第四十一話:クーデター発生
翌日は夜勤。
小隊長当番はあたし。
分隊はリーダーの部隊。
いつもの通り、ヒマ。
仕事してる振りをして居眠り。
のはずだったんだけど。
近衛連隊から電報が送られてきた。
『現政府を打倒し軍事革命に対し支持と協力を求める 近衛連隊』
おいおい、いきなりクーデター発生かよ。
みんなで騒然としていると、チャラ男ことロベルトが珍しく真面目な顔で、
「うちらはどっちに協力するんで?」とあたしに聞いてきた。
「は? 何言ってんのよ、チャラ男! 反乱を起こした連中に協力するわけないじゃん」
「だけど、もし反乱が成功したら、プルム小隊長殿は銃殺になるかもしれないっすよ。俺っちらは下っ端なんでお咎め無しと思いますけど」と今度はニヤニヤするロベルト。
「えー! 何で私が銃殺されんのー!」とあたしが仰天していると、
「だって、今現在のこの警備大隊のトップじゃないすか。で、クーデターが成功したら、プルム小隊長殿は逆らったことになるじゃないすか。見せしめに銃殺になるっすよ」とロベルトがヘラヘラ、ニヤニヤ笑いながらも、あたしを脅かすように説明する。
ますますビビるあたし。
目隠しされて、柱に縛られて、銃殺される自分を想像してしまった。
クソー! チャラ男の奴、上司を虐めやがってー!
あたしに恨みでもあんのか!
なんで、よりにもよって、あたしがこの大隊の責任者の時にクーデターなんて起るんだよー!
「リーダー、どうすればいいと思いますか」分隊長席に腕を組んで座っているリーダーに相談するが、
「うーん、うーん」といつものように、腕を組んで、ただ悩むだけのリーダー。
だめだ、こりゃ。
「プルム、アレサンドロ大隊長のご自宅に電話したら」と冷静なアデリーナさんのアドバイス。
そうだ、赤ひげのおっさんの家には電話があるんだ。
おっさんのとこに電話するが、誰も出ない。
「また、電話線切られたの?」と戸惑うあたし。
「反乱軍が交換所を占拠したんじゃねーすか」と相変わらずニヤニヤしているロベルト。
焦っているあたしを嘲笑っているような態度だ、コノヤロー!
「けど、交換手は出たよ」
「別のとこから、電話機をつなげてるかもしれないっすね、まあ、かの有名なドラゴンキラー、プルム小隊長殿のご命令とあらば、軍隊とドンパチやってもいいっすよ」とまたヘラヘラしながら、ライフルをかまえる仕草をするロベルト。
このチャラ男は、またライフルでヒャッハーしたいのか!
なぜかあたしに向かって、ニヤニヤしながらライフルの照準を合わせる仕草をするロベルト。
なんであたしを狙うんだよ!
嫌がらせかよ!
蛸の足で殴られた復讐かよ!
「やい、チャラ男! 何やってんの! だいたい警備隊が軍隊に勝てるわけないでしょー!」とあたしがヒステリー気味にロベルトに向かって怒鳴ると、
「まだ、分からないっすよ。だいたい、どの程度の規模の反乱なのか分からないし」とロベルトが再び真面目な顔して言った。
ジェラルドさんが、首謀者は軍隊をクビになった人と言ってたんだよなあ。
やっぱり、赤ひげのおっさんが関わっているのか!
だから電話に出ないのか。
どうしよう。
そうだ、とりあえず人数を集めよう。
寮に連絡だ。
「ミーナさん、隣の寮に行って、今いる隊員を全員呼んできて」
「はい! 分かりました」と緊張した顔で足早に走っていくミーナさん。
おしとやかなミーナさんがちゃんと走るの初めて見たな。
音を立てないで走ってるぞ。
ってそんなこと考えてる場合ではない。
銃殺なんてやだよー!
まだ死にたくないよー!
怖いよー!
寮からジェラルドさんが来た。
相変わらずイケメンだなあ~。
素敵。
って、だからそんな事考えてる場合じゃないよー!
