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ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険  作者: 守 秀斗
第三章 うら若き十八歳の旬な乙女/吸血鬼退治と狼男退治編
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第三十話:赤ひげ大隊長と大喧嘩

 ドラゴンキラーと呼ばれるのも嫌なのに、バンパイアキラーとか言われたくない。

 必死に這いつくばって、死んでいる巨大スターバンパイアのところに行って、やっとナイフを回収したところ、

「あ、プルム隊長、大丈夫っすか」とフラフラ立ち上がりながら、ロベルトが目を覚ました。

 他のみんなも目を覚ます。


 巨大スターバンパイアが倒れているのを見て、

「すごいな、さすがドラゴンキラーですね!」とカルロさんに褒められた。

 私が倒したんじゃないですよ! と思わず口まで出かかったけど、本当の事を言ったら、またケンカ番長がやって来て、わけのわからない技をかけられて今度こそ殺されちゃう。

 仕方がない。


「アハハ、大した事無いですよ」とテキトーに誤魔化した。

 あれ、オガストが黒い本の表紙に押し当てていた文鎮が床に転がってる。

 オガストの奴、慌てて逃げたので落としていったな。

 文鎮を拾うと、意外にも軽い。

 小さいヤカンの蓋みたいだ。

 蓋の円周上に爪がいくつかある。

 なんだろうね。


 一応、事件は解決したけど、セルジョ小隊長が心配だ。

 とりあえず、早く庁舎に戻って、この小さいヤカンの蓋みたいなものは証拠品として金庫に入れて、病院に急いで行かないと。


 庁舎に戻って、三階の更衣室で血糊を拭いて制服を着替えて、証拠品は二階の押収物倉庫の金庫に入れておく。

 一旦、小隊部屋に戻ると、赤ひげのおっさんが部屋に入ってきた。

 セルジョ小隊長に付き添ったバルドから連絡があったらしい。

 

「セルジョ小隊長は亡くなった」と赤ひげ大隊長が沈痛な表情で報告した。

「え、ウソでしょ!」

 ショックで呆然自失になるあたし。

 みんなも悄然としている。


 オガスト邸のスターバンパイアは情報省が処分したようだ。

 ルチオ教授に言わせると、飼っていたクラゲをスターバンパイアに変身させたんじゃないかとのこと。また、被害者の女子学生とパン屋のおかみさんはオガストが襲って、血を抜き取り、スターバンパイアに餌としてあげていたようだ。

 吸血鬼事件は警備隊本部にも報告され、公開捜査になり、ネクロノミカンを持って逃走したオガスト・ダレスは指名手配になった。


 ケンカ番長ことヴラディスラウス・ドラクリヤ四世については、とりあえず、今回の二人女性が殺された事件には関係ないので、お咎め無しとなった。

 ルチオ教授やカルロさんたちが独自に追跡するらしい。

 

 机に座って、ボーッとしていたら、

「ルチオ教授が腰を痛めて入院したようだ。お礼も兼ねて病院へお見舞いに行ってくれ」と赤ひげのおっさんに指示された。

 はて? 巨大スターバンパイアに倒された時に腰でも打ったのかな。

 あの爺さん、現場をかき回したような感じもするが、まあ、一応役に立ったんで、お花を持って教授が入院しているラブクラフト病院へ行くことにした。


 え? 目当てはアナスタシオに接近することだろって? そんな気分にならないよ、セルジョ小隊長が亡くなって、憂鬱なあたし。

 だいたい、アナスタシオさんとは、結局、全然喋ってもいないしね。


 病室へ入ると、教授がベッドで寝ていた。

 カルロさんの他に、スカート姿で髪の長い、えらい美人さんが居る。

「あら、プルムさん」と美人さんに呼ばれた。

 え、誰だっけ?


「アナスタシアです。あっと、アナスタシオって名乗ってましたね」と微笑む美人さん。

 へ? 女!


「女性は吸血鬼に狙われやすいんで、妹は男性のふりをしていたんですよ」とカルロさんが説明してくれた。

 何だよー、女かよー! 

 がっかり。

 やっぱり、がっかりしてんじゃねーかって? いやあ、まあ、ちょっと期待もしてました。

 すんまへん。


 ルチオ教授が目を覚ました。

「おー、プルム隊長さんじゃないか、お見舞いに来てくれるとはありがとう」

「教授、腰の方は大丈夫ですか」

「うーん、もう年だから、ちょっとつらいのう」


「じゃあ、プルムさん。私は明日の講義の準備がありますので、これで失礼いたします」

「僕もボクシングの練習があるので」と言って、アナスタシアさんとカルロさんはさっさと病室を出て行った。

 あれ、おいおい、弟子のくせにあたしに爺さんを押し付けたのかよ。

 

