第二十一話:デルフィーノさんとのデート、じゃなくて巡回
午後は、待ちに待った、デルフィーノさんとのデート、じゃなくて巡回。
アホ毛を直す。
直らん。
けど、デルフィーノさんは、そんなことは気にしないだろう。
ドキドキしながら、一緒に歩く。
デルフィーノさん、ゆっくりと歩く。
あ、もしかして彼女いるのかなあ。
ちょっと不安になる。
さて、なにをどう話しかけようと思っていたら、
「プルムさんが来た時、かの有名なドラゴンキラーが部下になるって、ビクビクしてたんだ。そしたら、可憐な女性が来て、びっくりしたよ」とデルフィーノさんから話かけてくれた。
えっ! 可憐な? 可憐な? 可憐ってかわいいってことだよね。
デルフィーノさんが、あたしのことかわいいって言ってくれた。
キャッホー! ああ、顔が赤くなる。
やばい! 完全に惚れちゃいそう。
けど、ドラゴンを倒したって思われてるのはいやだな。
そんな凶暴な女に思われたくないぞ。
あたしは、うら若き十七歳の可憐な乙女なんよ。
えい! いっそのことドラゴンキラーの真実を話しちゃえ!
それは極秘事項だろって? いいんよ、恋は盲目よ! 愛する人と秘密を共有すんの! こんな素敵なことがあるかしら?
本当にアホだ、お前はって? アホですよー!
ドラゴンキラーの真実を話す。
笑うデルフィーノさん。
「じゃあ、結局のところ、プルムさんはペンダントを外しただけなのか」
「そうなんですよ~」
「いや、それだけでも凄いよ、私なら逃げてるな。プルムさんは立派だなあ」
ワーイ! デルフィーノさんにほめられた! ほめられた!
もはや、完全に調子乗りまくりのあたし。
恋は盲目どころか、恋は頭が空っぽ。
赤ひげのおっさんの事も喋っちゃう。
「アレサンドロ大隊長の机の下にドラゴンのデザインのマットが置いてあったんです。アレサンドロ大隊長はもしかして、ドラゴン秘儀団かもしれません。どうしましょうか」
「まさかアレサンドロ大隊長に限って、そんなことはないだろうけど。うーん、それはクラウディア参事官に一応相談したらどうですか」
「はい、そうします」
楽しいな! 楽しいな! これで手をつなげればいいんだけど。
ああ、せめて腕を組みたいなあ。
お前、仕事しろよって? いいじゃん、これくらい。
スポルガ川を渡る橋にさしかかる。
あたしが、宙を舞うようにウキウキと橋を渡ってると、下の川で何か騒ぎになっている。
「助けてー!」と悲鳴が聞こえてきた。
子供が川に落ちたらしい。
流されてるぞ。
お母さんらしき人が慌ててる。
急いで、デルフィーノさんと川岸に駆けつける。
デルフィーノさん、さっと上半身裸になって、制服とサーベル、拳銃をあたしに渡して、川に飛び込む。
わ! 体も引き締まって素敵。
とか言ってる場合では無いか。
昨日は雨が降ったんで、増水して、けっこう流れが速い。
今の季節、水も冷たいぞ。
流されていく子供に向かって、泳いで近づいていくデルフィーノさん。
あたしはハラハラして見てるしかない。
子供をつかまえて、岸に引き返そうとするデルフィーノさん。
ああ、一緒に流されそう。
あたしも飛び込もうかと思ったら、何とか岸まで到達。
良かった!
子供を岸に引き上げて、様子を見る。
大丈夫そう。
お礼を言う、お母さんに子供を預けて、デルフィーノさんが近づいてくる。
水も滴るいい男。
正義のヒーローが近づいてくる。
あたしのヒーローが近づいてくる。
にこやかに笑いながら近づいてくる。
あたしの愛する人が近づいてくる。
ラブレター渡そうか、いや服のポケットに入れればいいんだ、って間に合わない!
ああ、いっそこの場で告白しちゃえ!
目の前に近づいてくる。
ドキドキし過ぎで、ああ気絶するー!
デルフィーノさんが右手をあたしに差し出した。
「分隊長殿、黒装束の男を逮捕しました!」と遠くからドタバタと走ってきたバルドが大声で叫んだ。
「本当か! 今すぐ行く」
服とサーベル、拳銃を引っ掴んで、デルフィーノさん行っちゃった。
ラブレターは渡さなかった。
あたしは、仕方がなく、クラウディアさんのところへ行った。
今日は、夜勤。
例のドラゴンペンダントを運搬する日だ。
バルドに黒装束の男を逮捕した件を聞く。
どうやら、単なる空き巣だったみたい。
あたしは、午後八時から午後十時までが休憩時間。
「休憩してきます」とみんなに声をかける。
そのまま、休憩室には行かず、気づかれずに建物の外に出た。
だいぶ寒くなってきたなあ。
そっと、外から窓を通して、分隊のいる部屋を見る。
デルフィーノさんがなにやら書類仕事をしている。
アデリーナさんはお休み。
リーダーもアデリーナさんに付き添いでお休み。
つわりがひどいらしい。
アデリーナさんかわいそう。
バルドはボーっとしてる。
サビーナちゃんは書類仕事と思いきや、何かイタズラ書きしてる。
セルジョ小隊長はいない。
あたしは情報省へ向かった。
クラウディアさん以下情報省職員たちが待っていた。
鞄を受け取り、地下一階へ。
ここが、王宮へと続く、地下通路か。
何の変哲もない通路。
ランプではなく、電灯がついているので、昼間のように明るい。
午後九時。
出発。
ドラゴン秘儀団出現しないでくれ。
途中、通路の天井に点検口があった。
点検口が突然開く。
黒装束の男が現れた。
剣を持って、あたしに襲いかかろうとする。
あたしは手を前に出して言った。
「やめてください、デルフィーノさん」
黒装束の男の動きが止まる。
ああ、最悪だ。
前後から情報省員が現れて、廊下をふさぐ。
「デルフィーノさん、武器を捨ててください。私はドラゴンペンダントは持っていません」とあたしはもう一度、呼びかける。
黒装束の男はあっさりと武器を捨てた。
覆面を取る。
「何で、分かった」とデルフィーノさんは無表情で言った。
「右腕の傷跡です」
ニエンテ村の宿屋で、夜中に黒装束の男に襲われたとき、あたしはナイフで相手の右腕に傷をつけた。かなりの深手だったはず。
あたしのナイフは先端が特徴的な形をしている。
川で溺れた子供を助けた後、あたしに近づいてくるデルフィーノさんが右腕を差し出した。
その時、腕の傷に気づいた。
傷跡があたしのナイフの形にそっくり。
呆然とするあたしを置いて、デルフィーノさんは、バルドの呼びかけに答えて行ってしまった。
その後、あたしはクラウディアさんにこの事を報告した。急遽、計画は変更。あたしは偽の鞄を持って行くことになった。
そして、今夜、あたしは間違いであってくれと願いながら、鞄を運んだ。
「デルフィーノさん、私は頭が悪いし記憶力もないけど、さすがに自分が殺されそうになった時のことは覚えてます」
デルフィーノさんは無言であたしの話を聞いている。
「何で、ドラゴン秘儀団なんかに入ったんですか」とあたしは泣きそうになって問いかける。
それには答えず、「さすがはドラゴンキラーだな」と言って、デルフィーノさんは少し微笑んで、情報省員に連れて行かれた。




