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ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険  作者: 守 秀斗
第三章 うら若き十八歳の旬な乙女/吸血鬼退治と狼男退治編
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第三十一話:オガスト・ダレスからの脅迫状

 殉職したセルジョ小隊長の仕事は、赤ひげのおっさんが兼任することになった。

 決裁書類はサビーナちゃんに届けてもらう。

 なるべく大隊長室には入りたくない。

 赤ひげのおっさんが、いつ酒瓶であたしに殴りかかってくるかもしれないので怖い。

 サビーナちゃんあきれ顔。

 けど、届けてくれる。

 優しいな。


 ある日、新聞を見ると、『吸血鬼を倒したドラゴンキラー』って記事が載っているぞ。

『シアエガ湖に出現した巨大ドラゴンを剣で倒したプルム・ピコロッティ警備隊分隊長(十八歳)が、今度は首都メスト市に出現した巨大吸血鬼をナイフ一本で倒した』とある。


 そんなの載せないでくれよー! あたしが倒したんじゃないって!

『プルム・ピコロッティ分隊長は背が高く、容姿端麗と言われている』とも書いてある。

 誰が言ってるんだよ! 嫌味かよ!

 やれやれ。


 そろそろ夏になってきたという時期に、アデリーナさんが産休にはいった。

 だいぶお腹が目立っていたもんね。

 しっかり者のアデリーナさんがいなくなって、不安になったあたしは、代わりの人をつけてくれと赤ひげのおっさんに頼むと、あっさりと承諾された。

 おっさんもあたしの分隊が心配らしい。

 隣の部屋の第四小隊から女性隊員が異動してくることになり、ジェラルド小隊長が連れてきた。


 ミーナ・ミラーノさん。

 あたしと同い年の十八歳。

 大人しく、感じのよさそうな女性だな。


 それはともかく、ウォ! ジェラルドさん、凄いイケメン。

 今まで、気づかなかった。

 隊長会議で会ってたはずなのに。

 居眠りしてばっかりだったからか。

 要チェックね。


 また、イケメン、イケメンって、そればっかりかよって? うるさい! 男は顔が命! そして、美しいものは『正義』なのよ!

 え? じゃあ、お前は『悪』なのかって? うるさーい!


 そして、早速、ミーナさんにちょっかいをかけるチャラ男ことロベルト。

「ロベルトっす! よろしくー! ところでミーナさん、彼氏いる?」

 シーフ技でさっと、ロベルトの背後に回り、

「失礼だろ、このチャラ男!」と丸めた紙でロベルトの頭を殴る。

「痛いっす、何すんすか!」

 みんな大笑い。


 けど、みんな笑ってるけど、あたしはマジよ。

 監視しなきゃ。

 うちの分隊は恋愛については純愛よ、純愛! 純愛限定! 

 うちの分隊はあたしが隊長なんよ。

 あたしが決めんの! 

 あたしが規則なんよ!

 メチャクチャな規則だって? そうメチャクチャなんよ!


 自転車が配備された。

 と言っても分隊に各一台。

 前にあたしが巡回中に通行人に乗らせてもらった、前輪がバカでかく後輪が小さい自転車ではなく、前輪も後輪も同じ大きさ。車輪も鉄の輪じゃなくて、ゴムの輪がついていて、乗りやすくなった。車体の真ん中にペダルがあり、チェーンを付けて後輪を回し、前輪はハンドル操作で方向を決める仕組。


 これは面白いとスイスイ乗り回すあたし。

 サビーナちゃん、何度も倒れて、やっとフラフラで運転。そんなに難しいのかね。

 ミーナさん、そっと慎重にノロノロと自転車を進める。おしとやかな運転。

 お、バルドはしっかりと運転している。スピードもわりと速いぞと思ったら、ペダルを踏まずに長い足で地面を蹴っている。それじゃあ、意味ないじゃん。

 ロベルト、いきなりスイーっと走ったと思ったら、曲がれず倒れる。曲がるときはずーっと曲がって同じ場所をクルクル小さく回転してるだけ。テキトー男。さすがチャラ男。

 リーダー、全然、運転できない。倒れてばかりであきらめた。性格が優しすぎるんよ。自転車さんに負担をかけたくないんよ。

 その擁護は無理がある、単に運動神経が無いだけじゃないかって? ううむ、そうなのか。

 けど、優しい事には変わらないぞ。

 まあ、自転車は緊急の時だけしか使わないけど。


 アデリーナさんが無事出産したようだ。

 男の子。

 リーダー嬉しそう。

 口を開けば子供の話。

 あたしはなんとなく寂しい。


 秋になった。

 育休の手続きで、職場に寄るアデリーナさんが赤ちゃんも連れてきた。

 手足がちっこい。

 こんなに小さくても動いている。

 あたしも抱かせてもらう。

 可愛いな。

 それにしても、あたしにも産休やら育休を取る日が来るのであろうか?

 一生、縁が無かったりして。

 ちょっと暗くなる。


 さて、そろそろ寒くなってきた頃、あたし宛に手紙が届いた。

 差出人は、指名手配になって、逃走中のオガスト・ダレス!


『プルム・ピコロッティに告ぐ! 鍵を返せ! さもないと狼男を使ってお前を喰い殺す!』と汚い字で書いてあった。

 すっかり怖がるあたし。

 吸血鬼の次は狼男かよ。

 あと、鍵って何のことだ。

 だいたい、何であたし宛に来るの。


「新聞に名前が載ったからじゃないすか~」とロベルトがニヤニヤしながら言う。

 このチャラ男、何が嬉しいんだ! あたしは命を狙われてるってのに。

 すっかり怯えたあたしは大隊長の赤ひげのおっさんに相談するが、

「イタズラじゃないのか、お前の事なんて犬も食わないぞ、ガハハ!」と笑う始末。

 ふざけんな、この赤ひげ野郎!


 もう、焦って情報省のクラウディアさんに電話で相談。

「あ、プルムさん、こんにちは! どうされましたか」と電話でも美しい声のクラウディアさん。

「オガスト・ダレスが狼男を使って、私を殺すって脅してきたんですよ、どうしましょうか?」

「あら、それは大変。では、専門家を呼びましょう。明日、そちらに直接行ってもらいます」

 明日は、あたしらの分隊は夜勤なので、夕方に来てもらうことにした。

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