第二十九話:巨大スターバンパイア出現
「危ない!」とセルジョ小隊長があたしを突き飛ばす。
オガストが銃を撃ってきた。
セルジョ小隊長も拳銃で応戦するが、結局、オガストが扉を閉めてしまった。
扉を開けようとするが、鍵をかけやがった。
「やい、オガスト! ここを開けろ!」と扉を叩いて、叫ぶが反応無し。
こちら側には鍵穴も無く、真っ平ら。
これじゃあ、シーフ技も使えんので開けられん。
やばい!どうしよう。
「もう、弾薬が残り少ないのに、モンスターがいっぱい迫ってきますよ!」とロベルトが泣きそうな顔をしている。
ったく、お前のいい加減な行動が、こんな状況もたらしたんじゃないかと説教したくなるが、そんなヒマはない。
それに、いい加減さではあたしも負けてないからね。
「プルムさん、僕にまかせてください」とカルロさんが、ボクシングのストレートパンチを思いっきり扉にぶつける。
すげー、扉が倒れた。
「拳、大丈夫ですか」
「全然大丈夫です。有名なジムでトレーニングした甲斐がありましたよ、アハハ」と笑いつつ、カルロさん、少し痛そうな顔してる。
手を背中にまわして振っているけど、見なかったことにしておこう。
皆、スターバンパイアから逃れて、一階の部屋に脱出。
扉を再び出口に立てかけて、クラゲのモンスターを閉じ込める。
「スターバンパイアには、この重い鉄の扉を開ける力は無いじゃろ。もう心配ないぞ」とルチオ教授が、葉巻を吸いつつ、のほほんとしながら言った。
一応、念のため、扉の前に机や椅子、タンスなどを置いてふさぐ。
あたしらが扉をふさいでいると、教授が本棚の前で騒いでいる。
「プルム隊長、大変だぞ! ネクロノミカンが無い。あの男が持って逃走したんじゃろ。早く捕まえた方がいい」
「そんなに危険な本なんですか」
「クトルフ神話の魔導書じゃ!」
へー、エロ本じゃなかったんだ。
「俺、嚙まれたっすよ、吸血鬼になるんすか」とロベルトが心配そうに教授に聞く。
「スターバンパイアに噛まれたからと言って、吸血鬼にはならんよ」
「俺も鉤爪で引っかかれて、脚が痺れてるんですが」とリーダーが脚を擦っている。
「元はクラゲじゃからな、大したことない。数時間で治るじゃろ」
あれ、変な機械がある。
そうだ、思い出したぞ。
この大邸宅は電話機があったんだ。
一応、極秘捜査なんで、情報省にスターバンパイアについて連絡しよう。
ありゃ、番号がわからん。
あたしが困っていると、
「この手帳に書いてある」とセルジョ小隊長があたしに見せてくれた。
その途端に、床にうずくまる。
びっくりするあたし。
「セルジョ小隊長、大丈夫ですか」
「ああ、大丈夫だ」
あれ、お腹のあたりから血が出てるぞ。
オガストに撃たれたのか。
みんなスターバンパイアを銃撃して、大量に返り血を浴びてるので気づかんかった。
「痛くないですか」とオタオタするあたし。
「大したことない……」と言いながら、顔が青いセルジョ小隊長。
全然大したことあるぞ!
「大変、早く病院へ行かないと。乗合馬車会社に電話して、すぐに着てもらうからバルドはセルジョ小隊長を病院まで連れていって。リーダーは脚が痺れているなら情報省が来るまで、ここでスターバンパイアが出てこないよう見張っていてください。残りはオガストを捜索!」
情報省に連絡すると、すぐに省員がオガスト邸に駆けつけるようだ。
あたしらは、オガストを探しに家を出た。
あんな重たい本を持ってたら、遠くへは逃げていないだろう。
「黒いデカい本を持った、小太りの汗っかきのおっさんを見かけませんでしたか?」
通りすがりの人に聞くと、全身に返り血を浴びているあたしらにビビりながら、
「向こうのナロード教会に入るのを見ましたよ」と教えてくれた。
教会に逃亡したのか。
って、吸血鬼の関係者が教会に逃亡していいんかい?