一応、全部で三十人に増えた。
とりあえず、会議室で相談する。
「しかし、何で近衛連隊がクーデターを起こすんですか」とあたしが聞くと、
「三年前のカクヨーム王国との戦争で一番戦死者が多かったのに、何も論功行賞が無かったから、不満を持っているって噂はあったけど」とリーダーが言った。
ああ、何か聞いたことあるなあ。
半魚人コスプレ強盗事件の犯人も、その件で近衛連隊を辞めたってことだった。
そういや、チェーザレも近衛連隊の兵士に知り合いがいるんだとか言ってたなあ。
そっから情報を聞き出したのだろうか。
あれ、いろいろと思い出してきたぞ。
「多分、誰かが中心になって、いろんな組織に連絡していると思うんです。そういう中心人物たちを一網打尽にすればいいんじゃないですか」とある分隊長の意見。
「中心人物ってどこにいるの」
「近衛連隊長名で連絡があったから、近衛連隊本部じゃないですかね」
「いや、この電報おかしい点があって、近衛連隊としか書いてなくて、近衛連隊長本人の名前が入ってないんですよね」とジェラルドさんが言った。
「どうしますか、プルム小隊長」と皆に聞かれる。
皆にどうするって言われて、顔見られてきょどるあたし。
あたしはリーダータイプじゃないんよ。
それに、とにかく銃殺はいやなんよ。
全部、放り出して、密かに逃げ出そうかな。
って、さすがにそれはいかん。
しかし、どうすればいいんだろう。
うーん、赤ひげのおっさんが絡んでいるとは思えないんだよなあ。
もうすぐ定年で居酒屋やるんでしょ。
そういやセルジオ元大佐って人もいたなあ。
この前、廊下の端っこでヒソヒソと赤ひげ大隊長と話してたんだけど。
なんだか人生ヤケクソって感じだった。
お酒臭かったなあ。
ただ、軍に恨みがあっても、アル中じゃあクーデターなんて出来ないでしょ。
そうすると……。
突然、ロベルトがドカッと大きな音をあげて、椅子から立ち上がる。
急に立ち上がったんで、ビビるあたし。
「な、何よ」
「ちょっと、トイレ行っていいすか」とヘラヘラしているロベルト。
「何だよ、ビビらせんな、チャラ男! 勝手に行けよ!」と言った途端あたしは急に思いだした。
確か、この前サビーナちゃんの家に行った帰りに、公衆トイレに寄ったんだっけ。
隣の男子トイレからクーデターって言葉が聞こえてきたぞ。
あの声は、思い出した、ブルーノ元中佐に似ていた。
多分、そうだ。
ただ、どこに居るのか。
うーん、とまた悩んでいると、ロベルトがトイレから帰ってきて、
「腹減ったすねえ、ラーメンの出前でも取りますか?」と依然としてヘラヘラしながらあたしに向かって言う。
「ふざけんな! そんな場合じゃねーよ」と思わず怒鳴りつける。
こいつは大変な事件が起きてんのに、ふざけた奴だと思ったら、また思い出したぞ。
そうだ、チャラ男が蛸と戦った下らん事件があったが、その後、ルチオ教授と三人でラーメン屋に行った。
二階に電話機が何台かあったぞ。
あそこから、いろんな部署に協力を呼びかけているんではないか。
ラーメン屋の主人は近衛連隊の軍属だったから協力しているに違いない。
この前も、朝っぱらから賭博場に行く際に、ブルーノ元中佐がラーメン屋に入るのを見た。
朝からラーメンって変だなと思ったけど。
よし、こうなったらラーメン屋に突撃だ!
