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ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険  作者: 守 秀斗
第四章 うら若き十九歳の困惑する乙女/クーデター発生編
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第三十六話:サビーナちゃんの家に行く

 しょうもない蛸事件も終わって、今は秋。

 いつものように玄関の掃除をしていると、珍しく赤ひげのおっさんが朝早く出勤してきた。

 赤ひげのおっさん、酒臭くない。

 昨日は休肝日だったのかな。

 挨拶すると、珍しく無言で敬礼を返してくれた。

 いつもは完全無視なのに。

 気の弱いあたしはそれだけでも嬉しい。


 嬉しくなって、部屋に戻ってリーダーに赤ひげ大隊長があたしに挨拶を返してくれたと言うと、

「アレサンドロ大隊長は今年度限りで定年だから、多少は性格が丸くなったのかなあ。噂では定年後は居酒屋を開くつもりらしいよ」とのご返事。 

 そうか、定年かあ。

 赤ひげのおっさんも第二の人生に向かって、目標を見つけたのかな。

 居酒屋か。

 あたしだったら、引退後は毎日昼寝だな。


 って、何言ってんの! 引退生活なんぞ考えるより、先にする事があるぞ!

 恋愛よ! 恋愛! それも燃えるような恋愛!

 純愛よ! 純愛! 純愛を絶対に成就すんの! 


 やるぞー! と意気込んでいたら、

「プルム、右手のゲンコツを高々と上げてどうしたの」とリーダーに言われてしまった。

「ああ、いや、こっちの話です」

 最近、ますます周りが見えなくなっていくなあ。

 焦ってんのか、あたし。


 給湯室で手を洗おうと廊下に出ると、廊下の端っこに赤ひげのおっさんともう一人いる。

 何やら立ち話をしているぞ。

 話が終わったのか、赤ひげのおっさんと話していた人物がこっちに歩いてくる。

 思い出したぞ、この陰険な顔。

 レッドドラゴン事件で、部下を置いて逃げ出したセルジオ大佐だ。

 こっちは酒臭いな。


「こんにちは、セルジオ大佐」と挨拶すると、

「俺はもう大佐じゃねーよ!」と怒られた。

 やさぐれた感じ。

 ふらつきながら建物を出て行った。

 やっぱり軍隊を首になったのだろうか。

 何をして暮らしているんだろう。


 小隊長は普段は日勤。

 五人いるから持ち回りで夜勤。

 今日は休日。

 十日間に一日ぐらいある。


 非番のサビーナちゃんの家に行く。

 サビーナちゃんは寮を出て、今は借家で一人暮らし。

 美味しい紅茶を飲みながら、楽しくおしゃべり。

 ああ癒されるわあ。

 サビーナちゃんのかわいい顔見てるだけで、癒される。

 ずっと見ていたい。


 え? やっぱりお前は同性愛者だろって? 違うよ! いや、差別はいけないけど。

 分かんないのかなあ。

 あたしみたいな乙女が男性の部屋で二人っきりになったら、癒しどころじゃないでしょー!

 もし、その男性がイケメンだったら、心臓がバクバク、血圧急上昇で倒れちゃうよ! 

 全く、デリカシーがないね。


「どうしたんですか、プルムさん」

「あ、いや、こっちの話」

 こじんまりとした部屋。

 玄関から入るとすぐ狭い居間があって、隅っこに台所、隣には寝室。あとは、ちっこいトイレと風呂。

 そんだけ。

 質素だなあ。


 狭い寝室の小さいベッドにはクマのぬいぐるみ。

 お母さんの手作りだそうだ。

 愛されて育ったんだなあ。

 孤児のあたしには羨ましい。

 お母様はまだ少し調子が悪いらしい。

 今は給料の一部を実家に仕送りしているようだ。

 えらいなあ。

 今度、ギャンブルで大勝したら、一部をサビーナちゃんに寄付したい。


 窓から外を見ると、近くに背の高い教会がある。

 教会の鐘が鳴る。

 いつか、あたしも教会で結婚式。

 また妄想の世界に浸ってしまった。


 そう言えば、このサビーナちゃん、全然、男の気配がしないなあ。

 ちょっと聞いてみよっと。

「ところで、サビーナちゃん、彼氏いんの?」

「えー! いないですよー!」

 ホンマかいな。

 こんなにかわいいのに。

 不思議だ。

 ん? お前は全く不思議ではないなって? うるさいわい!


「プルムさんはどうなんですか」

 え!

 どう答えよう。

 うーん。

 まあ、正直に言うしかないな。

「いないよ、そんなの」とうつむき加減にそっけなく答える、情けないあたし。

「えー、プルムさん、すっごくかわいいのに」

 は? おいおい、サビーナちゃん目が悪いんじゃないのか。


 帰り道、サビーナちゃんの家で紅茶を飲み過ぎたんで、トイレに行きたくなった。

 我慢、我慢。

 うーん、寮まで我慢出来ん。

 公衆トイレがあった。

 ほっとして駆け込もうとしたら、『清掃中』の立て看板が。

 ああ、どうしようと思ったら男子トイレの入口。

 ラッキーと女子トイレの入口にまわったら、そこにも『清掃中』の立て看板が。

 絶望! 

 と思ったら、まだ掃除してないじゃん。

 清掃業者は男子トイレの方を清掃してるんだな。

 えい、入っちゃえ。


 ふう。

 すっきりしたところで、手を洗って、鏡を見るとまたアホ毛が立っている。

 またか。

 やれやれ。

 アホ毛を直していると、隣の男子トイレから話し声が聞こえてきた。


「つまり、お前はクーデターを起こすつもりなのかよ」

「いや、これは正義の遂行ですよ」

「しかし、うまくいくんだろうか」

「ご協力お願いします。政府に恨みはないんですか?」

 

 クウデタって何じゃ? 

 食い物か? 

 なんとなくナタデコッコというお菓子を想像する。

 清掃の人がなんで政府に恨みを持つの?

 賃金安くされたのか?

 よくわからん。

 まあ、あまり人の会話を盗み聞ぎするのはよくない。

 警備隊員だしね。

 え? お前は泥棒で盗み聞ぎは得意だろって? 泥棒は開店休業中です。

 しかし、クウデタって食い物は気になるなあ。

 美味しいのかなあ。

 後で、大卒インテリのバルドに聞いてみるかとトイレを出る。


 しかし、さっきの男子トイレでしゃべっていた声、なぜか、どっかで聞いたことがあるなあと不思議に思いながら歩いていると、突然、声をかけられた。

「おい、プルム」

 むむ、久々に聞いたぞ、この声は!

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