 仕方が無いので、ちょっと気になっていることを教授に聞いた。

「オガストは例の黒い本、ネクロノミカンを開きっぱなしで持ち逃げしたのはなぜでしょうか」

「本を閉じると魔力が消えるからじゃないかな」

「もし、あの教会で本を閉じたら、巨大スターバンパイアはあの黒い空間に戻っていったんでしょうか」

「多分、そうじゃろうな」

 

 それから、延々と教授のわけのわからないクトルフ神話やら、本当かどうか怪しい吸血鬼退治の自慢話やら、どうでもいい学生の悪口やら、大学への待遇不満とか聞かされて、あたしは眠くて仕方が無い。

 内容は三秒後には忘れてしまう。

 夜の七時にやっと解放された。

 まあ、爺さんは全然元気だな。


 吸血鬼騒動も終わって、あらためてセルジョ小隊長が死んだことが悲しい。

 憂鬱だ。

 戻ると、あたしの部隊はリーダーだけ残っていて、仕事をしている。

「残業ですか」

「うん、ちょっと書類仕事があってね」


 赤ひげのおっさんに、ルチオ教授の体調を報告しようと大隊長室に行ったらもう帰宅してた。

 うーん、この憂鬱な気分を紛らわしたい。

 シーフ技を使って、扉を開けて大隊長室に入る。


 例の赤ひげのおっさんが酒瓶をたくさん隠している机の引き出しを見ると、でっかい南京錠が付いている。

 赤ひげのおっさん、姑息な奴だ。

 こんなものはあっさりと簡単に開けて、酒を物色。

 今回はバレないように、すでに口の開いた瓶を探すが無いなあ。

 お、ウォッカの瓶が開いている。

 うーん、ウォッカはあたしにはキツそうだ。

 けど、他に無いからこれでいいや。


 ソファに座って、少し飲む。

 ああ、ストレートだとやっぱりキツイなあ。

 セルジョ小隊長が死んで、悲しい。

 なんで、セルジョ小隊長が銃で撃たれていたことに、すぐに気づかなかったんだろう。

 もっと素早く行動していたら、助かったかもしれない。


 ほんの少し飲むつもりが、けっこう飲んでしまった。

 すっかり酔っぱらう。

 ん? 誰か部屋に入ってきた。


「おいプルム、何やってんだ。酒飲んでんのかよ。職場で酒飲んだら厳罰だぞ」

 リーダーか。

 リーダーに泣いて抱きつく。


「ちょっと、どうしたんだよ、プルム」

「あたしをかばって死んだセルジョ小隊長に申し訳ないんよ」

「セルジョ小隊長を撃ったのはオガストだろ、お前のせいじゃないよ」

「そうなんだけど……」

 そのまま、いつのまにか寝てしまった。

 夢の中で、リーダーにお姫様だっこされる。


 気がつけば、三階の休憩室で寝ていた。

 リーダーは三階まで運んでくれたのか。

 ああ、本当にお姫様抱っこしてくれたんかな。

 もう、朝になっている。

 気分が悪い。

 二日酔いだ。


 一階に下りて、大隊長室の前を通る。

 赤ひげのおっさんにルチオ教授の調子を報告せんといかん。

 あれ、扉を開けるとおっさんがいない。

 職場へ行くと、うちの分隊、誰もいない。

 あ、今日は夜勤か。


 小隊長の机は当然、誰も座っていない。

 悲しい。

 すごく憂鬱。


「今日は赤ひげのおっさん、じゃなくてアレサンドロ大隊長はいないんですか」と隣の分隊長さんに聞く。

「今朝、直接本部に寄ってから出勤とのことですよ」

 なんだろう、吸血鬼事件の報告かな。


 去年の事件報告書のファイルが、あたしの机の上に開いたままになっている。

「昨日、大隊長が中身を見ていましたよ」とお隣の分隊長さんが、また教えてくれた。

 はて、何だろう。


 あれ、机にメモがあるぞ。

『引き出しに入れといたよ』

 ん? リーダーの字だな。

 何の事だ。

 引き出しを開けると、ウォッカがある。


 おお! 思い出した。

 昨日、大隊長室でウォッカをストレートで飲んで、そのまま寝てしまったんだ。

 リーダーは勘違いして、あたしが自分で買ってきたと思ったんだな。


 やばい、赤ひげのおっさんが警備隊庁舎に登庁する前にウォッカを片付けないと。

 焦って部屋を出て、こっそりと大隊長室に入り、ウォッカを机の引き出しに戻して、南京錠を閉める。

 窓を開けて空気を入れ替える。

 これで大丈夫かな。


 大隊長室の鍵を閉めて、寮に戻る。

 ベッドに横になる。

 寝てるんだか起きてるんだか、うつらうつらとした状態だ。


 夕方に起きると、まだアルコールが残ってるような感じで気持ち悪い。

 二日酔いが続いている。

 全然、食事を取っていないんだけど、何も食べる気がしない。

 うーん、ウォッカはあたしにはきついなあ。

 今度からはやめておこう。


 のろのろと力なく、夕方に出勤する。

 だらんと分隊長席に座ると、

「プルム、大隊長から俺とバルドと一緒に、部屋に来るようにってことなんだけど」とリーダーに言われた。

「何の用ですか?」

「さあ、とにかく来いってっさ」


 何だろう? 