教会に入ると、オガストが神父さんをぶん殴って、気絶させているのが見えた。
他に人はいない。
「オガスト、その場で止まれ!」とあたしが叫ぶ。
しかし、オガストは、
「お前ら、全員殺してやる」と笑いながら、教会の祭壇の上にネクロノミカンを置き、表紙に丸い文鎮みたいなのを押し付ける。
本が開いて、なぜかそれ自体が自然と立ち上がった。
オガストがわけのわからない呪文を唱える。
「クトルフ、クトルフ、スデンゲー、カイイー、ハイテッセー、イサナン、メゴトヒルー、テイカー、ツセウョシー、フルゥトー、クナメジマー!」
突然、教会の空中に黒い穴が出現した。
「教授、あれは何ですか」あたしが指さすと、
「これはまずいぞ、異世界からクトルフが出てくる」とルチオ教授が焦っている。
その穴から、巨大な生物が飛び出てきた。
教会の高い天井近くまである、巨大なスターバンパイアだ。
「撃て!」とあたしが叫んで、全員でクロスボウやライフルで応戦する。
「効いてないっすよ」とロベルトが叫ぶ。
この巨大スターバンパイアには効果無しか。
あたしたちがうろたえていると、オガストはなぜか本を開いたまま持って、教会の裏口から逃走。
「逃がすな!」と追いかける。
突如、巨大スターバンパイアがいっぱいある触手を振り回した。
「ウギャ!」
全員に当たり、倒された。
みんな痺れて気絶している。
目の前にいたカルロさんの大きい体が楯になったのか、あたしだけ何とか起きている。
しかし、体は痺れて動かない。
再び巨大スターバンパイアが、でっかい鉤爪を振り上げる。
ああ、もう終わりか。
と思ったら、
「ハハハハハ!」と聞いたことのある声がするぞ。
教会の玄関の扉をぶち破って、大股で入ってくるフロックコートを着た大男。
あれは、吸血鬼のケンカ番長だ!
教会に入っても、全然元気だな。
巨大スターバンパイアを目の前にして、カッコつけて胸を張るケンカ番長。
「私は吸血鬼ヴラディスラウス・ドラクリヤ四世だ。スターバンパイアよ、さあ勝負だ。私を楽しませてくれたまえ」と大袈裟に両腕を上げて、挑みかかるケンカ番長。
ケンカ番長がまたわけのわからない技でスターバンパイアを叩きのめす。
すげー! 一発で倒しちゃった。
ケンカ番長、お疲れさん。
また、元気に諸国を漫遊してくれ。
ケンカ番長がしげしげと倒れた巨大スターバンパイアを見ている。
その後、こちらを振り向く。
あれ、こっち見てる。
こっち見んな!
さっさと次の相手を探しに立ち去れよ!
おいおい、どんどんあたしのほうに近づいてくるぞ。
こっち来んな!
あたしの足元に立って、顔を近づける。
怖い顔近づけんなー!
ニヤニヤ笑って、あたしの顔を見てる。
あのー、すいません。
怖いです……。
何とかナイフを向けるが、ケンカ番長に簡単にもぎ取られる。
「この間は騙されたな、ドラゴンキラー」
やばい! 処女限定だったわね、この吸血鬼。
こんなことになるならチェーザレでもいいからさっさとすましておけばよかった。
吸血鬼があたしのあごに手を添える。
助けてー!
怖いよー!
「フフフ、旬の季節、ちょうど食べごろってところだな」とケンカ番長がニヤニヤしながら言う。
何かいやらしい言い方するおっさんだなあって、やだよー! 死にたくないよー!
「ふむ、ドラゴンキラーなどとイキがっているわりには、よくよく見ると可愛らしい顔をしているではないか」
可愛らしい? ありがとうございまーす! ってヤメテー! あと、イキがってなんかいませんよー!
「実は、貴様に頼みたい事がある」
「は、はい、何でございますでしょうか。命を助けていただけるなら、何でも言う事をお聞きします。何か欲しいものがあるのでございますでしょうか? トマトジュース一年分でしょうか? 住所をお教えいただければ、ギフトカタログをお送りいたしますが」
「実は吸血鬼の世界にも仁義があってな。殺すつもりではなかったんだが、ちょっと張り切って攻撃してしまった。奴は死んでいる。あれも一応吸血鬼だからな。貴様が倒したことにしろ」
「え、それはちょっと……」
「ん、死にたいのかね?」
「いえ、いえ、めっそうもございません。ただ、私に倒されたなんて、吸血鬼界でも問題になるんではないでしょうか」
「貴様はドラゴンキラーではないか。ドラゴン倒せる奴なら吸血鬼だって倒せるだろう」
なんと、ケンカ番長まで、あたしがドラゴン倒したって本当に信じてんのか。
ホント、この肩書、もういらないぞ。
ケンカ番長は、あたしの手からもぎとったナイフを巨大スターバンパイアに向かって投げる。
空中でクルクルーっと回転して、お見事、スターバンパイアの頭というか胴体なのか知らんが、真ん中辺りに刺さっている。
拍手!
「これで、貴様がナイフで倒したことにしろ。万事解決。さらばだ、ドラゴンキラー。お望みならば、いつでも勝負してやってもよいぞ、ハハハハハ!」
笑いながら去っていく吸血鬼界のケンカ番長。
まあ、助けてくれたんでね、ありがとうございます、とお礼は言いますよ。
あと、二度と会いたくねーよ。




