第三十一話:オガスト・ダレスからの脅迫状
殉職したセルジョ小隊長の仕事は、赤ひげのおっさんが兼任することになった。
決裁書類はサビーナちゃんに届けてもらう。
なるべく大隊長室には入りたくない。
赤ひげのおっさんが、いつ酒瓶であたしに殴りかかってくるかもしれないので怖い。
サビーナちゃんあきれ顔。
けど、届けてくれる。
優しいな。
ある日、新聞を見ると、『吸血鬼を倒したドラゴンキラー』って記事が載っているぞ。
『シアエガ湖に出現した巨大ドラゴンを剣で倒したプルム・ピコロッティ警備隊分隊長(十八歳)が、今度は首都メスト市に出現した巨大吸血鬼をナイフ一本で倒した』とある。
そんなの載せないでくれよー! あたしが倒したんじゃないって!
『プルム・ピコロッティ分隊長は背が高く、容姿端麗と言われている』とも書いてある。
誰が言ってるんだよ! 嫌味かよ!
やれやれ。
そろそろ夏になってきたという時期に、アデリーナさんが産休にはいった。
だいぶお腹が目立っていたもんね。
しっかり者のアデリーナさんがいなくなって、不安になったあたしは、代わりの人をつけてくれと赤ひげのおっさんに頼むと、あっさりと承諾された。
おっさんもあたしの分隊が心配らしい。
隣の部屋の第四小隊から女性隊員が異動してくることになり、ジェラルド小隊長が連れてきた。
ミーナ・ミラーノさん。
あたしと同い年の十八歳。
大人しく、感じのよさそうな女性だな。
それはともかく、ウォ! ジェラルドさん、凄いイケメン。
今まで、気づかなかった。
隊長会議で会ってたはずなのに。
居眠りしてばっかりだったからか。
要チェックね。
また、イケメン、イケメンって、そればっかりかよって? うるさい! 男は顔が命! そして、美しいものは『正義』なのよ!
え? じゃあ、お前は『悪』なのかって? うるさーい!
そして、早速、ミーナさんにちょっかいをかけるチャラ男ことロベルト。
「ロベルトっす! よろしくー! ところでミーナさん、彼氏いる?」
シーフ技でさっと、ロベルトの背後に回り、
「失礼だろ、このチャラ男!」と丸めた紙でロベルトの頭を殴る。
「痛いっす、何すんすか!」
みんな大笑い。
けど、みんな笑ってるけど、あたしはマジよ。
監視しなきゃ。
うちの分隊は恋愛については純愛よ、純愛! 純愛限定!
うちの分隊はあたしが隊長なんよ。
あたしが決めんの!
あたしが規則なんよ!
メチャクチャな規則だって? そうメチャクチャなんよ!
自転車が配備された。
と言っても分隊に各一台。
前にあたしが巡回中に通行人に乗らせてもらった、前輪がバカでかく後輪が小さい自転車ではなく、前輪も後輪も同じ大きさ。車輪も鉄の輪じゃなくて、ゴムの輪がついていて、乗りやすくなった。車体の真ん中にペダルがあり、チェーンを付けて後輪を回し、前輪はハンドル操作で方向を決める仕組。
これは面白いとスイスイ乗り回すあたし。
サビーナちゃん、何度も倒れて、やっとフラフラで運転。そんなに難しいのかね。
ミーナさん、そっと慎重にノロノロと自転車を進める。おしとやかな運転。
お、バルドはしっかりと運転している。スピードもわりと速いぞと思ったら、ペダルを踏まずに長い足で地面を蹴っている。それじゃあ、意味ないじゃん。
ロベルト、いきなりスイーっと走ったと思ったら、曲がれず倒れる。曲がるときはずーっと曲がって同じ場所をクルクル小さく回転してるだけ。テキトー男。さすがチャラ男。
リーダー、全然、運転できない。倒れてばかりであきらめた。性格が優しすぎるんよ。自転車さんに負担をかけたくないんよ。
その擁護は無理がある、単に運動神経が無いだけじゃないかって? ううむ、そうなのか。
けど、優しい事には変わらないぞ。
まあ、自転車は緊急の時だけしか使わないけど。
アデリーナさんが無事出産したようだ。
男の子。
リーダー嬉しそう。
口を開けば子供の話。
あたしはなんとなく寂しい。
秋になった。
育休の手続きで、職場に寄るアデリーナさんが赤ちゃんも連れてきた。
手足がちっこい。
こんなに小さくても動いている。
あたしも抱かせてもらう。
可愛いな。
それにしても、あたしにも産休やら育休を取る日が来るのであろうか?
一生、縁が無かったりして。
ちょっと暗くなる。
さて、そろそろ寒くなってきた頃、あたし宛に手紙が届いた。
差出人は、指名手配になって、逃走中のオガスト・ダレス!
『プルム・ピコロッティに告ぐ! 鍵を返せ! さもないと狼男を使ってお前を喰い殺す!』と汚い字で書いてあった。
すっかり怖がるあたし。
吸血鬼の次は狼男かよ。
あと、鍵って何のことだ。
だいたい、何であたし宛に来るの。
「新聞に名前が載ったからじゃないすか~」とロベルトがニヤニヤしながら言う。
このチャラ男、何が嬉しいんだ! あたしは命を狙われてるってのに。
すっかり怯えたあたしは大隊長の赤ひげのおっさんに相談するが、
「イタズラじゃないのか、お前の事なんて犬も食わないぞ、ガハハ!」と笑う始末。
ふざけんな、この赤ひげ野郎!
もう、焦って情報省のクラウディアさんに電話で相談。
「あ、プルムさん、こんにちは! どうされましたか」と電話でも美しい声のクラウディアさん。
「オガスト・ダレスが狼男を使って、私を殺すって脅してきたんですよ、どうしましょうか?」
「あら、それは大変。では、専門家を呼びましょう。明日、そちらに直接行ってもらいます」
明日は、あたしらの分隊は夜勤なので、夕方に来てもらうことにした。




