表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険  作者: 守 秀斗
第三章 うら若き十八歳の旬な乙女/吸血鬼退治と狼男退治編
25/83

第二十三話:分隊長になった

 あたしの名前はプルム・ピコロッティ。

 ナロード王国首都警備隊分隊長だ。

 

 あたしが分隊長に昇進することに、セルジョ小隊長が猛反対したらしい。

 まあ、あたしのいい加減な仕事ぶりをみれば当然ね。

 結局、赤ひげ大隊長の「どうでもいい!」の一言で、決まっちゃったみたい。

 セルジョ小隊長には、もっと強硬に反対してほしかった。


 だって、あたしも反対だもん。

 リーダーが分隊長なってほしかったなあ。

 分隊長なんて面倒くさい。

 給料もらえるなら、ずっと平隊員でいいぞ。


 何で、分隊長に昇進になったのかって? 分からん。ドラゴン秘儀団員一名を逮捕するのに、役に立ったからかな。役に立ちたくはなかったけどね……。


 分隊長になったから、拳銃を支給された。

 けど邪魔だなあ、性能悪いんでしょ、これ。

 フフン、あたしの百発百中のナイフ投げの方が、拳銃よりずっと役に立つぞ。

 

 分隊長になったけど、あんまり気分は変わらないな。

 同じメンバーで働いてるからかな。

 新人一人が新規採用されたけど。


 名前はロベルト。

 十八歳。わりとイケメン。

 けど、いつもヘラヘラ、ニヤニヤしている。

 軽薄っぽい感じのチャラチャラしてるチャラ男なんで、あたしの恋愛対象外。

 軽薄とはいっても、試験合格しているんだから、あたしよりは頭は良いんだろうな。

 

 ただねえ、こいつが、やたらとサビーナちゃんにちょっかいをかけるんだな。

 周りに誰がいようがいまいが関係なしに、つきまとう。

 サビーナちゃんは適当にあしらっているけど。

 しかし、油断していると、気が付けばサビーナちゃんが蟻地獄みたいに、チャラ男の魔の手に落ちているかもしれん。

 監視しないと。


 え? 人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえって? 随分、古い言葉を知ってるのね。

 違うんよ! 違うんよ! サビーナちゃん一筋ならまだ許せる。

 だけど、サビーナちゃんだけじゃなくて、他の女性隊員にもやたら声をかけまくってるんよ、このチャラ男は。自ら懇親会を主催して、別室の小隊どころか、別棟の大隊の女性隊員まで声をかけまくって、おまけに、本部事務棟の女性職員や清掃のおばさんにまで、誘いをかける始末。そんで、実際の懇親会は、男性は自分だけ。あとは全員女性。もう女だったら、誰でもいいって感じ。

 ロベルト、お前はハーレムでも作るつもりか!


 イケメン! イケメン! とすぐに騒いでばかりのお前と違って、顔で判断しないだけマシだって? 違うわい! あたしが求めてるイケメンとは外見だけではなく、心も美しい人なんよ。

 あと、純愛ね、純愛! 相思相愛! 純愛原理主義者のあたしにとって、チャラ男系は天敵なんよ。穴が空いてれば、誰でもいいチャラ男と一緒にしないでよ! おっと、ダメダメ、下品な方向に行ってしまうとこだった。


 とにかく、チャラ男の魔の手からサビーナちゃんを守らないと。

 これは上司としての大事な職務、そして、友人としての大切な義務よ。

 サビーナちゃんは、あたしのかわいい妹分だからね。


 ところで、お前はロベルトから声をかけられたのかって? うぬぬ、かけられてないぞー! チキショー!

