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ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険  作者: 守 秀斗
第四章 うら若き十九歳の困惑する乙女/クーデター発生編
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第四十二話:ジェラルドさんに告白する

 あたしは、ジェラルドさんを警備隊庁舎の屋上に呼び出した。

 屋上の端っこでそわそわするあたし。

 けど、勘違いだったら、どうしよう。


「お前のことなんか好きになるわけないじゃん、アハハ!」とか大爆笑するジェラルドさんを想像するあたし。

 ああ、やっぱり呼び出さなければよかったか。

 なんて考えていたら、ジェラルドさんが来た!


「何でしょうか、プルム小隊長」とジェラルドさんは真面目な顔をしている。

 真面目な顔していると言いにくい。

 勤務時間中だし。


 ああ、いいや、言ってしまえ!

 って、何て言うんだっけ。

 えーと。

 とりあえず、お付き合いかな。

「で、出来れば、あの、私と、そのお付き合いをしていただけないでしょうか」

 すると、

「申し訳ありません」と即行で頭を下げるジェラルドさん。



 わずか一秒で振られた。



 ……やっぱり勘違いか。

 そうか、仕方がないな。

 あれ、全然ショックじゃないぞ。

 何だろう、この不思議な感覚は。


 あたしがボーッとしていると、ジェラルドさんがさめざめと泣きだした。

 あれ、なんで泣いてるの、この人。

 この場合、泣くのはあたしの方なんじゃないの。

 あたしが告白すると目が痛くなるのか。

 この人、花粉症なの。

 花粉の季節だっけ。

 今は秋だぞ。

 それとも、お前は花粉みたいな女だって言いたいのか。


「本当に申し訳ありません。あなたを誤解させてしまったかもしれません」

「はあ」冷静なあたし。

 いや、冷静と言うより頭がボンヤリとしている。

 急に思い出してきたぞ。

 前にバルドが言ってたなあ。

 何だっけ。

 なんとかバイアス。


 そうだ、思い出した。

 これがあの「正常化バイアス」ってやつか。

 あんまりショックなんで、振られたのに逆に冷静になってる。

 ジェラルドさんに告白したことが、あたしの心の中で無かった事になっているんだ。


「実は、あなたと仲の良い人に近づきたくて、けど、怖くて、出来れば仲を取り持ってほしいと思って、何度もあなたのところに行ったんです。申し訳ありません」まだ泣いているジェラルドさん。


 あ、そうなんだ。

 ふーん、あたしの小隊には何人か女性隊員がいるけど、あたしと仲が良い独身女性はサビーナちゃん。

 サビーナちゃんが好きなのね。

 まあチャラ男のロベルトよりはマシか。

 チャラ男に弄ばれたあげく捨てられるより、泣いているけど、この誠実そうな男の方がいいかもね。


「分かった。仲を取り持ってあげる。本人次第だけど」

「ええ、本当ですか、ありがとうございます」とまだ泣いているジェラルドさんに固く握手される。

 何だかどうでもよくなってるあたし。


「大丈夫。ちゃんとうまく伝えてみるから」と言いながら、遠い目になってるあたし。

「是非ともお願いします。彼によろしくお伝え願います」と嬉し泣きするジェラルドさん。

「は? 彼?」


 ジェラルドさんは男が好きだったのか。

 好きな相手はチャラ男ことロベルト。

 まあ、仲を取り持ってやろう。

 だって、泣いてお願いされちゃったら、しょうがないじゃない。

 但し、ジェラルドさんには、あたしが告白したことは口止め。

 けど、見込みないんじゃないかと思った。

 相手はチャラ男じゃん。


 密かに会議室へロベルトを呼んで、もう単刀直入に聞いたんよ。

 ジェラルドさんのことは隠して。

 あんた、男が好きかって?

 チャラ男ことロベルトは「ウヒャヒャ!」と笑う。


 そりゃそうだよねとあたしは思ったんだけど。

「よく分かりましたっすね。さすがはドラゴンキラーっすね」

「へ?」

 おいおい、本当かよ。

 あと、この場合ドラゴンキラーは関係無いだろ。


 ジェラルドさんみたいなのはタイプかって聞いてみたんよ。

「ド真ん中ストライクですね」とチャラ男。

 ホントかよー!

