなくても、警備長か警備監が必ずいると思います」

「わかりました。是非よろしくお願いします」


 働いたら負け! がモットーのあたし。

 しかし、イケメンに頼まれたら、そんなモットーなんぞ吹っ飛ぶ。

 あたしは張り切っているぞ。

 観覧車を降りて、そのまま、フランチェスコさんと警備隊本部へ行こうと遊園地を出たところで、いきなりあたしらの前にデカい馬車が停まる。

 教皇庁の馬車だ。


 びっくりしていると、覆面を被った連中に取り囲まれた。

「なんなの、あんたら」とあたしがびっくりしていると、

「殺されたくなかったら、言う事を聞け」と無理矢理、フランチェスコさんと一緒に馬車に詰め込まれ、目隠しされる。

 多勢に無勢。

 あたし一人なら逃げられたかもしれんけんど、イケメンを残して逃げられん。

 大人しく捕まった。

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