 どうでもいいんよ、チャラ男なんて。


 分隊長ともなると、隊長会議とやらに出なきゃいかん。

 分隊長以上が集まって、週一回、一階の会議室でつまらん会議をやる。

 これが眠い。

 よく居眠りしてしまう。

 

 おまけに、それ以外にも、やたら臨時会議とかやりたがるんだよな、赤ひげのおっさんは。

 こっちも居眠りしてしまう。

 

 上司のセルジョ小隊長に怒られ、毎度、反省文を書かされる。

 それでも居眠りするあたし。

 おかげで、セルジョ小隊長が、ますます厳しくなる始末。

 反省文も同じ内容だとダメ。改行が多いとダメ。字を大きくするとダメ。

 怒られるたびに、反省文の枚数を増やされる。

 ついには、週一回、朝早く出勤して、警備隊の玄関の外の清掃を命ぜられてもうた。

 つらいよう。


 とは言うものの、セルジョ小隊長のことは嫌いではないんだな。

 あたしがヒイコラ掃除してたら、自分も朝早く来て、手伝ってくれるんだもん。

 自分で罰を命じておきながら、手伝ってくれるって相当いい人よね。


 そう言えば、大隊長の赤ひげのおっさんだけど、会議中は寝てはいないけど、毎回、夢うつつって感じで目が死んでいる。仕事は真面目にやっているけど、実際のところ、魂の抜け殻状態。

 人生終わったって感じ。

 悲哀を感じます。


 ライフル銃なるものが各分隊に支給された。

 ボルトアクション方式という、銃の横に付いているハンドルを、手動で操作することで弾薬の装填、排出を行う。弾丸五発を弾倉に込めることが出来る。


 運動場の隣の射撃場で訓練が行われた。

 人の形をした的に向けて撃つ。

 あたしは、百発百中。うーむ、頭は悪いが、こういうのは得意。珍しくセルジョ小隊長に褒められた。嬉しいな。

 サビーナちゃん。元弓師のわりに、あまりうまくない。銃の反動がつらいのかな。

 バルド。まあまあ。

 アデリーナさんは参加しなかった。お腹の赤ちゃんに影響があったらまずいもんね。

 ロベルト。ど真ん中だったり、思いっきり外したり。さすが、チャラ男。いい加減男。

 リーダー。全部外してばっかり。性格が優しすぎるんよ。的でも人は撃てないんよ。

 単に下手なだけじゃないかって? ううむ、そうかもしれん。


 ふと、ライフル銃の銃床を見ると、ゴッジコーポレーション社製と彫ってある。

「あれ、もしかして、このライフル銃、バルドの親御さんとこの会社が作ってるの」とあたしが聞くと、

「ああ、そうだよ。褒められたもんじゃないけどね」と何だか機嫌の悪いバルド。

 親との確執があるんか?

 まあ、このライフル銃は、普段は使用しない。武器倉庫にしっかり管理。

 普段、携帯するのはサーベルというのは変わっていない。


 そういや、給料が二割減になった。

 国の予算がキツキツらしい。

 みんなショックを受けている。

 生活費が足りないと、悲鳴を上げているぞ。

 まあ、あたしは生活費より、ギャンブルに使える金が少なくなったのがショックだけどね。

 警備隊だけでなく、各省庁や軍隊とかも同様みたい。


 ある日の事。

 今日はうちの分隊は非番。

 リーダーの家に、みんなでご訪問することになった。

 アデリーナさんがめでたく妊娠して、安定期にはいったんで、懐妊祝いをサビーナちゃんと買いに行く。


 今は、サビーナちゃんとは一緒の部屋に住んでない。

 あたしは隊長用の一人部屋に住んでいる。

 サビーナちゃんは、寮を出て借家住まいだ。

 ちと寂しい。


 寂しいので、夜寝るときはイケメンとの妄想デート。

 相手は誰だって? 架空の男性よ。小説とか漫画の主人公とかね。

 空しくないかって? 悪かったわね! そう、空しいわい!


 お花、その他にプレゼントとして、いろいろ迷った末、マタニティウェアを買った。もう、マタニティウェアは持ってると思うけど。

 まあ、予備として使ってもらえばよい。

 それにしても、あたしもこういう服なんぞを着る日が来るのであろうか? 

 うーん、分からん!


 一応、そこそこのおしゃれをしていく。

 首回りにちょっとかわいい刺繍模様がある白いブラウスに、薄い水色のパンツ。

 アホ毛も綺麗におさえる。

 リーダーに未練がましいって? うるさい!