 で、ジェラルドさんのことを伝えたら喜んじゃって。


 去年、ロベルトが主催した女だらけのハーレム懇親会は何だったんだ。

 どうも自分のセクシャリティを隠したかったみたい。

 ああ、疲れた。

 けどさ、あたしは何なのよ。


 疲れて、寮に帰る。

 寮母のジュスタおばさんに廊下で会ったので、聞いてみた。

「以前、ジェラルドさんがお前の事をじっと見てたよって言ってたけど、それ、いつのことですか?」

「あんたが、あのロベルトって変な奴と運動場にいたときだよ」


 ジェラルドさんはロベルトを見てたのね。

 がっくり。

 自分の部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。

 ぐったりとして寝た。


 ジェラルドさんとロベルトの結婚式に行きました。

 職場関係は、さすがにあたしだけ。

 あたしは二人の仲を知っているので、招待されてしまった。

 あんまり、行く気がしなかったけど。

 いや、差別は良くない。


 しかし、やはり、あまり気持ちのいい感じがしないなあ。

 男ばっかの結婚式。

 女性の恰好してる人もいるけど。

 うーん、どうも居心地が悪い。

 盛り下がるあたし。

 いや、差別は良くないぞ。


 マッチョ系の男性同志のカップルが多い。

 頭はスキンヘッドで、ヒゲを生やして、筋肉ムキムキ。

 気持ち悪いなあ。

 いや、差別は良くないです。


 なぜか、やたらと声をかけられる。

 どうも、男の子に間違えられてるみたい。

 こんなに男性に声をかけられたのは、人生初めてだぞ。

 けど、嬉しくない。

 いやいや、とにかく差別は良くないですよね。


 けど、盛り上がらんなあ。

 まあ、ジェラルドさんとロベルトが幸せならいいか。


 ジェラルドさんが花束を投げた。

 何してんの? 

 ああ、ブーケトスか。 

 ジェラルドさんが花嫁なんか?

 と考えてたら、花束があたしの手に自然と落ちてきた。

 周りの皆さんから大拍手。

 これって、運が良いのか、悪いのか。

 困惑するあたし。

 いったい、これからどうなんの、あたしの恋愛活動は?


 年度末に、アレサンドロ大隊長との引継ぎをした。

 顔に似合わず繊細な赤ひげのおっさん。

 やたら細かく教えてくれるが、頭の悪いあたしには難しい。

 夜遅くまでかかる。


「私は大隊長になんか本当はなりたくなかったんですが。できれば平隊員に戻りたかった」

「俺も、お前を平に戻すか、またはクビにしろと人事には何度も言ったんだがな」

 ガハハと二人で笑う。


 分厚いマニュアルまでくれた。

 凄い細かい引き継ぎ書だ。

 インデックスまでついてる。


「難しいから、後で聞いてもいいですか」

「かまわんよ。あと退職記念で懐中時計を貰ったんだ。だから、今使ってる奴をお前にやるよ。これで遅刻とかはやめるように」

「わあ、ありがとうございます」

 おっさんすっかり丸くなったな。 


 残ってる皆で、玄関でお見送り。

 珍しく笑顔で手を振る赤ひげ大隊長。

 アレサンドロ大隊長殿、お疲れ様でした。


 え? アレサンドロ大隊長がメスト市の地図を見て、赤線を引いてたのは何だったのかって?

 居酒屋を開店する場所を考えていたみたい。

 クーデター発生当日も、官庁街をウロウロして開店予定場所の確認をしてたから、電話に出なかったようです。


 警備隊庁舎の廊下の端で、コソコソと大隊長と話していたセルジオ元大佐はどうなんだって? 赤ひげのおっさんに、お金を借りにきただけみたいっす。

次回から「第五章 うら若き二十歳の勝負どころの乙女/アトノベル騎士団の呪い編」に続きます。

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