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ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険  作者: 守 秀斗
第四章 うら若き十九歳の困惑する乙女/クーデター発生編
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第三十八話:チェーザレの死

 小隊長ともなると、世間のしがらみがきつくなる。

 また、赤ひげのおっさんに怒られた。

「お前、小隊長になったのに、まだ東地区担当の自警団長に挨拶に行ってないんだってな。さっさと行け!」

 行こうと思って、あたしのモットーの「今日出来ることは明日も出来る」が働いているうちに、結局、忘れてた。

 やれやれ、面倒だな。


 嫌なら辞めて泥棒に戻れよって? 泥棒だって、しがらみがあるんよ。

 山奥に一人で仙人みたいには生きていけないんよ。

 それに、リーダーと離れたくないなあという気持ちがまだ残ってるんよ。

 まだ未練が残っているのかって? もう、あきらめろって? あきらめてるよ。けど、離れたくないんよ。

 未練たらたら、情けないあたし。


 自警団と言うと、緊急時に民間人が、即席で結成して暴れたりする団体とかイメージする人もいるかもしれないけど、この都市の自警団は大昔からあり、治安の維持やら防災活動などを行っている。

 まあ、町内会みたいなもんね。

 昔は、犯罪が起きると自警団が処罰してたらしいけど、各地域の自警団の間で刑罰の違いがあったりして、今は警備隊が全体をまとめているって感じね。


 自警団員はボランティア活動。

 自警団長は、だいたいその区域の名士がやっている。

 ご自宅を訪問する。

 豪邸だ。

 庭に池があって、でっかい鯉を飼ってたりする。

 かなりの金持ちだな。

 

 自警団長はフェデリコ・デシーカさん。

 太った背の低い、陽気な感じのおじさん。


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません」とあたしが謝ると、

「いえいえ、かの有名なドラゴンキラーにお会いできるとは光栄ですな」と言われた。

 また、ドラゴンキラーか。

 いつまで言われ続けるのだろうか。

 やれやれ。


 豪華な応接室で歓談していると、

「団長、ご報告があります!」と団員の人が部屋に飛び込んできた。

 変死体が発見されたそうだ。

「プルム小隊長殿も、一応、来ていただけますか」と団長に言われたので、

「はい、分かりました」とあたしも同行することになった。

 

 ゴミ収集場所で死体が発見されたとのこと。

 自警団の人が集まっている。

 ゴミ溜めの中に、黒い背広でノーネクタイのずんぐりした男があおむけで死んでいる。

 え! 見たことあるぞ!

 チェーザレだ。

 びっくりしたあたしは、

「チェーザレ!」と思わず叫んでしまった。


「プルム小隊長殿はご存知なんですか」とフェデリコさんに聞かれる。

「あ、はい、あのう、情報屋の人ですね」

「情報屋ですか。怪しげな仕事をしてた奴ですな。警備隊もこういう人種と付き合わなければいけないとは大変ですな」

「はあ」戸惑うあたし。


「遺族とかに連絡したいんですけど」と団員さんに聞かれる。

「出身は、ラドゥーロ市の西地区トランクイロ街です」

「何で知ってるんですか」とフェデリコさんに聞かれてしまった。

「……本人から聞きました」


「ラドゥーロ市のトランクイロ街って有名なスラム街ですよ」と一人の団員が言うと、

「スラム街出身か。人間の屑がゴミ溜めで死んだってことだ」とフェデリコさんが笑った。

 それにつられて、自警団員も全員で大笑いしている。

 同郷とは言えなかった……。


「警備隊で引き取りますので」とあたしが言うと、

「よろしくお願いします」とまかされた。

 チェーザレは刺殺されていた。

 チェーザレの死体は棺に入れて、あたしも知り合いのトランクイロ街のボス、アドリアーノ・ロベロに頼んで引き取ってもらうことにした。


 寮に帰って、ベッドに倒れ込む。

 いつもはイケメンとのデートを妄想しているあたし。

 だけど、今日はチェーザレの顔ばかり浮かんでくる。


 この都に来たのもあたしのコネを期待して来たんだっけ。

 最初からケンカしまくり。

 なんでだろう。

 うーん、よく考えると、あたしがイライラしているときだったなあ。


 タイミングが悪かった。

 って、言い訳に過ぎないな。

 と言うか、あたしがひどいんだな。

 チェーザレも十代でぐれちゃったけど、粋がってただけかも。

 小さい頃はよく遊んだ。

 暴力とか振るわれたことなんて一度も無い。

 だいたい、虐められたこともないぞ。


 最後に会ったのは、機関銃罵倒しまくった日。

 けど、チェーザレは全然怒らなかったなあ。

 確か、五日前くらいだっけ。

 借金まで肩代わりしてくれたのに。

 何にも助けなかった。

 憂鬱。

 悲しくなる。

 チェーザレの奴、死んだあとまで嫌がらせか。

 ベッドで横になって、泣いた。

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