 サビーナちゃんと一緒に歩いていると、今さら気が付いたのだが、彼女、背が高くなっている。

 あたしとサビーナちゃん、目線の高さが同じだ。


 それに、

「サビーナちゃん、手足ちょい太くなってない?」

「ヤダー! 太ってないですよー!」と口をふくらまして、怒るサビーナちゃん。

 怒ってもかわいい。


「ごめん、ごめん」とあたしは謝る。

 けど、サビーナちゃん、微妙に胸も大きくなってるような。

 あたしは、全然変わっていない。

 うーん、いや、あたしもまだまだこれからよ。


 リーダー宅に到着。

 すでに、バルドとロベルトも来ていた。

「リーダー、あらためて、おめでとうございます」とあたしがお祝いすると、

「リーダーはやめてくれよ、今はプルムがリーダーだろ」と笑いながら言われた。

 そうだけど、リーダーって呼びたくなるんだなあ。


 レッドドラゴン事件の頃を思い出す。

 いまだに素敵。

 おっと、ダメダメ。リーダーはアデリーナさんの旦那様。


「アデリーナさん、おめでとうございます」とお花とプレゼントを渡した。

「ありがとう」アデリーナさんも嬉しそう。


 お二人は結婚して約一年か。いまだに仲が良さそうだ。羨ましい。

 リーダーの借家の居間の窓からスポルカ川が見える。なかなか良い景色。

 

 さて、アデリーナさんの体を気づかって、あんまり長居する予定ではなかったのだけど。

 ロベルト! このチャラ男がー!

 やたら、お二人のなれそめやらを聞くんだな、こいつが。


「ところで、お二人が初めて愛を確かめ合ったのはいつ、どこっすか?」とロベルト。

 こらこら、失礼な奴だな。

 お前は「新婚さんいらっしゃい!」の司会者かよ。

 しかし、リーダーもアデリーナさんも嬉しそう。


「あれはニエンテ村の宿屋だったなあ、俺が背中を怪我して、たいした傷じゃなかったんだけど、アデリーナに手当してもらってたら、何か、その、何だな」

「いい雰囲気になったっすね」とロベルト。

 みんなで笑う。

 あたしも笑うが、心で泣く。


「そしたら、プルムが突然来たんで焦ったよ」

「わたしも恥ずかしくて」

 言いながら見つめあう二人。

 いまだに新婚気分かい。

 心の中で、憮然とするあたし。


「吊り橋効果かと思ったりもしたけどね」とリーダー。

「その吊り橋効果とは何ですか?」とサビーナちゃん。


「吊り橋効果ってのは、吊り橋の上で一緒にいた男女が、恋愛関係になることさ。不安や恐怖を感じてドキドキするのを、恋愛でドキドキするのと勘違いしちゃうんだ。ドラゴンが暴れてるとき、岩に隠れて、アデリーナと一緒にいたからね」とリーダーが解説する。


 なにー! そんな簡単な方法があったなんて知らなかった。イケメンをうまく騙して、一緒に吊り橋を渡れば、即、恋人じゃん。今度、やってみよっと。


「けど、長続きしないんすよねえ。結局、勘違いなんすから」とロベルトが言った。

 何だ、勘違いかよ。

 期待しちゃったじゃん。

 やっぱり、恋愛に安易な手は使ってはいけないのかな。


「恋愛というのは脳の『思い込み』から起こるみたいっすよ。もしかしたら好きなのかと思ったときには、もう『恋愛感情』が生まれてるっす。けど、その中には、さっき言った吊り橋を一緒に渡った時のドキドキといった『勘違い』というのもまぎれているっす。脳が『勘違い』を『好きである』と勝手に思い込んで、『私は恋愛している』と思いこむっす」とベラベラ喋るロベルト。

 なんと、チャラ男ことロベルト、けっこうインテリか。


「だから、もしかしたら、すぐに別れるかもと不安だったんだけど」とリーダーが笑って言った。

「いまだに仲がいいですね。羨ましいな」とサビーナちゃんが笑う。

「まだ、分からないわよ」とアデリーナさんも笑う。

 また、みんなで笑う。

 あたしの心は嫉妬の炎がうずまく。

「ウギャ!」と心の中で悲鳴をあげる。

 あたしは居たたまれなくなった。


「そう言えば、プルム、あの時、何の用だったの」とリーダーに聞かれた。

「えーと、アハハ、忘れちゃった」と誤魔化す。

 リーダーに告白するつもりだったんですよって、この場で言えるわけないぞー!