 とにかく、リーダーとバルドと一緒に大隊長室に行く。

「失礼します」と部屋の扉を開けて入る。


「ウギャ!」

 仁王立ちしていた赤ひげのおっさんが、いきなり丸めた紙をあたしの顔面にぶつけやがった。

 何すんだよ! 前にもぶつけられたぞ、この赤ひげ野郎!

 いい加減頭にきたぞ! 

 憂鬱なうえに、二日酔いで気持ち悪いんで、イライラしている。

 だいたい、あたしにだってプライドってもんがあるんだ!


「ふざけんな、おっさん!」

 あたしは赤ひげのおっさんに飛びかかって首をしめる。


「バカにするのもいい加減にしろ! この赤ひげ!」

「バカにされることばっかりやってるだろうが、このちんちくりんが!」

「だからと言って、顔面に丸めた紙なんかぶつけんな! 失礼だろ、おっさん!」

「おっさん言うな! 丸めた紙で済んで感謝しろ、本当は思いっきり顔面を殴りたいくらいだ、このバカチビ!」

「バカチビとは何だ! このアホの木偶の坊!」


 怒鳴りあってると、リーダーとバルドに止められた。

 両者、少し落ち着いた後、とりあえずソファに座る。

 丸めた紙をテーブルに広げると去年の事件報告書だった。


「これがどうかしたんですか」とあたしが聞くと、

「それは去年のネクロノミカン盗難事件の報告書だが、盗難された本の題名が『根暗な蜜柑』になっているんだが、この報告書はお前が書いたんだろ」と赤ひげのおっさんがあたしを睨みつけながら言った。


 どうやら、このネクロノミカンは非常に危険な本なので、誰が持っていようが発見次第すぐに本部に報告するよう義務づけられていたようだ。

 通知が何度も回っていたらしい。

 去年、発見されていたのに報告しなかったため、アイーダ魔法高等官に呼び出され、赤ひげのおっさんは本部でかなり叱責されたようだ。


「このノータリンのクソチビはともかく、お前たちは気付かなかったのか」とあたしを指さしながら、リーダーとバルドに詰問する赤ひげのおっさん。

 なんだと! ノータリンのクソチビとは何だ! この赤ひげ! 

 確かに頭は悪いし、チビだけど。

 またまた怒りがふつふつと湧いてきたぞ。


「えーと、あの時は私は犯人たちを連行してたんで、本はよく見てなかったですね。申し訳ありません」とバルドがボーっとした顔で釈明する。


「たしか、表紙に星の形をした金色の五芒星が描かれてるって通知にあったんですが、泥棒たちが本の外側を黒いペンキで塗ったんですよ。プルムが見逃すのも仕方が無いかと思いますが」とあたしをかばってくれるリーダー。

 けど、当時も五芒星の事なんてすっかり忘れてたな。

 いい加減なあたし。


 しかし、この報告書よく見ると、赤ひげのおっさんも見てるじゃん。

「おい、おっさんも報告書の決裁欄にサインしてんじゃねーかよ!」とあたしが文句を言と、

「本の題名が『根暗な蜜柑』で分かるかよ!」と怒鳴るおっさん。

「ウルセーヨ! あたしは頭が悪いんだよ! 仕事もテキトーなんだ! 通知なんて見ねーよ! ネクロなんたらかんたらなんて知るか!」と逆ギレしてあたしは怒鳴り返す。


 再び、赤ひげのおっさんと掴み合いのケンカ。

「ふざけんな、このドチビ」

「ウルセー! うどの大木」


 あたしが赤ひげのおっさんの髭を引っ張ると、負けじとおっさんはあたしのアホ毛を引っ張る。

 お互い、痛い、痛い、と喚く。

 もうメチャクチャ。


「あたしは二日酔いで機嫌が悪いんだよ、この赤ひげクソオヤジ!」

「このクソチビ、また俺の酒飲んだのか! ウォッカが減ってたのはお前のせいだな」


「あれ、あのウォッカ、大隊長のものだったんですか」とあきれ顔のリーダー。

「職場でお酒は厳禁ですよ」と渋い顔のバルド。

 急にしらけるあたしと赤ひげのおっさん。


「解散!」とおっさんが叫んで、三人とも部屋から追い出された。

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