「多分、ブルーノ元中佐が絡んでます。居場所は、多分、王宮前の大通りにあるラーメン屋だと思います」
「なぜですか」とジェラルドさんに聞かれる。
「公衆トイレでブルーノ元中佐らしき人物の声を聞いたんですよ」
みんなで王宮の前のラーメン屋まで走る。
まあ、間違っているかもしれんが、その時は、トンズラしよっと。
ロベルトは背中にライフルしょって自転車に乗っている。
「お先にっす!」とラーメン屋を通り過ぎて、曲がろうとして、壁にぶつかって倒れた。
放っておく。
シャッターが閉まっているが、シーフ技で簡単に開ける。
ラーメン屋に乱入して、二階に登ると、五人いて机に地図を広げている。
その中に、ブルーノ元中佐がいた。
びっくりした顔で、
「お前は、ドラゴンキラー」と叫んだ。
「やい、反乱軍、おとなしく降伏しろ!」とあたしが叫ぶと、銃で撃ってきた。
銃弾があたしの顔をかすめる。
ラーメン屋の二階で銃撃戦になった。
狭い場所なんで、ちと怖い。
しかし、こっちが大勢でライフルをガンガンぶっ放したので、結局、クーデターの首謀者の連中は、あたしらの人数の多さにあきらめたのか、あっさり降伏した。
ブルーノ元中佐が二階の窓から飛び降りて逃走をこころみたけど、足をくじいたところを、戻って来たロベルトがライフルの銃床でぶん殴って、逮捕。
まあ、ブルーノ元中佐は酒臭くなかったからなあ。
なにか目標みつけたからじゃないかと思ったんよ。
けど、男はやっぱ仕事がないといかんのかね。
働いたら負けがモットーのあたしにはわからんなあ。
連行されるブルーノ元中佐に、
「おい、ドラゴンキラー、お前のようなさぼり魔に見抜かれるとは思わなかったぜ」と罵倒された。
さぼり魔言うな!
後日、クーデターを鎮圧したので、王宮の謁見の間で表彰式。
鎮圧したっていうけど、ラーメン屋の二階でちょっと銃撃戦しただけなんだけどなあ。
チェーザレを殺した犯人はブルーノ元中佐だった。
ジェラルドさんと話していたのを偶然見て、その内容を聞いてしまったので、殺害したようだ。
例の一千万エンを押収物倉庫から盗んだ元近衛兵は、その金をクーデターの資金として、ブルーノ元中佐に援助したらしい。それを使って電話機を購入したみたい。
ブルーノ元中佐は、軍をクビになったのを恨んで、似たように論功行賞の件で軍部に不満を持つ近衛連隊長を煽って、クーデターを起こそうとしたけど、参加するはずのその近衛連隊長があやふやな態度を取ったので、軍隊はほとんど動かなかったようだ。
御下賜品をいただく。
また、万年筆かと思いきや、何か箱が大きくて重い。
意地汚いあたしはすぐ中身をみちゃう。
おっと、箱を開けると双眼鏡が入ってきた。
なんで双眼鏡?
わからん。
あちこち見てみる。
イガグリ坊主の王様のニカッとした顔がドアップで見えた。
思わず、
「うわ!」と驚く。
大きな声をだしてしまった。
王様は気にしていない。
しかし、王様、前歯二本も欠けてるし、他の歯もガタガタ。歯の色も茶色っぽく汚い。
歯磨きしてるのか?
「あーそれから、キミ、キミ、来年度から大隊長ね、ヨロシクー!」
何ですと。
えー! 大隊長に昇進!
いいんかい? 泥棒がなって。
それに、あたしとしては小隊長だって嫌なのに。
クラウディアさんも表彰された。
今日のファッションは、白いブラウスに花柄プリーツロングスカート。
何を着ても素敵だけど、犬はどこだ、犬は。
よく見ると、花柄のところどころに小さい犬がデザインされてる。
変なデザインだ。
どこで売っているんだ、この服。
ところで、珍しいね、裏方の情報省なのに。
ちょっと聞いてみる。
「クラウディア様、珍しいですね。表彰されるなんて」
「私もよく分からないんですよ。大した事してないです。ジェラルド小隊長から、クーデターの件で連絡があった後、軍隊を首になった人を個別訪問したんですよ。ブルーノ元中佐の自宅にも行ったんです」
「そうなんですか」
「で、ブルーノさんに、あなたはクーデターを起こそうとしてますかって聞いたんです」とニコニコしながら答える。
は? おいおい、この人、ホントに頭がおかしいんじゃね。
「はい、クーデターを起こします」なんて答えるわけないじゃん!
もう、天然お嬢様から天然姫に昇進だ。
しかし、そのおかげで、計画がばれたと思ったブルーノ元中佐が焦って、協力するはずだった近衛連隊長の承認を得ずに、クーデターを早めてしまい、まとまりがないまま鎮圧されてしまった。
あたしが、公衆トイレで聞いた会話は、ブルーノ元中佐と近衛連隊長みたい。
あと、官房長官とかいう人が殺されそうになったけど、逃げて無事。
後は被害は無し。
クラウディアさんは、怪我の功名か。
って、本当なのか。
まあ、いっか!
さて、クーデター騒ぎは終わったし。
次はあたしの番だ。