 ああ、針のむしろよ。

 早く時間よ、経ってくれ。


「で、新婚さんは玄関でキスしたりするっすけど、お二人は一緒に出勤しますが、やはり玄関でキスをするんすか?」とロベルトがはしゃいでいる。

 チャラ男、いい加減にしろ!

 しかし、みんなで、はやしたてて、リーダーとアデリーナさんが、あたしの目の前でキス。

 おいおい、結婚式の二次会じゃあるまいし。

 ああ、もう無理。

 あたしは用があってと言い訳して、お暇することにした。


 イライラして立ち上がったんで、テーブルの上のコーヒーカップがこぼれて、せっかくおしゃれしてきた服が汚れちゃった。

 ますますイライラするあたし。


「プルム、洗濯しとくから、服を着替えて」とアデリーナさんに言われた。

「いや、いいですよ、別に」

「いや、とにかく着替えて」


 アデリーナさんは、一度言い出すと聞かない人なんで、抵抗するのをあきらめた。

 赤い花柄ワンピースのスカートをアデリーナさんに借りて、寝室で着替えさせてもらう。

 着ている服を脱ぐと、タバコが一本落ちる。

 この服に入ってたんだ。

 やばかった。

 アデリーナさん潔癖症だからな。タバコなんて嫌いだろう。

 タバコを拾うと、目の前にダブルベッド。

 このベッドで二人は……。

 こら、想像すんな!


 別のところに目を向けると、小さい本棚があって、「財務会計基礎論」「財務会計実務論」「国家予算の仕組みとは」とか、何だか難しそうな本が置いてある。

 隠れて努力するアデリーナさん。会計の勉強してんだ。勉強家ですね。能ある鷹は爪を隠すですな。

 あたしは昼寝のほうが好きだけど。

 しかし、何で勉強してんだろう? 警備隊本部に異動の希望でも出しているのかなあ。

 

 着替えて、みんなの前に姿を現すと、

「プルムさんのスカート姿、初めて見た、かわいい!」とサビーナちゃんが、ピョンピョン飛び跳ねながら、褒めてくれる。

 他の人からも、かわいい、かわいいと言われる。

 恥ずかしがるあたし。

 

 リーダーの家から帰る途中、あたしは落ち込んでいる。

 あーあ、結局、いまだにあたしはリーダーのことを好きなんじゃないか。

 未練たっぷり。

 いつ、このいやらしくも情けない嫉妬の炎は消えるのか。

 ホントに、いーなあ、いーなあ、アデリーナ。


 通りがかったお店屋さんのショーウィンドウのガラスで、自分の恰好を映して見る。

 鈍くさい。

 この服、スタイルの良いアデリーナさんじゃなきゃ似合わん。

 体格も違うし、当たり前だ。

 みんな「かわいい、かわいい」って言ってくれたけど、本当は今頃、あたしのこと笑っているんじゃないかな。

 ああ、明るいふりして、実はこのネガティブ思考の自分の性格が嫌だ。


 何かモヤモヤする。

 ふと見ると、頭のアホ毛がまた立ち上がっている。

 ガラスに映った頭のアホ毛を直す。

 直らんぞ。


 もっとイライラする。

 久々にタバコでも吸うか。

 タバコを出して、火を点けようとするが、マッチが無い。

 あー、イライラするー! 


 すっかり機嫌が悪くなっていると、

「おい、ドラゴンキラー」と後ろから声をかけられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